殿下のお世話はやめました

cyaru

文字の大きさ
19 / 57

第19話  家出する王子

しおりを挟む
翌日、一睡も出来なかったエルドールは国王と王妃が朝食を食べている場に出向いた。

「なんだ」

国王が短く問いかけるとエルドールは国王の足元に両膝をついて床にも額を擦りつけた。

「何の真似だ」

「父上、お願いです。アリスティアとの婚約。続けさせてください」

「無駄だ。もう決まった事だ。決め事を二転三転させてどうする」

「お願いです。愚かであった自分を悔い改めます。一生のお願いです。どうかアリスティアと添い遂げる事を許してください」

「もう遅い。手続きは間もなく終わる。散々に好きな事をしてきた報いだ。お前がする事はフェルマン伯爵令嬢に付き纏う事ではない。ゲース侯爵令嬢を妃に迎え、ゲース家に臣籍降下する事だ」

「父上っ!」

「諄い。殊勝な事を言っているが、またフェルマン伯爵令嬢に執務を押し付け放蕩するだけだろうが」

それまでしてきたことを言われているだけ。
解ってはいるがエルドールは我慢できなかった。

「それを言うのなら父上だって同じ穴の狢でしょう!投資の失敗で作った借――」

「黙れ!」

ガツンと鈍い音がしてエルドールの頭には国王の朝食が皿ごと浴びせられた。
都合の悪いことは全部自分に押し付けられている。そんな気がしてエルドールは拳を固く握りそれ以上は何も言わずに場を辞した。

背中には誰か従者が追いかけようとしたのか国王の「放っておけ」そんな声が聞こえた。

――あぁ、もう放っておいてくれていいよ――

エルドールは部屋に戻るとクローゼットから無造作に衣類を掴んで手頃な袋に詰め込んだ。

「殿下、何をされているのです?」

「なんだっていいだろう。僕は城を出る」

「城を?これからどうなさるんです?」

「フェルマン伯爵家に行く。下働きでも何でもいい。雇って貰ってアリスの傍に居る」

「いやいや、迷惑ですよ。陛下も許すはずがありません」

「父上の許しなんかもういらないんだよ!僕は僕のやり方でアリス――」

「いい加減にしてくださいっ!そういう身勝手な言動でどれだけ周りが迷惑しているか!先ずはそう言うところを直して頂きたいっ!」

衣類を詰め込んでいた袋を執事に取り上げられるとエルドールは何も持たずに部屋を飛び出し、厩舎に行くとまだ鞍も付けていない馬に飛び乗り、フェルマン伯爵家に馬を駆けさせた。


★~★

一方、フェルマン伯爵家では賑やかな朝食の時間になっていた。
遠方から夜会に参加をしたライアンはフェルマン伯爵家にとっては良質な葦を供給してくれる取引先でもある。

領地に戻るのは3日後。アリスティアから「果樹園を作るんですって」と聞かされて今日はフェルマン伯爵と幾つか苗木を取り寄せている商会に一緒に行き、ソゥス伯爵領の気候や土質に適した苗木を商会で選んでもらう予定となった。

どこかで落ち合う事も考えたが、ライアンは王都には滅多に出てこないし地理も不慣れなため、迷えば時間も無駄にしてしまうとフェルマン伯爵家に宿泊してもらったのだ。

会話の弾む朝食の場だが1人朝寝坊をしている者がいる。
アリスティアである。

「ふぇぇぇ。やっぱり夜会は疲れるわね」

「もう皆さん食事室にお集まりですよ」


暢気に寝てしまったが、今朝の朝食にはライアンもいるのだと思い出しアリスティアは寝台から飛び起きた。


「私が最後?」

「はい。皆さんお待ちですよ。急いで支度を致しましょう」

バタバタと着替えを済ませて食事室に行くとアリスティア以外はもう食後の茶を飲んでいた。

――うわぁ。何時もノンビリしてたから寝過ごしたぁ――

全員に見られる中、1人モグモグと食事をする居た堪れなさ。
明日は絶対に寝坊をしないとアリスティアは心に決めた。

アリスティアが朝食を食べ終わると「やっとだ」と兄がテーブルに地図を広げた。

地図上に赤く印が入っているのが国内で葦が採取できる地域。
ライアンは地図を覗き込んでその少なさに声をあげた。

「たったこれだけですか?」

「そうなんだ。出来れば今の供給量は倍とは言わないが3割増しにしたい。ただ葦なら何でもいいわけじゃない。緑でマルをした個所は水質が悪くてね。生育状況も芳しくないんだ」

以前はかなり葦を採取できる場はあったのだが、生活に必ずしも使わなくて良くなると沼地を埋め立てて農耕地にしてしまった。水質が悪いと言われた地は埋め立てた地の水下にある地域。

埋め立てた事によって他所から持ってきた土が原因だと思われた。

「ソゥス伯爵領は貴重だよ」

「ありがとうございます。思うのですが…埋め立てる事が出来るのなら沼地を広げる事って出来ませんかね」

そうすれば収穫量も増えるとライアンは思ったのだが、そうなると地理的には隣の領地を手に入れる必要に迫られる。さてどうするかと考えているところに従者が駆け込んできた。

――あ、その顔、まさかと思うけど――

ものすごく困った顔をしている従者にアリスティアは既視感を覚えた。

「あの、第1王子殿下が来られているんですけど」

――やっぱり!――

またか!と思ったが続く言葉に全員の声が重なった。

「それが、フェルマン伯爵家で雇ってくれと申されておりまして」

<< えぇーっ?! >>

全員が困惑したのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...