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続編
VOL.05
エルヴィーはナナと結婚し、ルビーとサーディスの住んでいる場所からそんなに離れていない所で小さな牧場を経営しながらチーズなどの加工品を作っている。
「待ちなさいったら!」
「ダメだ!今じゃないとダメなんだ!」
玄関先までくるとナナとエルヴィーの声が家の中から聞こえてくる。
ノックをする前に扉は開き、「やぁ」サーディスは軽く手をあげて挨拶をした。
「これは…どういう状況?」
「サーディス様!聞いてくださいよ!エルがまた作りたてのチーズを持って行こうとしてるんです!」
「チーズを?なんでまた?」
「作ってる最中、作り立て、1時間後、とか時間の経過で菌がどうなるかを顕微鏡で見たいんだよ!兄上!ナナに言ってくれ。菌は世界を救うんだよ」
「その前に、お前がナナに救われただろ?妻の言葉には従うものだ」
「兄上っ!!そんなぁ」
「ほらっ!寄越しなさいって!」
「お願いだ。ちょっと見るだけだから!」
「ダメって言ってるでしょ!あの菌だらけの部屋にちょっとの時間でも置いときたくないの!子供も!チーズも!」
少しだけ切り取っていくならまだしも売り物のチーズをごっそりと持って行って中心部が見たいんだと駄々を捏ねるエルヴィーをナナが「いい加減にしなさい!離縁しますよ!」一喝するとようやくエルヴィーはチーズをナナに返した。
エルヴィーはナナが好きすぎて今では菌への愛よりもナナへの愛が強い。
比べる物なのか?と思ったが人生を捧げたはずの菌から愛を取り戻せ~とナナに進呈したエルヴィー。
胸元でたすき掛けにしたおんぶ紐。エルヴィーの背中では可愛い第1子「ハチ」が寝ている。この状況でも爆睡出来るハチ。サーディスは大物になる予感しかしない。
家の中に招かれたサーディスにナナはお茶を差し出した。
「サーディス様、何かあったんですか?」
「あぁ、ちょっとね。エルヴィーとナナに話があるんだ」
「まさか!!お嬢様と離縁?!」
「ない」サーディスは即答した。
ナナは義理の姉妹となってもルビーの事はお嬢様と呼ぶ。ナナにとってルビーは永遠のお嬢様なのだ。
『名前で呼ぶなんて畏れ多い!!エルとは違うんですよ?エルとは!』
――あのね、ナナ。エルヴィーさんのほうが立場は上よ?――
ルビーはノユビワ家を出て貴族籍を捨てたので、ただの平民。
立場から言えばサーディスとエルヴィーは侯爵家子息でナナは1代限りとは言え準男爵令嬢。一番身分が低いのだが、ナナは「譲れない絶対防衛線」と言い張ったのである。
今ではルビーと結婚したことでサーディスも貴族籍を失ってしまっている。
国王からは事業が国に対して与えた貢献を讃えてルビーに男爵位を授けると言われたがルビーが固辞した。
ナナだって父親が準男爵を賜ったばかりに爵位税を支払わねばならず、口減らしで住み込みの奉公に出されたのだ。男爵位を貰えば確かに貴族相手に商売は出来るけれど、人口の12%しかいない貴族ではなくルビーは88%の平民相手に商売をしたかったし、爵位税を払うくらいなら従業員に1人1ピピになったとしても還元したかった。
【目に見えないもので必要なのは技術と資格。肩書なんて生きるのに何の足しにもなりません】
ルビーはそう言って国王からの褒章を辞退した。
ナナの淹れてくれたお茶をエルヴィーの突き刺さる視線を浴びながら一口飲んだサーディスはルビーの計画を2人に話した。
――ナナは無条件で賛成するだろうな――
そう思ったサーディスだったが違った。
サーディスはナナが諸手をあげて賛成するのでエルヴィーはナナに従う。そう考えていたのだ。
「うーん。ウチは無理ですね」
「え?」サーディスには全く予想外の返事だった。
「牛のミルクでチーズを作ろうとしたんですけど、失敗しちゃって結局ヤギで落ち着きましたけど、その時の借金もあるんです。見ての通り牛用の牧場…買ったときにエルにサージェス様を介しましょうって言ったのに聞かなくて」
そう、不動産を扱うサージェスに相談すればいいのにエルヴィーは菌仲間から「この土地を買わないか?」と言われ買ったのだが、購入したばかりの牛4頭をクマと狼にやられてしまった。
新たに牛は購入したが今度は生えている草が適していなかった。ごっそりと植え替えをしたが、牛が病気になり1頭もいなくなった。
近所の人が飼えなくなったヤギを分けてくれたのでヤギミルクでチーズやバターを作り、何とか副業をと考えたブドウ棚で年間20本ほどのワインを作り細々と暮らしている。
ヤギの乳からバターは1リットル使っても僅かしか作れないので希少品。
これが今の生活を支える柱になっている。
エルヴィーもイースト菌や酵母菌を商会に卸しているが儲けがあるかと言えば微妙。
牛にエルヴィーはそれまで貯めていた金を使ってしまい、残った金もナナの出産費用で消えた。
エルヴィーは兄弟だからこそ心配をかけたくなかったし、ナナもルビーが知れば、その頃はルビーもまだサーディスが借金王なのにテコ入れするだろうと思ったので相談をしなかったのだ。
「お嬢様の案なので賛成したいんですけど、今は無理なんです」
ショボンと肩を落とすナナをみてエルヴィーは勢いよく立ち上がった。
「ナナ!任せろ!僕の菌コレクション!売って来るッ」
「え?…売れるの?」
「た、多分…」
ジト目のナナ。エルヴィーの背中で爆睡中のハチ。
サーディスも正直言って菌のコレクションは集める者には高価で希少でも金になるとは思えなかった。
マニア向けコレクションとは古今東西そういうものだ。
「待ちなさいったら!」
「ダメだ!今じゃないとダメなんだ!」
玄関先までくるとナナとエルヴィーの声が家の中から聞こえてくる。
ノックをする前に扉は開き、「やぁ」サーディスは軽く手をあげて挨拶をした。
「これは…どういう状況?」
「サーディス様!聞いてくださいよ!エルがまた作りたてのチーズを持って行こうとしてるんです!」
「チーズを?なんでまた?」
「作ってる最中、作り立て、1時間後、とか時間の経過で菌がどうなるかを顕微鏡で見たいんだよ!兄上!ナナに言ってくれ。菌は世界を救うんだよ」
「その前に、お前がナナに救われただろ?妻の言葉には従うものだ」
「兄上っ!!そんなぁ」
「ほらっ!寄越しなさいって!」
「お願いだ。ちょっと見るだけだから!」
「ダメって言ってるでしょ!あの菌だらけの部屋にちょっとの時間でも置いときたくないの!子供も!チーズも!」
少しだけ切り取っていくならまだしも売り物のチーズをごっそりと持って行って中心部が見たいんだと駄々を捏ねるエルヴィーをナナが「いい加減にしなさい!離縁しますよ!」一喝するとようやくエルヴィーはチーズをナナに返した。
エルヴィーはナナが好きすぎて今では菌への愛よりもナナへの愛が強い。
比べる物なのか?と思ったが人生を捧げたはずの菌から愛を取り戻せ~とナナに進呈したエルヴィー。
胸元でたすき掛けにしたおんぶ紐。エルヴィーの背中では可愛い第1子「ハチ」が寝ている。この状況でも爆睡出来るハチ。サーディスは大物になる予感しかしない。
家の中に招かれたサーディスにナナはお茶を差し出した。
「サーディス様、何かあったんですか?」
「あぁ、ちょっとね。エルヴィーとナナに話があるんだ」
「まさか!!お嬢様と離縁?!」
「ない」サーディスは即答した。
ナナは義理の姉妹となってもルビーの事はお嬢様と呼ぶ。ナナにとってルビーは永遠のお嬢様なのだ。
『名前で呼ぶなんて畏れ多い!!エルとは違うんですよ?エルとは!』
――あのね、ナナ。エルヴィーさんのほうが立場は上よ?――
ルビーはノユビワ家を出て貴族籍を捨てたので、ただの平民。
立場から言えばサーディスとエルヴィーは侯爵家子息でナナは1代限りとは言え準男爵令嬢。一番身分が低いのだが、ナナは「譲れない絶対防衛線」と言い張ったのである。
今ではルビーと結婚したことでサーディスも貴族籍を失ってしまっている。
国王からは事業が国に対して与えた貢献を讃えてルビーに男爵位を授けると言われたがルビーが固辞した。
ナナだって父親が準男爵を賜ったばかりに爵位税を支払わねばならず、口減らしで住み込みの奉公に出されたのだ。男爵位を貰えば確かに貴族相手に商売は出来るけれど、人口の12%しかいない貴族ではなくルビーは88%の平民相手に商売をしたかったし、爵位税を払うくらいなら従業員に1人1ピピになったとしても還元したかった。
【目に見えないもので必要なのは技術と資格。肩書なんて生きるのに何の足しにもなりません】
ルビーはそう言って国王からの褒章を辞退した。
ナナの淹れてくれたお茶をエルヴィーの突き刺さる視線を浴びながら一口飲んだサーディスはルビーの計画を2人に話した。
――ナナは無条件で賛成するだろうな――
そう思ったサーディスだったが違った。
サーディスはナナが諸手をあげて賛成するのでエルヴィーはナナに従う。そう考えていたのだ。
「うーん。ウチは無理ですね」
「え?」サーディスには全く予想外の返事だった。
「牛のミルクでチーズを作ろうとしたんですけど、失敗しちゃって結局ヤギで落ち着きましたけど、その時の借金もあるんです。見ての通り牛用の牧場…買ったときにエルにサージェス様を介しましょうって言ったのに聞かなくて」
そう、不動産を扱うサージェスに相談すればいいのにエルヴィーは菌仲間から「この土地を買わないか?」と言われ買ったのだが、購入したばかりの牛4頭をクマと狼にやられてしまった。
新たに牛は購入したが今度は生えている草が適していなかった。ごっそりと植え替えをしたが、牛が病気になり1頭もいなくなった。
近所の人が飼えなくなったヤギを分けてくれたのでヤギミルクでチーズやバターを作り、何とか副業をと考えたブドウ棚で年間20本ほどのワインを作り細々と暮らしている。
ヤギの乳からバターは1リットル使っても僅かしか作れないので希少品。
これが今の生活を支える柱になっている。
エルヴィーもイースト菌や酵母菌を商会に卸しているが儲けがあるかと言えば微妙。
牛にエルヴィーはそれまで貯めていた金を使ってしまい、残った金もナナの出産費用で消えた。
エルヴィーは兄弟だからこそ心配をかけたくなかったし、ナナもルビーが知れば、その頃はルビーもまだサーディスが借金王なのにテコ入れするだろうと思ったので相談をしなかったのだ。
「お嬢様の案なので賛成したいんですけど、今は無理なんです」
ショボンと肩を落とすナナをみてエルヴィーは勢いよく立ち上がった。
「ナナ!任せろ!僕の菌コレクション!売って来るッ」
「え?…売れるの?」
「た、多分…」
ジト目のナナ。エルヴィーの背中で爆睡中のハチ。
サーディスも正直言って菌のコレクションは集める者には高価で希少でも金になるとは思えなかった。
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