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第02話 交換留学生のステラ
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時は半年前に遡る。
プリスセア王国は隣国のモーセット王国から留学生を迎えた。
今年で7回目となる交換留学制度。期間は半年。
モーセット王国は国王と同等に実権を握っている統治者がいる変わった国。
経済や法の制定などを行う所謂「知」を受け持つのが国王で他国の侵攻を防ぐ国防を担っているのが辺境伯。
20年前に国王も辺境伯も代替わりをしてからは大陸で一番発展し、領土も広い超大国となっていたが、国王の年齢は38歳、辺境伯も40歳と若い年齢。
特に辺境伯となったシュヴァイツァー・モーセットの妻は反対側の隣国であるブートレイア王国の元王女で代替わりをしてから母国であるブートレイア王国と交換留学制度を始めたため、ブートレイア王国の経済発展率は交換留学の成果を見せ始めた10年前からは右肩上がりどころかほぼ垂直に近い発展率。
遅れてはならないと慌ててプリスセア王国も仲間入りをさせてもらった。
と、言っても学園や学院の生徒が行うものではなく国王推薦で10人程度の貴族の子女が選ばれ両国の友好を深めつつ、文化や慣習の違いを知り将来的に当主となった時により事業で手を結びやすくなるという理由から行われている。
相手国の慣習や常識を知らず、こちらの国では許されている事でも禁忌とされる事項もある。うっかりと、しかも気安く逆鱗に触れてしまい、頓挫した事業の数は意外に多い。結果的に割を食うのは民。
「注意1秒怪我一生」どころか数代に渡って仲違いしたままの家もある。
建前としては「次世代は仲良くしましょう」だが、当然建前があれば誰も口にしない本音もある。笑顔で握手をしても腹の内は何を考えているのか読み合うのが国家というものなのである。
昨年は第1王子が王子という立場を隠し、伯爵家子息としてモーセット王国に留学をした。身分を偽っている事は国王同士と一部の関係者は知っているが預け先となる家は全く知らされない。
知らせてしまうと「王族」としての扱いをせざるを得ないので、ただ留学しただけという中身が無い時間を過ごす事になってしまうからだ。
今年もプリスセア王国からモーセット王国に留学生を送り、モーセット王国からも同じ数だけ受け入れたが、今回プリスセア王国の国王、ハージェスはその役員メンバーから外された。何を意味するかと言えば留学生の中に「王族」がいるという事である。
国王も「王族」いることは知らされているがそれが誰なのか、までは知らされない。
第1王子を伯爵家子息と偽って送り出した時も名も偽名にしていたし、そういう約束で昨年、モーセット王国では役員から厳重な箝口令が布かれ、モーセット王国国王も役員から外れた。
そんな事をしても所謂「面割れ」をしていては意味を成さないが。
やってきた留学生は表向き「ほぼ地方を管轄する貴族の子女」となっているが、明らかに違うだろ!と突っ込みたくなる者も含まれる。
その一人が次期宰相とも言われているブレイドル・モーセット。
モーセットと名がつけば王族には違いないが、残念ながら継承権は持っていない。ブレイドルの祖母と母が過去にメリル辺境伯夫人に対し「やらかしたから」と言われているが定かではない。
モーセット王国の男性王族特有の濃紺の髪に深い緑色の瞳。切れ長の目と高い鼻梁。出迎えた令嬢の中にはブレイドルを見て卒倒した者もいるくらい超絶美丈夫だった。
しかし、本名を名乗るという事は知らせにあった「王族」ではないということ。
ブレイドルよりも大物となれば・・・と残る者の顔を見る。
女性でも実力次第で当主にもなれるし、次期国王は女王かと言われているモーセット王国らしく女性も3人いた。
キリっとした鼻筋の通った子息が1人、容姿は凡庸だが身に纏っている衣類がひときわ上質な令嬢が1人。コール侯爵はこの2人のうちどちらかが「大物」だとほくそ笑んだ。
残りは本当に「田舎から出てきました」と言われても疑いようのない・・・よく言えば素朴、悪く言えば野暮ったさが前面に押し出された全く垢抜けない装い。近寄ると馬糞か牛糞の香りが鼻につきそうだとコール侯爵は彼らから早々に視線を逸らす。
公平を期すためにホームステイ先は相手国には「この中のいずれか」と10家が知らされる。
そうしなければ情報が漏れていると王族を、そうでなくても公爵家など将来重要な役職に就く者を我先にと高位貴族が預かってしまい、留学の意味を問いたくなるほど何もさせずにただお客様対応を半年間行うだけになってしまうからである。
ステイ先に真っ先に手をあげたコール侯爵は勇んでくじを引いたのだが、書かれてある名前を見て明白に嫌な顔をした。
書かれてあったのは【カルボス男爵家・ステラ、(女)18歳】
しかし二度は引けないし、引いた留学生が低位貴族だから辞めますとも言えない。
(寄りにも寄って一番田舎臭い子じゃないか!)
くじ運の悪さを嘆くコール侯爵だったが、努めて明るくステラに声を掛けた。
「では当家でこのご息女をお預かりしましょう」
コール侯爵は瓶底メガネに赤茶色の髪を大きな三つ編みにした見た目「ド田舎少女」のステラを預かる事になった。
「ステラ・カルボスです。よろしくお願いします(ぺこっ)」
三つ編みが鞭のようにしなりながらお辞儀をしたステラにコール侯爵も苦笑いしたのだが・・・ステラが連れていかれたのはトレサリー子爵家だった。
「我が家は侯爵家でね。ステラさんの家はカルボス男爵家だ。きっと爵位も近いこの家の方が居心地がいいと思うよ?それに今、屋敷に空き部屋が無くてね」
「私は構いませんが規約違反では?」
「大丈夫だ。屋敷に部屋が用意出来ない場合は傘下の家に預けてもいいことになっている」
どう考えても「面倒なので丸投げ」状態だが寝泊まりさせる部屋が無い場合はその限りではないと規約の補則に書いてあり間違いではなかった。
ただ、侯爵家ともあろう家が部屋の1つも用意出来ないとなれば違う問題が起きそうな気がしたが、留学生であるステラは受け入れる事しか出来ず、トレサリー家に居候する事になってしまった。
プリスセア王国は隣国のモーセット王国から留学生を迎えた。
今年で7回目となる交換留学制度。期間は半年。
モーセット王国は国王と同等に実権を握っている統治者がいる変わった国。
経済や法の制定などを行う所謂「知」を受け持つのが国王で他国の侵攻を防ぐ国防を担っているのが辺境伯。
20年前に国王も辺境伯も代替わりをしてからは大陸で一番発展し、領土も広い超大国となっていたが、国王の年齢は38歳、辺境伯も40歳と若い年齢。
特に辺境伯となったシュヴァイツァー・モーセットの妻は反対側の隣国であるブートレイア王国の元王女で代替わりをしてから母国であるブートレイア王国と交換留学制度を始めたため、ブートレイア王国の経済発展率は交換留学の成果を見せ始めた10年前からは右肩上がりどころかほぼ垂直に近い発展率。
遅れてはならないと慌ててプリスセア王国も仲間入りをさせてもらった。
と、言っても学園や学院の生徒が行うものではなく国王推薦で10人程度の貴族の子女が選ばれ両国の友好を深めつつ、文化や慣習の違いを知り将来的に当主となった時により事業で手を結びやすくなるという理由から行われている。
相手国の慣習や常識を知らず、こちらの国では許されている事でも禁忌とされる事項もある。うっかりと、しかも気安く逆鱗に触れてしまい、頓挫した事業の数は意外に多い。結果的に割を食うのは民。
「注意1秒怪我一生」どころか数代に渡って仲違いしたままの家もある。
建前としては「次世代は仲良くしましょう」だが、当然建前があれば誰も口にしない本音もある。笑顔で握手をしても腹の内は何を考えているのか読み合うのが国家というものなのである。
昨年は第1王子が王子という立場を隠し、伯爵家子息としてモーセット王国に留学をした。身分を偽っている事は国王同士と一部の関係者は知っているが預け先となる家は全く知らされない。
知らせてしまうと「王族」としての扱いをせざるを得ないので、ただ留学しただけという中身が無い時間を過ごす事になってしまうからだ。
今年もプリスセア王国からモーセット王国に留学生を送り、モーセット王国からも同じ数だけ受け入れたが、今回プリスセア王国の国王、ハージェスはその役員メンバーから外された。何を意味するかと言えば留学生の中に「王族」がいるという事である。
国王も「王族」いることは知らされているがそれが誰なのか、までは知らされない。
第1王子を伯爵家子息と偽って送り出した時も名も偽名にしていたし、そういう約束で昨年、モーセット王国では役員から厳重な箝口令が布かれ、モーセット王国国王も役員から外れた。
そんな事をしても所謂「面割れ」をしていては意味を成さないが。
やってきた留学生は表向き「ほぼ地方を管轄する貴族の子女」となっているが、明らかに違うだろ!と突っ込みたくなる者も含まれる。
その一人が次期宰相とも言われているブレイドル・モーセット。
モーセットと名がつけば王族には違いないが、残念ながら継承権は持っていない。ブレイドルの祖母と母が過去にメリル辺境伯夫人に対し「やらかしたから」と言われているが定かではない。
モーセット王国の男性王族特有の濃紺の髪に深い緑色の瞳。切れ長の目と高い鼻梁。出迎えた令嬢の中にはブレイドルを見て卒倒した者もいるくらい超絶美丈夫だった。
しかし、本名を名乗るという事は知らせにあった「王族」ではないということ。
ブレイドルよりも大物となれば・・・と残る者の顔を見る。
女性でも実力次第で当主にもなれるし、次期国王は女王かと言われているモーセット王国らしく女性も3人いた。
キリっとした鼻筋の通った子息が1人、容姿は凡庸だが身に纏っている衣類がひときわ上質な令嬢が1人。コール侯爵はこの2人のうちどちらかが「大物」だとほくそ笑んだ。
残りは本当に「田舎から出てきました」と言われても疑いようのない・・・よく言えば素朴、悪く言えば野暮ったさが前面に押し出された全く垢抜けない装い。近寄ると馬糞か牛糞の香りが鼻につきそうだとコール侯爵は彼らから早々に視線を逸らす。
公平を期すためにホームステイ先は相手国には「この中のいずれか」と10家が知らされる。
そうしなければ情報が漏れていると王族を、そうでなくても公爵家など将来重要な役職に就く者を我先にと高位貴族が預かってしまい、留学の意味を問いたくなるほど何もさせずにただお客様対応を半年間行うだけになってしまうからである。
ステイ先に真っ先に手をあげたコール侯爵は勇んでくじを引いたのだが、書かれてある名前を見て明白に嫌な顔をした。
書かれてあったのは【カルボス男爵家・ステラ、(女)18歳】
しかし二度は引けないし、引いた留学生が低位貴族だから辞めますとも言えない。
(寄りにも寄って一番田舎臭い子じゃないか!)
くじ運の悪さを嘆くコール侯爵だったが、努めて明るくステラに声を掛けた。
「では当家でこのご息女をお預かりしましょう」
コール侯爵は瓶底メガネに赤茶色の髪を大きな三つ編みにした見た目「ド田舎少女」のステラを預かる事になった。
「ステラ・カルボスです。よろしくお願いします(ぺこっ)」
三つ編みが鞭のようにしなりながらお辞儀をしたステラにコール侯爵も苦笑いしたのだが・・・ステラが連れていかれたのはトレサリー子爵家だった。
「我が家は侯爵家でね。ステラさんの家はカルボス男爵家だ。きっと爵位も近いこの家の方が居心地がいいと思うよ?それに今、屋敷に空き部屋が無くてね」
「私は構いませんが規約違反では?」
「大丈夫だ。屋敷に部屋が用意出来ない場合は傘下の家に預けてもいいことになっている」
どう考えても「面倒なので丸投げ」状態だが寝泊まりさせる部屋が無い場合はその限りではないと規約の補則に書いてあり間違いではなかった。
ただ、侯爵家ともあろう家が部屋の1つも用意出来ないとなれば違う問題が起きそうな気がしたが、留学生であるステラは受け入れる事しか出来ず、トレサリー家に居候する事になってしまった。
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