【改】わたくしの事はお気になさらずとも結構です

cyaru

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ファミル王国の国王と王妃

執務室に響くのは、くぐもった笑い声。

その発生源は国王であり、アベラルドの兄でもあるレオポルドだった。
何を笑っていたかと言えば、従者からの報告である。

アベラルドがカリメルラの部屋を訪れ、カリメルラに馬乗りになって殴られていたと聞けば笑わずにはいられない。そして、カリメルラの所業は自分、レオポルドとの結託ではないかと疑っていた事にも笑いが抑えられない。

何よりレオポルドを愉快にさせたのは、父がいよいよ「来たるべき日」を迎えそうだという悪い知らせだった。



「どうされましたの?随分と楽しそう」

元公爵令嬢だった王妃が執務室に入ってきた。
何時だったか、レオポルドが軍事工場に視察にいった隣国で、いたく気に入り珍しく別途購入までしたお気に入りの菓子を幾つか侍女に持たせている。


「なんだ。何の用だ」
「あらあら、今日もご機嫌がよくないようですわね」
「機嫌は関係ない。何の用だ」
「用が無ければ来てはいけませんの?レオポルド様のお好きな菓子が実家に届きましたので持って参りましたの。一休みされては如何でしょう」

王妃はレオポルドと結婚してもうすぐ3年になる。
ステファニアの事は妹のように可愛がっていた。
ハルメル王国に嫁ぐ際も私費を出し家具を持たせた。

アベラルドから下の弟たちとはかなり年齢が開くのと、彼らの母となる他の公妃とは付き合いがほとんどない。レオポルドの母である公妃と、アベラルドの母である前王妃くらいは話をするがそれ以上の関りはない。

レオポルドに冷たくあしらわれても、王妃はレオポルドの事を愛していた。




★☆★

王妃の名はテレーザと言う。
テレーザは公爵家の二女でレオポルドとは3歳の時に婚約をした。

当時のレオポルドは活発な男の子で、侍女達をいつも悪戯で困らせていた。
顔合わせの茶会でも庭園から大きなバッタを手で掴み、テレーザの前に持ってきた。当然公爵夫人と公妃はその場に失神をした。

その後の茶会も事あるごとに悪戯を仕掛け、周りを困らせた。
テレーザも頭の上にカマキリを乗せられたり、菓子を作ったと言われ食べさせてもらえば泥だんごだったりと何度両親に「王宮に行きたくない」「レオポルドの婚約者を辞めたい」と頼んだ事か。

テレーザは1歳年下のアベラルドとその婚約者ステファニアの仲が羨ましかった。
アベラルドは年下のステファニアに懸命に課題を教えていた。ステファニアも自分が出来なければアベラルドも叱られてしまうと必死だった。
そんな2人はいつも一緒にいた。

かたや、レオポルドはテレーザの事は特に何も思う事がないのか、コオロギを背中に入れられて泣いて帰ってからは態度が変わった。

公爵家でテレーザの立ち位置は弱いものだった。
テレーザは二女なので、上に姉がいるのだが姉とは6歳の年の差があった。
姉とテレーザの間に2人の兄が居るが兄もレオポルドよりも年齢が上であるため、側近になるよりも大臣や次官になったほうが気が楽だと言って、テレーザがレオポルドの婚約者になったところで公爵家にはあまりメリットもなかった。

メリットはないが、姉はテレーザを虐めた。理由は嫉妬である。
年齢が6歳上だと言うだけで。年齢の合う令嬢なら妹でも問題ないと言うだけで婚約者にはなれなかった。

教育で課題が出されるたびに、問題の書かれた書面を隠したり捨てたりで答えようにもこたえる事が出来ず、テレーザは出来が悪いと言われた。
両親からは「そんな事ではゲール公爵の娘に負けてしまう」と叱られてしまう。
テレーザには逃げ場がなかった。


そんなテレーザに転機が訪れた。
前の日の夜。前髪を侍女に少し揃えてもらっている時に姉が悪戯をして額の生え際まで前髪にハサミが入ってしまったのだ。以前にも後ろ側を切られてしまったりしたことがあった。その時は誤魔化せたが前髪は誤魔化せない。

テレーザは泣いた。髪を切られてまで、どうして続けねばならないのかと。
どんなにおめかしをして着飾っても話しかけてもレオポルドの瞳にテレーザは映らない。
レオポルドはいつもどこか遠い所を見ていた。

講義が始まる前、先に入室したテレーザはずっと俯いていた。
遅れて入ってきたレオポルドに、立ち上がってカーテシーで挨拶はしたが俯いたまま。どうぜいつも話しかけても返事もしてくれないのだから、このまま過ごそうと思っていた時、レオポルドがテレーザを呼んだ。

「テレーザ」

名前を呼ばれた事は、国王を交えての晩餐などで社交辞令的に呼ぶときくらいだったので、自分の名前をレオポルドが呼んでいるとは思えなかったテレーザは両親が叱りに来たかとピクリと跳ねて動かなかった。

「テレーザ」

もう一度呼ばれ、やはり誰かが読んでいるとキョロキョロするとレオポルドがテレーザの髪を引っ張った。

「痛い…」
「なんで俯いてるんだ」

覗き込みながら聞くレオポルドにテレーザは前髪を手で隠しながら答えた。

「髪が…変なんです」
「どうして。色は先日と変わらないが」
「切り過ぎたんです…。恥ずかしくて」
「切りすぎると恥ずかしいのか?なのにどうしてそこまで切った」

理由を言えないテレーザに代わって侍女が説明をしようとするとレオポルドは言った。

「僕はテレーザに問うているんだ。君は黙ってて」

テレーザは理由を答えるしかなかった。
レオポルドは何もしてくれないだろうと思ってたが、違った。
従者にハサミを持って来るように伝え、ハサミを従者が持ってくれば適当に髪を至る所抓んで、ジャキジャキとハサミを動かした。

「これで僕の方がおかしい髪型だ。テレーザの事を笑うやつはいない」

レオポルドは父の公爵を呼び出し、テレーザの待遇を改めるように伝えた。
公爵家での待遇も変わった。

テレーザはレオポルドの言葉がとても嬉しくて忘れられなかった。
少しだけ赤い耳たぶをした少年は、庇ってくれたのだ。
気持ちの持ちようが変われば、その人を見る目が変わる。

テレーザはレオポルドが相当に努力をしているのを知った。
失敗が許されない練習なしの本番なのに、出来て当たり前の世界。
テレーザはレオポルドの隣に立って恥ずかしくない人間になろうとより努力を始めた。

レオポルドはテレーザに「しなくていい」と言ったがテレーザは「私がやりたいからやっている」と返し、「勝手にしろ」と許しを得た。

そんなテレーザはステファニアに「羨ましい」と言われた事があった。

「テレーザ様は、レオポルド様がやめろって言っても何故行うのです?」
「レオポルドの辞めろは、わたくしの寝る時間が少なくなるからとか、わたくしがつい無理をしてしまうのを知っているからなんですの。なのでやめたくなればやめればいいという意味なんですの」

「羨ましいですわ。わたくしは年齢が1つ下なのでアベラルド様が出来ても、わたくしには出来ない事があるんです。だけど僕にも出来たからとずっと出来るまで付いてくださるので止めるなんて…許されないんです」

それまで羨ましいと思っていたテレーザはアベラルドを見る目が変わった。
アベラルドは確かにステファニアにはまだ無理ではないかという難度の高い要求をしていて、出来るまで何度でも夜遅くまで付き合っていた。
男性と女性という区分もアベラルドにはない。アベラルドが持って振り回せる剣をステファニアは半分の時間も振り回せない。それでも出来るまで付き合う。テレーザはゾッとした。
レオポルドとテレーザは同じ年齢だが、レオポルドと同様に剣技など到底無理な話だったからだ。




★☆★

「さぁ、休憩をしてくださいませ。レオポルド様は休む事をしませんから」

無理やり菓子と茶を差し出せば、不貞腐れながらも手を止めて茶に付き合ってくれる。向かい合って菓子を手に取り一口齧る。甘酸っぱい味が口に広がっていく。

「何をそんなに笑っていましたの?」
「さぁな。忘れた」
「教えてくれませんのね。ズルいわ」

テレーザはレオポルドの本当の闇を知らない。
知っているのは、つっけんどんな言動でもテレーザに付き合ってくれる良き夫である姿だけだった。
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