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第26話 エドワードの謝罪
「それでね。ここはこうするのよ」
「わぁ。ホントだ。奥様すごーい。ほら、これ見てくださいよ。色を途中で変える方法が解らなくて1色でしか作った事なかったんです」
イリーナは部屋でハートと共に鈎針と呼ばれる小さな金属製の棒を使って編み物をしていた。
春になったとは言えまだ朝晩の冷え込みは激しい。
お仕着せの下に穿く「毛糸のパンツ」を編み棒で編んだがモコモコになってしまうので、もっと厚みはないが保温性のあるものを求め、重ね着をしたが今度は洗濯物が増えるだけなのでイリーナに鈎針で編むことを教えてもらったハート。
パンツなど誰に見せる訳でも無いが、見えない所にも拘りがあるのがティーンの女の子。
途中で色を変える方法を教えてもらって早速試す。
きゃっきゃと楽しい声が聞こえてくる扉の向こうにエドワードはノックをする手が扉の寸前で止まった。
邪魔をしていいのか迷ってしまったのだ。
こんな気持ちになった事は一度もない。
邪魔になるんじゃないかなんて考えた事もなかったし、何より姿は扉に阻まれて見えないけれどイリーナの楽しそうな声が心地よい。さっきまで不安に駆られていた心が穏やかになっていく。
同時にハートに対してはイラっとしてしまった。
――ハートじゃなく私に語り掛けて欲しい――
ハートはイリーナと同じ女性だし使用人で、イリーナの側付き。
妙な関係になることはほぼないので、そんな心配はするだけ無駄と解っている。
側付きと良い関係を築くことは良い事だと解っているけれど、ハートに嫉妬をしてしまった。
そう言えばとイリーナがクロバーも交えて会話をしているのを何度か見たこともあった。
クロバーには妻もいるしエドワードより年上の子供もいて、ついでに孫もいる。不適切な関係でないことは解っているけれど、その光景を思い出すとつい握った拳に力が入ってしまう。
――これも醜い嫉妬だ。しかも私の勝手な嫉妬だ――
エドワードは意を決し、扉をノックした。
コンコンコン。
カチャリと開いた扉からはハートが「はい?」と顔を出した。
「その…イリーナが先に戻っていると聞いた。少し話が出来るだろうか?」
「お待ちくださいね」
扉はいったん閉じてハートの足音が小さく聞こえる。さっきまで扉の外にまで聞こえていた声は聞こえない。小さな声で話をしているのだろう。
小さな声で話すという事はそれだけ距離も近い。
エドワードはまたイリーナに近づけるハートに嫉妬心を抱いた。
会ってくれるだろうか。国王との面会はそれだけで精神力がガッツリと削られると友人たちは口を揃える。「帰ったらもうぐったりだよ。食事もせずに体力回復さ」と笑っていたことを思い出す。
イリーナは体調不良の日も多いのに大丈夫だろうか。
そうでなくても昨日は過呼吸で大変な状況だったとも聞いてエドワードがそわそわしていると扉が開いた。
「どうぞ。私はお茶の用意をしますので。ぐれぐれも奥様に無体な事をしないでくださいね」
「勿論だ。約束する」
ハートと入れ違うように部屋に入ると部屋の中がイリーナの髪から香るにおいと同じ香りで満たされている事に気が付く。夫婦の寝室にこの香りはない。
朝起きた時にすぅーっと直ぐに消えていく香りに気が付くことはあるけれど、こんなに満ち満ちた香りではない。
「具合はどうだ?疲れただろう?」
「いいえ?それよりもお話とは?わざわざ部屋に起こし頂かなくても呼んで頂ければ伺いましたのに」
「つ、つ、妻の部屋なんだし…それに私の部屋にだって来たい時に来てくれて構わない。夫婦なんだから」
「は?」
イリーナの目が最上級に細くなる。
そうだった。イリーナを最初に拒絶したのは自分だったとエドワードは「失言だった」と頭を下げた。
そしてイリーナの腰かけている椅子の前に行き、両膝をついた。
「どうなさったんです?持病の癪が出ました?お医者様を――」
「違うんだっ!」
「ですが突然崩れ落ちるように膝を付かれましたよね?」
大嘘である。
崩れ落ちるは飛躍しすぎた表現であることはイリーナが一番よく解っている。
医者でも呼べばさっさと退散してくれると思っての言葉だ。
「イリーナ。私は悔いている」
「悔いて?またどうしてですの?旦那様が悔い――」
「言わないでくれ」
「はい。お口チャックですわね」
イリーナは口をジッパーで閉じる真似をして黙った。
「そう言う意味じゃない。気持ち悪いと思うが君の声が聴きたい。でも…旦那様と呼ぶのは止めてくれないか」
「では…モテンスキ公でよろしいかしら」
「それも却下だ。出来れば…名前で…欲を言えば愛称で呼んでくれるとありがたい」
――え?節操無しとか色呆けとか?――
イリーナは結構本気で考えている。イリーナの考える中に「エド」や「エディ」などと言う呼び名は選択肢にすら上がらない。
「今更だとは思うがっ!!本当に…申し訳ありませんでしたぁぁーっ!!」
ガバっと頭を下げたエドワードは勢いが付きすぎてバランスを崩し前に転んだが、そこにはイリーナの足と椅子の足があった。突っ込むように倒れる途中でイリーナの足はひょい!と上がったのは見えたが座面の下にエドワードの頭がある状態。
「すまない。ちょっと後退する。足を下ろしたら行ってくれ」
ズリズリ。
エドワードは突っ伏した姿勢のままで膝を擦って後ろに下がる。
「下ろしました。いったいなんですの?」
「イリーナ。私はっ!君とやり直したいっ!君こそ私の唯一だと気づいたんだ」
エドワードの告白に短い答えが頭の上から返ってきた。
「却下です」
「わぁ。ホントだ。奥様すごーい。ほら、これ見てくださいよ。色を途中で変える方法が解らなくて1色でしか作った事なかったんです」
イリーナは部屋でハートと共に鈎針と呼ばれる小さな金属製の棒を使って編み物をしていた。
春になったとは言えまだ朝晩の冷え込みは激しい。
お仕着せの下に穿く「毛糸のパンツ」を編み棒で編んだがモコモコになってしまうので、もっと厚みはないが保温性のあるものを求め、重ね着をしたが今度は洗濯物が増えるだけなのでイリーナに鈎針で編むことを教えてもらったハート。
パンツなど誰に見せる訳でも無いが、見えない所にも拘りがあるのがティーンの女の子。
途中で色を変える方法を教えてもらって早速試す。
きゃっきゃと楽しい声が聞こえてくる扉の向こうにエドワードはノックをする手が扉の寸前で止まった。
邪魔をしていいのか迷ってしまったのだ。
こんな気持ちになった事は一度もない。
邪魔になるんじゃないかなんて考えた事もなかったし、何より姿は扉に阻まれて見えないけれどイリーナの楽しそうな声が心地よい。さっきまで不安に駆られていた心が穏やかになっていく。
同時にハートに対してはイラっとしてしまった。
――ハートじゃなく私に語り掛けて欲しい――
ハートはイリーナと同じ女性だし使用人で、イリーナの側付き。
妙な関係になることはほぼないので、そんな心配はするだけ無駄と解っている。
側付きと良い関係を築くことは良い事だと解っているけれど、ハートに嫉妬をしてしまった。
そう言えばとイリーナがクロバーも交えて会話をしているのを何度か見たこともあった。
クロバーには妻もいるしエドワードより年上の子供もいて、ついでに孫もいる。不適切な関係でないことは解っているけれど、その光景を思い出すとつい握った拳に力が入ってしまう。
――これも醜い嫉妬だ。しかも私の勝手な嫉妬だ――
エドワードは意を決し、扉をノックした。
コンコンコン。
カチャリと開いた扉からはハートが「はい?」と顔を出した。
「その…イリーナが先に戻っていると聞いた。少し話が出来るだろうか?」
「お待ちくださいね」
扉はいったん閉じてハートの足音が小さく聞こえる。さっきまで扉の外にまで聞こえていた声は聞こえない。小さな声で話をしているのだろう。
小さな声で話すという事はそれだけ距離も近い。
エドワードはまたイリーナに近づけるハートに嫉妬心を抱いた。
会ってくれるだろうか。国王との面会はそれだけで精神力がガッツリと削られると友人たちは口を揃える。「帰ったらもうぐったりだよ。食事もせずに体力回復さ」と笑っていたことを思い出す。
イリーナは体調不良の日も多いのに大丈夫だろうか。
そうでなくても昨日は過呼吸で大変な状況だったとも聞いてエドワードがそわそわしていると扉が開いた。
「どうぞ。私はお茶の用意をしますので。ぐれぐれも奥様に無体な事をしないでくださいね」
「勿論だ。約束する」
ハートと入れ違うように部屋に入ると部屋の中がイリーナの髪から香るにおいと同じ香りで満たされている事に気が付く。夫婦の寝室にこの香りはない。
朝起きた時にすぅーっと直ぐに消えていく香りに気が付くことはあるけれど、こんなに満ち満ちた香りではない。
「具合はどうだ?疲れただろう?」
「いいえ?それよりもお話とは?わざわざ部屋に起こし頂かなくても呼んで頂ければ伺いましたのに」
「つ、つ、妻の部屋なんだし…それに私の部屋にだって来たい時に来てくれて構わない。夫婦なんだから」
「は?」
イリーナの目が最上級に細くなる。
そうだった。イリーナを最初に拒絶したのは自分だったとエドワードは「失言だった」と頭を下げた。
そしてイリーナの腰かけている椅子の前に行き、両膝をついた。
「どうなさったんです?持病の癪が出ました?お医者様を――」
「違うんだっ!」
「ですが突然崩れ落ちるように膝を付かれましたよね?」
大嘘である。
崩れ落ちるは飛躍しすぎた表現であることはイリーナが一番よく解っている。
医者でも呼べばさっさと退散してくれると思っての言葉だ。
「イリーナ。私は悔いている」
「悔いて?またどうしてですの?旦那様が悔い――」
「言わないでくれ」
「はい。お口チャックですわね」
イリーナは口をジッパーで閉じる真似をして黙った。
「そう言う意味じゃない。気持ち悪いと思うが君の声が聴きたい。でも…旦那様と呼ぶのは止めてくれないか」
「では…モテンスキ公でよろしいかしら」
「それも却下だ。出来れば…名前で…欲を言えば愛称で呼んでくれるとありがたい」
――え?節操無しとか色呆けとか?――
イリーナは結構本気で考えている。イリーナの考える中に「エド」や「エディ」などと言う呼び名は選択肢にすら上がらない。
「今更だとは思うがっ!!本当に…申し訳ありませんでしたぁぁーっ!!」
ガバっと頭を下げたエドワードは勢いが付きすぎてバランスを崩し前に転んだが、そこにはイリーナの足と椅子の足があった。突っ込むように倒れる途中でイリーナの足はひょい!と上がったのは見えたが座面の下にエドワードの頭がある状態。
「すまない。ちょっと後退する。足を下ろしたら行ってくれ」
ズリズリ。
エドワードは突っ伏した姿勢のままで膝を擦って後ろに下がる。
「下ろしました。いったいなんですの?」
「イリーナ。私はっ!君とやり直したいっ!君こそ私の唯一だと気づいたんだ」
エドワードの告白に短い答えが頭の上から返ってきた。
「却下です」
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