聖女じゃなくて残念でしたね

cyaru

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第35話  渾身の謝罪と告白はサヤエンドウに勝てない

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「本当に申し訳ございませんでしたーって…あれ?」

懸命に弁解をしたのだが、椅子に座っているウェンディに向かって顔をあげるとウェンディはサヤエンドウのサヤを剥いていてまるで聞いていなかった。

――え?聞いてくれてない??――

いやいや、そんなはずはない。

「で、ですね。ディー…いえウェンディ様には本当に申し訳なく…」
「言いたいこと言えた?」

――不味い!全然響いてないんだ…どうしよう!!――


深く深く頭を下げるクリストファーはもうここまで来れば恥ずかしい事など何もない!開き直りとも言える心境だった。

「で?教会にいたのはあなただと判ったわ」
「はい。素性を明かさず、申し訳ございませんでした」
「サラ様との婚約は?そっちに行けば?さっき打ち付けた額も直してくれるわよ」
「はい。ですが…これは言い訳ではなく…行きたくないです」
「でもね?そのおかげで私は罪人、両親だって他国に移住よ?」
「はい。その通りです。父親のした事、場に呼ばれず知らなかったで済むとは思っていません」
「でも謝罪したかったからしたんでしょう?」
「はい。ですが僕の謝罪なんか何の慰めにもなりません。僕の自己満足です」
「なんだか気持ち悪いわ。はい、はいって…」
「いえ、はいは1回で―――あ、あの…」

ジト目になったウェンディに「またしくじった?」と不安が過る。

「よ、よかったらなんだけど…」
「なんにも良い事ないわ。今日はもう遅いから泊めてあげる。でも明日にはもう帰って」
「そんな…ディー…」
「泣きそうな顔したってダメ。貴方は王子で私は罪人なの。それに沢山謝ってくれたけど私にはどうでもいいの。もっと大事なものも出来たし、今は他の事は考えたくないの」
「大事なこと…」

クリストファーの胸がツキンと痛んだ。
もしかするともうウェンディには慕う男性がいるのかも知れない。そう思うと我慢していた気持ちが堰を切ってしまった。

「お願いだ!他の男の元に行かないでくれ!好きで!好きで!大好きで!馬鹿な事をしてしまったと解ってる。なんでこんな事を言ってしまうんだろうと言った後でいつも後悔した!後悔したくせにまた言ってしまう!とんでもない愚か者なんだけどディーを愛してるって気持ちは誰にも負けないんだ!」

「へー」

渾身の気持ちだったが、今度はさっき剝いていたサヤエンドウのサヤがテーブルの板の間に挟まったのを懸命に取っていた。

――やっぱり聞いてない!!――

「ディー!!」
「なによ。あぁ!もう!折角ちょっと端っこが出てきてたのに!」
「サヤエンドウと僕の告白どっちが大事なんだよ!」
「サヤエンドウよ?何言ってるの」
「え‥‥」

考える必要もなく即答だった。

ウェンディはビシっ!っとサヤを取ったサヤエンドウをクリストファーの前に突き付けた。

「いい?このサヤエンドウは明日、私のお腹を満たしてくれます。でもあなたの言葉でお腹が膨れる?膨れないわよね?スキスキスキも大変結構。だ・け・ど!貴方の事は大っ嫌い!貴方の好きを私に押し付けないで」


頭の中に「大っ嫌い!大っ嫌い!大っ嫌い!」とウェンディの声が反響する。
しかし、クリストファーはプルプルと首を横に振った。

――好きの反対は嫌いじゃない。無関心だ!!――

無関心ではない。ウェンディはクリストファーの事が「大っ嫌い」なので少なくとも意識はしてくれている。チャンスはまだある!いや、チャンスしかないと思わないと立ち直れない。

「嫌いでいい。大っ嫌いでもいい!お願いだ。側に居させてくれ」
「嫌だって言ってるでしょ!」
「何でもする!ディーの為なら…なんでもするよ」
「じゃ、出てって」
「あ、それ以外で‥‥って!そんな顔しないでくれよ。また惚れるだろ!」

再度の細い目。猿の顔真似ではないだろうが鼻の下も上唇も下を向いて最上級の呆れ顔になっている。

「はぁ…もういいわ。寝る。ポールさんがくれたハンモックがあるから使って」
「ハンモック?なんだかキャンプみたいだな。えへへ」
「キャンプ?行軍の最終日に5分の仮眠で使ったそうよ」
「仮眠…5分…行軍?!」
「知らなかったの?ポールさんとピエールさんはブルグ王国軍の軍隊あがりよ?」

――だからあんな体なんだ…鍛えようかな――

クリストファーは口にしなくて良かったかも知れない。
うっかり口にしていれば即座にポールとピエール経由で軍隊に放り込まれていただろう。

結局その夜はリビングにハンモックを吊るして貰いクリストファーは朝を迎えた。
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