貴方が側妃を望んだのです

cyaru

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幽閉と連行

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北の棟。

1人になり、ハロルドの帰りを待つビーチェはシャワーを浴びていた。
ふと違和感に気がつき、シャワーのコックを締めた。

「誰かいるの?」

シャっとカーテンを開けると、侍女が数名そこに立っていた。

「ヒッ!!」

思わず声をあげ仰け反ったビーチェだったが、今の立場は側妃だと思い出す。
あぁ、自分の世話をする為に来たのだと思うと、ニヤリとした。

「あなた達ッ。美しく磨き上げて頂戴」

一言そう言うと、侍女たちは返事もせずにビーチェに手を伸ばし、あっという間に裸のビーチェを拘束した。髪も濡れたままで滴る水に開け放たれた扉から吹き込んで切る風が当たる。

「ちょ。ちょっと!何するのよ!私は側妃なのよ!国王の側妃!ただじゃ済まないわよ」

喚くのはビーチェのみである。侍女たちは一言も話をしない上に淡々と自分の仕事だけをしていくかのように、アイコンタクトもなにも取らない。

裸のまま、縄で後ろ手に縛られたビーチェは風が吹く中、素足で土の上を引かれていく。
頭の中はいったいどうしてこうなったのか判らず混乱する一方である。
縛られただけでどんなに喚いてもなにも聞こえないのか侍女たちは無表情。
しばらく庭を歩き木々が開けた時、ビーチェは濡れた体が冷えた以上に背中に冷たい物を感じた。

石で作られた物見櫓のような塔についている古びた扉がギィと嫌な音を立てて開く。
塔の中に背を押され入ると、上に行く階段はなく逆に地面の下に入っていく階段が見える。
足元を照らすためだろうか。壁にかけられたランプの灯りが恐怖をさらに駆り立てる。

先頭を歩く男性が屈む事もなく歩くほどの高さだが、四方を石で囲まれた長い通路を歩く。
ところどころ飛び出した石に足を取られ、爪が剥げる感触がある。

「痛っ…待って‥足が…」

痛みを訴えるが彼らの足が止まる事はない。
ビーチェの足の裏はもう寒さを通りこして冷たさによる痛みしか感じない。

土の上を歩いた距離とほぼ同じ距離を歩き、その先にやっと行き止まりが見えた。
入り口の扉と違って最近付け替えられたのだろう。真新しい扉が目に入る。
ビーチェは痛む足を必死に突っ張る。その扉の向こうに入るのは危険だと全身が拒否をするのだ。

だが、開かれた扉に先に侍女が入り、ランプに灯りをいれると柔らかいランプに照らされて温かそうな寝台や、テーブルに置かれた果物が盛られた籠が見えた。

――なんだ…拷問部屋かと思ったじゃないの――

伯爵家で姉が時々読んでいた恋愛小説の挿絵にあった断罪される令嬢が最後に連れて行かれる拷問部屋はビーチェの脳裏に焼き付いていた。

ホッとすると突っ張っていた足も自然と動きだす。
温かい湯が入った桶で侍女が足を洗ってくれる。丁寧に洗われ優しく拭かれるとお姫様気分である。

「ねぇ、これ、食べていいの?」

籠に入った果物を指さすと、無表情だった侍女は初めて微笑んで頷いた。
早速リンゴを取り、ガブリと齧りつく。ハロルドが出かけてからは何も食べていないのだ。
熟れていてとても甘いリンゴはあっという間にビーチェの腹の中に入った。

侍女たちは、簡単なドレスをビーチェに着せると退室していく。

「なんだ、もうびっくりしちゃった」

そう言って寝台に飛び込むが、そこで我に返った。
慌てて扉に向かうが、ドアノブがない事に衝撃を受ける。

ドンドンと力任せに扉を叩くが何の返しもない。ただ自分の声と自分が扉を叩く音だけが聞こえる。
思わずその場に蹲り、両手を交差させて自分で自分の腕を抱く。




部屋に戻ったハロルドは自室の寝台に仰向けになった。
首を横に向ければ窓から月が見える。微かに舞踏会の音楽も聞こえてくる。

「フランっ‥くっ…」

先ほどのフランを思い出し、熱くなる頬を手のひらで抑える。だが頭の中はフランセアで一杯である。あの薄い布の下を暴きたくて堪らないのだ。
細いウェストを力任せに掴み、思い切り腰を打ちつけたい。
その衝動は思わず自慰へと流れていく。荒い息遣いが終わった時、整えられた寝台に飛沫があとを残す。それを見ると余計にフランセアを啼かせたくて堪らなくなる。

悶々とした中、苛立ったハロルドは部屋にある物を次々に手にしては投げつけた。
壁に当たり割れる花瓶、散乱する菓子。クッションや枕を放り投げる。

そして離宮に帰る前のフランセアを呼び止め、今日こそと扉に手をかけた。
だが扉はハロルドが開ける前に開いた。
まさかそこに人がいるとは露とも思わないハロルドは腰を抜かすほどに驚き、尻もちをついた。
立っていたのはカイザーだった。

「従兄弟殿。そんなに驚かれてどうされた」

漆黒の髪のカイザーは黒い燕尾服を着ていてマントでもあれば闇に乗じそうだった。
実際にそうであったら間違いなくハロルドはその場で失禁していただろう。

「カ、カイザーか。ビックリしたじゃないか。何の用だ」
「何の用?いえ、大きな音がしましたので賊かと思いまして」

そう言われて先程まで部屋の中をめちゃくちゃにしていた事を思い出す。
ゆっくりと立ちあがり、尻や手をパンパンと叩いて埃を落とす。

「すまない。ちょっと虫がいて驚いたんだ」
「虫ですか。それは困りましたね。そういうのは早めに駆除した方がいい」
「そうだな。従者をきつく叱っておかねばな。ところでお前は戻らないのか?」

そう言って舞踏会の音楽が聞こえてくる窓を親指で後ろに指を指す。

「いえ、従兄弟殿に是非に聞かせたい話がありまして在室であればと」
「わ、私に聞かせたい事?なんだそれは」
「私ではないんです。在室であれば呼んできて欲しいと主君に頼まれただけです」
「主君?お前の主君は国王である私ではないのか」

クックックっと口に軽く握った拳をあてて笑い出すカイザー。

「まさか、冗談でしょう?どこの世界を探しても従兄弟殿を主君という痴れ者は見つけるのは冒険者でも無理難題。そのような戯言を言われては困ります」

「なんだとっ!黙って聞いていればっ!」

「ちっとも黙ってなどいないでしょうに。どこかのメス猿の下の口のようによく喋り、ツバを飛ばす口ですね。あぁ申し訳ない。お飾りの腰振り人形サン♪」

「貴様‥‥手打ちにしてくれるわ!そこに首を晒せっ」

怒りに震えるハロルドにカイザーは「ははっ」と笑うと本性を見せる。

「ガタガタ五月蠅いね。俺の首に触れるなんてお前には生まれ変わっても無理なんだよ」
「私に向かって…もっと敬った話し方は出来ないのか」
「あ~めんどくさい。で?行くの?やめる?どっちでもいいけど?」

ハロルドはふとカイザーの手を見ると帯剣している柄に既に片手が置かれているのを確認する。
剣の腕でカイザーには逆立ちしても敵わない。

「判った。だがくだらない話なら首を刎ねてやるからな」
「おぉ怖い怖い。どっちの首が飛ぶんだかね、ま、案内してやるよ。従兄弟殿」

ハロルドはやり取りに気を取られてまた何も気がつかないままだった。
例え舞踏会が城で開かれていると言っても、使用人の一人も見かけない事に。
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