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第07話 あり得ない決定
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エルファンの執務室では従者のカイザーとエルファンが激しい言い争いをしていた。他の従者は2人の剣幕に見ている事しかできず、言い合いは段々とヒートアップしていく一方だった。
「ですから!何度も言っております!次の夜会は隣国の第2王子夫妻もッ!他国も多く大使が参加されるのです。恥ずかしい真似はお止めください!国の恥ですッ!」
「国の恥だと?お前、誰に向かってモノを言ってるんだ!」
「エルファン殿下ですよ。他に誰がいると言うんです?」
「貴様ぁ」
「殴りますか?どうぞ。私が殴られる事で常識ある行動をして頂けるんなら何発でも受けます」
次に開かれる夜会は建国祭を兼ねている。
末子の王女の誕生祭を祝う夜会のように不貞相手であるセレナをエスコートなんかされてしまえば周辺国から笑い者になってしまう。
笑い者になるだけで済むならいい。
招かれている国の幾つかの大使は非常にシスティアーナを気に入っているのだ。
要望を最大限に飲みつつもちゃっかりとモートベル王国の要望も飲ませる。
気がついたら手打ちにしているその手腕は周辺国の評価も高い。その中には国防上の取り決めもあってわざわざ調印所に「システィアーナ(妃)が次回も交渉に応じる事」と明記されているものだってある。
替わりは効かないのだ。
ここでシスティアーナではなくセレナをエスコートでもして入場されたら諸外国はモートベル王国と結んだ条約の更新を見合わせる可能性がある。
その中に直近で脅威と呼ばれている国からの派兵に付いての取り決めの草案だってシスティアーナが纏めたのだ。まだ正式な調印となっていない今、そっぽを向かれるのは非常にまずい。
「システィアーナ様のエスコートをお願いします。勿論、入場だけではなく共にあいさつ回り、その他もろもろです。殿下の婚約者はシス――ぐわっ!!」
エルファンの拳がカイザーの頬を殴りつけた。
まさか本当に殴って来るとは思わず、カイザーは2、3歩後ろによろめいた。
「面倒だから先に告げておく。今度の夜会で私はジルス侯爵令嬢との婚約は破棄とする事を告げる。その場にジルス侯爵はいるだろうが、令嬢は…フッ。いない方が身のためだろうな」
カイザーの後ろでは他の従者が小さく「狂ってんな」呟く声が聞こえた。
それはカイザーも同じ。この時期に国防の要となるジルス侯爵家と手を切るのは自殺行為に等しいし、婚約破棄されるならまだしもする側となればジルス侯爵家は反旗を翻すこと間違いない。
国を国境で守る4つの辺境伯ですら今のエルファンの言動にはただでさえ首を傾げている。
システィアーナと婚約をしているから首の皮1枚が繋がっている状態なのにエルファンの考えている事がカイザーには全く理解できなかった。
「な、なにを…そんな事っ!陛下がお許しになりませんっ!」
「父上?もう許しは得ている。むしろ…父上から婚約破棄をしてはどうだと言葉を頂いたのだが?」
「そんなバカな!あり得ませんっ!」
「なら父上に問うてみればいい。私の意に添わぬ婚約、そして結婚。子を成せるはずもない。邪魔者もいないとなればこの機を逃すなと神が導いてくださっているとしか思えんだろう?」
最後の言葉にカイザーはエルファンが本当に気でも狂ったのかと言いたくなった。
王族、貴族は血を繋ぐために結婚をし、子を作る。
本人の意思とは関係がなく、全ては国民であり領民を守るため。だからこそ衣食住、そして身分が与えられているのだ。
王族でしかも第1王子から「好きではない女との間に子は作れない」とも取れる発言そのものがあり得なかった。
カイザーもエルファンの気持ちは判る。
人間であることを考えれば望んだ女性と結ばれること、逆も然りで幸せを感じるだろう。
しかしそれはこれまでの理からしても望んではならない事だった。
まして今は王妃が医師も匙を投げる体調不良で床に臥せり実家で療養中。
第2王子のステファンが王妃の執務を替わりに行い、遠方の地に視察に出向いて予定ではもう王都に戻る筈なのに戻れずにいる。夜会にも間に合うか間に合わないかという時だ。
邪魔者、それは王妃とステファンの事を指しているとしか思えなかった。
半信半疑で国王に問い合わせようとしたカイザーだったが、問い合わせる前に国王が自らエルファンの元に訪れエルファンの言葉が事実なのだと聞かされ、さらに耳を疑う決定を聞かされた。
「ジルス侯爵令嬢とは婚約破棄。新たな婚約者はセレナ嬢とする」
エルファンに仕える従者、その他使用人の反応は見事なまでに2つ割れた。
心から祝福する者とそれまでの忠誠心を失った者とに。
「ですから!何度も言っております!次の夜会は隣国の第2王子夫妻もッ!他国も多く大使が参加されるのです。恥ずかしい真似はお止めください!国の恥ですッ!」
「国の恥だと?お前、誰に向かってモノを言ってるんだ!」
「エルファン殿下ですよ。他に誰がいると言うんです?」
「貴様ぁ」
「殴りますか?どうぞ。私が殴られる事で常識ある行動をして頂けるんなら何発でも受けます」
次に開かれる夜会は建国祭を兼ねている。
末子の王女の誕生祭を祝う夜会のように不貞相手であるセレナをエスコートなんかされてしまえば周辺国から笑い者になってしまう。
笑い者になるだけで済むならいい。
招かれている国の幾つかの大使は非常にシスティアーナを気に入っているのだ。
要望を最大限に飲みつつもちゃっかりとモートベル王国の要望も飲ませる。
気がついたら手打ちにしているその手腕は周辺国の評価も高い。その中には国防上の取り決めもあってわざわざ調印所に「システィアーナ(妃)が次回も交渉に応じる事」と明記されているものだってある。
替わりは効かないのだ。
ここでシスティアーナではなくセレナをエスコートでもして入場されたら諸外国はモートベル王国と結んだ条約の更新を見合わせる可能性がある。
その中に直近で脅威と呼ばれている国からの派兵に付いての取り決めの草案だってシスティアーナが纏めたのだ。まだ正式な調印となっていない今、そっぽを向かれるのは非常にまずい。
「システィアーナ様のエスコートをお願いします。勿論、入場だけではなく共にあいさつ回り、その他もろもろです。殿下の婚約者はシス――ぐわっ!!」
エルファンの拳がカイザーの頬を殴りつけた。
まさか本当に殴って来るとは思わず、カイザーは2、3歩後ろによろめいた。
「面倒だから先に告げておく。今度の夜会で私はジルス侯爵令嬢との婚約は破棄とする事を告げる。その場にジルス侯爵はいるだろうが、令嬢は…フッ。いない方が身のためだろうな」
カイザーの後ろでは他の従者が小さく「狂ってんな」呟く声が聞こえた。
それはカイザーも同じ。この時期に国防の要となるジルス侯爵家と手を切るのは自殺行為に等しいし、婚約破棄されるならまだしもする側となればジルス侯爵家は反旗を翻すこと間違いない。
国を国境で守る4つの辺境伯ですら今のエルファンの言動にはただでさえ首を傾げている。
システィアーナと婚約をしているから首の皮1枚が繋がっている状態なのにエルファンの考えている事がカイザーには全く理解できなかった。
「な、なにを…そんな事っ!陛下がお許しになりませんっ!」
「父上?もう許しは得ている。むしろ…父上から婚約破棄をしてはどうだと言葉を頂いたのだが?」
「そんなバカな!あり得ませんっ!」
「なら父上に問うてみればいい。私の意に添わぬ婚約、そして結婚。子を成せるはずもない。邪魔者もいないとなればこの機を逃すなと神が導いてくださっているとしか思えんだろう?」
最後の言葉にカイザーはエルファンが本当に気でも狂ったのかと言いたくなった。
王族、貴族は血を繋ぐために結婚をし、子を作る。
本人の意思とは関係がなく、全ては国民であり領民を守るため。だからこそ衣食住、そして身分が与えられているのだ。
王族でしかも第1王子から「好きではない女との間に子は作れない」とも取れる発言そのものがあり得なかった。
カイザーもエルファンの気持ちは判る。
人間であることを考えれば望んだ女性と結ばれること、逆も然りで幸せを感じるだろう。
しかしそれはこれまでの理からしても望んではならない事だった。
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半信半疑で国王に問い合わせようとしたカイザーだったが、問い合わせる前に国王が自らエルファンの元に訪れエルファンの言葉が事実なのだと聞かされ、さらに耳を疑う決定を聞かされた。
「ジルス侯爵令嬢とは婚約破棄。新たな婚約者はセレナ嬢とする」
エルファンに仕える従者、その他使用人の反応は見事なまでに2つ割れた。
心から祝福する者とそれまでの忠誠心を失った者とに。
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