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第12話 エルフィンの事業
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それまでワインと言えば平民も日常的に飲料水として飲んでいた。
何故かと言えば井戸はあるモノの汲み上げる水は地方は問題なかったが、人口の多い王都では濁っているし沸騰させても消えない何とも言えない香り付き。
水の状態が悪すぎてワインを飲んだほうがまだマシだった。
ごく一部には何年、何十年と熟成させたワインは楽しめたが、飲料水代わりとするには量が必要で貯蔵は二の次、三の次。
結果発酵も不十分で腐敗した劣悪なワインが出回ることが多く腹を下すことも多々あった。
エルフィンの事業は画期的だった。
1つは濾過。もう1つは貯蔵法を開発したのである。
「どうだ?濁りのない今年のワインだ」
「確かに。いつも何か浮いてたりするのに何にもないわ。それにグラスの向こうがよく見える!」
「だろ?試験的に王都の西区画では試飲をしたんだ。大好評でな」
「そうでしょうね」
一口飲んでみればとても飲みやすい。
アリアも井戸の水を飲むには数回沸騰させたりしていたのでワインを飲むことが多かったけれど口の中に入れたときのエグ味と飲んだ後も残る独特の嫌な風味は何とかならないものかと日頃から感じていた。
どうしてもの時は仕方なく飲んでいたがアリアは青果店から売れ残りや傷になった果実を貰ってきて沸騰し冷ました白湯に果汁を入れて匂いを誤魔化し飲んでいた。
なのにこのワインはなんだ?!
喉を通っていくワインの味と香り。試飲が大好評だったのも頷ける。
「貯蔵法ってなんなの?」
「あぁ。今までは氷室の冷気で時期になれば保管する部屋を移したりとしていたから本当の意味で寝かせることが出来なかったんだ。時期になれば引っ越しさせてた訳だしね」
「じゃぁ、動かさなくていいってこと?」
「これを使うのさ」
エルフィンが「これ」と手に持ってアリアに見せたのは木の板。
それまでワインの保管には素焼きの壺が使われていたがエルフィンは木の板で樽を作り、樽の中でワインを熟成させる方法を見出した。
そしてこれまで冬に振る雪を氷室に入れ、ワインに適した温度の部屋に時期ごと素焼きの壺を移動させていた。
「移動させるのは雪にしたんだ」
「へ?雪?」
「そう。雪だ」
アリアは首を傾げた。
雪の降る時期に積もった雪を貯めておく場所を変えるのは容易だが夏場は雪は降らない。
どうやって移動させるんだろうかと思えば…。
「貯蔵場所も氷室じゃない。地下室だ。適した温度になるようにワインを保管する部屋の周囲に雪を移動させるんだ」
「あ~!そういう事!・・・・って地下室?!」
「説明するよりも見たほうが早い。おいで」
エルフィンの屋敷であるタウンハウスにも昔から地下室はあったが、エルフィンは試行錯誤を繰り返し適切な雪の量と温度を見つけたのだ。
そこでアリアは思い出した。
エルフィンと聞いてどこかで聞いた気がしたが、いくつか掛け持っていた仕事の中に解体屋の片付けがあるが、数年前、おそらくは5、6年も前に「高位貴族の屋敷にある小屋を解体する」と言われて解体前の片付けに行ったことがった。
(そう!そうよ。確か親方もエルフィン様の屋敷って言ってたわ)
疑問を疑問のままにすると気持ち悪かったがこれで1つスッキリしたアリアはエルフィンに先導されて地下に降りてみると想像していたよりも寒くはない。
今は冬なのでどちらかと言えば外のほうが寒いくらいだ。
「ここは気温を13度プラスマイナス2度に保っているんだ。外は2度とか3度、氷点下になることもある。ワインの貯蔵には寒すぎてもダメでね、これが丁度なのさ。こっちへ来てご覧」
さらに案内をされたのは改装した地下室でワインを保管している部屋の隣だった。
人が1人通れる路地のような部屋があるが、足元は20cmほど掘られていて水がうっすら溜まっている。
上を見上げると木の板が見えて雫が板の隙間から落ちていた。
「冷たい空気は下に回るんだ。暖かい空気は上に行く。そして壁は石。石は一旦冷えるとなかなか暖かくならないから一定の温度にするのに雪の量も調節したんだ。これからは氷室から必要な分だけ雪を木の板の上に補充すればいい」
「へぇ。そうなんですね」
エルフィンは同じような構造の家屋を郊外に200を超える数で建設しワインを寝かせているのだと言った。
「建設費は父上から借金をしたし、結婚してくれなかったらそっくり没収されてたよ」
(だからお金が必要だったのね)
エルフィンの作るワインは市井でも大好評。今年晩夏に収穫し作ったばかりのワインは2、3か月寝かせて出荷が始まっていて飛ぶように売れている。
父親に借りた借金もアリアが結婚してくれたので事業継続が認められて5年で完済予定だとエルフィンは笑うけれど、困ったこともあると言う。
「問題があってね。それを解決しないと次のステップに移れないんだ」
(美味しすぎて飲みすぎるってクレームでもあったの?)
ありがちなクレームに悩まされているのかと思ったが、エルフィンの悩みは全く違う事だった。
何故かと言えば井戸はあるモノの汲み上げる水は地方は問題なかったが、人口の多い王都では濁っているし沸騰させても消えない何とも言えない香り付き。
水の状態が悪すぎてワインを飲んだほうがまだマシだった。
ごく一部には何年、何十年と熟成させたワインは楽しめたが、飲料水代わりとするには量が必要で貯蔵は二の次、三の次。
結果発酵も不十分で腐敗した劣悪なワインが出回ることが多く腹を下すことも多々あった。
エルフィンの事業は画期的だった。
1つは濾過。もう1つは貯蔵法を開発したのである。
「どうだ?濁りのない今年のワインだ」
「確かに。いつも何か浮いてたりするのに何にもないわ。それにグラスの向こうがよく見える!」
「だろ?試験的に王都の西区画では試飲をしたんだ。大好評でな」
「そうでしょうね」
一口飲んでみればとても飲みやすい。
アリアも井戸の水を飲むには数回沸騰させたりしていたのでワインを飲むことが多かったけれど口の中に入れたときのエグ味と飲んだ後も残る独特の嫌な風味は何とかならないものかと日頃から感じていた。
どうしてもの時は仕方なく飲んでいたがアリアは青果店から売れ残りや傷になった果実を貰ってきて沸騰し冷ました白湯に果汁を入れて匂いを誤魔化し飲んでいた。
なのにこのワインはなんだ?!
喉を通っていくワインの味と香り。試飲が大好評だったのも頷ける。
「貯蔵法ってなんなの?」
「あぁ。今までは氷室の冷気で時期になれば保管する部屋を移したりとしていたから本当の意味で寝かせることが出来なかったんだ。時期になれば引っ越しさせてた訳だしね」
「じゃぁ、動かさなくていいってこと?」
「これを使うのさ」
エルフィンが「これ」と手に持ってアリアに見せたのは木の板。
それまでワインの保管には素焼きの壺が使われていたがエルフィンは木の板で樽を作り、樽の中でワインを熟成させる方法を見出した。
そしてこれまで冬に振る雪を氷室に入れ、ワインに適した温度の部屋に時期ごと素焼きの壺を移動させていた。
「移動させるのは雪にしたんだ」
「へ?雪?」
「そう。雪だ」
アリアは首を傾げた。
雪の降る時期に積もった雪を貯めておく場所を変えるのは容易だが夏場は雪は降らない。
どうやって移動させるんだろうかと思えば…。
「貯蔵場所も氷室じゃない。地下室だ。適した温度になるようにワインを保管する部屋の周囲に雪を移動させるんだ」
「あ~!そういう事!・・・・って地下室?!」
「説明するよりも見たほうが早い。おいで」
エルフィンの屋敷であるタウンハウスにも昔から地下室はあったが、エルフィンは試行錯誤を繰り返し適切な雪の量と温度を見つけたのだ。
そこでアリアは思い出した。
エルフィンと聞いてどこかで聞いた気がしたが、いくつか掛け持っていた仕事の中に解体屋の片付けがあるが、数年前、おそらくは5、6年も前に「高位貴族の屋敷にある小屋を解体する」と言われて解体前の片付けに行ったことがった。
(そう!そうよ。確か親方もエルフィン様の屋敷って言ってたわ)
疑問を疑問のままにすると気持ち悪かったがこれで1つスッキリしたアリアはエルフィンに先導されて地下に降りてみると想像していたよりも寒くはない。
今は冬なのでどちらかと言えば外のほうが寒いくらいだ。
「ここは気温を13度プラスマイナス2度に保っているんだ。外は2度とか3度、氷点下になることもある。ワインの貯蔵には寒すぎてもダメでね、これが丁度なのさ。こっちへ来てご覧」
さらに案内をされたのは改装した地下室でワインを保管している部屋の隣だった。
人が1人通れる路地のような部屋があるが、足元は20cmほど掘られていて水がうっすら溜まっている。
上を見上げると木の板が見えて雫が板の隙間から落ちていた。
「冷たい空気は下に回るんだ。暖かい空気は上に行く。そして壁は石。石は一旦冷えるとなかなか暖かくならないから一定の温度にするのに雪の量も調節したんだ。これからは氷室から必要な分だけ雪を木の板の上に補充すればいい」
「へぇ。そうなんですね」
エルフィンは同じような構造の家屋を郊外に200を超える数で建設しワインを寝かせているのだと言った。
「建設費は父上から借金をしたし、結婚してくれなかったらそっくり没収されてたよ」
(だからお金が必要だったのね)
エルフィンの作るワインは市井でも大好評。今年晩夏に収穫し作ったばかりのワインは2、3か月寝かせて出荷が始まっていて飛ぶように売れている。
父親に借りた借金もアリアが結婚してくれたので事業継続が認められて5年で完済予定だとエルフィンは笑うけれど、困ったこともあると言う。
「問題があってね。それを解決しないと次のステップに移れないんだ」
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