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第05話 聞くは気の毒、見るは目の毒
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リヴァイヴァールもビッケも気が付いていないがハンドレーだけはステラの正体に気が付いてしまった。
「ちょっとよろしいですか?」
部屋のカーテンを引いているのでビッケには気付かれぬようハンドレーがステラに頭を下げた。そっと部屋を抜け出したステラは上着を貸してもらい、住居ではなく店舗の事務所にハンドレーと共に場所を移した。
「娘が大変な失礼を・・・」
「お気になさらず。ですが、2人には言わないで頂きたいのです」
「そう言う訳には参りません。明日にでもコール家に行き――」
「いえ、お邪魔でしょうがトレサリー家に厄介になりますわ」
「しかし・・・殿下に満足いただけるような家ではないので、かえってご迷惑ではありませんか」
「そのような事は御座いません。見た時はどうかと思いましたが、着ぐるみタイプの寝間着も快適ですわ」
そう言ってフードを被るとキリンの角がピコンと立つ。
「見てくださいませ。尻尾も御座いますの」
「そ、そうなんですけど・・・」
後ろについた尻尾を手に取り、先端のモフモフを嬉しそうに振るステラ。
ハンドレーは恐縮しきりである。
まさかモーセット王国の実質統治者の娘で次期国王と言われているステラリア・モーセットが目の前にいるなんて夢であってほしいとハンドレーは思ってしまう。
現辺境伯シュヴァイツァーとその夫人メリルの第2子。
第1子の男児、ツィンコリドーは父に似て血気盛んな青年。10歳になる前から従軍し騎乗戦を得意とする豪傑。
ステラリアの存在を知るものは多いが、姿を見たことがある者は少ない。
辺境領での統治は兄にと11歳の時に親元を離れ、叔父となる国王の元で国政を学んでいるとは噂で聞いた事はあるものの、絵姿などは出回る事もなかった。
母親のメリル夫人と同じ銀髪で瞳の色は父親と同じ深緑。王都に行くことが決まった時は辺境領にある酒をシュヴァイツァーが飲み干し、飲んだ分だけ号泣したとも伝えられている。
「わたくしは見聞を広めよと叔父に命じられてこの国に参りました。片付け屋という事業にも興味が御座います。おそらく見たことも無い世界ですし、この機会が無ければ知る事も無かったかも知れませんもの」
「正直申し上げて、お目に入れるような場では御座いません。隠しても仕方御座いませんのでお伝えしますが、通常の家から家への引っ越しとは訳が違います。事情があり汚物もそのままに生活していた、生活に行き詰まり夜逃げした、家の中でもう人の形を留めず見つかる者が埋もれている、そんな現場がほとんどなんです」
「だからこそです。どうしても視察となればきれいで何の問題も無い場を決められた通りに見るのみ。この位置にいればそんなものなのです。民が実際にどのような状況にあるのか、あったのか。報告書の文字でしか知らないまま国を統べる事は出来ません。他国で起こっている事は自国でも起こっている事。人が見ない、隠したいそんな場をこの目で見る事が出来るのですからどのような場でも参る所存でございます」
「そうでしたか・・・」
「ですから遠慮は一切不要で御座います。ただの留学生として扱ってください。食事なども特別なものは要らないのです。ふふっ・・・実を申しますとコール家が勘違いをするよう従兄のブレイドルをわざわざ捩じ込んだのは、わたくしなのですよ。そうでなければ24歳のブレイドルは留学生に選ばれるはずが御座いませんもの」
「そんな事を?えっ?でもどうしてコール家・・・」
「それは秘密ですわ。聞くは気の毒、見るは目の毒と申しますでしょう?」
ふふっと笑うステラだがハンドレーは胸が嫌な鼓動を打つ。コール家が何か目を付けられるような事をしているのならコール家のアリスと婚約をしているリヴァイヴァールにもその余波が飛んでくるのは目に見えている。
しかし、だからと言って婚約をどうにもできない現実があった。
相手は侯爵家。日頃からリヴァイヴァールの事を蔑んでいる令嬢のアリス。その物言いに注意をするも「爵位」を盾に逆に失礼だと言われてしまう上に、「融資した額の返済を放棄するなら婚約解消に同意する」と飲めない条件を突きつけられる。
婚約破棄をするには「アリスの物言い」は理由としては弱い。
不貞でもしていればと思ったが、その相手が第2王子となると残念ながらトレサリー家のほうが分が悪い。
アリスの不貞を理由にすれば必然的に第2王子を引っ張り出す事になり、第2王子を推す派閥から目を付けられて商売が出来なくなってしまうのだ。
「ご心配なさらず。見ている方はちゃんといますから」
「見ている??ん??あの・・・誰――」
「あ~!ここに居た~もう!呼んでもいないからびっくりしちゃったぁ」
ハンドレーの言葉はステラを探しにやって来たビッケの言葉で遮られた。
ステラは軽く会釈をするとビッケと共に部屋に戻っていく。
後姿の2人。歩くと揺れる尻尾が2本。
ハンドレーは「そうはいってもなぁ。肉、1段階上を頼もう」呟いて事務所のランプを吹き消した。
「ちょっとよろしいですか?」
部屋のカーテンを引いているのでビッケには気付かれぬようハンドレーがステラに頭を下げた。そっと部屋を抜け出したステラは上着を貸してもらい、住居ではなく店舗の事務所にハンドレーと共に場所を移した。
「娘が大変な失礼を・・・」
「お気になさらず。ですが、2人には言わないで頂きたいのです」
「そう言う訳には参りません。明日にでもコール家に行き――」
「いえ、お邪魔でしょうがトレサリー家に厄介になりますわ」
「しかし・・・殿下に満足いただけるような家ではないので、かえってご迷惑ではありませんか」
「そのような事は御座いません。見た時はどうかと思いましたが、着ぐるみタイプの寝間着も快適ですわ」
そう言ってフードを被るとキリンの角がピコンと立つ。
「見てくださいませ。尻尾も御座いますの」
「そ、そうなんですけど・・・」
後ろについた尻尾を手に取り、先端のモフモフを嬉しそうに振るステラ。
ハンドレーは恐縮しきりである。
まさかモーセット王国の実質統治者の娘で次期国王と言われているステラリア・モーセットが目の前にいるなんて夢であってほしいとハンドレーは思ってしまう。
現辺境伯シュヴァイツァーとその夫人メリルの第2子。
第1子の男児、ツィンコリドーは父に似て血気盛んな青年。10歳になる前から従軍し騎乗戦を得意とする豪傑。
ステラリアの存在を知るものは多いが、姿を見たことがある者は少ない。
辺境領での統治は兄にと11歳の時に親元を離れ、叔父となる国王の元で国政を学んでいるとは噂で聞いた事はあるものの、絵姿などは出回る事もなかった。
母親のメリル夫人と同じ銀髪で瞳の色は父親と同じ深緑。王都に行くことが決まった時は辺境領にある酒をシュヴァイツァーが飲み干し、飲んだ分だけ号泣したとも伝えられている。
「わたくしは見聞を広めよと叔父に命じられてこの国に参りました。片付け屋という事業にも興味が御座います。おそらく見たことも無い世界ですし、この機会が無ければ知る事も無かったかも知れませんもの」
「正直申し上げて、お目に入れるような場では御座いません。隠しても仕方御座いませんのでお伝えしますが、通常の家から家への引っ越しとは訳が違います。事情があり汚物もそのままに生活していた、生活に行き詰まり夜逃げした、家の中でもう人の形を留めず見つかる者が埋もれている、そんな現場がほとんどなんです」
「だからこそです。どうしても視察となればきれいで何の問題も無い場を決められた通りに見るのみ。この位置にいればそんなものなのです。民が実際にどのような状況にあるのか、あったのか。報告書の文字でしか知らないまま国を統べる事は出来ません。他国で起こっている事は自国でも起こっている事。人が見ない、隠したいそんな場をこの目で見る事が出来るのですからどのような場でも参る所存でございます」
「そうでしたか・・・」
「ですから遠慮は一切不要で御座います。ただの留学生として扱ってください。食事なども特別なものは要らないのです。ふふっ・・・実を申しますとコール家が勘違いをするよう従兄のブレイドルをわざわざ捩じ込んだのは、わたくしなのですよ。そうでなければ24歳のブレイドルは留学生に選ばれるはずが御座いませんもの」
「そんな事を?えっ?でもどうしてコール家・・・」
「それは秘密ですわ。聞くは気の毒、見るは目の毒と申しますでしょう?」
ふふっと笑うステラだがハンドレーは胸が嫌な鼓動を打つ。コール家が何か目を付けられるような事をしているのならコール家のアリスと婚約をしているリヴァイヴァールにもその余波が飛んでくるのは目に見えている。
しかし、だからと言って婚約をどうにもできない現実があった。
相手は侯爵家。日頃からリヴァイヴァールの事を蔑んでいる令嬢のアリス。その物言いに注意をするも「爵位」を盾に逆に失礼だと言われてしまう上に、「融資した額の返済を放棄するなら婚約解消に同意する」と飲めない条件を突きつけられる。
婚約破棄をするには「アリスの物言い」は理由としては弱い。
不貞でもしていればと思ったが、その相手が第2王子となると残念ながらトレサリー家のほうが分が悪い。
アリスの不貞を理由にすれば必然的に第2王子を引っ張り出す事になり、第2王子を推す派閥から目を付けられて商売が出来なくなってしまうのだ。
「ご心配なさらず。見ている方はちゃんといますから」
「見ている??ん??あの・・・誰――」
「あ~!ここに居た~もう!呼んでもいないからびっくりしちゃったぁ」
ハンドレーの言葉はステラを探しにやって来たビッケの言葉で遮られた。
ステラは軽く会釈をするとビッケと共に部屋に戻っていく。
後姿の2人。歩くと揺れる尻尾が2本。
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