その愛はどうぞ愛する人に向けてください

cyaru

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第15話   有料だったら客に同情

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リンボーダンスの衝撃が大きかったのか、デリックからの先触れも突然の来訪もなくサリアはのんびりと自堕落な生活を満喫していた。

明け方まで本を読んで、昼過ぎまで寝たって誰も文句を言わない。

「決算の書類も終わった時期ってのが功を奏したわね」
「坊ちゃまも間もなくご卒業ですし、執務用の部屋も用意させましょうか」
「そうね。マークも帰ってきて直ぐ仕事?って思うかも知れないけどバタバタするよりいいわね」


父のシリカ伯爵はアテにならないので、弟に家業と家督を引き継ぐ準備が終わっていればサリアは今よりももっとのんびりできる生活になる。

これまではアルサール公爵家に嫁ぐ未来が決まっていたので、これから何をしようかと考える必要はなかったけれど、未来が全くの白紙になったためずっと弟に生活費を面倒見てもらうのも気が引けるし、サリアの性分に合わない。

「自由になれたんだから、何かしてみようかしら」
「暇ならちょっと付き合えよ」
「ハサウェイ!?ちょっと!勝手に部屋に入ってこないでよ!」

サリアはさっきまで寝ていたので部屋着にこそ着替えてはいるが、まだ髪も梳いて貰っていないし貴族令嬢としては人前に出る状態ではない。

何より、従兄妹の関係だと言ってもハサウェイは24歳でサリアは19歳。いいお年頃なので男性が女性の部屋に勝手に入って来るなんて失礼極まりない行為だ。

「サリーを連れて行きたいところがあるんだ。汚れてもいい服に着替えろよ」
「なっ!!いきなりやってきて着替えろ?あのね!ここは清純な乙女の部屋なのよッ!」
「清純?言うねぇ。ネズミ令嬢、カラス令嬢と呼ばれても鼻でせせら笑い飛ばしてた癖に」
「失礼ね。繊細な乙女の心は傷ついてるのよ?それにカラスじゃないわ。トンビよ」
「トンビでもスズメでもいいから。よ着替えろ」
「じゃぁ着替えるから出てってよ。ここはストリップ劇場じゃないんだから!」
「ぷはっ。サリーのストリップが有料だったら客に同情するよ」

――くぅぅ!!ホントになんなのこの男!!べぇぇーだ!!――

サリアは目いっぱい舌を出して、シッシと手振りでハサウェイを部屋から追い出した。

だが、面倒くさいし一言も二言も多い男だけれど、約束をした事はちゃんと守ってくれる。時に無理難題であっても出来る事はきっちりと熟してくれることは知っている。

「あれで性格が良ければ…彼女も出来ると思うんだけど」
「左様でございますが?ですがハサウェイ様は意外に人気があるんですよ?」
「え?うっそぉ~。あれが?目が腐り始めてるんじゃない?眼下健診をお勧めするわ」
「お嬢様は従兄妹だからですよ。坊ちゃまにも他の異性とは接し方も違いますでしょう?」
「弟や従兄弟に頬を染めてたら…ブルル!!きもっ!」

弟のマクロンやハサウェイは生物学上の男性ではあるけれど、異性としては見たことがない。
それは相手がサリアに対しても同じだろう。

着替えを済ませるとサリアはハサウェイの待つサロンに向かった。
着ている服は女性用の騎乗服。

アルサール公爵家にも騎乗できると伝えているが、サリアはかなり行動派なので馬車でガタゴトと揺られるよりも時間短縮するために馬を駆けさせることの方が好きなのだ。

「お、来たか。ん~。まぁまぁかな、ぶりっ子なお嬢様よりは良いだろう」
「何が良いのよ」
「行けば解るって。時間が勿体ない。馬で行くぞ」
「それは良いけど、何処に行くのよ」
「着いてみてのお楽しみさ」

サリアはハサウェイとそれぞれ馬に跨り、石畳みで舗装をされていない裏通りを走り到着をしたのは、王都の端で幅の狭い川の向こう岸は郊外になる場所にある今にも壊れそうな教会だった。

――廃屋?屋根も壁も穴だらけじゃない――

穴の開いた壁から見える壁の下地材の木材よりも馬の手綱を括りつける木の方が立派でしっかりしているが、廃屋と思った外観の教会の中に案内をされて入ってみてサリアは息を飲んだ。

「よぅ!ハサウェイじゃないか!また何か持ってきてくれたのか?」

大きな声が聞こえて来て声のした方に体を向けてみれば、顔も手も汚れて真っ黒な男性が荷物を抱えていた。

「よぅ。ファガス。今日はとびきりだぜ」

ハサウェイはそう言いながらサリアの肩を後ろから掴んでグイっと差し出した。
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