ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第12話   リバー、語呂合わせに撃沈

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世の中は理不尽である。

揶揄っている訳ではなく、意地悪をしている訳でもない。
聞かれた事に素直に答えるだけなのに、時として「天然ちゃん」と思われてしまう事がある。

ステラは今まで生きて来て「天然ちゃん」所謂、どこか抜けたお花畑のお姫様だと言われた事は一度もない。むしろ真逆で「可愛げが無い子」は陰でよく言われている事は知っていたし「慈悲というものがない」と噂されている事も知っている。

忖度をする必要が無い立ち位置というのは面倒な部分もあるということである。

「お嬢ちゃん、天然ちゃんで面白いな。あざとさが無い所がいいよ!」
「あざとさで御座いますか?」
「おぅよ!男に媚びようとするところが無い。大抵は ”7つですぅ♡(うるるん)” ってな感じで甘えた声を出すもんだが、ズバッと言い切る一刀両断型だからな!」
「事実ですから」
「それだよ!それ!でも気を付けなよ?男の中にはそういう塩対応っぽいのが刺さる奴もいるからな」
「塩対応が刺さる??」


ステラ以外には理解が出来ているが、ステラはそもそもで「刺さる」は何となくイメージが出来るが「塩対応」というワードが何を意味するのかが理解出来ていない。

悩むステラにブレイドルが助け舟を出した。

「カルボス男爵令嬢、塩対応というのは素気無すげない対応という事だ」
素気無すげない・・・まぁ、そのように受け取られていたのですか」
「いいんだよ。いいんだ。それがお嬢ちゃんなんだ。他人に合わせるこたぁねぇよ。一本芯が通ってるんだからいいんじゃないか?決して間違ってはいないしな」
「左様でございますか。お褒め頂き恐縮ですわ」
「ここまで肝いりの塩対応なんざ、そうそう出来るモンじゃねぇしなッ!」


ブロク男爵はすっかりステラを気に入り、こっちにおいでと手招きをする。何だろうと向かってみればそこにはシルバーにくすんだ板があった。

「これはキッチンの天板なんだ。色んな汚れが付いてこんなにくすんだんだ。その色んな汚れ。区別がつくかい?」

「汚れで御座いますが・・・黒いのは焦げでしょうか。ですがこの白いものは・・・こちらとこちらは別のもののようですし、この赤茶色は…何かしら。石ではなく金属なのですよね?」

「そうだ。ステンレスという金属だ」

ステラの後ろではリヴァイヴァールが「僕解ります!!」とフリスビーを投げてくれ!とオネダリする犬のように鼻をフンフン鳴らせるがブロク男爵はステラの答えを待った。


「申し訳ございません。かろうじて焦げではないかと思うのですが白いものと赤茶色は解りません」

「黒いものは焦げ、正解だ。但し満点じゃぁないな、50点だ。こっちの指で押せば潰せたり、爪で引っ掻けば取れそうなものは吹きこぼれなどで出来た焦げ。黒く粘りのあるのは油で出来たものだ。それから・・・もう1つこっちの黒い粒は焦げだけど焦げじゃない」

「勉強になります。では何で御座いましょう」

「錆だ。合金のステンレスは錆び難いと言われているが、錆びもするし、厄介なもらいサビを受けやすい金属でもあるんだよ」

「もらいサビ・・・」

「うっかりこの天板の上にフォークなんかを置きっぱなしにして旅行に行ってしまう、金属の花瓶に花を生けて置き場を天板の上にする。そんなことをしてしまうと異種の金属ではお互いが干渉して錆びてしまうんだよ。例えば鉄だ。板の上に鉄を置いて錆びるのにステンレスは何日かかると思う?」

「錆びにくいのですよね…50日でしょうか?」

「残念。1日だ」

「1日?!」

「それくらいステンレスは錆びやすいという事だ。実際、濡れ釘でも置いておけば釘に防錆加工してなければ1日で錆びがでる。鉄とステンレスは影響を受けやすい関係なんだ」

「本の受け売りで御座いますが読んだことが御座います。”りーさん、貸そうかな、まぁアテにするな酷い借金”で覚えましたが、関係が御座いますか?」

「おっ!知ってるねぇ。大当たりだ。リバーとは大違いだな!」

「放っておいてくれ。どうせ学園も1年卒だよッ!」

「いえ、母が薬草を煎じるのが趣味で効能を調べられるようになったので色々と覚えただけで御座います」


プリスセア王国は平民や低位貴族が通う学園と王族や高位貴族が通う学院がある。
どちらも6年制だが、授業料が高いので学園に入った大半は入学したという実績だけの1年で自主退学。経済的に後進国の原因はここにもあった。

「なんだ?その・・・リーさん??なんだっけ」
「”りーさん、貸そうかな、まぁアテにするな酷い借金” 語呂合わせで御座います。元素記号を並べるのです。
頭からーはリチウム、すはカリウム、次のがカルシウム、がナトリウム、と続いて借金の借はプラチナ、金はゴールド。他の金属にどれだけ影響されやすいかを並べた語呂合わせですわ」
「やっぱ留学生となると違うな!リバーよ!」
「いえ、これらは7歳の時に覚えました。わたくし、学びの場には通えませんでしたので」
「な、な、7歳・・・」


容赦なくバッサリと斬り落とされてしまうリヴァイヴァール。学園の入学は13歳である。覚えたのがそれよりも6年前となると立ち直れない。一撃で撃沈されてしまった。

知ってますと錆びについて息を荒くした過去を綺麗さっぱり錆び以上に消し去りたい。心からそう思ったのだった。
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