15 / 62
第15話 有料だったら客に同情
しおりを挟む
リンボーダンスの衝撃が大きかったのか、デリックからの先触れも突然の来訪もなくサリアはのんびりと自堕落な生活を満喫していた。
明け方まで本を読んで、昼過ぎまで寝たって誰も文句を言わない。
「決算の書類も終わった時期ってのが功を奏したわね」
「坊ちゃまも間もなくご卒業ですし、執務用の部屋も用意させましょうか」
「そうね。マークも帰ってきて直ぐ仕事?って思うかも知れないけどバタバタするよりいいわね」
父のシリカ伯爵はアテにならないので、弟に家業と家督を引き継ぐ準備が終わっていればサリアは今よりももっとのんびりできる生活になる。
これまではアルサール公爵家に嫁ぐ未来が決まっていたので、これから何をしようかと考える必要はなかったけれど、未来が全くの白紙になったためずっと弟に生活費を面倒見てもらうのも気が引けるし、サリアの性分に合わない。
「自由になれたんだから、何かしてみようかしら」
「暇ならちょっと付き合えよ」
「ハサウェイ!?ちょっと!勝手に部屋に入ってこないでよ!」
サリアはさっきまで寝ていたので部屋着にこそ着替えてはいるが、まだ髪も梳いて貰っていないし貴族令嬢としては人前に出る状態ではない。
何より、従兄妹の関係だと言ってもハサウェイは24歳でサリアは19歳。いいお年頃なので男性が女性の部屋に勝手に入って来るなんて失礼極まりない行為だ。
「サリーを連れて行きたいところがあるんだ。汚れてもいい服に着替えろよ」
「なっ!!いきなりやってきて着替えろ?あのね!ここは清純な乙女の部屋なのよッ!」
「清純?言うねぇ。ネズミ令嬢、カラス令嬢と呼ばれても鼻でせせら笑い飛ばしてた癖に」
「失礼ね。繊細な乙女の心は傷ついてるのよ?それにカラスじゃないわ。トンビよ」
「トンビでもスズメでもいいから。早よ着替えろ」
「じゃぁ着替えるから出てってよ。ここはストリップ劇場じゃないんだから!」
「ぷはっ。サリーのストリップが有料だったら客に同情するよ」
――くぅぅ!!ホントになんなのこの男!!べぇぇーだ!!――
サリアは目いっぱい舌を出して、シッシと手振りでハサウェイを部屋から追い出した。
だが、面倒くさいし一言も二言も多い男だけれど、約束をした事はちゃんと守ってくれる。時に無理難題であっても出来る事はきっちりと熟してくれることは知っている。
「あれで性格が良ければ…彼女も出来ると思うんだけど」
「左様でございますが?ですがハサウェイ様は意外に人気があるんですよ?」
「え?うっそぉ~。あれが?目が腐り始めてるんじゃない?眼下健診をお勧めするわ」
「お嬢様は従兄妹だからですよ。坊ちゃまにも他の異性とは接し方も違いますでしょう?」
「弟や従兄弟に頬を染めてたら…ブルル!!きもっ!」
弟のマクロンやハサウェイは生物学上の男性ではあるけれど、異性としては見たことがない。
それは相手がサリアに対しても同じだろう。
着替えを済ませるとサリアはハサウェイの待つサロンに向かった。
着ている服は女性用の騎乗服。
アルサール公爵家にも騎乗できると伝えているが、サリアはかなり行動派なので馬車でガタゴトと揺られるよりも時間短縮するために馬を駆けさせることの方が好きなのだ。
「お、来たか。ん~。まぁまぁかな、ぶりっ子なお嬢様よりは良いだろう」
「何が良いのよ」
「行けば解るって。時間が勿体ない。馬で行くぞ」
「それは良いけど、何処に行くのよ」
「着いてみてのお楽しみさ」
サリアはハサウェイとそれぞれ馬に跨り、石畳みで舗装をされていない裏通りを走り到着をしたのは、王都の端で幅の狭い川の向こう岸は郊外になる場所にある今にも壊れそうな教会だった。
――廃屋?屋根も壁も穴だらけじゃない――
穴の開いた壁から見える壁の下地材の木材よりも馬の手綱を括りつける木の方が立派でしっかりしているが、廃屋と思った外観の教会の中に案内をされて入ってみてサリアは息を飲んだ。
「よぅ!ハサウェイじゃないか!また何か持ってきてくれたのか?」
大きな声が聞こえて来て声のした方に体を向けてみれば、顔も手も汚れて真っ黒な男性が荷物を抱えていた。
「よぅ。ファガス。今日はとびきりだぜ」
ハサウェイはそう言いながらサリアの肩を後ろから掴んでグイっと差し出した。
明け方まで本を読んで、昼過ぎまで寝たって誰も文句を言わない。
「決算の書類も終わった時期ってのが功を奏したわね」
「坊ちゃまも間もなくご卒業ですし、執務用の部屋も用意させましょうか」
「そうね。マークも帰ってきて直ぐ仕事?って思うかも知れないけどバタバタするよりいいわね」
父のシリカ伯爵はアテにならないので、弟に家業と家督を引き継ぐ準備が終わっていればサリアは今よりももっとのんびりできる生活になる。
これまではアルサール公爵家に嫁ぐ未来が決まっていたので、これから何をしようかと考える必要はなかったけれど、未来が全くの白紙になったためずっと弟に生活費を面倒見てもらうのも気が引けるし、サリアの性分に合わない。
「自由になれたんだから、何かしてみようかしら」
「暇ならちょっと付き合えよ」
「ハサウェイ!?ちょっと!勝手に部屋に入ってこないでよ!」
サリアはさっきまで寝ていたので部屋着にこそ着替えてはいるが、まだ髪も梳いて貰っていないし貴族令嬢としては人前に出る状態ではない。
何より、従兄妹の関係だと言ってもハサウェイは24歳でサリアは19歳。いいお年頃なので男性が女性の部屋に勝手に入って来るなんて失礼極まりない行為だ。
「サリーを連れて行きたいところがあるんだ。汚れてもいい服に着替えろよ」
「なっ!!いきなりやってきて着替えろ?あのね!ここは清純な乙女の部屋なのよッ!」
「清純?言うねぇ。ネズミ令嬢、カラス令嬢と呼ばれても鼻でせせら笑い飛ばしてた癖に」
「失礼ね。繊細な乙女の心は傷ついてるのよ?それにカラスじゃないわ。トンビよ」
「トンビでもスズメでもいいから。早よ着替えろ」
「じゃぁ着替えるから出てってよ。ここはストリップ劇場じゃないんだから!」
「ぷはっ。サリーのストリップが有料だったら客に同情するよ」
――くぅぅ!!ホントになんなのこの男!!べぇぇーだ!!――
サリアは目いっぱい舌を出して、シッシと手振りでハサウェイを部屋から追い出した。
だが、面倒くさいし一言も二言も多い男だけれど、約束をした事はちゃんと守ってくれる。時に無理難題であっても出来る事はきっちりと熟してくれることは知っている。
「あれで性格が良ければ…彼女も出来ると思うんだけど」
「左様でございますが?ですがハサウェイ様は意外に人気があるんですよ?」
「え?うっそぉ~。あれが?目が腐り始めてるんじゃない?眼下健診をお勧めするわ」
「お嬢様は従兄妹だからですよ。坊ちゃまにも他の異性とは接し方も違いますでしょう?」
「弟や従兄弟に頬を染めてたら…ブルル!!きもっ!」
弟のマクロンやハサウェイは生物学上の男性ではあるけれど、異性としては見たことがない。
それは相手がサリアに対しても同じだろう。
着替えを済ませるとサリアはハサウェイの待つサロンに向かった。
着ている服は女性用の騎乗服。
アルサール公爵家にも騎乗できると伝えているが、サリアはかなり行動派なので馬車でガタゴトと揺られるよりも時間短縮するために馬を駆けさせることの方が好きなのだ。
「お、来たか。ん~。まぁまぁかな、ぶりっ子なお嬢様よりは良いだろう」
「何が良いのよ」
「行けば解るって。時間が勿体ない。馬で行くぞ」
「それは良いけど、何処に行くのよ」
「着いてみてのお楽しみさ」
サリアはハサウェイとそれぞれ馬に跨り、石畳みで舗装をされていない裏通りを走り到着をしたのは、王都の端で幅の狭い川の向こう岸は郊外になる場所にある今にも壊れそうな教会だった。
――廃屋?屋根も壁も穴だらけじゃない――
穴の開いた壁から見える壁の下地材の木材よりも馬の手綱を括りつける木の方が立派でしっかりしているが、廃屋と思った外観の教会の中に案内をされて入ってみてサリアは息を飲んだ。
「よぅ!ハサウェイじゃないか!また何か持ってきてくれたのか?」
大きな声が聞こえて来て声のした方に体を向けてみれば、顔も手も汚れて真っ黒な男性が荷物を抱えていた。
「よぅ。ファガス。今日はとびきりだぜ」
ハサウェイはそう言いながらサリアの肩を後ろから掴んでグイっと差し出した。
1,424
あなたにおすすめの小説
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
行かないで、と言ったでしょう?
松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。
病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。
壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。
人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。
スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。
これは、春を信じられなかったふたりが、
長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる