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第06話 激しい頭痛と心の葛藤
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エルファンは私室で頭を抱えていた。
カイザーを殴りつけた拳の痛みはエルファンの気持ちを揺るがせていたのである。
「これでいいんだろうか…くぅっ…頭が割れるように痛い」
ここの所ずっとそうだ。
セレナと一緒に居ると気持ちが落ち着き、何も考えなくていい事に心地よさを覚えていた。
しかし立場が第1王子であることが「このままではいけない」とエルファンを苦しめた。
執務机に置かれた書類もだが、引き出しの中に「どうしよう」と思いつつしまい込んだ書類の存在もエルファンを苦しめた。
「こんなものが見つかったらただでは済まない」
エルファンはセレナにあれこれしてやる金が尽きると国庫に手を付けた。
正しくは広い意味で捉えればエルファンが使っても構わないとも受け取れる婚約者のために使う金である。
セレナにせがまれるままに色々と買い与えてきたけれど、その額は次年度分をあてがっても足らない額になっていた。
良くない事だと解っているだけにエルファンは1人になると気持ちが八方塞になってしまう。
金の事だけではない。
ずっと拮抗していたのにこの半年でステファンと大きく水が開いてしまった。
その要因が判っているのに考えたくなかった。
システィアーナと共にこれまで行ってきたことを続けねば、やらねばと思うと体が強い拒絶を示すようになってしまったのである。
頭の中にもう1人自分がいて、相反する考えを持っている。
「セレナは危険。手を切れ」とずっと訴えかける。
その理由も判る自分がいる事にエルファンは葛藤していた。
何をどう足掻いても自身が玉座を手に入れるにはシスティアーナが欠かせない存在であることは理解していた。
平民でも押し切ればなんとかなるだろうが、王子妃教育、王太子妃教育は単に王家の何たるかを学習する訳ではない。対諸外国との付き合いも全て学ぶのだ。
他国のマナーや常識を知らずして折衝は出来ない。
過去には異宗教の国の教えを知らず、会食に肉料理を出しあわや開戦直前まで揉めたことがある。
それに正式に妃となる前から顔は売っていて、システィアーナは広く知られ過ぎてしまったからセレナと手を切れともう1人の自分が訴えているのかと考えるも…。
「いや、そんなのは…くぅっ」
ズキっと痛む頭をエルファンは痛みを和らげるように指先で押した。
「どうしてティアの事を考えるだけで…こんな…うぅっ…」
周囲には高位貴族の令嬢で、あの場にいた中で一番爵位も高くステファンがジュリアを見初めてしまったことで焦りがあったと言われているがそうではない。
かの日、エルファンはシスティアーナに恋をした。
セレナとの関係は真実の愛と周囲は囃し立てているが、ステファンにとってセレナが真実の愛ならシスティアーナにたいしては無二の愛とも言える。
システィアーナへの思いが胸に灯ると更に頭痛が激しくなり、エルファンは息をするのもようようになった。そんな時はセレナの事を考えると痛みが和らぐ事も体が覚えてしまっていた。
「うぅっ…ダメだ…セレナ、助けてくれ、セレナ…」
声に出すと痛みが快楽に代わって行く気さえした。
そんな中で過去をエルファンは回想した。
ポツリと弱音をセレナに零してしまったことがあったが、セレナはエルファンの望む答えをすんなりと返してくれた。
「それってぇ。きっとシスティアーナさん??がエルファンの名を使って手柄だけを横取りしてるからよ」
「そう思うか?」
「だってまんまじゃない。システィアーナさんは確かに頑張ってると思うのね?でもエルファンが第1王子でぇ。その婚約者だからしゃしゃり出る事が出来るだけで、そうじゃなかったら発言も出来ないでしょう?」
エルファンもシスティアーナが努力しているのは知っている。
しかしそれはセレナも認めつつも王族ではない貴族令嬢なので努力するのは当然の事だと言った。
生まれが違うのだから高貴な自分に嫁ぐのであれば努力することは必須で、その努力の先にエルファンがいるだけ。少しできる程度でエルファンの手柄を全部持って行ってしまっているのだと。
システィアーナはそんな気持ちではないだろうと思いつつも、セレナの言葉を肯定すると自分が認められたような気がして心地よい。
「レナは優しいな。あんな女も認めてやるんだからさ。私には出来ないよ」
「だってぇ。頑張ってるんでしょ?でもどうして欲張りさんな女の人を選んじゃったの?」
「仕方なかったんだ。あの場にあの女より爵位の高い女はいなかった。あの頃の私は愚かだったんだ。母上に選民思想を植え付けられていたんだと思う。そうでなく今、選ぶのなら間違いなくレナを選ぶ。大事なのは爵位や育ち、教養ではなく人間性なんだと」
「えぇーっ。何気にレナ、ディスられてるぅ?」
「そうじゃない。レナはレナであることが全てだ。何もかも超越した存在なんだ。レナに比べたら他の事なんかどうだっていいし問題にならないよ」
エルファンの中でシスティアーナを下げ、セレナの事で心を埋めれば気持ちも凪いで行く。
そんな事を繰り返しているうちに段々とエルファンはシスティアーナへの思いを憎しみに変換する事をするようになってしまっていた。
カイザーを殴りつけた拳の痛みはエルファンの気持ちを揺るがせていたのである。
「これでいいんだろうか…くぅっ…頭が割れるように痛い」
ここの所ずっとそうだ。
セレナと一緒に居ると気持ちが落ち着き、何も考えなくていい事に心地よさを覚えていた。
しかし立場が第1王子であることが「このままではいけない」とエルファンを苦しめた。
執務机に置かれた書類もだが、引き出しの中に「どうしよう」と思いつつしまい込んだ書類の存在もエルファンを苦しめた。
「こんなものが見つかったらただでは済まない」
エルファンはセレナにあれこれしてやる金が尽きると国庫に手を付けた。
正しくは広い意味で捉えればエルファンが使っても構わないとも受け取れる婚約者のために使う金である。
セレナにせがまれるままに色々と買い与えてきたけれど、その額は次年度分をあてがっても足らない額になっていた。
良くない事だと解っているだけにエルファンは1人になると気持ちが八方塞になってしまう。
金の事だけではない。
ずっと拮抗していたのにこの半年でステファンと大きく水が開いてしまった。
その要因が判っているのに考えたくなかった。
システィアーナと共にこれまで行ってきたことを続けねば、やらねばと思うと体が強い拒絶を示すようになってしまったのである。
頭の中にもう1人自分がいて、相反する考えを持っている。
「セレナは危険。手を切れ」とずっと訴えかける。
その理由も判る自分がいる事にエルファンは葛藤していた。
何をどう足掻いても自身が玉座を手に入れるにはシスティアーナが欠かせない存在であることは理解していた。
平民でも押し切ればなんとかなるだろうが、王子妃教育、王太子妃教育は単に王家の何たるかを学習する訳ではない。対諸外国との付き合いも全て学ぶのだ。
他国のマナーや常識を知らずして折衝は出来ない。
過去には異宗教の国の教えを知らず、会食に肉料理を出しあわや開戦直前まで揉めたことがある。
それに正式に妃となる前から顔は売っていて、システィアーナは広く知られ過ぎてしまったからセレナと手を切れともう1人の自分が訴えているのかと考えるも…。
「いや、そんなのは…くぅっ」
ズキっと痛む頭をエルファンは痛みを和らげるように指先で押した。
「どうしてティアの事を考えるだけで…こんな…うぅっ…」
周囲には高位貴族の令嬢で、あの場にいた中で一番爵位も高くステファンがジュリアを見初めてしまったことで焦りがあったと言われているがそうではない。
かの日、エルファンはシスティアーナに恋をした。
セレナとの関係は真実の愛と周囲は囃し立てているが、ステファンにとってセレナが真実の愛ならシスティアーナにたいしては無二の愛とも言える。
システィアーナへの思いが胸に灯ると更に頭痛が激しくなり、エルファンは息をするのもようようになった。そんな時はセレナの事を考えると痛みが和らぐ事も体が覚えてしまっていた。
「うぅっ…ダメだ…セレナ、助けてくれ、セレナ…」
声に出すと痛みが快楽に代わって行く気さえした。
そんな中で過去をエルファンは回想した。
ポツリと弱音をセレナに零してしまったことがあったが、セレナはエルファンの望む答えをすんなりと返してくれた。
「それってぇ。きっとシスティアーナさん??がエルファンの名を使って手柄だけを横取りしてるからよ」
「そう思うか?」
「だってまんまじゃない。システィアーナさんは確かに頑張ってると思うのね?でもエルファンが第1王子でぇ。その婚約者だからしゃしゃり出る事が出来るだけで、そうじゃなかったら発言も出来ないでしょう?」
エルファンもシスティアーナが努力しているのは知っている。
しかしそれはセレナも認めつつも王族ではない貴族令嬢なので努力するのは当然の事だと言った。
生まれが違うのだから高貴な自分に嫁ぐのであれば努力することは必須で、その努力の先にエルファンがいるだけ。少しできる程度でエルファンの手柄を全部持って行ってしまっているのだと。
システィアーナはそんな気持ちではないだろうと思いつつも、セレナの言葉を肯定すると自分が認められたような気がして心地よい。
「レナは優しいな。あんな女も認めてやるんだからさ。私には出来ないよ」
「だってぇ。頑張ってるんでしょ?でもどうして欲張りさんな女の人を選んじゃったの?」
「仕方なかったんだ。あの場にあの女より爵位の高い女はいなかった。あの頃の私は愚かだったんだ。母上に選民思想を植え付けられていたんだと思う。そうでなく今、選ぶのなら間違いなくレナを選ぶ。大事なのは爵位や育ち、教養ではなく人間性なんだと」
「えぇーっ。何気にレナ、ディスられてるぅ?」
「そうじゃない。レナはレナであることが全てだ。何もかも超越した存在なんだ。レナに比べたら他の事なんかどうだっていいし問題にならないよ」
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