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第29話の前に辺境伯一家はかくれんぼ出来ない
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ステラによく似た夫人メリル。
にこにことハンドレーの目の前で微笑んでいるが、隣のシュヴァイツァーが睨みを利かせているのでうっかりと会釈も出来ない。
知らなかったとは言え「ゲス野郎」とまで言ってしまったリヴァイヴァールは可哀想なくらいに身を小さくコンパクトに縮め恐縮していた。
「お父様もお母様も、お兄様もですがこんなに早く来てしまったら何も出来ないではありませんか」
「まぁまぁ。ステラさん。親というのは幾つになっても子供が可愛いし心配なんだよ」
「いいえ。大方の予想は付いています。先ずお父様」
ビクッとシュヴァイツァーが肩を震わせる。
「ここまで来たら帰りにブートレイア王国に足を伸ばし、開発されたばかりの「鋼」で剣を打って貰おうと考えておられますよね」
「はぃ・・・」返事の小さなシュヴァイツァー。
「そして、お母様」
次は母のメリルが「なぁに?」とステラに微笑む。
「美術品の鑑定に託つけて数年前から流行っている固形石鹸を彫刻する工芸家に置物を依頼するおつもりでしょう」
「あら?解った?そうなの。聞いてくれる?」
「聞きません」
「で、でもね?その石鹸、薬草も混ぜ込んで――」
「大事な用件とごちゃ混ぜにするのは良くありません」
「はぃ・・・」ショボンとなるメリル。
「最後にお兄様。どうせ見合いの話が面倒だからとこちらに逃げて来ただけでしょう」
「あ、あのね、ステラちゃん?違うのよ?ツィンは逃げたのではなく――」
「お母様は黙って。逃げたのではない避けたのだとか屁理屈は聞きません」
「だってな?化粧オバケなんだぞ?知ってるか?素肌っぽいファンデーションとかって結局塗ってるだろ?俺は素で勝負してるのに相手は化けてるなんてズルいだろうが!」
「目の数、鼻の数を変えている訳でもあるまいし。馬鹿馬鹿しい」
ハンドレーは思う。女性の化粧はイリュージョン。
それはもう使用前、使用後は別人。兄ちゃんは許してやれと。
しかし、目の前に辺境伯夫妻がいて、次期辺境伯もいる。もうリヴァイヴァールには嘘はつけないし辺境伯は師団を引き連れてやってきているという話もあり、国王や王妃も欺けないだろうとハンドレーは腹を括らねばと姿勢を正したが言い出すきっかけが掴めない。
「師団はどうされたのです」
「後から来る。ここから早馬でブートレイア王国まで18日だ。急いでおり返せば42日後の送迎会の夜会には間に合うだろう?みんなにもその頃に到着するようにと言ってある。な?トレサリー殿」
(話を私に振らないで!!)
シュヴァイツァーの縋るような目。「娘に言ってやってくれ」と眼力で訴えられるが、「貴方が逆らえないのに私が逆らえるはずがない」と声高らかに叫びたいハンドレー。
「兎に角!目立つことはしないこと!ひっそりとしていてください」
(それは無理なんじゃ)
そこにいるだけでオーラが全く違う。きっとかくれんぼをしても一番最初に見つけられるけど「見つけた!」と怖くて鬼役が最後まで言い出せないのがこの家族。
周囲に「いない事してにしてくれ」という徹底した根回しをしていないと・・・いや、それではバレてしまうではないか。
つまり、「ひっそり」なんて無理だという事だ。
娘は強い!とは言うものの泣く子も黙る辺境伯が小さく「はぃ」と返事をするのを目の前で見ると数年後のビッケに叱責される自分を見ているようで居た堪れない。
自分がどんなに人の目を集めてしまうか・・・。自分を見ても美丈夫だと己惚れていない限り言い切れないが言い切る男がいた。ツィンコリドーである。
「俺なら大丈夫だ。ここに来る前にブレイドルの所によって、男爵も快く数日の宿泊を認めてくれた。何の心配もいらないぞ」
「決して屋敷の外に出ないようにお願いします」
「へっ?そりゃ無理だろ?今夜ブレイドルと飲みの約束もしたのに」
「解りました。では販売促進のキャンペーンで使う着ぐるみ ”お掃除大好きシクリッド君” が御座いますので、そちらをお貸しします」
「着ぐるみ?!酒が飲めないじゃないか!」
「ゆるキャラになりきれば飲む必要は御座いません。なんなら話す必要も御座いません」
妹に出掛けるなら着ぐるみを着ろと言われる兄。
隣を歩かないで、友達の前では他人の振りをしてと言われているリヴァイヴァールと意味が違うがいい勝負をしているかも知れない。
お年頃の女の子は難しいのだ。
にこにことハンドレーの目の前で微笑んでいるが、隣のシュヴァイツァーが睨みを利かせているのでうっかりと会釈も出来ない。
知らなかったとは言え「ゲス野郎」とまで言ってしまったリヴァイヴァールは可哀想なくらいに身を小さくコンパクトに縮め恐縮していた。
「お父様もお母様も、お兄様もですがこんなに早く来てしまったら何も出来ないではありませんか」
「まぁまぁ。ステラさん。親というのは幾つになっても子供が可愛いし心配なんだよ」
「いいえ。大方の予想は付いています。先ずお父様」
ビクッとシュヴァイツァーが肩を震わせる。
「ここまで来たら帰りにブートレイア王国に足を伸ばし、開発されたばかりの「鋼」で剣を打って貰おうと考えておられますよね」
「はぃ・・・」返事の小さなシュヴァイツァー。
「そして、お母様」
次は母のメリルが「なぁに?」とステラに微笑む。
「美術品の鑑定に託つけて数年前から流行っている固形石鹸を彫刻する工芸家に置物を依頼するおつもりでしょう」
「あら?解った?そうなの。聞いてくれる?」
「聞きません」
「で、でもね?その石鹸、薬草も混ぜ込んで――」
「大事な用件とごちゃ混ぜにするのは良くありません」
「はぃ・・・」ショボンとなるメリル。
「最後にお兄様。どうせ見合いの話が面倒だからとこちらに逃げて来ただけでしょう」
「あ、あのね、ステラちゃん?違うのよ?ツィンは逃げたのではなく――」
「お母様は黙って。逃げたのではない避けたのだとか屁理屈は聞きません」
「だってな?化粧オバケなんだぞ?知ってるか?素肌っぽいファンデーションとかって結局塗ってるだろ?俺は素で勝負してるのに相手は化けてるなんてズルいだろうが!」
「目の数、鼻の数を変えている訳でもあるまいし。馬鹿馬鹿しい」
ハンドレーは思う。女性の化粧はイリュージョン。
それはもう使用前、使用後は別人。兄ちゃんは許してやれと。
しかし、目の前に辺境伯夫妻がいて、次期辺境伯もいる。もうリヴァイヴァールには嘘はつけないし辺境伯は師団を引き連れてやってきているという話もあり、国王や王妃も欺けないだろうとハンドレーは腹を括らねばと姿勢を正したが言い出すきっかけが掴めない。
「師団はどうされたのです」
「後から来る。ここから早馬でブートレイア王国まで18日だ。急いでおり返せば42日後の送迎会の夜会には間に合うだろう?みんなにもその頃に到着するようにと言ってある。な?トレサリー殿」
(話を私に振らないで!!)
シュヴァイツァーの縋るような目。「娘に言ってやってくれ」と眼力で訴えられるが、「貴方が逆らえないのに私が逆らえるはずがない」と声高らかに叫びたいハンドレー。
「兎に角!目立つことはしないこと!ひっそりとしていてください」
(それは無理なんじゃ)
そこにいるだけでオーラが全く違う。きっとかくれんぼをしても一番最初に見つけられるけど「見つけた!」と怖くて鬼役が最後まで言い出せないのがこの家族。
周囲に「いない事してにしてくれ」という徹底した根回しをしていないと・・・いや、それではバレてしまうではないか。
つまり、「ひっそり」なんて無理だという事だ。
娘は強い!とは言うものの泣く子も黙る辺境伯が小さく「はぃ」と返事をするのを目の前で見ると数年後のビッケに叱責される自分を見ているようで居た堪れない。
自分がどんなに人の目を集めてしまうか・・・。自分を見ても美丈夫だと己惚れていない限り言い切れないが言い切る男がいた。ツィンコリドーである。
「俺なら大丈夫だ。ここに来る前にブレイドルの所によって、男爵も快く数日の宿泊を認めてくれた。何の心配もいらないぞ」
「決して屋敷の外に出ないようにお願いします」
「へっ?そりゃ無理だろ?今夜ブレイドルと飲みの約束もしたのに」
「解りました。では販売促進のキャンペーンで使う着ぐるみ ”お掃除大好きシクリッド君” が御座いますので、そちらをお貸しします」
「着ぐるみ?!酒が飲めないじゃないか!」
「ゆるキャラになりきれば飲む必要は御座いません。なんなら話す必要も御座いません」
妹に出掛けるなら着ぐるみを着ろと言われる兄。
隣を歩かないで、友達の前では他人の振りをしてと言われているリヴァイヴァールと意味が違うがいい勝負をしているかも知れない。
お年頃の女の子は難しいのだ。
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