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第29話 兄が2人、石段で並んで座る
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辺境伯夫妻と次期辺境伯ツィンコリドーがトレサリー家を訪れた。
勢いあまってツィンコリドーに無礼を働いてしまったリヴァイヴァールだったが、その気迫から何かを感じ取ったツィンコリドーは「堅苦しい話は性に合わない」といい出し、リヴァイヴァールに庭を見せてくれと案内を頼んだ。
キョトンとするリヴァイヴァール。
何故ならトレサリー家の庭は目の前に見えている部分しかない。
以前はもっと広かったのだが大きな湯殿を作るために潰してしまったからだ。
「庭と言えるほどの物が無いので・・・」
「なら屋敷の近隣を案内してくれないか?」
「構いませんが・・・面白いものはこれと言って‥」
「観光に来たわけじゃない。髪を隠したいんだが帽子など貸しては貰えまいか」
帽子。これと言ってお洒落な帽子は皆無。頭に被ると言えば先ずはタオルを職人巻きにしてその上に最近開発されたヘルメットという固い素材の頭部保護具。
以前の鉄製からすればかなり軽くはなったが、帽子ではない。
ふと目についたのはビッケがステラとお揃いで揃えた「メザシDE目出し帽」2つあるが・・・正直被って歩けば間違いなく注目の的になる。
「何もないなら仕方があるまい。まぁ、我が家もバイザーなど甲冑になるから似たようなものだ」
(それはかなり違うかと)リヴァイヴァールは声にならない声を心で叫ぶ。
作業用のヘルメットをかぶって昼食を買いには行けるが、甲冑のバイザーを被ったままだとおそらく誰も昼食を売ってくれないと思ってしまう。
「表の通りは人が多いので、裏にある堀に行きましょう」
「堀があるのか?」
「造ったんです。湯殿が大きいので排水をするのに普通の排水溝だと溢れてしまうので」
裏口から出た兄2人は堀の脇にある石の階段に並んで腰を下ろした。
「妹からは手紙も来ないので報告書なんだが、いつも妹が世話になっていると」
「そんな。世話だなんて。コール家から突然我が家になってしまって申し訳ないと思っています」
「コール家ね。君の婚約者の家なんだって?」
「えぇ…恥ずかしながら」
「婚約者云々は問わない。こちらもただ傍観していた訳じゃないから第2王子の報告書には決まって名前が挙がっているし、どうでもいいんだが、しがらみを抜きにして君はステラリアをどう思う?」
「そうですね。真面目ですかね。後は・・・自分なりに模索してやりやすい方法を探してるかな」
家事一般は壊滅的だが、それでも学ぼうとしている姿勢は伺えるし、見積もりの書き取りなどはこうすればいいんじゃないかと直ぐに一覧表にかき出せる書式を作ってくれた。
リヴァイヴァールは個人的な気持ちは別として、留学生としてのステラを評価した。
「あの子は・・・なんていうか・・・叔父上は子が出来なかったんだ。正確には義叔母上が若い頃に大病を患い、子は産めないと言われたが、叔父上はそれでも結婚をした。ステラリアは揉め事が起こる前に辺境を私に、自身は国王になるために11歳で親元を離れて王都に向かった。泣き言も言わないんだよなぁ」
「泣き言・・・は聞いた事が無いですね」
「真面目過ぎるんだ。そして・・・家族と叔父夫婦以外でステラリアを叱る者がいない。そしてもうすぐ・・・体は守って貰えるが心を守ってくれる者がいなくなる。女王になるという事はそう言う事だ」
ツィンコリドーはリヴァイヴァールの顔をじぃぃっと見て…。
【今なら先着1名。空きがあるんだが?】
「ぼ、僕は無理です。あんなでも婚約者はいますし・・・結婚したら家を出るんです。僕には何もありませんから」
「あるじゃないか」
「ありませんよ。金も身分も失う身です」
「でも心があるだろう?」
同性だと判っていても微笑まれると頬が紅潮してしまうが、リヴァイヴァールは直ぐに返事が返せなかった。どうしても考えてしまうのは家の事、そしてアリスとの婚約。
そんなリヴァイヴァールを見透かしてか、ツィンコリドーは「返事は急がない」と石段から立ち上がると「ブレイドルと約束があるんだ」とまたトレサリー家まで歩き始めた。
慌ててリヴァイヴァールはツィンコリドーを追って最初は小走りに、追いつくと隣を歩いた。
宿を取っているのか、それとも本当にブートレイア王国に向かったのか。
リヴァイヴァールが家に戻るとシュヴァイツァーもメリルももう家にはいなかった。
返事は急がないと言われても期日はある。おそらくはステラが帰国をするまでの期間。
リヴァイヴァールは忙しさで考える時間を作らないよう朝から夜遅くまで幾つかの現場を回って気忙しく過ごした。
ステラと顔を合わせることが無いように起きてくる前にはもう出掛けるし、寝たかな?と部屋の灯りを確認して玄関から帰宅する。
良くないとは判っていても顔を合わせると居心地が良いだろう思う方に流されそうで、怖かった。ステラほどの力があれば国王だって首を縦に振るしかないだろうが、そこに甘えるのは違うと気持ちを抑えつけた。
「お兄ちゃん。最近逃げてない?」
夜中に1人食事をしているとビッケが向かいの席に座ってリヴァイヴァールに問う。
「逃げる?何が」
「最近ずっと朝は早いし、帰りは遅いし。変だよ」
「仕事だから仕方ないだろう」
「しなくていい事までしてるよね。父さんが数軒先の発注まで終わっててびっくりしてた」
「慌ててやるよりいいだろう。それだけだ」
「後悔するよ?絶対」
「後悔?なんの後悔だよ。品も足りてるし問題はな――」
「仕事じゃなくて!解ってるんでしょ?そういうのホントにお兄ちゃんらしくない」
「僕らしいってなんだよ。勝手に決めつけるな」
「どうでもいいけど、3日後のエスコートはお兄ちゃんだからね」
「エスコート?」
すっかり忘れていたが、家にいる時間を少なくしようとしているうちに来週にはもうステラは留学期間が終わってしまう。3日後は留学生に対しての送別会を王家が主催して開く夜会だった。
ステイ先の家族が留学生をエスコートして入場するため、その時ばかりは既婚者であっても婚約者がいても優先されるのは留学生。
「父さんがエスコートすれば良いじゃないか」
「父さん、スーツがね…中年太りでウエストが合わないんだって。お直しに出したら10日はかかるって言われたんだって。だからギャザー付きにしろって言ったのに。ねぇ。ステラさん」
「えっ?!」
ビッケに謀られた。
ビッケだけかと思っていたらいつの間にかステラが食堂の入り口に立ってリヴァイヴァールを見ていた。
★~★
ラストスパートで御座います(*^-^*)
ここの話が21時10分、次は21時20分、そして21時40分、21時50分!
最終話は22時22分で御座います(#^.^#)v
勢いあまってツィンコリドーに無礼を働いてしまったリヴァイヴァールだったが、その気迫から何かを感じ取ったツィンコリドーは「堅苦しい話は性に合わない」といい出し、リヴァイヴァールに庭を見せてくれと案内を頼んだ。
キョトンとするリヴァイヴァール。
何故ならトレサリー家の庭は目の前に見えている部分しかない。
以前はもっと広かったのだが大きな湯殿を作るために潰してしまったからだ。
「庭と言えるほどの物が無いので・・・」
「なら屋敷の近隣を案内してくれないか?」
「構いませんが・・・面白いものはこれと言って‥」
「観光に来たわけじゃない。髪を隠したいんだが帽子など貸しては貰えまいか」
帽子。これと言ってお洒落な帽子は皆無。頭に被ると言えば先ずはタオルを職人巻きにしてその上に最近開発されたヘルメットという固い素材の頭部保護具。
以前の鉄製からすればかなり軽くはなったが、帽子ではない。
ふと目についたのはビッケがステラとお揃いで揃えた「メザシDE目出し帽」2つあるが・・・正直被って歩けば間違いなく注目の的になる。
「何もないなら仕方があるまい。まぁ、我が家もバイザーなど甲冑になるから似たようなものだ」
(それはかなり違うかと)リヴァイヴァールは声にならない声を心で叫ぶ。
作業用のヘルメットをかぶって昼食を買いには行けるが、甲冑のバイザーを被ったままだとおそらく誰も昼食を売ってくれないと思ってしまう。
「表の通りは人が多いので、裏にある堀に行きましょう」
「堀があるのか?」
「造ったんです。湯殿が大きいので排水をするのに普通の排水溝だと溢れてしまうので」
裏口から出た兄2人は堀の脇にある石の階段に並んで腰を下ろした。
「妹からは手紙も来ないので報告書なんだが、いつも妹が世話になっていると」
「そんな。世話だなんて。コール家から突然我が家になってしまって申し訳ないと思っています」
「コール家ね。君の婚約者の家なんだって?」
「えぇ…恥ずかしながら」
「婚約者云々は問わない。こちらもただ傍観していた訳じゃないから第2王子の報告書には決まって名前が挙がっているし、どうでもいいんだが、しがらみを抜きにして君はステラリアをどう思う?」
「そうですね。真面目ですかね。後は・・・自分なりに模索してやりやすい方法を探してるかな」
家事一般は壊滅的だが、それでも学ぼうとしている姿勢は伺えるし、見積もりの書き取りなどはこうすればいいんじゃないかと直ぐに一覧表にかき出せる書式を作ってくれた。
リヴァイヴァールは個人的な気持ちは別として、留学生としてのステラを評価した。
「あの子は・・・なんていうか・・・叔父上は子が出来なかったんだ。正確には義叔母上が若い頃に大病を患い、子は産めないと言われたが、叔父上はそれでも結婚をした。ステラリアは揉め事が起こる前に辺境を私に、自身は国王になるために11歳で親元を離れて王都に向かった。泣き言も言わないんだよなぁ」
「泣き言・・・は聞いた事が無いですね」
「真面目過ぎるんだ。そして・・・家族と叔父夫婦以外でステラリアを叱る者がいない。そしてもうすぐ・・・体は守って貰えるが心を守ってくれる者がいなくなる。女王になるという事はそう言う事だ」
ツィンコリドーはリヴァイヴァールの顔をじぃぃっと見て…。
【今なら先着1名。空きがあるんだが?】
「ぼ、僕は無理です。あんなでも婚約者はいますし・・・結婚したら家を出るんです。僕には何もありませんから」
「あるじゃないか」
「ありませんよ。金も身分も失う身です」
「でも心があるだろう?」
同性だと判っていても微笑まれると頬が紅潮してしまうが、リヴァイヴァールは直ぐに返事が返せなかった。どうしても考えてしまうのは家の事、そしてアリスとの婚約。
そんなリヴァイヴァールを見透かしてか、ツィンコリドーは「返事は急がない」と石段から立ち上がると「ブレイドルと約束があるんだ」とまたトレサリー家まで歩き始めた。
慌ててリヴァイヴァールはツィンコリドーを追って最初は小走りに、追いつくと隣を歩いた。
宿を取っているのか、それとも本当にブートレイア王国に向かったのか。
リヴァイヴァールが家に戻るとシュヴァイツァーもメリルももう家にはいなかった。
返事は急がないと言われても期日はある。おそらくはステラが帰国をするまでの期間。
リヴァイヴァールは忙しさで考える時間を作らないよう朝から夜遅くまで幾つかの現場を回って気忙しく過ごした。
ステラと顔を合わせることが無いように起きてくる前にはもう出掛けるし、寝たかな?と部屋の灯りを確認して玄関から帰宅する。
良くないとは判っていても顔を合わせると居心地が良いだろう思う方に流されそうで、怖かった。ステラほどの力があれば国王だって首を縦に振るしかないだろうが、そこに甘えるのは違うと気持ちを抑えつけた。
「お兄ちゃん。最近逃げてない?」
夜中に1人食事をしているとビッケが向かいの席に座ってリヴァイヴァールに問う。
「逃げる?何が」
「最近ずっと朝は早いし、帰りは遅いし。変だよ」
「仕事だから仕方ないだろう」
「しなくていい事までしてるよね。父さんが数軒先の発注まで終わっててびっくりしてた」
「慌ててやるよりいいだろう。それだけだ」
「後悔するよ?絶対」
「後悔?なんの後悔だよ。品も足りてるし問題はな――」
「仕事じゃなくて!解ってるんでしょ?そういうのホントにお兄ちゃんらしくない」
「僕らしいってなんだよ。勝手に決めつけるな」
「どうでもいいけど、3日後のエスコートはお兄ちゃんだからね」
「エスコート?」
すっかり忘れていたが、家にいる時間を少なくしようとしているうちに来週にはもうステラは留学期間が終わってしまう。3日後は留学生に対しての送別会を王家が主催して開く夜会だった。
ステイ先の家族が留学生をエスコートして入場するため、その時ばかりは既婚者であっても婚約者がいても優先されるのは留学生。
「父さんがエスコートすれば良いじゃないか」
「父さん、スーツがね…中年太りでウエストが合わないんだって。お直しに出したら10日はかかるって言われたんだって。だからギャザー付きにしろって言ったのに。ねぇ。ステラさん」
「えっ?!」
ビッケに謀られた。
ビッケだけかと思っていたらいつの間にかステラが食堂の入り口に立ってリヴァイヴァールを見ていた。
★~★
ラストスパートで御座います(*^-^*)
ここの話が21時10分、次は21時20分、そして21時40分、21時50分!
最終話は22時22分で御座います(#^.^#)v
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