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第19話 凄惨な末路
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「魔女ロージェリア…聞いたことはあるかい?」
「いいえ。初めて聞きます」
「俺も初めて聞いたよ。っていうか魔女って時代錯誤もいいところだろう?」
「お父様の口から魔女とか…ないわぁ」
システィアーナもお伽噺で魔女が出て来る話は読んだこともあったが、お伽噺の魔女に固有名詞があった話は読んだことがない。
エミリアもカイザーも右に同じでそもそも魔女と言う存在が現実のものだとも思っていなかった。
「私も少し混乱をしているのだが、世の常識だとかそう言うものは一旦忘れて聞いて欲しい」
3人は黙って頷いた。
ただ無言で従うのではなく、たった半年で国が大きく変わってしまった。
たった1人の女性によって何もかもかき回されて滅茶苦茶になったのだ。
それまでなら平民は切り捨てられて終わりだったのに、セレナはどんな暴言を吐いても守られている。この事がそれまでの常識を超えているのだから今更魔女がいましたと言われても驚けるかどうかも判らなかった。
ポルク侯爵は屋敷にある一番古い資料から順にソファのテーブルに並べた。
「左からなんだが、一番古い物は1200年前だ」
「せ、1200年っ?!」
道理で右端と違って紙ではなく羊皮紙のハズだ。
――触っても大丈夫かしら――
エルファンの婚約者だった時でも博物館に収蔵されている羊皮紙に触れることは許されなかった。
目の前にある事がもうそれまでの常識を軽く超えていた。
「その時代でもロージェリアはもう永遠の牢獄と呼ばれる時空の狭間に幽閉をされていたと言うから、実際に活躍した時代は更に遡ると思われるがとうの本人でないと判らないのでそこは省略するが、欲望を強く抱いた人間を取り込み、魔法を与えるとある」
「魔法が貰えるの?私だったら…超絶美貌とかぁ‥新製品のコスメ販売前に手に入――(ごつっ)痛ぁい!」
「お前の欲望なんか聞いてねぇよ」
「ちぇぇぇーっ。兄さまだったらティ――(ガッ)ウゥゥーッ!」
「黙れ。その先は言わせねぇよ?」
ポルク侯爵はまた細い目になり兄妹のやり取りを眺めた。
その間もシスティアーナは羊皮紙に触れたくて堪らない。
「でも欲望を持ってたら魔法って‥安易じゃない?欲望なんて誰でも持ってるけど会った人いないし」
「文献に残る限りでは ”退屈しのぎ” なんだそうだ。ただ…残っている限りの記録ではその欲望が成就したものは1人もいない」
「ならセレナが何か企んでいても失敗するって事か?!」
ポルク侯爵は首を横に振った。
文献に残る証言者はそのロージェリアに魔法を与えられた者を聴取した記録だが、共通しているのは「ロージェリアに魔法を貸してもらった事」「願いは叶ったが失敗した」と口を揃えた事。
「願いが叶ったのに失敗?意味判んねぇな」
「確かに。欲望という願いが叶ったのに何故失敗なんでしょう。叶ったことが失敗なのではないのですよね?」
「あぁ。これは推測だがここを見て欲しい。800年前のこの者は生涯かかっても使いきれない金を望んだ。その次は誰もがうらやむ美貌を望んだ、とある」
「それは叶ったんですよね?」
「あぁ、しかし誰も彼もが捕縛をされたわけではない。彼らが語るには短い者で2,3年、長い者では50年も契約を続けたそうだ。寿命までのせいぜいあと数年何故我慢できなったかと悔やんだそうだが末路は…溶けたそうだ」
<< 溶けた?! >>
「あぁ。手足の指から徐々に2、3か月かけて断末魔の叫びをあげながら溶けたとある。四肢を失った後からが凄惨だったようだが、どんな薬も効かず溶けていくのを見ているしかなかったそうだ」
システィアーナはぞっとして自分の手で自分を抱いた。
エミリアは手で顔を覆い、ふるふると首を振って想像してしまった絵面を振り払った。
カイザーは口を開けたまま茫然とし、ポルク侯爵も文献に記載があるとはいえとても信じられないと呟いた。
証言をしたロージェリアとの契約者たちは体が溶けていく痛みに薬を望み、その対価として知りうる限りを証言したとあるが、結局効果のある薬はなかったのだ。
一思いにと全員が願ったようだが、剣を突き立てようにも体が鋼のようになって剣も火も受け付けなかった。水責めすら弾かれたとあるので契約が満了しなかった場合は呪い返しのような術がかかると思われるとあった。
システィアーナは考え込んだ。
――寿命までせいぜい30年、って事は天寿は全うできたはず?――
考えても答えが出るわけではない。
――会ってみたいわ。ロージェリアに――
しかし、どうすれば、何処に行けば会えるかも判らない。
記録にある鍵では「倉庫の扉を開ければ」「森で迷ったら」「あくびをしたら」とまちまちで会ったのは1度きり。2度目に同じことをしても会えなかったとあるのだ。
――何としても会いたいわ――
その為にはセレナが願った以上の欲望を抱えねばならないし、抱えたところで会える保証はない。
システィアーナは暫くポルク侯爵の部屋に積み上げられた文献を読むことにしたのだった。
「いいえ。初めて聞きます」
「俺も初めて聞いたよ。っていうか魔女って時代錯誤もいいところだろう?」
「お父様の口から魔女とか…ないわぁ」
システィアーナもお伽噺で魔女が出て来る話は読んだこともあったが、お伽噺の魔女に固有名詞があった話は読んだことがない。
エミリアもカイザーも右に同じでそもそも魔女と言う存在が現実のものだとも思っていなかった。
「私も少し混乱をしているのだが、世の常識だとかそう言うものは一旦忘れて聞いて欲しい」
3人は黙って頷いた。
ただ無言で従うのではなく、たった半年で国が大きく変わってしまった。
たった1人の女性によって何もかもかき回されて滅茶苦茶になったのだ。
それまでなら平民は切り捨てられて終わりだったのに、セレナはどんな暴言を吐いても守られている。この事がそれまでの常識を超えているのだから今更魔女がいましたと言われても驚けるかどうかも判らなかった。
ポルク侯爵は屋敷にある一番古い資料から順にソファのテーブルに並べた。
「左からなんだが、一番古い物は1200年前だ」
「せ、1200年っ?!」
道理で右端と違って紙ではなく羊皮紙のハズだ。
――触っても大丈夫かしら――
エルファンの婚約者だった時でも博物館に収蔵されている羊皮紙に触れることは許されなかった。
目の前にある事がもうそれまでの常識を軽く超えていた。
「その時代でもロージェリアはもう永遠の牢獄と呼ばれる時空の狭間に幽閉をされていたと言うから、実際に活躍した時代は更に遡ると思われるがとうの本人でないと判らないのでそこは省略するが、欲望を強く抱いた人間を取り込み、魔法を与えるとある」
「魔法が貰えるの?私だったら…超絶美貌とかぁ‥新製品のコスメ販売前に手に入――(ごつっ)痛ぁい!」
「お前の欲望なんか聞いてねぇよ」
「ちぇぇぇーっ。兄さまだったらティ――(ガッ)ウゥゥーッ!」
「黙れ。その先は言わせねぇよ?」
ポルク侯爵はまた細い目になり兄妹のやり取りを眺めた。
その間もシスティアーナは羊皮紙に触れたくて堪らない。
「でも欲望を持ってたら魔法って‥安易じゃない?欲望なんて誰でも持ってるけど会った人いないし」
「文献に残る限りでは ”退屈しのぎ” なんだそうだ。ただ…残っている限りの記録ではその欲望が成就したものは1人もいない」
「ならセレナが何か企んでいても失敗するって事か?!」
ポルク侯爵は首を横に振った。
文献に残る証言者はそのロージェリアに魔法を与えられた者を聴取した記録だが、共通しているのは「ロージェリアに魔法を貸してもらった事」「願いは叶ったが失敗した」と口を揃えた事。
「願いが叶ったのに失敗?意味判んねぇな」
「確かに。欲望という願いが叶ったのに何故失敗なんでしょう。叶ったことが失敗なのではないのですよね?」
「あぁ。これは推測だがここを見て欲しい。800年前のこの者は生涯かかっても使いきれない金を望んだ。その次は誰もがうらやむ美貌を望んだ、とある」
「それは叶ったんですよね?」
「あぁ、しかし誰も彼もが捕縛をされたわけではない。彼らが語るには短い者で2,3年、長い者では50年も契約を続けたそうだ。寿命までのせいぜいあと数年何故我慢できなったかと悔やんだそうだが末路は…溶けたそうだ」
<< 溶けた?! >>
「あぁ。手足の指から徐々に2、3か月かけて断末魔の叫びをあげながら溶けたとある。四肢を失った後からが凄惨だったようだが、どんな薬も効かず溶けていくのを見ているしかなかったそうだ」
システィアーナはぞっとして自分の手で自分を抱いた。
エミリアは手で顔を覆い、ふるふると首を振って想像してしまった絵面を振り払った。
カイザーは口を開けたまま茫然とし、ポルク侯爵も文献に記載があるとはいえとても信じられないと呟いた。
証言をしたロージェリアとの契約者たちは体が溶けていく痛みに薬を望み、その対価として知りうる限りを証言したとあるが、結局効果のある薬はなかったのだ。
一思いにと全員が願ったようだが、剣を突き立てようにも体が鋼のようになって剣も火も受け付けなかった。水責めすら弾かれたとあるので契約が満了しなかった場合は呪い返しのような術がかかると思われるとあった。
システィアーナは考え込んだ。
――寿命までせいぜい30年、って事は天寿は全うできたはず?――
考えても答えが出るわけではない。
――会ってみたいわ。ロージェリアに――
しかし、どうすれば、何処に行けば会えるかも判らない。
記録にある鍵では「倉庫の扉を開ければ」「森で迷ったら」「あくびをしたら」とまちまちで会ったのは1度きり。2度目に同じことをしても会えなかったとあるのだ。
――何としても会いたいわ――
その為にはセレナが願った以上の欲望を抱えねばならないし、抱えたところで会える保証はない。
システィアーナは暫くポルク侯爵の部屋に積み上げられた文献を読むことにしたのだった。
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