その愛はどうぞ愛する人に向けてください

cyaru

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第10話   想定外のゴスロリ

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「チッ。面倒なのが来たわね」
「お嬢様。淑女の仮面が取れていますよ。旦那様に対応してもらいますか?」
「ルダ。お父様は日和見よ。行けなくても行きます!って言っちゃうじゃない。さ、着替えて対応するわよ」
「着替える?何にです?」
「決まってるじゃない。戦闘服よ」

ルダが「戦闘服?」と首を傾げている間にサリアはハサウェイに頼み、届いたばかりの箱を開封した。
取り出したのは…。

「じゃじゃーん!可愛いでしょ?」
「可愛っ?!え?お嬢様?!」

胸元にあてている服はこの頃巷で流行っていると言うゴスロリ風のメイド服。
黒の生地に薄いブルーのレースがフリフリにあしらわれていて、見る人が見れば何かの危険度が倍増しそうな仕上がり。

「お嬢っ?お嬢様!この服はダメです!丈が膝上20cmですよ?あり得ませんっ」
「いいの。いいの。項目9番目。覚えてる?」
「きゅ、9番目?」
「そう、9番目はね ”君には華やかさがない” なのよ」
「華やかさ…とは違うと思いますが」
「そう思うでしょ?でもこの戦闘服を装着し ”行ってらっしゃいませ。ご主人様” って言うと、一定区域では戦闘力が上がるらしいわ」

==お嬢様、絶対に上がりません。引きます==

ルダの絶望感など気にせず、下着姿になると早速ガーターベルトを着装しストッキングを止める。

「なんだか…違くない?」
「お嬢様。私に是非を聞かないでください」
「流行ってるとハサウェイは言ったんだけど…これじゃ娼婦ね」
「‥‥もう言葉がありません」

ルダの目はもう光を映さず、黙々とサリアの着替えを手伝うだけとなった。
全てを装着するとサリアは全身鏡の前でポーズを取ってみる。

「にゃおん♡…違うわね…ばぅっ♡…これも違うわね」
「お嬢様。俗にいう猫耳は付けてませんので」
「あ、そうか。初めてだから忘れちゃってた♡」

==ハサウェイ様。八つ裂きの刑に処す==

シリカ伯爵家の中での出来事とは言え、サリアがこんな格好で廊下を闊歩すれば誰もが二度見、三度見は当たり前。家令は立ったまま気絶してしまい、侍女頭に至っては「ハァウッハァウッ!!」その場で泡を吹いて卒倒してしまった。

サリアはデリックの待つ応接室の扉の前に立つと気合を入れるため「よしっ!」グッとガッツポーズを取ると勢いよく開けた。

「ラッシェーヤセェ!!ごぉ主人様ァ!」

まるで魚屋の主が客引きをするような威勢の良い声と同時に現れたサリアを見て刹那デリックの魂が抜けた。

「あら?ルダ。目を開けて寝てるわ。器用な人っているのね」
「お嬢様。これは気絶している状態です」
「やぁねぇ。気絶も寝てるも一緒よ。どっちも意識ないんでしょ?」
「それはそうですけど」

ルダとデリックの様子を観察していると…。

「ハッ?!」

突然デリックが再起動した。
そしてサリアと目が合う。

デリックはビクッと体を跳ねさせて、ソファの背凭れに限界まで背中を押し付けてサリアから距離を取った。

「お、お、お前!なんて格好をしてるんだ!」
「あら。協議書の項目9番目。”君には華やかさがない” を先ずは克服。そして項目12番目。 ”先の読める言動をするな” を実行しているのですが?」

==お嬢様。先が読めなさ過ぎてお先真っ暗です==

「いや、おまっ…違っ…兎に角!着替えてこいっ!」
「何故です?」
「何故って…そんな恰好っ!!」
「あら。巷にある一画では華やかと呼ばれる装いですわ。でも彼女たちと同じことをすれば何を言うのか想像がつきますでしょう?だからちょっぴり♡アレンジしてみましたー!」

==お嬢様。ちょっぴりどころではありません==

「ダメだ!!それにその口の利き方はなんだ!」
「項目4番目。 ”畏まった物言いをするな” を実行しているのですが…早速20の内3つは却下されてしまいましたわね。従者に持たせた返事も納得して頂けてなかったようですし残り16項目ですか…一気に危険水域!!絶対に落とせませんわね。これは気合をもっと入れねばなりませんわね」


デリックはサリアが協議書に署名させた意味を悟った。

サリアは改善した様に見えて…全てにデリックがダメ出しをする事を狙っている。
それが他者から見て違うだろうと思っても、サリアは公爵夫人となるべく年配者からは高い評価を得ている令嬢だったので例えるなら古風な令嬢。同年代の令嬢が楽しんでいたお洒落などは周囲に排除されて全く経験をしていないので「そっちに振れちゃったんだね」と思われても仕方ない状況に持って行くつもりなのだ。

教育もあるが、デリックのして来たダメ出しの弊害と言える。
協議書を出してきたことで何か魂胆があるのだろうとは思ったが、何とでもなると思っていたが甘かった。

――こんなの想定外じゃないか!――

デリックは遠出のデートがダメなら街でショッピングでもと直接誘いに来たのだが、うっかりすれば全てサリアは改善できなかったとデリックが認める事になってしまう。

――これは不味い――

デリックは今まで経験したことがないくらいに背中に冷や汗が流れた。

取り敢えずデートの約束は取り付けよう。
その後の事は帰ってからレーナに相談をしてみよう。と考えたのだった。
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