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第11話 ブレイドルは笑う
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やはりいきなりの現場は不味い。反省をしたリヴァイヴァールは取引先でもある洗浄用の薬品を卸している商会にステラを連れて向かった。
やって来たのはティラゾ商会。長い間食べ物カスや紙や布の朽ちたもの、金属があった事で変色してしまったタイルや大理石、木の板に金属板などの清掃用薬剤をトレサリー家は購入していた。
丁度薬剤が無くなりそうだったこともあって、買い付けも行おうと乗っているのは小ぶりな荷馬車。いつもなら気にもならないけれど先日の事があってリヴァイヴァールはステラが隣にいる事に手綱を持つ手も手汗で滑りそうになってしまう。
「なんでこんなに女の子がいるんだ?」
リヴァイヴァールは背の高い垣根の向こうを見ようと踏み台まで持参して中を覗こうとしている令嬢達に驚きつつも小ぶりな荷馬車の隣にステラを乗せてティラゾ商会の門をくぐった。
ティラゾ商会はブロク男爵家の経営する商会。
かの日のくじ引きでステラの従兄ブレイドルを引き当てたのはブロク男爵だった。集まっているご令嬢達の目当てはブレイドル。
見える位置まで倉庫からブレイドルが出てくると「キャー♡」黄色い歓声が飛びまくる。美丈夫は国を超えても美丈夫である事は間違いないようだ。
馬車が倉庫脇に止まると、両手で箱を2段に重ねて運んでいたブレイドルが声を掛けた。
「ステラじゃないか。どうしたんだ?私に用でも?」
ちらりとブレイドルを見たステラは、ムッとした顔をするとブレイドルが慌てて「カルボス男爵令嬢!!」不自然に呼び直す。
「知り合い?・・・ってそうだよな。同じ国だし」
「えぇ。公爵家のご令息ですのでモーセットで存じないという方はいらっしゃらないかと」
「そうじゃなくて、彼、ステラさんを知ってるみたいだけど」
「そ、そうですわね。公爵家ともなれば全ての貴族をご存じなだけかと」
「凄いな。やはり公爵家となるとそのレベルか。真似できないなぁ」
リヴァイヴァールは鈍感なのか。
それともただの・・・いや、やめておこう、危険すぎる。
ステラはその先を考える事を止めた。
「トレサリーのボンボンじゃないか。どうしたんだ?女の子なんか連れちゃってさぁ!彼女か?!春が来たか?!」
「そんなんじゃない!ウチで受け入れている留学生だよ」
「へ?留学生?お前ン家くじ引きした時いたかな?」
「それはどうでもいいよ。ちょっと洗い場貸してくれないかな」
「洗い場?そりゃ構わねぇけど…お前、女の子に洗い物させるのか?」
洗い物という言葉にブレイドルがびっくりして持っていた荷物を落としそうになり、ステラと目が合うが小さく頷くステラに苦笑いをするしかない。
しかし、心配である事は間違いなく手にしていた荷物を卸すとブロク男爵に駆け寄った。
ステラ、リヴァイヴァールを洗い場に案内するブロク男爵について移動をするとまたもやご令嬢の嬌声が聞こえる。黄色い歓声を背に受けながら洗い場に行くとそこにはいろんな石が水に浸けられていたり、積み重なったまま置かれていた。
「練習用あるかな。そうだな…タイルとか大理石に錆がついたような奴がいいかな」
「いきなり高難度だな。経験があるのか?」
リヴァイヴァールはいつもの事で慣れているが、ステラは初心者の中の初心者。もしかするとブラシを持つのも人生初となるかも知れない。
初心者がレベルアップではなく、初心者にステップアップせねばならないレベルだという事を失念していた。
ブロク男爵はステラの手を見て「高難度」と言った。
水仕事など無縁の手。ステラはブロク男爵の視線に気が付くと自分の手の平と手の甲を交互に見るが、経験が無いので何が違うのかも判らない。
「いきなり実践ではなくて、汚れの種類を知ってもらう所からだな。な、お嬢さん。その方が次の段階に入るにも区別ってモンがつくだろう?」
「そうでございますね。種類とは何種類ほど御座いますの?」
「場所によって違うが・・・そうだな入門編という事で・・・お嬢さんの家の中に水を使う部屋は幾つある」
「家の中で御座いますか?・・・そうですね…100は超えております」
「ぶはっ」ブレイドルが思いっきり噴き出す隣でリヴァイヴァールとブロク男爵は目が点になっていた。ステラだけが真顔。ステラは「お嬢さんの家」と言われて11歳から住んでいる叔父の家とも言える王宮を思い浮かべ、水の有りそうな部屋を数えようとしたが直ぐに正確な数は出なかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・100は盛りすぎだろう?」
「いえ、200まであるかどうか・・・155までは思いつくのですが」
またもやブレイドルが「ぶはっ」と噴き出す。
どこまでを1棟と数えるかにもよるが、モーセット王国の王宮は各室に1つは手洗い器なり洗面台があり、廊下にも給水所、手洗い場がある。
辺境領はそこまでではなかったが王都は複雑な地形の中にあるからか気温が高くなるのに乾燥しがち。水分補給は必ず行う事とされていて、給水の場の数と同様に王宮は使用人の他に文官や次官も多いことから不浄の数も多かった。
不浄の隣の部屋はパウダールームとなっていたり更衣室にもなっていたり、休憩室。勿論そこにも「水」を使う設備は完備していた。
これでも回廊繋がりの棟は含んでいない数なのでブロク男爵やリヴァイヴァールが驚いている理由が判らない。
「もしや廊下というくくりは1つに?でしたら42は減ると思います」
「42?!そんなに廊下があるのか?」
「方位で言えば16方位、南南西など呼び名を付け、更に第3東南東廊下と番号を振り区別をしておりましたので。失礼を致しました」
「まるで王宮だな」とブロク男爵が呟くともうブレイドルは堪えきれず声をあげて笑いだしてしまう。ステラはそんなブレイドルをギロっと睨むのだが、ブレイドルの笑いは止まらない。
理解が追いつかないブロク男爵はもっと解りやすくと思ったのだろう。問い方を変えた。
「聞き方が悪かった。ではお嬢さんの私室には水場は幾つある?」
「7つで御座います」
「ぶわっは!!ハハハ、ニャハハハ・・・」
即答するステラだが、洗い場に響くのはブレイドルの笑い声だけ。
ブロク男爵とリヴァイヴァールは洗いもまだ、染み抜きもしていないのに表情が抜け落ちてしまった。
やって来たのはティラゾ商会。長い間食べ物カスや紙や布の朽ちたもの、金属があった事で変色してしまったタイルや大理石、木の板に金属板などの清掃用薬剤をトレサリー家は購入していた。
丁度薬剤が無くなりそうだったこともあって、買い付けも行おうと乗っているのは小ぶりな荷馬車。いつもなら気にもならないけれど先日の事があってリヴァイヴァールはステラが隣にいる事に手綱を持つ手も手汗で滑りそうになってしまう。
「なんでこんなに女の子がいるんだ?」
リヴァイヴァールは背の高い垣根の向こうを見ようと踏み台まで持参して中を覗こうとしている令嬢達に驚きつつも小ぶりな荷馬車の隣にステラを乗せてティラゾ商会の門をくぐった。
ティラゾ商会はブロク男爵家の経営する商会。
かの日のくじ引きでステラの従兄ブレイドルを引き当てたのはブロク男爵だった。集まっているご令嬢達の目当てはブレイドル。
見える位置まで倉庫からブレイドルが出てくると「キャー♡」黄色い歓声が飛びまくる。美丈夫は国を超えても美丈夫である事は間違いないようだ。
馬車が倉庫脇に止まると、両手で箱を2段に重ねて運んでいたブレイドルが声を掛けた。
「ステラじゃないか。どうしたんだ?私に用でも?」
ちらりとブレイドルを見たステラは、ムッとした顔をするとブレイドルが慌てて「カルボス男爵令嬢!!」不自然に呼び直す。
「知り合い?・・・ってそうだよな。同じ国だし」
「えぇ。公爵家のご令息ですのでモーセットで存じないという方はいらっしゃらないかと」
「そうじゃなくて、彼、ステラさんを知ってるみたいだけど」
「そ、そうですわね。公爵家ともなれば全ての貴族をご存じなだけかと」
「凄いな。やはり公爵家となるとそのレベルか。真似できないなぁ」
リヴァイヴァールは鈍感なのか。
それともただの・・・いや、やめておこう、危険すぎる。
ステラはその先を考える事を止めた。
「トレサリーのボンボンじゃないか。どうしたんだ?女の子なんか連れちゃってさぁ!彼女か?!春が来たか?!」
「そんなんじゃない!ウチで受け入れている留学生だよ」
「へ?留学生?お前ン家くじ引きした時いたかな?」
「それはどうでもいいよ。ちょっと洗い場貸してくれないかな」
「洗い場?そりゃ構わねぇけど…お前、女の子に洗い物させるのか?」
洗い物という言葉にブレイドルがびっくりして持っていた荷物を落としそうになり、ステラと目が合うが小さく頷くステラに苦笑いをするしかない。
しかし、心配である事は間違いなく手にしていた荷物を卸すとブロク男爵に駆け寄った。
ステラ、リヴァイヴァールを洗い場に案内するブロク男爵について移動をするとまたもやご令嬢の嬌声が聞こえる。黄色い歓声を背に受けながら洗い場に行くとそこにはいろんな石が水に浸けられていたり、積み重なったまま置かれていた。
「練習用あるかな。そうだな…タイルとか大理石に錆がついたような奴がいいかな」
「いきなり高難度だな。経験があるのか?」
リヴァイヴァールはいつもの事で慣れているが、ステラは初心者の中の初心者。もしかするとブラシを持つのも人生初となるかも知れない。
初心者がレベルアップではなく、初心者にステップアップせねばならないレベルだという事を失念していた。
ブロク男爵はステラの手を見て「高難度」と言った。
水仕事など無縁の手。ステラはブロク男爵の視線に気が付くと自分の手の平と手の甲を交互に見るが、経験が無いので何が違うのかも判らない。
「いきなり実践ではなくて、汚れの種類を知ってもらう所からだな。な、お嬢さん。その方が次の段階に入るにも区別ってモンがつくだろう?」
「そうでございますね。種類とは何種類ほど御座いますの?」
「場所によって違うが・・・そうだな入門編という事で・・・お嬢さんの家の中に水を使う部屋は幾つある」
「家の中で御座いますか?・・・そうですね…100は超えております」
「ぶはっ」ブレイドルが思いっきり噴き出す隣でリヴァイヴァールとブロク男爵は目が点になっていた。ステラだけが真顔。ステラは「お嬢さんの家」と言われて11歳から住んでいる叔父の家とも言える王宮を思い浮かべ、水の有りそうな部屋を数えようとしたが直ぐに正確な数は出なかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・100は盛りすぎだろう?」
「いえ、200まであるかどうか・・・155までは思いつくのですが」
またもやブレイドルが「ぶはっ」と噴き出す。
どこまでを1棟と数えるかにもよるが、モーセット王国の王宮は各室に1つは手洗い器なり洗面台があり、廊下にも給水所、手洗い場がある。
辺境領はそこまでではなかったが王都は複雑な地形の中にあるからか気温が高くなるのに乾燥しがち。水分補給は必ず行う事とされていて、給水の場の数と同様に王宮は使用人の他に文官や次官も多いことから不浄の数も多かった。
不浄の隣の部屋はパウダールームとなっていたり更衣室にもなっていたり、休憩室。勿論そこにも「水」を使う設備は完備していた。
これでも回廊繋がりの棟は含んでいない数なのでブロク男爵やリヴァイヴァールが驚いている理由が判らない。
「もしや廊下というくくりは1つに?でしたら42は減ると思います」
「42?!そんなに廊下があるのか?」
「方位で言えば16方位、南南西など呼び名を付け、更に第3東南東廊下と番号を振り区別をしておりましたので。失礼を致しました」
「まるで王宮だな」とブロク男爵が呟くともうブレイドルは堪えきれず声をあげて笑いだしてしまう。ステラはそんなブレイドルをギロっと睨むのだが、ブレイドルの笑いは止まらない。
理解が追いつかないブロク男爵はもっと解りやすくと思ったのだろう。問い方を変えた。
「聞き方が悪かった。ではお嬢さんの私室には水場は幾つある?」
「7つで御座います」
「ぶわっは!!ハハハ、ニャハハハ・・・」
即答するステラだが、洗い場に響くのはブレイドルの笑い声だけ。
ブロク男爵とリヴァイヴァールは洗いもまだ、染み抜きもしていないのに表情が抜け落ちてしまった。
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