その愛はどうぞ愛する人に向けてください

cyaru

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第03話   そんな目、魚の目、ウル目

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「なんでこんなものを持っているんだ!」

――貴方との婚約をどうにかしたいからですが?――

なぁんて馬鹿正直に答えてしまえばデリックは絶対に署名をしない事は解りきっている。
サリアは書類を用意していただけではない。

婚約をどうにかしたいとずーっと考える事500日以上。
色々なシチュエーションに対応するため、ルダを相手に練習を繰り返してきた。

――今、その成果を見せる時だわ!――


「コホン。デリック様。いつ何時、何が起きるか解らない。様々な事象に素早く対応。デリック様から教えていただいたのです。使うことはないだろうなんて私の勝手な思い込みは捨てて婚約解消協議書も常に持ち歩いております」

「は?」デリックは鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった。

「いや、待て待て。婚約の解消なんて思ったことも無いぞ」
「あら?先ほどレーナ様と肩を並べるまでにならないのなら婚約解消しかない、と仰いましたよね?」
「あ、あれは…言葉のあや――」
「いいえっ!!デリック様はゆくゆくは筆頭公爵家の当主となられるお方。一度口にした事を簡単に間違いだった、言い過ぎた、なんて‥‥(パタパタないない)あり得ません」

サリアは「ないない」と手振りで示した。


「なっ!お前っ‥‥しない。署名はしないぞ」
「デリック様が仰った言葉に私は目が覚めたのです!私の開眼を無にするおつもりですか?!」

グッと拳を握った手を小さくガッツポーズしながら意気込みをデリックに向けた。

「誰の目にも余る何もかもが中途半端な私です。デリック様イチオシ!イチオシのレーナ様と肩を並べるに至るまで!婚約は再考すべきだと思うのです」
「だからといって協議――」
「YES!!流石デリック様!1を聞いて10万8千を知るぅ!」
「い、いや、まだ何も言ってな――」
「謙遜なさいますな!私と言ったら。あぁお恥ずかしい。1を聞いたらマイナスに振り切って測定不能です。せめて数字が出ればプラマイゼロまでの道筋も見えようと言うものですが如何せん…猿にも劣る学習力ですので(心でニヤリ)」

グイっと協議書の署名欄はここだ!と敢えて指を置き、サリアはデリックに書類を寄せた。

「今すぐに婚約解消のご要望にお応えしたいのですが公爵家のメンツも御座います。私が不出来であることを世に知らしめるチャーンス♡…でもあるんですが、私も父には叱られたくありません。パフォーマンスと言われようと改善しようと努力している姿を見せるために先ずは協議書で御座います。さ、さ、署名をするだけで良いんです」

さらにグイグイと協議書をデリックに寄せて、人差し指は署名欄をキュっと這う。

「協議書にある諸々の事項が改善する頃には私も20歳を超えておりますから、そのまま結婚となるでしょう。デリック様仰いましたよね。このままでは公爵家の恥だと。私も全く及んでいない力なのに嫁ぐなんて無謀に等しいと思うのです。家のため、お互いの為です。是非とも!御署名を」

「お、お前…どうしてそんなに署名をさせたいんだっ!」

――決まってるでしょ?逃げるためよ――

なぁんてここで言ったら元の木阿弥。
ルダとの猛練習で鍛えたウル目を発動させてみた。


「ま、待て。私をそんな目で見るな」

何故か胸を押さえ、頬が紅潮したデリックにサリアは待ってやる気も無ければ頬の紅潮の意味を知る必要すらないとたたみかけた。

「そんな目?うおの目ではなく?」
「サ、サリアの事をうおの目と思ったことはないぞ」
「解っております。解っておりますとも!足裏に第3の目、うおの目を持つレーナ様に1歩でも近づけるよう!この協議書で私の退路を断つのです。さ、さ、署名を」

デリックに「ね?」と上目使いでペンを握らせるとデリックはサリアから目だけではなく顔を逸らした。

「あら?デリック様。耳をアブにでも刺されまして?赤くなっておりますが」
「これは…何でもない」
「そうですか。では、御署名を」
「どうしてそんなに協議書に署名をさせたがるんだ!」

――貴方と結婚したくないもの――

喉元まで出掛けた言葉をゴクリと飲み込んだサリアはどうしても署名をしないのならデリックの手を握って署名をさせてやる!こんな大チャンスが次もあるとは思えない。

ここで決めねば女が廃る!!

――女優になるのよ!サリア!――

「デリック様。この協議書がある限り私は頑張れる!そんな気がするんです」

秘儀「ウル目」でとどめを刺されたデリックは遂に署名をしたのだった。
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