ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第13話   ステラ、サビに心が弾む

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もう貝になりますとリヴァイヴァールはブロク男爵の隣で話を聞くステラの後ろに下がった。ブレイドルが「気にするな」と肩に手を置く。

「あの子に頭で勝てるやつなんかモーセットにもいないんだから」
「え・・・ソウナンデスカ」
「ついでだから言っておくが間違っても決闘は申し込むなよ?負け戦なんかするもんじゃない」
「そんなに強っ?!えぇっ?!」
「あの子に剣の腕で勝てるのは・・・知ってる限り2人しかいない。父親と兄だ」
「ソウナンデスカ・・・文武両道ってやつ・・・凄いな・・・」
「おっと、訂正だ。剣じゃないな。鞭だ。の趣味があっても頼むのは止めておけ。一撃で本気の昇天だ」

試した事はないが、それはそれでの趣味があれば本望では?と思わなくもないがリヴァイヴァールはそれ以上を突っ込む事が出来なかった。

リヴァイヴァールとブレイドルのお喋りをよそにブロク男爵とステラはステンレスの板を前に真剣になっている。


「あとは綺麗にふき取りをしているつもりでも錆びる。何故だか解るかい?」

「何も置かず、綺麗にしていても錆びるのですか…解りません」

「ステンレスが錆びないと誤解をされているのは、じつは成分の構成上その表面を薄い膜が覆っているからなんだよ。でもこの膜は綺麗に洗っているつもりで金タワシ、研磨剤、メラミンスポンジで洗うと傷つけながら削っているようなものだからどんどん薄くなって膜が取れる。そうすると錆びる。

最悪なのは綺麗にするつもりで酸性の洗剤を使う事だ。これはもう悪手の中の悪手。これらで出来るのが赤錆。膜を酸で溶かすという方法で剥いでしまってるからもうどうにもならない。見た目だけ綺麗にしたいのなら擦る、つまり削るしかないが、傷をつけてるわけだから直ぐに錆びる。また削る。ステンレスも薄くなって穴があくという訳さ」


焦げかと思っていたものも実は【黒錆び】だった事をステラは教えてもらった。

「黒錆びは元は油なんかが跳ねたり、吹きこぼれをした時の液体が原因なんだが、掃除をせずに何カ月、何年と放置しておくと調理の熱を継続的に使う事で熱せられて赤錆が焦げると思えばいい。黒錆びになるともうそれは被膜もとっくに破れているしどうにもならない。今はステンレスで説明をしているがアルミやホーローも同じだ。ホーローと言うと丈夫そうに聞こえるが所詮エナメル、釉薬という膜を陶器につけただけだからな。

ウチでは色んな薬剤を開発するためにこうやってワザと錆びさせたり、トレサリー家から廃棄するシンクや棚を貰ったりするんだ。こっちにきてみな」

再度連れて行かれた場所には同じ金属の板の上に金属のこれまた同じ花瓶を置いている部屋。

「これは昨日置いた。錆びてないのが解るだろう?」

そう言って1週間、2週間、と時間を置いた板から順に花瓶を持ち上げたブロク男爵。
数個目で薄っすらと茶色の線がついた板に濡れた布をあてて、強めに擦ると汚れは落ちた。

しかし更に日数が経ったものは力を入れて拭くだけは汚れは取れない。

「病気もそうだが早期発見、早期治療。リバーの家みたいなプロでも、俺らのような薬剤ばかり扱っている者でも取れないものは取れない。そうなる前に処置するんだよ。カップだって割れたら割れる前には戻らないからな」


ブロク男爵は力を入れて拭いても取れない錆びに酢を垂らした布を置いた。
そして30分ほど放置して軽くこするとさっきまで力を入れて擦っても取れなかった錆が取れた。

「これはビネガーの力ですの?」

「そう、酢やレモン、オレンジの皮なんかにはこの程度なら落とす効果がある。だが、ここからだ。しっかりと水で洗って落とすために使った酢を流す。これを怠ると意味がない。酸性の特性を知ってるか?」

「特性・・・膜を侵食し溶かす。つまり放置しておくと今度は拭いた箇所全域が錆びてしまうと?」

「その通りだ。だが、ステンレスに限らない。焼き物のタイルも大理石も同じだ」

「素材が違っても錆が移ると?」

「そう。その部分は化合と言って、もう元々の組成でもなくなっているという事でもあるんだが、パンを齧ったような状態になってるって事さ。事務所にある程度纏めたものがあるから見せてあげよう」


書物では物の特性を読んで知ってはいたが、目の前で起こる不思議にステラはすっかり魅了され、リヴァイヴァールが隣にいる事も忘れて先程までの事を思い出し、1人百面相。

(こんなに楽しい講義なんて何時ぶりかしら!!)

ビッケから貸して貰った赤茶色のショートカットウィッグがフワフワと揺れる。知らぬ間にスキップをしながら事務所に向かうブロク男爵を追いかけてしまっていた。

そんなステラを見てリヴァイヴァールは胸がキュンと締め付けられる。

「なんだ・・・胸が…痛い」

少し後ろでリヴァイヴァールが胸を押さえている事も、ブレイドルが必死で笑いを堪えているのもステラは気が付かなかった。
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