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第08話 従兄のハサウェイ
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翌日、マッタリとした1日はサリアの荒んだ心を癒す時間となった。
「ルダ…二度寝って目覚めた時の気怠さが最高だわ」
「お嬢様。世の中の二度寝は危険と言われているんですよ?気怠さが最高なんて言うのはお嬢様くらいです」
サリアは思う。今までの生活が異常だったのだ。
朝は一番鶏の声に目覚めてパンを齧りながら昼に父が行う業務が押印で済むように執務。
こうしておかないと、中身をよく見もしないでポンポン印を押すものだから過去には詐欺に引っ掛かりかけて土地も屋敷も失いかけた事がある。
「あの日は家令は歯痛、執事がロングな有給休暇中だったわね」
「大変で御座いましたよ。架空の土地開発に危うく全財産を捨てるところでしたものね」
シリカ伯爵は表紙とその次を見てハンコを押してしまう。
最悪なのは3つ目、4つ目になると押印をする場所だけ探して中身を見ないのだ。
こうなってしまったのはもう亡くなったが祖母が唯一の男児と言う事で父を甘やかして育てた結果だ。
それでいて日和見。もう救いどころがない。
実家が子爵家で商家を営む母とよくぞ恋に落ちてくれたものだ。
余りの父親の出来なさっぷりに神様は足らない所を補うような縁を結ぶものだと感心したくらいだ。
『貴方はそこでお茶でも飲んでなさい!』と母が父を躾けてくれたのはいいが、母も4年前に流行病で天に召されて役目をサリアが引き継いだ。
この執務を終えた後はデリックに呼ばれていれば出掛けたし、そうではない日は公爵家に出向いて執務の手伝いをしながら教育。目が回るほど忙しかったのだ。
「マークに家を継がせるまでは私が頑張らないと!」
「坊ちゃまも今年は学院もご卒業ですしね」
サリアには弟が1人いて名をマクロンと言う。
全寮制の学院に通わせたのは父の二の舞を踏まないため。
授業料はお高いが、高位貴族の次期当主たちが通う学院は学力が足らなければ即退学になる。
シリカ伯爵やサリアは学園だったので、校則もユルいし学費を払えば留年もない。退学になるのは犯罪を犯し刑が確定した時と、授業料が払えなくなった時。
学歴を金で買うのが学園なのだ。
サリアも学院に行きたかったが、入学当時祖母が存命で「女に学びは不要」と頑固で行かせてもらえなかった。
二度寝なんて夢のまた夢だったのに、初日から二度寝が出来るなんて!
今日は公爵家で執務を手伝う予定だったので今頃大変だろうなと思うけれど、どうでも良かった。
――婚約は無くなるし、他家の事なんか知ぃ~らない――
時計を見ればもうすぐお昼の11時。
4時半に目が覚めて、二度寝をしようと思い30分ほど悶えた時間すら勿体ない。
遅い朝食と早めの昼食を取っていると来客があった。
「誰?約束なんか無かったと思うけど」
「ベロア家のハサウェイ様で御座います」
「ゲェェ…ややこしいのが来たわね」
嫌いではないのだがサリアはハサウェイは苦手だった。
サリアの中でハサウェイはデリックとはまた違うタイプの面倒くささを持っている男。
サリアの父とハサウェイの母親が兄妹の関係だから付き合うけれどそうじゃなかったら知り合いにもなりたくない。
ハサウェイと結婚する人は大変だろうな、結婚が文字通り墓場だと思うので心からの哀悼を捧げたいくらい。
「俺の名前を聞いてゲェェとか。なかなに酷いな」
「あ、あらハサウェイ。こんな時間に何の御用?」
ハサウェイは勝手知ったる何とやらで使用人がサリアに知らせに行くすぐ後ろをついてきたようでツカツカと歩いてサリアの隣の椅子をクルっと逆向けると背凭れに腕を乗せてドカリと座った。
「何の用?」
「伯父上が昨日家に来て母上に愚痴ってたからな」
「へぇ。慰めにでも来てくれたの?」
「協議書にサインさせたんだってな。よくアイツがサインしたなと思ってさ」
「それは~、ほら、私って直さなきゃいけない所だらけだし?向こうだって直して欲しいって思ったからでしょ?で?何か用?…あっ!私のイチゴぉぉ!」
ハサウェイはテーブルに並べられていたデザートのイチゴをぱくりと横取りして頬張った。
「言ってみろよ。本当は何か裏があるんだろ?」
「ないわよ」
「差し詰め…協議書の内容が出来ませんでした、無理ですとかって慰謝料無しで逃げ切ろう。ってとこか?」
――ぐっ。なんで解るのよ。ホント。嫌なやつっ!――
ハサウェイはなにか1つ引っ掛かりを感じると納得するまで追求してくるので嘘を吐くにも限界がある。
適当にあしらっておきたいけれど…。
――ん?もしかして仲間に引き入れたほうが良いかも?――
1人でうーん。考えているとハサウェイは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「サリー。手伝ってやろうか?」
「フェッ?」
「イチゴ食ったからな。先払いって事で手伝ってやるよ」
「何もしなくていいってば!」
「そう言うなよ。こんな面白い見世物。特等席で観てナンボだろ?」
――ちっ。そういうこと。この野次馬男!――
面白がっているだけで済むと思うな?サリアはハサウェイを思いっきり利用する事を思いついた。
「ルダ…二度寝って目覚めた時の気怠さが最高だわ」
「お嬢様。世の中の二度寝は危険と言われているんですよ?気怠さが最高なんて言うのはお嬢様くらいです」
サリアは思う。今までの生活が異常だったのだ。
朝は一番鶏の声に目覚めてパンを齧りながら昼に父が行う業務が押印で済むように執務。
こうしておかないと、中身をよく見もしないでポンポン印を押すものだから過去には詐欺に引っ掛かりかけて土地も屋敷も失いかけた事がある。
「あの日は家令は歯痛、執事がロングな有給休暇中だったわね」
「大変で御座いましたよ。架空の土地開発に危うく全財産を捨てるところでしたものね」
シリカ伯爵は表紙とその次を見てハンコを押してしまう。
最悪なのは3つ目、4つ目になると押印をする場所だけ探して中身を見ないのだ。
こうなってしまったのはもう亡くなったが祖母が唯一の男児と言う事で父を甘やかして育てた結果だ。
それでいて日和見。もう救いどころがない。
実家が子爵家で商家を営む母とよくぞ恋に落ちてくれたものだ。
余りの父親の出来なさっぷりに神様は足らない所を補うような縁を結ぶものだと感心したくらいだ。
『貴方はそこでお茶でも飲んでなさい!』と母が父を躾けてくれたのはいいが、母も4年前に流行病で天に召されて役目をサリアが引き継いだ。
この執務を終えた後はデリックに呼ばれていれば出掛けたし、そうではない日は公爵家に出向いて執務の手伝いをしながら教育。目が回るほど忙しかったのだ。
「マークに家を継がせるまでは私が頑張らないと!」
「坊ちゃまも今年は学院もご卒業ですしね」
サリアには弟が1人いて名をマクロンと言う。
全寮制の学院に通わせたのは父の二の舞を踏まないため。
授業料はお高いが、高位貴族の次期当主たちが通う学院は学力が足らなければ即退学になる。
シリカ伯爵やサリアは学園だったので、校則もユルいし学費を払えば留年もない。退学になるのは犯罪を犯し刑が確定した時と、授業料が払えなくなった時。
学歴を金で買うのが学園なのだ。
サリアも学院に行きたかったが、入学当時祖母が存命で「女に学びは不要」と頑固で行かせてもらえなかった。
二度寝なんて夢のまた夢だったのに、初日から二度寝が出来るなんて!
今日は公爵家で執務を手伝う予定だったので今頃大変だろうなと思うけれど、どうでも良かった。
――婚約は無くなるし、他家の事なんか知ぃ~らない――
時計を見ればもうすぐお昼の11時。
4時半に目が覚めて、二度寝をしようと思い30分ほど悶えた時間すら勿体ない。
遅い朝食と早めの昼食を取っていると来客があった。
「誰?約束なんか無かったと思うけど」
「ベロア家のハサウェイ様で御座います」
「ゲェェ…ややこしいのが来たわね」
嫌いではないのだがサリアはハサウェイは苦手だった。
サリアの中でハサウェイはデリックとはまた違うタイプの面倒くささを持っている男。
サリアの父とハサウェイの母親が兄妹の関係だから付き合うけれどそうじゃなかったら知り合いにもなりたくない。
ハサウェイと結婚する人は大変だろうな、結婚が文字通り墓場だと思うので心からの哀悼を捧げたいくらい。
「俺の名前を聞いてゲェェとか。なかなに酷いな」
「あ、あらハサウェイ。こんな時間に何の御用?」
ハサウェイは勝手知ったる何とやらで使用人がサリアに知らせに行くすぐ後ろをついてきたようでツカツカと歩いてサリアの隣の椅子をクルっと逆向けると背凭れに腕を乗せてドカリと座った。
「何の用?」
「伯父上が昨日家に来て母上に愚痴ってたからな」
「へぇ。慰めにでも来てくれたの?」
「協議書にサインさせたんだってな。よくアイツがサインしたなと思ってさ」
「それは~、ほら、私って直さなきゃいけない所だらけだし?向こうだって直して欲しいって思ったからでしょ?で?何か用?…あっ!私のイチゴぉぉ!」
ハサウェイはテーブルに並べられていたデザートのイチゴをぱくりと横取りして頬張った。
「言ってみろよ。本当は何か裏があるんだろ?」
「ないわよ」
「差し詰め…協議書の内容が出来ませんでした、無理ですとかって慰謝料無しで逃げ切ろう。ってとこか?」
――ぐっ。なんで解るのよ。ホント。嫌なやつっ!――
ハサウェイはなにか1つ引っ掛かりを感じると納得するまで追求してくるので嘘を吐くにも限界がある。
適当にあしらっておきたいけれど…。
――ん?もしかして仲間に引き入れたほうが良いかも?――
1人でうーん。考えているとハサウェイは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「サリー。手伝ってやろうか?」
「フェッ?」
「イチゴ食ったからな。先払いって事で手伝ってやるよ」
「何もしなくていいってば!」
「そう言うなよ。こんな面白い見世物。特等席で観てナンボだろ?」
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