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第24話 エドワードだけにしとけばよかった
国王が待つ部屋に通される。「どうぞ」と案内された先にいるのは当然国王。
国王にしてみれば実弟であり、モテンスキ公爵家に婿入りして臣籍降下した実弟から泣きつかれて仕方なくエドワードの年齢に見合う未婚で、婚約者がおらず調査させて仲を取り持っただけ。
その子息は凝りもせず女漁りのような事をしているし、妻となった令嬢はそんな子息に「新しい奥さんを見つけなきゃ」と貼り紙までして市井の女性を集めている。
公爵家なのだから!とここは1つ雷を落とすつもりで2人を呼んだのだが、イリーナの隣には婚約の時も仏頂面だったブロワ伯爵が沈黙する悪魔の様相で鎮座している。
――あ、どうしよ――
ガツンと言ってやるつもりだった国王もブロワ伯爵の姿を見た途端に意気消沈。借りてきた猫になった。
国としてブロワ伯爵を怒らせてしまうのは非常にまずい。
物流が滞るのは目に見えているし、国籍はそのままにしておいても拠点となる事業本部を他国に移されてしまったら実に法人税収の43%を叩き出している家なので一気に財政難になってしまう。
抱えている従業員まで配置転換で他国に移されたら国家収入全体の30%を失う事になる。
話を纏めてやったのだし、娘が国内に留まるのだから恩も売れると渋々引き受けた話でも超特大のおまけにホクホクだったけれど、それは諸刃の剣でもあった。
――くっ!呼びつけて叱るのはエドワードだけにしとけばよかった!――
ブロワ伯爵がいるだけで完全な形勢逆転。イリーナがブロワ伯爵家に前日向かったのも「明日は大丈夫よね?」と父親を引っ張り出すのが目的だった。
立ってるものは親でも使え。ブロワ家の家訓である。
「あ~。なんだ。今日来てもらったのは‥‥仲良くやっているかを聞きたかったんだ」
本当の理由など言えるはずもない。
雷落とすつもりでしたと言えばブロワ伯爵に「私の娘にも?」と返されるに決まっている。市井を騒がせている「公爵家に嫁に行こうキャンペーン」の貼り紙が貼られていた場所を思い出し国王は悔いた。
――そうだよ、貼り紙はブロワ家の集積所じゃないか!――
灯台下暗しとはよく言ったもの。肝心な部分を完全に見落としていた。
「陛下には良いご縁を取り持っていただき感謝しております」
エドワードが胸に手を当てて言う。
「は?」と横目でエドワードをみたイリーナは直ぐに「それもそうね」と納得。
お相手探しの茶会も夜会も咎めたことなど一度もない。
離縁に向かってまっしぐら!エドワードの意向に添うだけでなく、全力で手伝うために市井にまで手を広げ女性を呼び集める良き妻なのだ。
「そうか。それならいいんだ。儂も早く甥夫婦の孫の顔を見たいものだから焦ってしまったよ」
「ご心配をおかけし申し訳ございません。まだ結婚し3か月。蜜月故、その先の説明は省略させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「勿論だ。夫婦の事は夫婦で話し合えばよい。今まで婚姻は取り持ったことが無かったから手法が解らなくてな。こんな仰々しい場にしなくても良かったかと今思っているところだ」
国王はブロワ伯爵の機嫌を損ねたくないし、寝た子を起こさずに難なくこの場をやり過ごしたい。
エドワードは茶会などを開いて見っとも無い真似をしてしまったが、イリーナへの熱い気持ちを感じた日から冷めることのない心と体の火照り。新しい恋を妻と始められるのなら言う事はないと行いをほじくり返されるまいと取り繕う。
が、甘かった。
ここには場の空気そのものを読まない、いや忖度を捨てたイリーナがいた。
全力で応援すると決めたのだから有言実行。
「畏れながら」イリーナの発した声に国王とエドワードの体がビクっと跳ねた。
「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。ご尊顔を拝見いたしまして改めて陛下の臣下であり、民である喜びを感じております」
「そ。そうか。儂も夫人の元気な姿を見れて良かった」
「それで御座いますが」
ビクッ!国王とエドワードの体が再度跳ねた。
「私の様な者が公爵夫人を名乗るのは烏滸がましいと夫にも離縁を申し渡されております。あ、陛下、お気を悪くなさらず!!これも私の不徳の致すところ。全ての責は至らない私に御座います。つきましては夫に相応しい相思相愛の女性をと思い、現在活動をしております故、次回お目にかかります時には更なる飛躍、更なる貢献をモテンスキ公と約束できる方との謁見になるかと」
「エドワードッ!」
「違います。私はイリーナ以外の女性なんてっ!烏滸がましいなんて言ってない!」
「あら、オホホ。申し訳ございません。言葉を盛ってしまいましたわ。えぇ、烏滸がましいとは言われておりませんわね。新しい恋をしたいので見つかれば離縁と申し渡されただけ!でしたわ。ついうっかり。オホホ」
イリーナは国王の前でなければ舌をちょこっと出して、頭を軽くコツンとするところだが、扇で口元を隠すだけに留めた。
イリーナには追い打ちはあっても容赦はない。もう売り切れだ。
過去の恋にも吹っ切れた女に怖いものなどない。
さらに続けた。
「第一弾として400人の女性と面談。ここで決まらなければブロワ家の集積所のある地、全てに貼り紙をし各国の女性にも声掛けをし、第二弾、第三弾と見つかるまでこの身を賭して必ずや夫の新しい恋を見つけてみせます!ご安心を!文字の読み書きが出来ずとも立派な公爵夫人にこの私が仕上げてみせますっ!」
「違うんだよ!イリーナ!」
エドワードはイリーナの手を握ったが、ぺちり!軽く扇で叩かれ弾かれた。
国王にしてみれば実弟であり、モテンスキ公爵家に婿入りして臣籍降下した実弟から泣きつかれて仕方なくエドワードの年齢に見合う未婚で、婚約者がおらず調査させて仲を取り持っただけ。
その子息は凝りもせず女漁りのような事をしているし、妻となった令嬢はそんな子息に「新しい奥さんを見つけなきゃ」と貼り紙までして市井の女性を集めている。
公爵家なのだから!とここは1つ雷を落とすつもりで2人を呼んだのだが、イリーナの隣には婚約の時も仏頂面だったブロワ伯爵が沈黙する悪魔の様相で鎮座している。
――あ、どうしよ――
ガツンと言ってやるつもりだった国王もブロワ伯爵の姿を見た途端に意気消沈。借りてきた猫になった。
国としてブロワ伯爵を怒らせてしまうのは非常にまずい。
物流が滞るのは目に見えているし、国籍はそのままにしておいても拠点となる事業本部を他国に移されてしまったら実に法人税収の43%を叩き出している家なので一気に財政難になってしまう。
抱えている従業員まで配置転換で他国に移されたら国家収入全体の30%を失う事になる。
話を纏めてやったのだし、娘が国内に留まるのだから恩も売れると渋々引き受けた話でも超特大のおまけにホクホクだったけれど、それは諸刃の剣でもあった。
――くっ!呼びつけて叱るのはエドワードだけにしとけばよかった!――
ブロワ伯爵がいるだけで完全な形勢逆転。イリーナがブロワ伯爵家に前日向かったのも「明日は大丈夫よね?」と父親を引っ張り出すのが目的だった。
立ってるものは親でも使え。ブロワ家の家訓である。
「あ~。なんだ。今日来てもらったのは‥‥仲良くやっているかを聞きたかったんだ」
本当の理由など言えるはずもない。
雷落とすつもりでしたと言えばブロワ伯爵に「私の娘にも?」と返されるに決まっている。市井を騒がせている「公爵家に嫁に行こうキャンペーン」の貼り紙が貼られていた場所を思い出し国王は悔いた。
――そうだよ、貼り紙はブロワ家の集積所じゃないか!――
灯台下暗しとはよく言ったもの。肝心な部分を完全に見落としていた。
「陛下には良いご縁を取り持っていただき感謝しております」
エドワードが胸に手を当てて言う。
「は?」と横目でエドワードをみたイリーナは直ぐに「それもそうね」と納得。
お相手探しの茶会も夜会も咎めたことなど一度もない。
離縁に向かってまっしぐら!エドワードの意向に添うだけでなく、全力で手伝うために市井にまで手を広げ女性を呼び集める良き妻なのだ。
「そうか。それならいいんだ。儂も早く甥夫婦の孫の顔を見たいものだから焦ってしまったよ」
「ご心配をおかけし申し訳ございません。まだ結婚し3か月。蜜月故、その先の説明は省略させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「勿論だ。夫婦の事は夫婦で話し合えばよい。今まで婚姻は取り持ったことが無かったから手法が解らなくてな。こんな仰々しい場にしなくても良かったかと今思っているところだ」
国王はブロワ伯爵の機嫌を損ねたくないし、寝た子を起こさずに難なくこの場をやり過ごしたい。
エドワードは茶会などを開いて見っとも無い真似をしてしまったが、イリーナへの熱い気持ちを感じた日から冷めることのない心と体の火照り。新しい恋を妻と始められるのなら言う事はないと行いをほじくり返されるまいと取り繕う。
が、甘かった。
ここには場の空気そのものを読まない、いや忖度を捨てたイリーナがいた。
全力で応援すると決めたのだから有言実行。
「畏れながら」イリーナの発した声に国王とエドワードの体がビクっと跳ねた。
「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。ご尊顔を拝見いたしまして改めて陛下の臣下であり、民である喜びを感じております」
「そ。そうか。儂も夫人の元気な姿を見れて良かった」
「それで御座いますが」
ビクッ!国王とエドワードの体が再度跳ねた。
「私の様な者が公爵夫人を名乗るのは烏滸がましいと夫にも離縁を申し渡されております。あ、陛下、お気を悪くなさらず!!これも私の不徳の致すところ。全ての責は至らない私に御座います。つきましては夫に相応しい相思相愛の女性をと思い、現在活動をしております故、次回お目にかかります時には更なる飛躍、更なる貢献をモテンスキ公と約束できる方との謁見になるかと」
「エドワードッ!」
「違います。私はイリーナ以外の女性なんてっ!烏滸がましいなんて言ってない!」
「あら、オホホ。申し訳ございません。言葉を盛ってしまいましたわ。えぇ、烏滸がましいとは言われておりませんわね。新しい恋をしたいので見つかれば離縁と申し渡されただけ!でしたわ。ついうっかり。オホホ」
イリーナは国王の前でなければ舌をちょこっと出して、頭を軽くコツンとするところだが、扇で口元を隠すだけに留めた。
イリーナには追い打ちはあっても容赦はない。もう売り切れだ。
過去の恋にも吹っ切れた女に怖いものなどない。
さらに続けた。
「第一弾として400人の女性と面談。ここで決まらなければブロワ家の集積所のある地、全てに貼り紙をし各国の女性にも声掛けをし、第二弾、第三弾と見つかるまでこの身を賭して必ずや夫の新しい恋を見つけてみせます!ご安心を!文字の読み書きが出来ずとも立派な公爵夫人にこの私が仕上げてみせますっ!」
「違うんだよ!イリーナ!」
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