ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第30-1話   別れの夜会③-①

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迎えた送別会の日。

ステラはいつもの瓶底メガネにビッケから借りたウィッグ。
ドレスもドレスというよりはワンピース。目を引くような髪飾りも何もない。

わざわざこの日の為に誂える事は無いし、国からドレス一式を持って来るとなると保管も手間になる。ステイ先によってはドレスを貸してくれる家もあるが、ちょっと他所行きの装いでもこの日は何も言われない。

招待されている貴族にはドレスコードはあっても主役の留学生にはないので、普段着のラフな服装でも構わないのだ。

トレサリー家で一番豪華な馬車に揺られるのはステラとリヴァイヴァール。
見積もりに行くのと違うのは馬車が荷馬車ではない事と、御者が別にいること。

静かな馬車だが、行き先は違ってもいつものようにヴァイヴァールはステラの隣に腰掛けた。

★~★

ビッケの話に気を取られ、ステラがいたことに気が付かなかったリヴァイヴァール。ビッケは「ちゃんと伝えるんだよ!ねっ?!」小声でリヴァイヴァールの背を押した。

「こんな時間まで大変ですわね」
「あ、うん…まぁ」
「間もなく留学期間が終わります。わたくしは国に帰りますがこの半年は有意義な時間でした」
「楽しかった・・・かな?」
「えぇ。最初の現場で叱られた時は驚きましたが・・・国にいたら経験出来なかった事ばかりです。感謝いたします」

リヴァイヴァールの目の前にあるトレーの食材はもうない。
それでもリヴァイヴァールはフォークとナイフを置けなかった。置いてしまうともう終わりのような気がして色んな思いが頭の中をぐるぐるするが何から言えばいいかも判らないし選べない。

やっと口から出た言葉は・・・。

「女王になる?」だった。ステラは「はい」と短く答えた。

「リヴァイヴァール様が良ければ婿に来て頂いても――」
「行かないよ」
「左様でございますか・・・」

沈黙が流れたが、リヴァイヴァールは息を吐いてやっとフォークとナイフを置いた。

「家を・・・ビッケが継いでもいいと言ってくれたんだ。僕も‥もうすぐ役目を終える。貴族だから愛とか、好きとか‥関係ない結婚というのは判ってる。それは多分‥君もだと思うけど、こんな生活が長いからかな。感情が無いって僕には耐えられる自信が無いんだ。耐えられたとしても同情で結婚とか決めちゃいけないと思うんだ」

「同情では御座いません」

「そっか。ありがとう。その言葉だけで僕は・・・」

この先を生きていけると言おうとしたが言えなかった。そんな言葉はステラの枷になってしまう。自分が言われたらずっと引きずってしまうだろうと思ったからである。

「送別会、ダンスは下手なんだけど頑張るよ。エスコートも務めさせてくれるかな」

「喜んで」

ビッケはリヴァイヴァールにも幸せになる権利はあるし、その為なら融資した金の返済を諦めていいといったが、やはりあるとないは違う。ビッケが今後、後を継ぐのなら資金は大いに越した事はない。

その夜は静かに別れた。


★~★

そして馬車の中、2人は何を話すでも無く王宮に向かった。

「もうすぐ着くよ」
「承知致しました」
「緊張してる?顔色が・・・」
「そうですね。少し緊張をしているかも知れません」

ドレスではないので手袋もしていない。馬車を降りるのを手伝うのに差し出した手に載せられたステラの手はひんやりと冷たかった。

式典の会場までも腕を組んでエスコートをするリヴァイヴァールだったが、入り口まであと少しの所で足を止めた。

ニヤニヤといやらし気な笑みを浮かべたアリスが待ち人来たるとばかりに廊下の中央に出てきたのだ。


「婚約者がいるというのに・・・不貞行為かしら?同じ屋根の下で生活してたら・・・ヤっちゃった?」
「そこかしこで盛る君と一緒にしないでくれ」
「リヴァイヴァール?アタシにそんな口、叩いていいと思ってる?」
「君こそ、そろそろ身の振り方を考えた方が良い。誰だって年を取る。金も降ってくる訳じゃない」
「聞いた風な事言わないで。アタシの人生はアタシのもの。アンタはアタシが優雅に暮らせるよう稼げばいいだけよ」

アリスは数歩歩み寄って来るが、リヴァイヴァールはステラを背に回し盾になった。

「子爵家の成金風情がいっぱしのナイト気取り?似合ってないのよ。汗臭いアンタには!」

手にした扇を振り被ったアリスだったが、その扇が振り下ろされることはなかった。

「なっ!なに?なんなの?アタシがコール侯爵家の人間だと知ってのことっ?」

リヴァイヴァールにも訳が判らない。あっという間に騎士に囲まれたアリスは腕を後ろに捻り上げられ、その場に膝をつかされた。

「アタシにこんな事して!アドリアン様に言うわよ!その場で首が飛ぶわよ!」

喚くアリスだったが騎士の力が弱まる事はない。

「離しなさいよ!不敬だという事が判らないの!?アタシはアドリアン様の寵愛を受けているのよ?ただじゃ済まないわよ!離せと言ってるでしょッ!!」

そのまま連行されて行ったのだが、呆気にとられるリヴァイヴァールの肩を近衛兵がトントンと叩いた。まさか自分も捕縛される?と思ったのだが、「こちらへ」と案内されたのは式典会場を隣に見る棟で大きな控室だった。

「では、わたくしからリヴァイヴァール様、そしてトレサリー家に恩をお返し致します」
「ふぇっ?どういうこと?ちょ、ちょ・・・うわ!なんで脱がせっ!ウワァァ!!」

ステラの声にワッと侍女たちがリヴァイヴァールの服を脱がせ、スラックスもあっという間にベルトが外されて引き下ろされる。いったい何がどうなっているのか。まさか素っ裸で会場に放り込まれる?!と思ったら生まれて一度も着た事が無いスベスベでスルスルっと手が世界の果てまでくぐり抜けそうなシャツを着せられ、皺ひとつないのに何故かリヴァイヴァールの体にフィットするスラックスが穿かされた。

「お座りくださいませ」の声に椅子に座らされるとこれまた物心ついて人生初。他人に靴下まで履かせてもらい、踵でも踏んだらどうしよう?!と焦る本革の靴も履かされた。

いい香りのするちょっとひんやりした物が髪につけられると、丁寧に髪も梳かれてセットされていく。

侍女が全てリヴァイヴァールから離れた後、姿見の鏡に映る男を見て「誰?」と声が出た。

「用意は出来たかしら?」ステラの声がして天の助け!と思ったのだが、目の前に現れたのは・・・。

「天女?女神?」
「ステラです」
「あ、うん、そうなんだけど・・・髪、いいのかい?」
「えぇ。勿論」

男性より女性の方が支度に時間がかかると聞いた事があったが、ステラはさっきまでとは別人。まさしく「王女」の装いだった。

ウィッグの中にしまい込んでいた銀髪も癖なく真っ直ぐ。野暮ったいメイクは落とされて肌が透けるような薄い化粧。ドレスは短いレースのトレーンがついたモーセット王国の女性王族が着用するドレスだった。

「さぁ、次は仇をお返しいたしましょう。エスコートお願いしますわ」

とは言われたものの、入場口で名を呼ばれ扉が開くと全員が一斉に注目をする。

(こっ!こんな経験ないんですけどー!)

リヴァイヴァールはステラにエスコートされて入場する羽目になったのだった。
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