魅了の対価

cyaru

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第20話   触れ合いが大事

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「聞いたか?」

「あぁ聞いた。びっくりだよな」

王都の街は王家に関する噂で持ちきりだった。
先ずは視察に向かった地より戻った第2王子ステファンを始めとして側妃、そしてエルファン以外の王子と王女は王籍を抜けることが宣言された。

「でもよ。これでどう変わるってんだ?」

「自分たちに使っていた予算を俺たちに回すってんだろ?でもよ?どうせすぐにまた増税するに1杯賭けるぜ」

「賭けにならねぇだろ。みんなそう思ってるんだからよ」

「でもよぅ。そんな中で第1王子が王太子飛ばして即位なんだろ?急だよな。パレードの事も聞いたか?」

「あぁ。警備とかどうするんだろうな。刺されるぜ?いい加減王族の儀式ってやつには金がかかるってのによ」


民衆でもあり得ないと思うのは、王位継承をエルファンが行う事ではなくその際のパレードを「歩き」で行う事だった。

これまでも現国王が王太子時代に成婚をした時に屋根を取り払った馬車でパレードをした事はあったが周囲を騎士が騎乗し固めていたので暴漢に襲われても直ぐに対応できる万全の警備体勢だった。

なのに今回は議会の議員の平民枠を決める選挙の時のように街を練り歩くと言うのだ。
握手を求めれば可能な限り応えてくれるし、なんなら話しかけても良いとある。

今、王都は食料を買い求めても店に食料がないのだから開店と同時に争奪戦になっている。貴族も炊き出しをしようにも炊き出しをする材料がないのだから腹を空かせて苛立つ王都民も多いのに無謀としか言えない発表だった。


★~★

王宮でも発表をしてしまったが、当事者であるエルファンだけが異を唱えている状態だった。

「レナ、危険だ。パレードは馬車でいいだろう?」

「だぁめ。平民初の王妃なのよ?身近な存在なんだと感じて貰わないとい・け・な・い・の」

「だったら周囲を騎士で固めることを許してくれ」

「何言ってるのよ。そんなことしたら触れ合えないじゃないの。パレードの意味がないわ。そんな事を言いに来たの?暇なの?執務でもすれば?」

「でもレナ…心配なんだよ」

「無用な心配はいらないって言ってるの。しつこいっ。出てって」

エルファンを追い出すとセレナはドカリと椅子に腰かけた。

「それなりに顔は良いんだけど、飽きてきたわね。ま、王妃になれば入れ食いだけど。アハハッ」


セレナを思うばかりに口うるさいところもあるが欲望を叶えるためにエルファンはまだ必要。
扱いがウザイと感じることもあるが、エルファンが国王でないとセレナは王妃になれないので仕方なく傍に置いているだけだ。

それに王妃となった時から執務など義務化されている仕事が増えるが冗談じゃない。
そんなものはやりたい者がやればいいだけでセレナにする気は全くない。

かと言って誰彼が出来る訳でもないので、やはりエルファンは雑用係として必要なのだ。
王宮に来てある程度の習わしなどを教えてもらったが、セレナの考える王妃と実際の王妃は乖離が大きかった。

何より王妃として君臨しても国王が死去など不在となれば国王の座は別に移る。
ステファンたちを「穀潰し」と使用人を焚きつけて追い出したのにエルファンがいなくなったら王妃ではいられなくなる。それでは困るのだ。


セレナは魅了の魔法を駆使し、次々に周囲にいる人間を落としてきたがやはりどんなに接触をしても落ちない人間はいる。

視線をかわすだけで落ちる簡単な人間もいるのだが、ここに来て新たな気付きがあった。
接触は定期的に行わないと効果が薄れて来るのである。

王宮に住まう前、準男爵家にいた時やエルファンに高級宿を用意してもらった時は周囲にいる者は殆どが懐柔出来ていた。

王宮に来てからも使用人の9割は日々の接触で落としてきたが、そうすると市井でセレナを崇める気持ちを持つ者が「おかしいな?」とセレナに疑問を抱くようになってしまった。

顕著だったのは騎士で鍛錬場に行くと我を見失って服従を示すのに隔離された者は徐々に自我を取り戻していた。

――アタシは崇められて当然なのよ。確実な座を手に入れるまではね――

王妃ともなればエルファンはもうセレナの言いなりになっているのでモートベル王国を手に入れたに等しい。街を練り歩くことで数日はセレナを崇める馬鹿どもが増えてくれる。

民衆の声があれば議会の五月蝿い連中も黙らせる事が出来る。
セレナはその間に現国王が議会預かりにしている権力も王家に戻すための決議をさせようと考えていた。

そうしないと今の王家では国家予算を自由に使えなかった。
買い物をしても値上がりしているのは仕方ないにしても、まず議会にお伺いを立てねばならないと王子妃と王妃には違いがある事にも気がついた。

王妃となり、民衆の声を背に議会から権力を取り戻せばセレナの望む完成形に近くなる。
そこからは絶対王政として歯向かうものは断頭台送りにすれば恐怖から誰も逆らう事もしなくなる。

「身近にいる騎士も調教してあげないとね」

身を守るための盾は多ければ多いほどいい。
好きになった女性にはとことん尽くしてくれる系統の男が多い騎士は狩り放題とも言える。

「モテない男ほど従順なのよね。だからモテないってのに気付けっての。アーッハッハ」
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