4 / 37
第04話 自慢は湯殿
しおりを挟む
「こっちの寝台を使ってね。残りの荷物は勝手に持って行かないように言ってるから」
「ですが、この荷はリヴァイヴァール様のものですよね。ご業務で使われるのでは?」
「いいの、いいの。って・・・ステラさんって言葉使い‥変わってるのね」
「そうでしょうか?変でしょうか?」
「なんていうか・・・貴族みたい。って、ウチも一応貴族なんだけどー」
ビッケは13歳という事もあって、「お姉さんが出来たみたいで嬉しい!」とステラにグイグイと来る。
片付け屋の仕事をしていて、自宅と店舗が一緒になっている事もあって従業員や客と幼い頃から接しているのでビクビクしていても仕方がないとある日気が付いたのだと笑いながら語った。
「ウチはね、こんな仕事をしてるから湯殿だけは自慢できるの」
「先程見せて頂きましたが3つあるのですね」
「そう。1つ目で大まかに汗と汚れを流して、2つ目でしっかり洗う。3つ目はもう寛ぐだけ!足も伸ばせるし・・・(こそっ)父さんには内緒だけど泳げるの」
その理由は簡単。
ゴミ屋敷や廃屋の片付けが仕事でがメイン。
そう言う場には虫がいる。
布があればヒメカツオブシムシやイガ。
紙があればシバンムシやチャタテムシ。
それらは害がない訳ではないが、この虫がいればもっと迷惑な虫が漏れなく付いてくる。
ダニと虱。
こちらは質が悪いので皮膚炎を始めとして色んな病気の元になる上に、あっという間に広がってしまう。
そのまま自宅に帰ってしまうと服や髪についたダニや虱は家族に、そして近所に、最悪町全体に広がってしまう。せめて発生源がトレサリー子爵家、そしてその商会からとならないよう従業員は仕事終わりに全員湯を浴びて帰宅する。
服も支給されているので、1つ目の湯殿に入る前に不潔リネンに来ていた作業服を入れ、3つ目を出た後は清潔リネンに置かれている自分の服を着る。
纏めて熱湯や薬剤で洗うので支給される作業服も均一で清潔な状態が保たれるという訳だ。
そうするのも各家庭で洗うほうが手間が掛かるからである。
片づけの場は決して清潔ではない。何時のものか解らない腐敗した液体が付着する事もあるし、粉の時もある。付着したモノによって使用する洗剤が違うので開発の意味も含めてトレサリー家で洗っているのである。
「えへへ。やってみたかったんだぁ」
ビッケは2着の寝間着を引っ張り出すと寝台の上に広げた。
「双子コーデとかホントは外でしたいんだけど・・・先ずは!家の中から!いいでしょ?だめ?」
良いか悪いは別にしてフードも付いた寝間着はキリン柄。ビッケの机や寝台周りは動物のぬいぐるみなどが沢山置かれていて「可愛いもの好き」なのだという事は解る。
しかしステラはこの手の寝間着は着た事が無い。
「キリンが好きじゃない?じゃぁウサギにする?」
(そういう問題では)と思うが、目をキラキラさせて「お願い♡」と言われてあっさり断るのも気の毒な気がして1晩だけのつもりで了承してしまった。
「やったぁ!湯殿でも一緒に泳ごう!!」
「泳ぎは・・・練習してきませんでしたので上手くできるかは判りませんわ」
「大丈夫よぅ!深さも無いし!教えてあげる!」
そう言われて湯殿に連れられてきてしまったが、ステラは重要な事を忘れていた。
「あの・・・やはり湯殿は1人で・・・」
「え?どうして?広いから2人でも大丈夫だよ?15人まで一緒に湯を浴びる事が出来るよ?」
「実は髪を染めているのです。染料が流れてしまうのでご迷惑になるかと」
「染めてるの?ソマリ草で?こんな綺麗な髪なのに・・・勿体ないなぁ」
「なのでご一緒する訳には――」
「大丈夫、大丈夫!従業員のおばちゃんも白髪染してるから!」
(そういう問題では)と思うが、目をキラキラさせてまたも「お願い♡」と言われてしまうと断るのも気の毒な気がして了承してしまった。
「わぁ!綺麗な銀髪!染めるの勿体ないよ!髪、傷んじゃうでしょう?」
「そうなのですが・・・仕方なく?」
「仕方なくって・・・えっ?!ステラさん、瞳も綺麗っていうかなんでこんなに美人なのにあんな野暮ったいメイクしてるの?メガネもダサダサの瓶底だし」
ソマリ草は水溶性なので洗えば流れ落ちてしまう。
湯殿に入る前と出た後、ステラはまるでビフォーアフター。別人になってしまった。
「見て!父さん!ステラさん、めっちゃ美人さんなんだよ!おっぱ(うぐっ!)」
「ビッケ様、それは禁句、他言無用ですわ」
ステラはビッケの口を塞ぐ。
子爵のハンドレーはステラを見てハッとした。ステラはそっと自分の唇に人差し指をあて「秘密」と呟くとハンドレーはコクコクと何度も頷く。
リヴァイヴァールはポカンと口を開けたまま硬直し、ビッケが「おーい!戻ってこーい!」耳元で叫ぶも微動だにしなかった。
「ですが、この荷はリヴァイヴァール様のものですよね。ご業務で使われるのでは?」
「いいの、いいの。って・・・ステラさんって言葉使い‥変わってるのね」
「そうでしょうか?変でしょうか?」
「なんていうか・・・貴族みたい。って、ウチも一応貴族なんだけどー」
ビッケは13歳という事もあって、「お姉さんが出来たみたいで嬉しい!」とステラにグイグイと来る。
片付け屋の仕事をしていて、自宅と店舗が一緒になっている事もあって従業員や客と幼い頃から接しているのでビクビクしていても仕方がないとある日気が付いたのだと笑いながら語った。
「ウチはね、こんな仕事をしてるから湯殿だけは自慢できるの」
「先程見せて頂きましたが3つあるのですね」
「そう。1つ目で大まかに汗と汚れを流して、2つ目でしっかり洗う。3つ目はもう寛ぐだけ!足も伸ばせるし・・・(こそっ)父さんには内緒だけど泳げるの」
その理由は簡単。
ゴミ屋敷や廃屋の片付けが仕事でがメイン。
そう言う場には虫がいる。
布があればヒメカツオブシムシやイガ。
紙があればシバンムシやチャタテムシ。
それらは害がない訳ではないが、この虫がいればもっと迷惑な虫が漏れなく付いてくる。
ダニと虱。
こちらは質が悪いので皮膚炎を始めとして色んな病気の元になる上に、あっという間に広がってしまう。
そのまま自宅に帰ってしまうと服や髪についたダニや虱は家族に、そして近所に、最悪町全体に広がってしまう。せめて発生源がトレサリー子爵家、そしてその商会からとならないよう従業員は仕事終わりに全員湯を浴びて帰宅する。
服も支給されているので、1つ目の湯殿に入る前に不潔リネンに来ていた作業服を入れ、3つ目を出た後は清潔リネンに置かれている自分の服を着る。
纏めて熱湯や薬剤で洗うので支給される作業服も均一で清潔な状態が保たれるという訳だ。
そうするのも各家庭で洗うほうが手間が掛かるからである。
片づけの場は決して清潔ではない。何時のものか解らない腐敗した液体が付着する事もあるし、粉の時もある。付着したモノによって使用する洗剤が違うので開発の意味も含めてトレサリー家で洗っているのである。
「えへへ。やってみたかったんだぁ」
ビッケは2着の寝間着を引っ張り出すと寝台の上に広げた。
「双子コーデとかホントは外でしたいんだけど・・・先ずは!家の中から!いいでしょ?だめ?」
良いか悪いは別にしてフードも付いた寝間着はキリン柄。ビッケの机や寝台周りは動物のぬいぐるみなどが沢山置かれていて「可愛いもの好き」なのだという事は解る。
しかしステラはこの手の寝間着は着た事が無い。
「キリンが好きじゃない?じゃぁウサギにする?」
(そういう問題では)と思うが、目をキラキラさせて「お願い♡」と言われてあっさり断るのも気の毒な気がして1晩だけのつもりで了承してしまった。
「やったぁ!湯殿でも一緒に泳ごう!!」
「泳ぎは・・・練習してきませんでしたので上手くできるかは判りませんわ」
「大丈夫よぅ!深さも無いし!教えてあげる!」
そう言われて湯殿に連れられてきてしまったが、ステラは重要な事を忘れていた。
「あの・・・やはり湯殿は1人で・・・」
「え?どうして?広いから2人でも大丈夫だよ?15人まで一緒に湯を浴びる事が出来るよ?」
「実は髪を染めているのです。染料が流れてしまうのでご迷惑になるかと」
「染めてるの?ソマリ草で?こんな綺麗な髪なのに・・・勿体ないなぁ」
「なのでご一緒する訳には――」
「大丈夫、大丈夫!従業員のおばちゃんも白髪染してるから!」
(そういう問題では)と思うが、目をキラキラさせてまたも「お願い♡」と言われてしまうと断るのも気の毒な気がして了承してしまった。
「わぁ!綺麗な銀髪!染めるの勿体ないよ!髪、傷んじゃうでしょう?」
「そうなのですが・・・仕方なく?」
「仕方なくって・・・えっ?!ステラさん、瞳も綺麗っていうかなんでこんなに美人なのにあんな野暮ったいメイクしてるの?メガネもダサダサの瓶底だし」
ソマリ草は水溶性なので洗えば流れ落ちてしまう。
湯殿に入る前と出た後、ステラはまるでビフォーアフター。別人になってしまった。
「見て!父さん!ステラさん、めっちゃ美人さんなんだよ!おっぱ(うぐっ!)」
「ビッケ様、それは禁句、他言無用ですわ」
ステラはビッケの口を塞ぐ。
子爵のハンドレーはステラを見てハッとした。ステラはそっと自分の唇に人差し指をあて「秘密」と呟くとハンドレーはコクコクと何度も頷く。
リヴァイヴァールはポカンと口を開けたまま硬直し、ビッケが「おーい!戻ってこーい!」耳元で叫ぶも微動だにしなかった。
83
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る
たぬきち25番
恋愛
侯爵令嬢ビアンカは婚約破棄と同時に冤罪で投獄が言い渡された。
だが……
気が付けば時を遡っていた。
この運命を変えたいビアンカは足搔こうとするが……?
時間を遡った先で必ず出会う謎の男性とは?
ビアンカはやはり婚約破棄されてしまうのか?
※ずっとリベンジしたかった時間逆行&婚約破棄ものに挑戦しました。
短編ですので、お気楽に読んで下さったら嬉しいです♪
※エンディング分岐します。
お好きなエンディングを選んで下さい。
・ギルベルトエンド
・アルバートエンド(賛否両論お気をつけて!!)
※申し訳ございません。何を勘違いしていたのか……
まだギルベルトエンドをお届けしていないのに非公開にしていました……
【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。
その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。
しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。
ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」
一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる──────
※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。
※※不貞行為の描写があります※※
※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
二人が一緒にいる理由
四折 柊
恋愛
キャサリンはヴィクターが好き。だけど私たちは恋人ではない。いわゆる腐れ縁で一緒に過ごしてきた。でもそれも終わる。学園を卒業すればお互いに婚約者を探すことになるから。そうなれば今と同じ気安い関係ではいられなくなるだろう。「それは嫌」キャサリンは勇気を出して想いを告げようと決心した。全4話。
婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ
松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。
エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。
「…………やらかしましたわね?」
◆
婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。
目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言――
「婚約破棄されに来ましたわ!」
この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。
これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる