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第09話 お誘いはお断り
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ハサウェイが頼んでもいない助っ人になって1週間後。
自堕落に過ごすサリアの元にアルサール公爵家から手紙が届いた。
差出人はデリックで内容はデートの誘いだ。
「遠出をしようだぁ?‥‥近場でも嫌なんだけど。目を開けたまま寝てるとしか思えない戯言ね」
「あ、あの…返事を持ち帰るようにと言われておりまして」
「返事?じゃぁ…行けないと伝えてくださる?」
「行けない?あの、そうではなくてですね」
「あ~。そういう…ふぅん♡」
サリアはもう一度穴が開くほどに届いた先触れの文字を見る。
【軽くつまめるものを持って行ってピクニック風な食事にしよう】
と、書かれてある。
実は屋外でピクニック風に昼食をとる遠出のデートは初めてではない。
これで2回目になる。
前回は…。
馬車で郊外に出掛けるぞ。と決定事項を提案っぽく言われた時にサリアはデリックに教えた。
『あの区域は飲食店も少ないですし、軽く食べられるものを持って行った方が良いです』
『荷物にもなるのに要らないだろう』
『ですが行きで2時間、帰りで2時間。お腹が空くと思います』
『要らないと言ってるだろ。途中で何か買えば良いんだ』
『リック。怒らないで。きっと私が軽く抓めるものですら作れないのかいけないの。そんな事も出来ない、大して地理も解らない癖に遠い場所を選んだりするなって言ってくださっているのよ。ね?』
――ね?じゃねぇしッ。この阿婆擦れ――
おっとっと。
心の声が飛び出すところだったがサリアは飲み込んだ。
デリックとレーナがこうしようと決めたのならそれで決定なのだからサリアには「行かない」という選択肢は最初から与えられて無かったし、結果的に不要となっても様々な想定をした荷物も用意せねばならなかった。
それがデリックとレーナが言う ”先回りして気を配る” と言う事。
これはサリアの為を思ってわざわざ組んだ実地研修のようなものだと言われたのだ。
サリアは馬車も用意し、馬車の屋根には食料の他にテント道具や医療品など色んなものを積み込んだ。馬車の見た目は気軽な遠出ではなく、昼なのに夜逃げ状態。
馬車は目的地には着いたけれど、行きに2時間。滞在時間ゼロ。帰りに2時間。馬車から降りることなく折り返しという遠出の意味は?と問いたくなる時間の無駄使いに終わった。
何故なら行きの道中デリックとレーナは2人にしか解らない話で盛り上がっていたが、1時間半も話せばネタ切れになったのか静かになった途端にレーナが馬車酔い。
『ごめんなさい。私、馬車は酔っちゃうほうなの』
――解ってたら乗るな、来るな、喋るな――
心で思っただけで声にはせず、「そう。大変ね」と笑顔で返したのだが変なスイッチが入ってしまったらしい。
『レーナ。可哀想に。サリア!遠出なんかレーナの体調を考えたら無理だと思わなかったのか?』
『リック。サリアを叱らないで。私が悪いの。体が弱いのに一緒に行くかって聞かれてその気になっちゃったから』
――誘ったのそっちでしょうに!何時の間に私に誘われた事に?――
帰りは具合が悪いとレーナはグスグス半泣き。
『馬車酔いしちゃうの解ってるのに。サリア、私をここに置いてリックと楽しんできて。1人ぼっちは慣れているしこれ以上リックに甘えちゃうとサリアも気分悪いでしょう?』
――アンタを見てる方が気分悪いわ――
そこまで言うなら期待に応えて走る馬車からレーナを蹴り落してやろうかと思ったがやめた。
デリックと2人きりになる方がもっと気分が悪くなりそうだったからである。
馬車酔いするらしいが週に4回デリックと買い物に行っている事は知っている。
言葉は悪いが弱いのは体ではなくアタ…この先は自主規制をしたサリア。
これに合計4時間付き合ったサリアは馬車にしか乗ってないのに疲労困憊だった。
そんな事もあった前回の馬車に揺られただけのお出かけ。
行きたいなんてこれっポッチも思わない。
アルサール公爵家の従者は返事を持ち帰るようにと言われているのはサリアの返事なのだが、通常とは意味合いが逆。
返事は行くか行かないかではなく、行くが大前提、いや決定なので遠出をするための馬車や護衛の手配を済ませた返事を持ち帰れという意味だ。
――なら、先ず順番を正さないといけないわよね?――
返事を持ち帰らねばならない従者の肩をサリアはポンポン。優しく撫でるように叩いた。
ビッと両手の人差し指を立てると交互にクイクイ。従者に向かって指先を動かした。
「な、なんでしょう?」
「協議書項目11。”返事は順序を間違うな” でしたわ。なので…行・か・な・い。と伝えてくださる?」
現在最強のワードである協議書を出されれば従者も聞いてこいと言われた返事でなくても下がるしかない。
「し、承知いたしました」
サリアの返事を持って従者はアルサール公爵家に戻って行ったのだが、夕方になってデリックがやってきた。
自堕落に過ごすサリアの元にアルサール公爵家から手紙が届いた。
差出人はデリックで内容はデートの誘いだ。
「遠出をしようだぁ?‥‥近場でも嫌なんだけど。目を開けたまま寝てるとしか思えない戯言ね」
「あ、あの…返事を持ち帰るようにと言われておりまして」
「返事?じゃぁ…行けないと伝えてくださる?」
「行けない?あの、そうではなくてですね」
「あ~。そういう…ふぅん♡」
サリアはもう一度穴が開くほどに届いた先触れの文字を見る。
【軽くつまめるものを持って行ってピクニック風な食事にしよう】
と、書かれてある。
実は屋外でピクニック風に昼食をとる遠出のデートは初めてではない。
これで2回目になる。
前回は…。
馬車で郊外に出掛けるぞ。と決定事項を提案っぽく言われた時にサリアはデリックに教えた。
『あの区域は飲食店も少ないですし、軽く食べられるものを持って行った方が良いです』
『荷物にもなるのに要らないだろう』
『ですが行きで2時間、帰りで2時間。お腹が空くと思います』
『要らないと言ってるだろ。途中で何か買えば良いんだ』
『リック。怒らないで。きっと私が軽く抓めるものですら作れないのかいけないの。そんな事も出来ない、大して地理も解らない癖に遠い場所を選んだりするなって言ってくださっているのよ。ね?』
――ね?じゃねぇしッ。この阿婆擦れ――
おっとっと。
心の声が飛び出すところだったがサリアは飲み込んだ。
デリックとレーナがこうしようと決めたのならそれで決定なのだからサリアには「行かない」という選択肢は最初から与えられて無かったし、結果的に不要となっても様々な想定をした荷物も用意せねばならなかった。
それがデリックとレーナが言う ”先回りして気を配る” と言う事。
これはサリアの為を思ってわざわざ組んだ実地研修のようなものだと言われたのだ。
サリアは馬車も用意し、馬車の屋根には食料の他にテント道具や医療品など色んなものを積み込んだ。馬車の見た目は気軽な遠出ではなく、昼なのに夜逃げ状態。
馬車は目的地には着いたけれど、行きに2時間。滞在時間ゼロ。帰りに2時間。馬車から降りることなく折り返しという遠出の意味は?と問いたくなる時間の無駄使いに終わった。
何故なら行きの道中デリックとレーナは2人にしか解らない話で盛り上がっていたが、1時間半も話せばネタ切れになったのか静かになった途端にレーナが馬車酔い。
『ごめんなさい。私、馬車は酔っちゃうほうなの』
――解ってたら乗るな、来るな、喋るな――
心で思っただけで声にはせず、「そう。大変ね」と笑顔で返したのだが変なスイッチが入ってしまったらしい。
『レーナ。可哀想に。サリア!遠出なんかレーナの体調を考えたら無理だと思わなかったのか?』
『リック。サリアを叱らないで。私が悪いの。体が弱いのに一緒に行くかって聞かれてその気になっちゃったから』
――誘ったのそっちでしょうに!何時の間に私に誘われた事に?――
帰りは具合が悪いとレーナはグスグス半泣き。
『馬車酔いしちゃうの解ってるのに。サリア、私をここに置いてリックと楽しんできて。1人ぼっちは慣れているしこれ以上リックに甘えちゃうとサリアも気分悪いでしょう?』
――アンタを見てる方が気分悪いわ――
そこまで言うなら期待に応えて走る馬車からレーナを蹴り落してやろうかと思ったがやめた。
デリックと2人きりになる方がもっと気分が悪くなりそうだったからである。
馬車酔いするらしいが週に4回デリックと買い物に行っている事は知っている。
言葉は悪いが弱いのは体ではなくアタ…この先は自主規制をしたサリア。
これに合計4時間付き合ったサリアは馬車にしか乗ってないのに疲労困憊だった。
そんな事もあった前回の馬車に揺られただけのお出かけ。
行きたいなんてこれっポッチも思わない。
アルサール公爵家の従者は返事を持ち帰るようにと言われているのはサリアの返事なのだが、通常とは意味合いが逆。
返事は行くか行かないかではなく、行くが大前提、いや決定なので遠出をするための馬車や護衛の手配を済ませた返事を持ち帰れという意味だ。
――なら、先ず順番を正さないといけないわよね?――
返事を持ち帰らねばならない従者の肩をサリアはポンポン。優しく撫でるように叩いた。
ビッと両手の人差し指を立てると交互にクイクイ。従者に向かって指先を動かした。
「な、なんでしょう?」
「協議書項目11。”返事は順序を間違うな” でしたわ。なので…行・か・な・い。と伝えてくださる?」
現在最強のワードである協議書を出されれば従者も聞いてこいと言われた返事でなくても下がるしかない。
「し、承知いたしました」
サリアの返事を持って従者はアルサール公爵家に戻って行ったのだが、夕方になってデリックがやってきた。
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