ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第03話   片付け屋のトレサリー家

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トレサリー子爵家は所謂「片付け屋」を生業としている。
新築の建物を引渡し前に行う美装屋とは違う。主な仕事は解体や内装工事をするために家屋の中を空っぽにする事と、世間で言う「ゴミ屋敷化」した家の中を綺麗さっぱり片付ける仕事である。

その仕事のおかげかトレサリー家はそれなりに私財を持っている子爵家。

特に10年ほど前からは、隣国のブートレイア王国の急激な発展で新品の生産ではとても追いつかずトレサリー子爵家の得意分野「ゴミ屋敷化」した家の片付けから出る大量の衣類や金属が飛ぶように売れた。
勿論廃棄するしかない物も多いが、再利用できるものが多いのもゴミ屋敷の特徴である。

庭にもゴミが溢れ返っている家も稀にあるが大抵はアパートメントの一室で、夜逃げにより発覚する事が多い。

片付けようにも借家人に踏み倒された家賃が唯一の収入源だった者が多く、次の借家人をと思っても中を片付けない事にはどうにもならない。

片付けても壁も床も天井も傷んでいる事は考えずとも判る事で、それらを改修しなければ新しい借家人も探せない。解体しようにも「中を片付けてから」と言われる始末で完全に手詰まり。

トレサリー子爵家は片づけるだけでなく内装のやり替えも、解体も行っている家だった。


「すまないね。私はハンドレー・トレサリー。家は店舗と一緒になっていてね。案内しよう」
「申し訳ございません。お手を止めてしまいます」
「いいんだよ。家族も紹介しよう」


トレサリー家は当主のハンドレーの他に息子のリヴァイヴァール、娘のビッケの3人家族。夫人は5年前に流行り病で天に召された。

「こんにちは!私、ビッケ!!うわぁ♡お姉さんが出来たぁ!!」
「お姉さんじゃない。失礼な事を言うな。妹がすみません。僕はリヴァイヴァール。皆はリバーと呼んでますので気軽に呼んでください」
「お兄ちゃん、非モテだけど変な事はさせないから安心して!」
「ビッケ!何言ってんだよ!」
「モテないのは本当でしょう?」
「うっさいわ!」

10人いれば7番目、いや贔屓目に見て6番目あたりのブサメン寄りのフツメンと言われるリヴァイヴァール。異性の留学生でもこの時は何も思わなかった。

しいて言えば向こう側が歪んで見えるんじゃ?と思う瓶底メガネに視力の心配をした。


しかし問題があった。部屋がないと言ったコール侯爵だったがトレサリー家はもっと部屋が無かった。
仕事柄なのか湯殿に大きなスペースを取っていて、従業員も一緒に食事をするため大きめのキッチンと食事室が1つづつ。不浄の数は7つと多いが6つは従業員も使用する。

私室と言える部屋は2つしかなく、1つはハンドレーが執務室と寝室を兼用。もう1つはリヴァイヴァールとビッケが真ん中をカーテンで仕切って共同で使っていた。

「お兄ちゃんが父さんと一緒で良いんじゃないの?っていうか、それしかないわよ」
「あ、あの私は食事室の椅子を貸して頂ければ‥」

社交辞令でもなくステラは椅子を3、4脚並べればそこで寝られると言ったのだが、ビッケが猛反対。

「まさか!寝返りも打てないし24時間作業の時は従業員も行ったり来たりよ?寝られないしステラさんは女の子なんだからそんなの絶対ダメ!」
「そうだな。留学中なんだし僕が父さんと暫く一緒の部屋を使うよ。僕の机や寝台も自由に使ってくれていい」
「ステラさん!大丈夫。枠だけだから。お兄ちゃんのクッサイ臭いのついたシーツもマットも交換するわ」
「臭いって失礼だな!毎日湯に入っとるわ!」


兄妹で喧嘩をしながらリヴァイヴァールの荷物を取りに部屋に戻って行ったが、日常茶飯事でじゃれ合いのようなものだから気にするなとハンドレーはステラを温かく迎えてくれた。

通常はステイ先は補則にあるように他家には回さない。相手国に来て変更をされると国元の両親などからの手紙や滞在中の生活費が届かなくなる事もあるからだ。

しかし今回は馬車からステラを下ろすとコール侯爵自身は馬車から降りる事もせず、「面倒をみてやってくれ」とだけ言い残し帰って行ってしまったのだ。

「手続きをしよう。書類は持っているかい?」
「はい、ですがこちらで全て処理致しますのでお気遣い無用で御座います」
「ビッケもなんだが女の子は色々と買い物も楽しみの1つだ。小遣いは立て替えてはやれるが・・・」


領収書などがあれば後日清算は出来るが屋台などで「領収書ください」と言えるものは少ない。そして何に使うのかを立て替えて貰う場合は申告する必要もあるのがこの留学制度の決まり。
ハンドレーが心配をしているのは男性には不要でも女性が必要な化粧品や消耗品があるので、ステラが言い出しにくいだろうと気遣ってのものだった。

娘のビッケもお年頃。恥ずかしい話、ハンドレーはビッケの初潮を女性従業員から報告を受けた。父親に何と言い出せばいいのか判らずに年配の女性従業員に相談をしていたのだ。

妻もいたし、女性には毎月の事だと判っていてもハンドレーが買ってくればビッケも気を使う。反抗期に入りつつある娘でデリケートな問題。ましてステラは他国の女の子。報告をする事がどれだけ恥ずかしい思いをするかとハンドレーは慮った。

「お気になさらず。万全の備えをしております」
「本当にすまないね。コール家は何と言うか・・・」
「預かったという体裁だけは取り繕いたい家という事でしょうか」
「うぇっ?!だっ誰かに聞かれたら!!」
「お気になさらず。父からは若いうちから本音と建て前を知れと言われております」
「そ、そうだけど!!いきなり本丸に斬りこむとは!!」
「では、それが正解と?」
「そ、そうなんだが・・・いやぁまいったなぁ」

悪びれた風が全くないステラにハンドレーは「国が違えばこうも違うのか」と冷や汗を拭った。
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