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第21話 ライネル、調停で驚愕
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調停院から届いた書類を受け取ったライネルはその書類を床に叩きつけた。
バサッと一面に散らばる書類を拳を握りしめて歯を食いしばり、立ったままで怒りで震えた。
怒りの矛先はビオレッタではなくオルバンシェ伯爵だ。
ビオレッタだけで調停を起こす事は考えられず、入れ知恵をしているのだと思い激しい怒りを覚えた。
「ビオレッタに説明をすれば全て丸く収まる事なのに、いつまでも親ヅラしやがって」
オルバンシェ伯爵家にいないのならファッセル侯爵家だろうとあたりは付けたが、伯爵家と侯爵家。爵位は1つしか違わなくても扱いは全く違う。
面会をしてもらうだけなのに、先ずは間に伯爵位以上の当主に入ってもらわねば先触れさえ送る事も許されない。
ライネルは実家のアガトン家を訪れ父に頭を下げた。
「父上、頼む。ファッセル侯爵家に面会を取り付けたいんだ」
「こ、侯爵家だとっ?!・・・お前・・・はぁー・・・」
長い溜息を吐き出したアガトン伯爵がライネルに返した返事は冷たかった。
「勘弁してくれ」
「見捨てるのか?僕が武功を上げたことでアガトン家も恩恵はあっただろう?金をくれと言ってるんじゃない!話を通してくれるだけでいいんだよ!」
「いい加減に親離れをしてくれないか。お前はもう家を出たんだ。恩を受けたと言うが我が家の事業にはさして影響があったとは思えない。それに部屋の解約金も出した。それ以上を求めないでくれ」
仲介はしてくれず、実家なのに追い払われてしまった。
アガトン伯爵もオルバンシェ伯爵がファッセル侯爵と連名で国王に王命の撤回を申請した事は聞き及んでいて、これ以上息子の事だとは言え深入りをすればアガトン家も巻き込まれてしまう。
長男に爵位を譲るまであと少しなのにソフィアという爆弾を抱えたライネルの肩を持つのは危険すぎる。
2つの家が反対をしていて、ライネルにあるのは国王の王命のみ。
その国王も肩書が「国王」なので誰も逆らわないが、人望も薄く信用もしていない。触らぬ神に祟りなしとばかりに近からず遠からずの距離で忠誠を誓っているふりをしている者がほとんど。
それも次にまた発表される増税案で王家そのものがどっちに転ぶか判らない。
国王が引きずり降ろされれば「変わり者」「偏屈者」と言われる王太子が即位するだろうが、この王太子も曲者で貴族ではなく成り上がりの平民たちと行動を共にしていて頼りにはならない。
市井とは言え、部屋を借りて更新を待たず退去する場合の違約金はそれなりの額で、増税に喘ぐアガトン家には痛い出費だった。
孤立無援となったライネルは調停の日、家令も連れず1人で調停院に出向いた。
馬を預けていると、先に到着をしたのか見慣れた家紋のついた馬車が内部を清掃しているのが見えた。
「ビオレッタ・・・先に着いてるんだ。変わらないな」
そう、いつもビオレッタは約束の時間よりも早く来るのでライネルも待たせる事が無いようにと急いで待ち合わせ場所に向かった。
あの事件までは9割がオルバンシェ伯爵家に迎えに行っていたが、ライネルが到着すると玄関前までビオレッタが出迎えてくれていた。
話し合いの場は当事者と調停員のみとなる。
距離を置いて配置されたテーブルに着くと、会いたくて堪らなかったビオレッタが向かいに座っていた。
「ビオレッタ!!会いたかった」
「静かに。発言は許可しておりませんよ」
大声でビオレッタを呼んだからか。ビオレッタがライネルを見た。しかし声を返してくれることはなく、ライネルには付き添いはいないのにビオレッタの隣には青年が1人付いていた。
ライネルはこの男がビオレッタに色々と吹き込んで自分からビオレッタを奪おうとしている男だなのと思ったのだが、調停を始める前に5人の調停員が自己紹介をする中で、ビオレッタの隣にいるのが調停院の職員だと言う事も知った。
(うっかり怒鳴るところだった。良かった。今日はツイてる)
ライネルは勘違いで怒り出すところだったと安堵したが、何故ビオレッタに職員が付いているのかまでは考えなかった。
調停と言っても、調停員がお互いに同じ質問をして返答を待つ。
以前はそれぞれを別室で聴き取りをしていたが、ここの所調停院は忙しい。離縁だけを扱うのではなく犯罪には当たらないような小競り合いまで調停に持ち込む者が増えたので効率化重視。
2つの部屋を使うより、どうせ当事者なのだから一度に済ませようとやり方を変えたのだ。
「離縁の申し立てですが、ライネルさんは同意しますか」
「しません!するわけがない!この結婚は王命ですよ!」
「王命かどうかは関係ありません。聞かれた事だけ答えて頂けますか?」
「は、はい…同意しません」
調停院はあくまでも中立でどちらの肩を持つこともない。
しかし、調停の間、ビオレッタは一言も言葉を発する事も無いばかりかライネルの見る限り職員だと言っても男性とビオレッタの距離は近い。
問い掛けの度に2人でなにかごそごそとして、答えるのは男性職員。
何度目かの質問を調停員に問われた時、ライネルは堪らず立ち上がってビオレッタの隣にいる男性に向かって指をさし、「失礼過ぎる!」と声をあげた。
「何が失礼なのですか?」調停員がライネルに問い掛けた。
「聞かれるたびにビオレッタが答えるのならまだ判る。しかし!その男は間男なのではないのか?先程からしゃしゃり出てビオレッタの代弁者とばかりに答えてばかりだ!失礼極まりないだろう!」
調停員たちは記録書の最初のページから順に紙を捲り確認をし始めた。
ライネルにはその行動も腹立たしい。
着席する事もなくライネルは「その男を退席させてくれ!これが話し合いと言えるか!」捲し立てる。
調停員がライネルに向かって発した言葉でライネルは事実を知った。
「お静かに。隣にいる男性は職員で間違いありません。ライネルさん。あなた・・・ビオレッタさんが耳が不自由である事をご存じないのですか?爆破事件でビオレッタさんは音をほぼ失っているのですよ?」
「えっ‥‥」
「今の貴方のように大声を出せば ”何か言っている” とは認識できるでしょうか、私達の問いかけはビオレッタさんには聞こえていないのです。なので、隣にいる者が聴き取りをして筆談、文字にしてビオレッタさんの答えを代弁しているのです。貴方・・・離縁には同意しないと言いながら彼女の置かれている状況をご存じないのですか?」
ライネルはハッとしてビオレッタを見た。
バサッと一面に散らばる書類を拳を握りしめて歯を食いしばり、立ったままで怒りで震えた。
怒りの矛先はビオレッタではなくオルバンシェ伯爵だ。
ビオレッタだけで調停を起こす事は考えられず、入れ知恵をしているのだと思い激しい怒りを覚えた。
「ビオレッタに説明をすれば全て丸く収まる事なのに、いつまでも親ヅラしやがって」
オルバンシェ伯爵家にいないのならファッセル侯爵家だろうとあたりは付けたが、伯爵家と侯爵家。爵位は1つしか違わなくても扱いは全く違う。
面会をしてもらうだけなのに、先ずは間に伯爵位以上の当主に入ってもらわねば先触れさえ送る事も許されない。
ライネルは実家のアガトン家を訪れ父に頭を下げた。
「父上、頼む。ファッセル侯爵家に面会を取り付けたいんだ」
「こ、侯爵家だとっ?!・・・お前・・・はぁー・・・」
長い溜息を吐き出したアガトン伯爵がライネルに返した返事は冷たかった。
「勘弁してくれ」
「見捨てるのか?僕が武功を上げたことでアガトン家も恩恵はあっただろう?金をくれと言ってるんじゃない!話を通してくれるだけでいいんだよ!」
「いい加減に親離れをしてくれないか。お前はもう家を出たんだ。恩を受けたと言うが我が家の事業にはさして影響があったとは思えない。それに部屋の解約金も出した。それ以上を求めないでくれ」
仲介はしてくれず、実家なのに追い払われてしまった。
アガトン伯爵もオルバンシェ伯爵がファッセル侯爵と連名で国王に王命の撤回を申請した事は聞き及んでいて、これ以上息子の事だとは言え深入りをすればアガトン家も巻き込まれてしまう。
長男に爵位を譲るまであと少しなのにソフィアという爆弾を抱えたライネルの肩を持つのは危険すぎる。
2つの家が反対をしていて、ライネルにあるのは国王の王命のみ。
その国王も肩書が「国王」なので誰も逆らわないが、人望も薄く信用もしていない。触らぬ神に祟りなしとばかりに近からず遠からずの距離で忠誠を誓っているふりをしている者がほとんど。
それも次にまた発表される増税案で王家そのものがどっちに転ぶか判らない。
国王が引きずり降ろされれば「変わり者」「偏屈者」と言われる王太子が即位するだろうが、この王太子も曲者で貴族ではなく成り上がりの平民たちと行動を共にしていて頼りにはならない。
市井とは言え、部屋を借りて更新を待たず退去する場合の違約金はそれなりの額で、増税に喘ぐアガトン家には痛い出費だった。
孤立無援となったライネルは調停の日、家令も連れず1人で調停院に出向いた。
馬を預けていると、先に到着をしたのか見慣れた家紋のついた馬車が内部を清掃しているのが見えた。
「ビオレッタ・・・先に着いてるんだ。変わらないな」
そう、いつもビオレッタは約束の時間よりも早く来るのでライネルも待たせる事が無いようにと急いで待ち合わせ場所に向かった。
あの事件までは9割がオルバンシェ伯爵家に迎えに行っていたが、ライネルが到着すると玄関前までビオレッタが出迎えてくれていた。
話し合いの場は当事者と調停員のみとなる。
距離を置いて配置されたテーブルに着くと、会いたくて堪らなかったビオレッタが向かいに座っていた。
「ビオレッタ!!会いたかった」
「静かに。発言は許可しておりませんよ」
大声でビオレッタを呼んだからか。ビオレッタがライネルを見た。しかし声を返してくれることはなく、ライネルには付き添いはいないのにビオレッタの隣には青年が1人付いていた。
ライネルはこの男がビオレッタに色々と吹き込んで自分からビオレッタを奪おうとしている男だなのと思ったのだが、調停を始める前に5人の調停員が自己紹介をする中で、ビオレッタの隣にいるのが調停院の職員だと言う事も知った。
(うっかり怒鳴るところだった。良かった。今日はツイてる)
ライネルは勘違いで怒り出すところだったと安堵したが、何故ビオレッタに職員が付いているのかまでは考えなかった。
調停と言っても、調停員がお互いに同じ質問をして返答を待つ。
以前はそれぞれを別室で聴き取りをしていたが、ここの所調停院は忙しい。離縁だけを扱うのではなく犯罪には当たらないような小競り合いまで調停に持ち込む者が増えたので効率化重視。
2つの部屋を使うより、どうせ当事者なのだから一度に済ませようとやり方を変えたのだ。
「離縁の申し立てですが、ライネルさんは同意しますか」
「しません!するわけがない!この結婚は王命ですよ!」
「王命かどうかは関係ありません。聞かれた事だけ答えて頂けますか?」
「は、はい…同意しません」
調停院はあくまでも中立でどちらの肩を持つこともない。
しかし、調停の間、ビオレッタは一言も言葉を発する事も無いばかりかライネルの見る限り職員だと言っても男性とビオレッタの距離は近い。
問い掛けの度に2人でなにかごそごそとして、答えるのは男性職員。
何度目かの質問を調停員に問われた時、ライネルは堪らず立ち上がってビオレッタの隣にいる男性に向かって指をさし、「失礼過ぎる!」と声をあげた。
「何が失礼なのですか?」調停員がライネルに問い掛けた。
「聞かれるたびにビオレッタが答えるのならまだ判る。しかし!その男は間男なのではないのか?先程からしゃしゃり出てビオレッタの代弁者とばかりに答えてばかりだ!失礼極まりないだろう!」
調停員たちは記録書の最初のページから順に紙を捲り確認をし始めた。
ライネルにはその行動も腹立たしい。
着席する事もなくライネルは「その男を退席させてくれ!これが話し合いと言えるか!」捲し立てる。
調停員がライネルに向かって発した言葉でライネルは事実を知った。
「お静かに。隣にいる男性は職員で間違いありません。ライネルさん。あなた・・・ビオレッタさんが耳が不自由である事をご存じないのですか?爆破事件でビオレッタさんは音をほぼ失っているのですよ?」
「えっ‥‥」
「今の貴方のように大声を出せば ”何か言っている” とは認識できるでしょうか、私達の問いかけはビオレッタさんには聞こえていないのです。なので、隣にいる者が聴き取りをして筆談、文字にしてビオレッタさんの答えを代弁しているのです。貴方・・・離縁には同意しないと言いながら彼女の置かれている状況をご存じないのですか?」
ライネルはハッとしてビオレッタを見た。
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