聖女じゃなくて残念でしたね

cyaru

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最終話  聖女じゃないってば!

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翌朝、ウェンディはクリストファーに朝食を出した。
許してくれてるかな?と思ったが全くそんな気配はない。

「出掛けるから」と言うウェンディはまたも完全装備。
クリストファーは歩幅を合わせて隣を歩く。

「そんな格好だと虫に刺されるし、葉っぱで肌を切るわよ?触れただけで肌が爛れる植物だってあるのよ」
「知ってる。教会で教えてくれたよね。ハゼの木だっけ?」
「判ってるならちゃんとしてよ。構ってる暇はないの」
「うん。でも手伝うよ。荷物持ちくらいは出来るしさ」
「勝手にすれば?」

リストとして教会にも出向いていたのである程度の薬草は自然に自生をしていても見分けられる。クリストファーはウェンディの動きに合わせて常にその周囲で判別できる薬草を採取した。

2人で行なうと持ってきた籠も直ぐに一杯になる。家に戻るとウェンディの隣で一緒に薬草を川で洗い、昨日ポールとピエールがしていたように軽く水を切って布に残りの水分を吸わせて干していく。

「こっちの干してるのは煎じるのかい?」
「・・・・・そうよ」
「じゃぁ…これと…これはもうちょっとかな」

すっかりカラカラに乾燥した薬草を籠に入れて家の中に入って行くウェンディに手渡す。

「入らないの?」
「入っていい?」
「いいわよ。煎じるの手伝って」
「うん」

ゴリゴリとここには乳鉢が無いので石臼で細かくなるまで何度も挽く。
細かい粉末を集めるのに手で寄せているのをみて「そういえば…」とクリストファーは何かを思い出したように「ちょっと行ってくる」と家を出て行った。

「なんなの…いったい」

今までの対応とはまるで違うクリストファーを不気味にすら思ってしまうがウェンディは煮だして液体にする薬を作り始めた。

しかし1時間たっても2時間経ってもクリストファーが戻って来ない。
やっと戻って来たと思ったら真っ青な顔をして、呼吸もはぁはぁと短い。足元もフラフラ。

「どうしたの?!」
「臼で挽いてて…シュロで集め…ハァハァ…便利かなって…」
「それはいいけど…どうしたの?!」

震える手で採って来たシュロを手渡したクリストファーの手首にはあってはならない痕があった。

「蛇に咬まれたの?!」
「だい・・じょぶ…ちょっとだけ」
「大丈夫じゃないわよ!だからこんな格好!!」

そう言ったウェンディだったがクリストファーは昨日と同じ服。着替えもないのだ。
しかし、今は着替えどころではない。蛇に噛まれて毒が回っている。早く処置をしなければ命にも関わる。しかしここにはマムシに噛まれた時に1時間程処置までの時間を稼げる薬しかなかった。

「しっかりして!リスト!リスト!聞こえてる?!」

呼びかけてもクリストファーは開けた目の瞳が前後左右に小刻みに震えて声も出ない。歩いて帰って来た事が余計に症状を悪化させた可能性もあった。

どんな蛇に咬まれたかも判らない。もう迷っている時間はなかった。
嫌いだと言っても死んでほしい訳じゃない。

ウェンディは咬み痕に手を当て、祈りを捧げた。全身をイメージし、毒素となるものが傷口から飛び出るイメージを描くと、本当にクリストファーの手首の咬み痕から水滴よりも少し小さな水の玉が出てきた。

ふわふわと宙に浮かぶその玉を近くにあった葉っぱの上に載せた。

体から毒が抜けたクリストファーは意識がハッキリとしたが、ウェンディの顔を見て驚愕の表情になった。王宮で、王都で、あんなに望まれて祭司や神父にも手伝ってもらったけれど発現しなかった力。

信じられないと思ったが、これは事実だとクリストファーは確信した。

「ディー…この力は発現したのか?」
「もう具合悪くないでしょ…」
「待って。王都に連れ帰したりしない。僕はディーを守ると決めた。だから教えてくれ。発現したのか?」
「さっきのを見て判ったでしょう?」

ゴツッ!ウェンディは「もう知らない」と立ち上がったので膝枕していたクリストファーの頭が床に落ちた。何をするのかと言えばさっき取り出したおそらく蛇の毒、その小さな毒玉で治療薬が作れないかとウェンディは腕組みをして考え始めたのだ。

それを見てクリストファーはおかしくなって笑ってしまった。

「え?そう言えばイメージする時、頭は考えたかしら。毒が残ってるの?」
「残ってないよ。なんだか…ディーらしいなって思ったんだ」
「私らしい?どういうこと?」
「うーん。言葉にするのは難しいから…(ちゅっ)」

パチン!!

「何するの!」
「だから言葉にするのは難しいって…」
「だからってしていい事と悪い事があるでしょう!もう!!自分じゃ自分を治癒できないのに!」
「僕、ばい菌じゃないよ」
「ばい菌以上よ!この蛇毒のほうがずっとマシ!」
「そんなぁ…」

その日はもう口をきいてくれなかったが、「働いた分?」と聞くとフン!と顔を背けながらも食事と湯殿、そしてまたハンモックをウェンディはクリストファーに提供した。

湯殿から出た時、かなり大きめのネグリジェが置かれていて、翌朝目を覚ました時に「ピエールさんチョイス!選んだの私じゃないから」とやっと声が聞けた。


その日からクリストファーはずっとウェンディの家に居候を始めた。
当然その事はホーネストも気が付く日が来る。

「こんにちはー!あれ?おっさん、誰?」

薬を受け取りにホーネストがやって来て追い出されそうになったクリストファーだが「お手伝いさんよ。押しかけの」とウェンディが言った事でキャットファイト寸前。

「出てけよ!ウェンディに迷惑かけるな!」
「うるせぇ。ガキのくせに生意気な口きくな」
「ウェンディは僕の聖女様なんだ!お前、出てけよ!」
「残念でした~。ディーは聖女じゃねぇんだよ。そんな事も判らないガキに言われる筋合いはねぇな」

「はいはい、もう変な言い争いはしないの。それ以上するならリストには出て行ってもらうしホー君も別の人に交代してもらうわよ」

<< えぇーっ?! >>

薬を背負ってホーネストと男性従業員が戻って行く。
ふもとまで見送ったのはクリストファー。

ファムリ商会という商会を起こしたのだと聞いて、クリストファーは安心をした。

「大事なものって商会だったんだな」
「そうよ?従業員の生活が薬作りに掛かってるの」
「安心した」
「何の安心?」
「いろいろと。よし、今日の夕食はリストスペシャルだ!任せてくれ」
「残念でした。もう下ごしらえはしてあるの。丁度いいわ。健康志向の薬膳料理を考えてるの。食べてくれるわよね」
「あ~…まぁ…はい」

ちょっと渋ったのは不味くはない。不味くはないのだがウェンディが作ったというスパイスが無ければ喉を通るのにかなり試練を試される味なのでクリストファーは少しだけ躊躇った。

――そうだよな。聖女様じゃないんだから苦手な事もあるさ――

貢献していれば「大っ嫌い」が「嫌い」になって「好きかも知れない」になるかも知れない。

「ディー。僕も商会にボランティアで雇ってくれないか?」
「は?ボランティアは雇うにならないでしょう?それよりそろそろ帰りなさいよ!」
「いいの。いいの。王子様はもう廃業」
「もう…勝手にすれば?」

その後、ホーネスト達から国王が変わった事を告げられてもクリストファーは戻らなかった。

「聖女じゃないなら生涯の護衛が必要だろう?」

ウェンディが再度ジト目になったのは言うまでもない。

Fin

★~★

読んで頂きありがとうございました<(_ _)>
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