13 / 37
第13話 ステラ、サビに心が弾む
しおりを挟む
もう貝になりますとリヴァイヴァールはブロク男爵の隣で話を聞くステラの後ろに下がった。ブレイドルが「気にするな」と肩に手を置く。
「あの子に頭で勝てるやつなんかモーセットにもいないんだから」
「え・・・ソウナンデスカ」
「ついでだから言っておくが間違っても決闘は申し込むなよ?負け戦なんかするもんじゃない」
「そんなに強っ?!えぇっ?!」
「あの子に剣の腕で勝てるのは・・・知ってる限り2人しかいない。父親と兄だ」
「ソウナンデスカ・・・文武両道ってやつ・・・凄いな・・・」
「おっと、訂正だ。剣じゃないな。鞭だ。ソッチの趣味があっても頼むのは止めておけ。一撃で本気の昇天だ」
試した事はないが、それはそれでソッチの趣味があれば本望では?と思わなくもないがリヴァイヴァールはそれ以上を突っ込む事が出来なかった。
リヴァイヴァールとブレイドルのお喋りをよそにブロク男爵とステラはステンレスの板を前に真剣になっている。
「あとは綺麗にふき取りをしているつもりでも錆びる。何故だか解るかい?」
「何も置かず、綺麗にしていても錆びるのですか…解りません」
「ステンレスが錆びないと誤解をされているのは、じつは成分の構成上その表面を薄い膜が覆っているからなんだよ。でもこの膜は綺麗に洗っているつもりで金タワシ、研磨剤、メラミンスポンジで洗うと傷つけながら削っているようなものだからどんどん薄くなって膜が取れる。そうすると錆びる。
最悪なのは綺麗にするつもりで酸性の洗剤を使う事だ。これはもう悪手の中の悪手。これらで出来るのが赤錆。膜を酸で溶かすという方法で剥いでしまってるからもうどうにもならない。見た目だけ綺麗にしたいのなら擦る、つまり削るしかないが、傷をつけてるわけだから直ぐに錆びる。また削る。ステンレスも薄くなって穴があくという訳さ」
焦げかと思っていたものも実は【黒錆び】だった事をステラは教えてもらった。
「黒錆びは元は油なんかが跳ねたり、吹きこぼれをした時の液体が原因なんだが、掃除をせずに何カ月、何年と放置しておくと調理の熱を継続的に使う事で熱せられて赤錆が焦げると思えばいい。黒錆びになるともうそれは被膜もとっくに破れているしどうにもならない。今はステンレスで説明をしているがアルミやホーローも同じだ。ホーローと言うと丈夫そうに聞こえるが所詮エナメル、釉薬という膜を陶器につけただけだからな。
ウチでは色んな薬剤を開発するためにこうやってワザと錆びさせたり、トレサリー家から廃棄するシンクや棚を貰ったりするんだ。こっちにきてみな」
再度連れて行かれた場所には同じ金属の板の上に金属のこれまた同じ花瓶を置いている部屋。
「これは昨日置いた。錆びてないのが解るだろう?」
そう言って1週間、2週間、と時間を置いた板から順に花瓶を持ち上げたブロク男爵。
数個目で薄っすらと茶色の線がついた板に濡れた布をあてて、強めに擦ると汚れは落ちた。
しかし更に日数が経ったものは力を入れて拭くだけは汚れは取れない。
「病気もそうだが早期発見、早期治療。リバーの家みたいなプロでも、俺らのような薬剤ばかり扱っている者でも取れないものは取れない。そうなる前に処置するんだよ。カップだって割れたら割れる前には戻らないからな」
ブロク男爵は力を入れて拭いても取れない錆びに酢を垂らした布を置いた。
そして30分ほど放置して軽くこするとさっきまで力を入れて擦っても取れなかった錆が取れた。
「これはビネガーの力ですの?」
「そう、酢やレモン、オレンジの皮なんかにはこの程度なら落とす効果がある。だが、ここからだ。しっかりと水で洗って落とすために使った酢を流す。これを怠ると意味がない。酸性の特性を知ってるか?」
「特性・・・膜を侵食し溶かす。つまり放置しておくと今度は拭いた箇所全域が錆びてしまうと?」
「その通りだ。だが、ステンレスに限らない。焼き物のタイルも大理石も同じだ」
「素材が違っても錆が移ると?」
「そう。その部分は化合と言って、もう元々の組成でもなくなっているという事でもあるんだが、パンを齧ったような状態になってるって事さ。事務所にある程度纏めたものがあるから見せてあげよう」
書物では物の特性を読んで知ってはいたが、目の前で起こる不思議にステラはすっかり魅了され、リヴァイヴァールが隣にいる事も忘れて先程までの事を思い出し、1人百面相。
(こんなに楽しい講義なんて何時ぶりかしら!!)
ビッケから貸して貰った赤茶色のショートカットウィッグがフワフワと揺れる。知らぬ間にスキップをしながら事務所に向かうブロク男爵を追いかけてしまっていた。
そんなステラを見てリヴァイヴァールは胸がキュンと締め付けられる。
「なんだ・・・胸が…痛い」
少し後ろでリヴァイヴァールが胸を押さえている事も、ブレイドルが必死で笑いを堪えているのもステラは気が付かなかった。
「あの子に頭で勝てるやつなんかモーセットにもいないんだから」
「え・・・ソウナンデスカ」
「ついでだから言っておくが間違っても決闘は申し込むなよ?負け戦なんかするもんじゃない」
「そんなに強っ?!えぇっ?!」
「あの子に剣の腕で勝てるのは・・・知ってる限り2人しかいない。父親と兄だ」
「ソウナンデスカ・・・文武両道ってやつ・・・凄いな・・・」
「おっと、訂正だ。剣じゃないな。鞭だ。ソッチの趣味があっても頼むのは止めておけ。一撃で本気の昇天だ」
試した事はないが、それはそれでソッチの趣味があれば本望では?と思わなくもないがリヴァイヴァールはそれ以上を突っ込む事が出来なかった。
リヴァイヴァールとブレイドルのお喋りをよそにブロク男爵とステラはステンレスの板を前に真剣になっている。
「あとは綺麗にふき取りをしているつもりでも錆びる。何故だか解るかい?」
「何も置かず、綺麗にしていても錆びるのですか…解りません」
「ステンレスが錆びないと誤解をされているのは、じつは成分の構成上その表面を薄い膜が覆っているからなんだよ。でもこの膜は綺麗に洗っているつもりで金タワシ、研磨剤、メラミンスポンジで洗うと傷つけながら削っているようなものだからどんどん薄くなって膜が取れる。そうすると錆びる。
最悪なのは綺麗にするつもりで酸性の洗剤を使う事だ。これはもう悪手の中の悪手。これらで出来るのが赤錆。膜を酸で溶かすという方法で剥いでしまってるからもうどうにもならない。見た目だけ綺麗にしたいのなら擦る、つまり削るしかないが、傷をつけてるわけだから直ぐに錆びる。また削る。ステンレスも薄くなって穴があくという訳さ」
焦げかと思っていたものも実は【黒錆び】だった事をステラは教えてもらった。
「黒錆びは元は油なんかが跳ねたり、吹きこぼれをした時の液体が原因なんだが、掃除をせずに何カ月、何年と放置しておくと調理の熱を継続的に使う事で熱せられて赤錆が焦げると思えばいい。黒錆びになるともうそれは被膜もとっくに破れているしどうにもならない。今はステンレスで説明をしているがアルミやホーローも同じだ。ホーローと言うと丈夫そうに聞こえるが所詮エナメル、釉薬という膜を陶器につけただけだからな。
ウチでは色んな薬剤を開発するためにこうやってワザと錆びさせたり、トレサリー家から廃棄するシンクや棚を貰ったりするんだ。こっちにきてみな」
再度連れて行かれた場所には同じ金属の板の上に金属のこれまた同じ花瓶を置いている部屋。
「これは昨日置いた。錆びてないのが解るだろう?」
そう言って1週間、2週間、と時間を置いた板から順に花瓶を持ち上げたブロク男爵。
数個目で薄っすらと茶色の線がついた板に濡れた布をあてて、強めに擦ると汚れは落ちた。
しかし更に日数が経ったものは力を入れて拭くだけは汚れは取れない。
「病気もそうだが早期発見、早期治療。リバーの家みたいなプロでも、俺らのような薬剤ばかり扱っている者でも取れないものは取れない。そうなる前に処置するんだよ。カップだって割れたら割れる前には戻らないからな」
ブロク男爵は力を入れて拭いても取れない錆びに酢を垂らした布を置いた。
そして30分ほど放置して軽くこするとさっきまで力を入れて擦っても取れなかった錆が取れた。
「これはビネガーの力ですの?」
「そう、酢やレモン、オレンジの皮なんかにはこの程度なら落とす効果がある。だが、ここからだ。しっかりと水で洗って落とすために使った酢を流す。これを怠ると意味がない。酸性の特性を知ってるか?」
「特性・・・膜を侵食し溶かす。つまり放置しておくと今度は拭いた箇所全域が錆びてしまうと?」
「その通りだ。だが、ステンレスに限らない。焼き物のタイルも大理石も同じだ」
「素材が違っても錆が移ると?」
「そう。その部分は化合と言って、もう元々の組成でもなくなっているという事でもあるんだが、パンを齧ったような状態になってるって事さ。事務所にある程度纏めたものがあるから見せてあげよう」
書物では物の特性を読んで知ってはいたが、目の前で起こる不思議にステラはすっかり魅了され、リヴァイヴァールが隣にいる事も忘れて先程までの事を思い出し、1人百面相。
(こんなに楽しい講義なんて何時ぶりかしら!!)
ビッケから貸して貰った赤茶色のショートカットウィッグがフワフワと揺れる。知らぬ間にスキップをしながら事務所に向かうブロク男爵を追いかけてしまっていた。
そんなステラを見てリヴァイヴァールは胸がキュンと締め付けられる。
「なんだ・・・胸が…痛い」
少し後ろでリヴァイヴァールが胸を押さえている事も、ブレイドルが必死で笑いを堪えているのもステラは気が付かなかった。
81
あなたにおすすめの小説
心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。
理由は他の女性を好きになってしまったから。
10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。
意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。
ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。
セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
【完結】深く青く消えゆく
ここ
恋愛
ミッシェルは騎士を目指している。魔法が得意なため、魔法騎士が第一希望だ。日々父親に男らしくあれ、と鍛えられている。ミッシェルは真っ青な長い髪をしていて、顔立ちはかなり可愛らしい。背も高くない。そのことをからかわれることもある。そういうときは親友レオが助けてくれる。ミッシェルは親友の彼が大好きだ。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる