【改】わたくしの事はお気になさらずとも結構です

cyaru

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謁見室にて

翌日の謁見。場所はレオポルドの私室の向かい側にあるサロンだった。
大きな窓からは手入れをされた庭木が冬と言う季節にも関わらず緑を映す。

先に入ったファッジン辺境伯現当主ヴァレリオと前当主バルトロはその後ろに4人の部下を従えていた。サロンには距離を取って派閥ごとだろうか。幾つかに分かれたテーブルに貴族の当主たちが勢ぞろいしていた。


「見世物じゃねぇぞ。ゴラァ」
「リオ、やめるんだ。彼らも仕事だ」
「へーへー。そりゃご苦労なこって」



ガチャリと扉が開き、カルロ、そしてアベラルドが入室してきた。
アベラルドが着席をしようかと言う頃にもう一度扉が開き、カリメルラが入ってきた。

「チッ」小さく舌打ちをしたのはアベラルドだ。
周りの者達は、カリメルラの装いをみて失笑を堪える事が出来ない。

頭のてっぺんにはティアラがあり、ティアラに負けじと髪の至る所に宝飾品が煌めく。照明の薄暗い夜会でもあるまいに真っ赤なドレス。

ヴァレリオをちらりとみたカリメルラは【フンっ】とそっぽを向いた。

続いて入室してきた王妃テレーザとは真逆の装いにヴァレリオは肩の震えが止まらなかった。



「待たせてしまったか」

最後の入室し、誰にともなく問うたのは国王レオポルドだった。
他の者より2段ほど小上がりになった壇上に設けられた椅子。
王妃テレーザの隣に腰を下ろすと長い足を組み、ヴァレリオ達を少し見下ろしがちに声をかけた。

「ファッジン。遠い所、よく出向いてくれた事に感謝する」

レオポルドの目線はヴァレリオに向いている。
明らかにバルトロとは違い、このような場での礼節に疎いと判っていての事だ。
しかし、ヴァレリオは静かに立ち上がり、ファミル王国の臣下の礼を取った。

右手の拳を軽く握り、胸の前で親指を相手側に向けるよう横向きに当て、会釈程度の角度で頭を垂れる。一時いっときして頭を上げてレオポルドに目線を合わせる。

「ファミル王国、レオポルド・ル・レクサー・ファミル陛下。再三の招待に本日ようやく王都に足を踏み入れる事となり遅ればせながらご即位の挨拶が出来ました事、この上ない喜びに感じております」

ニヤリと口角を上げるヴァレリオはバルトロにウィンクをした。
レオポルドは目尻がピクリと動き、不快感を表している。

ヴァレリオは挨拶をする為の練習は終えていたのである。
恥ずかしかったので深夜にステファニア相手に練習をしたのだが、【再三の招待】という言葉は出立前に入れる事にした。相手がどう思っていようと辺境伯は国防の要。
旧ハルメル王国とファミル王国の間に国境は無くなっても、国境線があったのは旧ハルメル王国だけではない。東西に長い国境線の中間付近が消滅しただけで、辺境伯としての仕事がなくなったわけではない。

【つまらない事でいちいち呼び出すな】という意味合いがあった。

静かな火花を飛ばし合う2人だが、王妃テレーザは話題を変えようと話を振った。

「辺境伯はご結婚をされたそうね。おめでとう」

王妃テレーザには悪気はない。
純粋にステファニアが今度こそ幸せになるならばそれでいいと思っていた。しかしその場には、それをよしとしない者がいただけだ。

レオポルド、テレーザとくれば次はアベラルドの番である。
薄く微笑を浮かべてはいるものの目は笑っていないアベラルドが言葉を発したが直ぐにカリメルラに上から言葉を被せられてしまった。

「私からも祝いの言――」
「どうしてここにステファニアがいないの。謝るから来いと手紙を送ったのに」
「よさないか。カリメルラ」


カリメルラは制したアベラルドをギっと睨みつけた。

「だいたい貴方が――」
「ありがとうございます。妻も喜ぶでしょう」

今度はヴァレリオがカリメルラの言葉を遮るように声をあげた。

「王都は雪が降りませんが、辺境は雪に閉ざされるのです。冷たい雪で妻の足を冷やしたくねぇ…コホン。ありませんのでね。それに…不勉強な新参者で申し訳ない。通常謝罪する者が足を運ぶとばかり思っておりましたがファミル王国では違うようで驚いてしまいました。郷に入っては郷に従えと申しますが‥‥その謝罪は不要であれば出向く苦労もありませんよね」


ヴァレリオの言葉にカリメルラは拍子抜けした顔になった。
手に扇でも持っていればポトリと床に落としてしまっただろう。
カリメルラなりに解釈が終わったと見えるや否や、表情が強張り始めた。

「え?謝らなくていいって事?そんな詰まらない事で私はずっと我慢を強いられてきたって言うの?!」

「カリメルラッ!いい加減にやめないか!」

アベラルドが強い言葉で腰を浮かせながらカリメルラを諫めるが、カリメルラはその手を握り、テーブルをバンと叩く。一度叩けば何かが弾けたのか、二度三度とテーブルに拳を落とした。

「いい加減にしろッ!」

カリメルラの手を押さえつけたアベラルドをレオポルドは鼻で笑う。
隣に居るテレーザはカリメルラが気が触れたのかと従者に問うた。

バルトロは腕を組んで目を閉じ、ヴァレリオは黙ってその様子を見入る。
観衆となった貴族たちは成り行きを見守った。

「伯、申し訳ない。妃は調子が悪いようだ。早々だが下がらせてもらう」
「やめてよ。私に触らないでっ」

ガタターン!!

アベラルドが兵士にカリメルラを私室に戻すよう伝えるが、ヴァレリオは思い切り目の前のテーブルを蹴り倒した。大きな音に抵抗するカリメルラも動きを止めた。

――やはり、猫は被れないか――

バルトロはやれやれと苦笑いである。
そもそもで、ヴァレリオに猫を被るという行為をさせたステファニアが異常なのだ。
猫の外れたヴァレリオは通常に戻ってしまった。


「うっせぇ。陛下の前だぜ?普通なら首があの世に吹っ飛んでいくのも厭わずなんだ。言いたい事あるんだろうから言わせてやれよ。だが、言っておく。俺の嫁の事を一ッ言ひとっことでも悪く言ってみろ。口の中に両足の踵を捩じ込んでやるからな」

ヴァレリオはアベラルドやカリメルラを見てはいない。
向けた視線の先にいるのはレオポルドである。

「なるほど。場を弁えておらぬのではなく場を選んだか。聞き届けよう。第二王子妃、申せ」

カリメルラは後先を考えてはいなかった。勿論言葉を発せば何を追求されるのかすら考えていなかった。解っているのは【謝らなくていい】と自分なりの解釈をした事だけだ。
懸命に言葉を選び、一息飲み込んで喉を動かす。

ちらりとレオポルドを見てカリメルラはゾっとした。
その目は大蛇が獲物を狙う目で今にも細い舌がチョロリと口から出てきそうに見えた。

侍女やメイドの言葉を思い出す。【托卵は死罪】
頭の中で何度も反復した。【そんなつもりはなかったと言おう】【黙ってやり過ごそう】握った手は汗でぐっしょりとなり、床に染みが出来てやしないかとまで考えて、やっと言葉を発した。

「あ、謝らなくていいのなら…もういいわ」

兵士に掴まれた両腕を撫でながら、俯きがちに言えば…。

「ざけんじゃねぇぞ。謝罪が不要なんじゃねぇ。謝る機会は与えないと言う事だ。あと!そこ!ふんぞり返ってんじゃねぇぞ。陛下だか国王だか知ったこっちゃねぇが、俺たちはそんなに暇じゃねぇんだよ。遠征の日程までやりくりして辺鄙な土地まで来てるんだ。自分トコの不始末をわざわざ呼びつけておいて晒してんじゃねぇ」


――そこ!じゃなくレオポルド陛下だ。全く――

既に名前すら右から左だった事にバルトロは頭を抱えたくなった。



「不始末、確かにな。こんな演目は議題にはなかったはずだが?アベラルド。どう責任を取るつもりだ」

ヴァレリオの言葉にレオポルドはアベラルドに問いかけた。
不意に話を振られてしまったアベラルドには答える術がない。
縋るようにアベラルドはカルロに目線を向けた。

カルロが小さく頷いた事に安堵したアベラルドは答えが用意されている物だと思い、カルロにこちらへ来いと小さく手招きをした。
だが、カルロは踵を返し扉の方向に向かって歩いていく。
予想外の行動にアベラルドの手招きした手は下げる事も出来なくなった。


「本日の議題に無かった議題。ついでですからこちらも検討願います」

カルロは向かった先で扉を開ける。
開かれた扉の前に立っていたのはエドガルドだった。
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