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第16話 女性に出来ないことはない
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抱えていた荷物を下ろすとファガスと呼ばれた男性はハサウェイの元に大股で歩いてきてお互いの拳を合わせるフィスト・バンプを交わした。
肩を組み、かなり仲が良い事が見て取れる。
「ファガス。この子が言ってたサリアだ。サリア。こいつはファガス。こんな身なりだがクペル男爵家の当主なんだ」
「よろしく…って。手ぇ…汚ねぇな」
ファガスはサリアに手を差し出したけれど炭やら土で汚れていてズボンに擦り合わせるけれどそれで取れるようなヨゴレでもなく「ハハハ」と頭をポリポリ‥‥。
――あの‥髪を掻くと何か舞ってますけど?――
しかしサリアもだからと言って握手をしない、なんて高飛車でもない。
父のシリカ伯爵に変わって日帰りできる距離にある領地の視察では領民と一緒に鍬も振るし、水車小屋が壊れれば修理もする。屋根に穴が開いていれば上って木の板を打ち付ける事もする。
汚れている手は働き者だからこそ。
皴の間や爪の周りに付いた取れない汚れは勲章なのだ。
「紹介に与りましたサリア・シリカです。よろしく」
サリアはファガスに手を差し出した。
「あ…じゃ、ちょっと待ってくれ。手を洗ってくる」
「いいえ。それには及びません」
「でも…さっき虫をバチーンと叩いたままなんだ」
「(頬がひくひく)」
労働の汚れは気にしないが虫はちょっと。
サリアは冗談でハサウェイには乙女だなんだと言うけれど、これは許して欲しい。
「じゃぁ、井戸に案内しますよ。こっちです」
「え、えぇ…(ハサウェイ!アンタも来るのよ!)」
ファガスが井戸に案内をしてくれると言うのに、ハサウェイは手を振って「行ってらっしゃい」と動こうとしない。サリアがキッと睨むと軽く手を挙げて「なんのこと?」と惚けた。
ハサウェイを置いてファガスに追い付こうと小走りになって気が付いた。
「あら?この床…」
ファガスは足を止めてその場にしゃがみ込んだ。
「床ですか?」
「はい。珍しいですよね…石張りの床…貴族の屋敷は多いですけど、教会の床が石張りって」
「これ、寄付と言えば聞こえがいいですけど、使わない石を敷かせてもらったんですよ。でも石は石でもちょっと違うんです」
「違う?石の種類って事でもなく?」
「触ってみますか?」
ファガスはサリアが返事をする前に雑巾にしか見えない首に巻いていた汗拭き用のタオルで床を拭いた。
「一応拭いたんで綺麗ですよ」
「い、いえ。そこまでして頂かなくても!」
サリアはしゃがんで拭いてくれた場所を触った。
「ん?んんん?これって…石?ですよね?」
「えぇ。でも研削砥石って言うなんて言うのかな。人工的に造った石です」
「人工的に?石が作れるんですか?」
「造れますよ。でも…アハハ。実は失敗作なんですよ。多すぎて場所を取るんで土も剥き出しだったここの床に敷かせてもらったんです。表面がざらざらしているので滑らないんですよ」
クペル男爵家は川の向こう岸が小さな領地。
屋敷とは言えない小さな家が領地にあって、この教会には現金での寄付が出来ない貧乏貴族なので労働であったり、主産業にしたい研削砥石を物納したりしている。
ファガスは手を洗いながら簡単に教えてくれたが、いつの間にか井戸のある場所にハサウェイもやって来ていた。
「サリー。今の状態が落ち着いたらファガスのところ。手伝ってやってくれないか?」
「おい!ハサウェイ!何を言ってるんだ」
「サリーならきっと研削砥石を製品化してくれるよ」
「は?何言ってるのハサウェイ!簡単に言わないでくれる?」
「簡単じゃないさ。でもシリカ伯爵領のシリカゲルを吸湿剤として売り出したサリーなら固形物繋がりで何か出来るかも知れないだろ?」
話しを聞いてみると現在自然に採掘出来る砥石で剣であったり、料理に使う包丁、ハサミなどを研ぐ事は出来る。ファガスはシャコシャコと砥石で研ぐよりももっと効率的に研ぐ方法はないのかと試行錯誤していた。
「どうせ暇だろ?自堕落な生活もそろそろやめろ。太るだけだ。それに製品化できれば特許を取ってロイヤリティでウハウハだろ?マクロンが家を継いだ後も世話にならずに済む。俺にはマージンとして肩揉みでもしてくれしゃいいさ」
「そうね。面白そうだわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。女性には無理だ」
ファガスがサリアには無理!と言い出してしまった。
サリアは例えば女性にしか出来ない出産などはあるけれど、男性に出来て女性に出来ないことはない!っと考えている。
なのでつい…
「ファガス様。女性に出来ないことはないのです。重い物だって回数は男性より多くなるけど運べるし、知恵と知識、道具を使えば同等に力仕事だって出来るんですよっ!」
仁王立ちになって言いきってしまった。
肩を組み、かなり仲が良い事が見て取れる。
「ファガス。この子が言ってたサリアだ。サリア。こいつはファガス。こんな身なりだがクペル男爵家の当主なんだ」
「よろしく…って。手ぇ…汚ねぇな」
ファガスはサリアに手を差し出したけれど炭やら土で汚れていてズボンに擦り合わせるけれどそれで取れるようなヨゴレでもなく「ハハハ」と頭をポリポリ‥‥。
――あの‥髪を掻くと何か舞ってますけど?――
しかしサリアもだからと言って握手をしない、なんて高飛車でもない。
父のシリカ伯爵に変わって日帰りできる距離にある領地の視察では領民と一緒に鍬も振るし、水車小屋が壊れれば修理もする。屋根に穴が開いていれば上って木の板を打ち付ける事もする。
汚れている手は働き者だからこそ。
皴の間や爪の周りに付いた取れない汚れは勲章なのだ。
「紹介に与りましたサリア・シリカです。よろしく」
サリアはファガスに手を差し出した。
「あ…じゃ、ちょっと待ってくれ。手を洗ってくる」
「いいえ。それには及びません」
「でも…さっき虫をバチーンと叩いたままなんだ」
「(頬がひくひく)」
労働の汚れは気にしないが虫はちょっと。
サリアは冗談でハサウェイには乙女だなんだと言うけれど、これは許して欲しい。
「じゃぁ、井戸に案内しますよ。こっちです」
「え、えぇ…(ハサウェイ!アンタも来るのよ!)」
ファガスが井戸に案内をしてくれると言うのに、ハサウェイは手を振って「行ってらっしゃい」と動こうとしない。サリアがキッと睨むと軽く手を挙げて「なんのこと?」と惚けた。
ハサウェイを置いてファガスに追い付こうと小走りになって気が付いた。
「あら?この床…」
ファガスは足を止めてその場にしゃがみ込んだ。
「床ですか?」
「はい。珍しいですよね…石張りの床…貴族の屋敷は多いですけど、教会の床が石張りって」
「これ、寄付と言えば聞こえがいいですけど、使わない石を敷かせてもらったんですよ。でも石は石でもちょっと違うんです」
「違う?石の種類って事でもなく?」
「触ってみますか?」
ファガスはサリアが返事をする前に雑巾にしか見えない首に巻いていた汗拭き用のタオルで床を拭いた。
「一応拭いたんで綺麗ですよ」
「い、いえ。そこまでして頂かなくても!」
サリアはしゃがんで拭いてくれた場所を触った。
「ん?んんん?これって…石?ですよね?」
「えぇ。でも研削砥石って言うなんて言うのかな。人工的に造った石です」
「人工的に?石が作れるんですか?」
「造れますよ。でも…アハハ。実は失敗作なんですよ。多すぎて場所を取るんで土も剥き出しだったここの床に敷かせてもらったんです。表面がざらざらしているので滑らないんですよ」
クペル男爵家は川の向こう岸が小さな領地。
屋敷とは言えない小さな家が領地にあって、この教会には現金での寄付が出来ない貧乏貴族なので労働であったり、主産業にしたい研削砥石を物納したりしている。
ファガスは手を洗いながら簡単に教えてくれたが、いつの間にか井戸のある場所にハサウェイもやって来ていた。
「サリー。今の状態が落ち着いたらファガスのところ。手伝ってやってくれないか?」
「おい!ハサウェイ!何を言ってるんだ」
「サリーならきっと研削砥石を製品化してくれるよ」
「は?何言ってるのハサウェイ!簡単に言わないでくれる?」
「簡単じゃないさ。でもシリカ伯爵領のシリカゲルを吸湿剤として売り出したサリーなら固形物繋がりで何か出来るかも知れないだろ?」
話しを聞いてみると現在自然に採掘出来る砥石で剣であったり、料理に使う包丁、ハサミなどを研ぐ事は出来る。ファガスはシャコシャコと砥石で研ぐよりももっと効率的に研ぐ方法はないのかと試行錯誤していた。
「どうせ暇だろ?自堕落な生活もそろそろやめろ。太るだけだ。それに製品化できれば特許を取ってロイヤリティでウハウハだろ?マクロンが家を継いだ後も世話にならずに済む。俺にはマージンとして肩揉みでもしてくれしゃいいさ」
「そうね。面白そうだわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。女性には無理だ」
ファガスがサリアには無理!と言い出してしまった。
サリアは例えば女性にしか出来ない出産などはあるけれど、男性に出来て女性に出来ないことはない!っと考えている。
なのでつい…
「ファガス様。女性に出来ないことはないのです。重い物だって回数は男性より多くなるけど運べるし、知恵と知識、道具を使えば同等に力仕事だって出来るんですよっ!」
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