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第12話 あの日の出来事
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サンドリヨンのそれまでの生活は過酷なものだった。
母親の死後、父親は連れ子のいる後妻を迎えた。名ばかりの伯爵家だったが父親と父子家庭だった頃はそれなりに暮らしていけて貯蓄もあったが、あっという間に無くなり使用人もいなくなった。
いなくなった使用人の代わりにサンドリヨンがこき使われた。
食事は養母と義姉の食べ残し。部屋もなく夏は風が通る勝手口前、冬は調理の余熱が残る竈の横。
買い出しに行く途中で見かける商店街のショーウィンドウ。可愛いワンピースや帽子を眺めているだけで「しっし!あっち行け」店主に追い払われた。
教育らしい教育も何も受けさせてもらえなかったが、あの日、夜会に行けないと泣いていたら魔法使いが現れた。魔法使いは杖を振るだけでサンドリヨンに煌びやかなドレスを着せて、カボチャを馬車に変え、ネズミが馬になった。
――魔法があるなんて!!――
1日目は食事が山ほど盛られたテーブルでしゃがみ込んで食べられるだけ食べた。
チャミング王子は令嬢達に囲まれていたが、サンドリヨンは見たこともない、食べた事もない料理に囲まれていたのだ。
2日目。その日も魔法使いが現れて、昨日と同じように魔法をかけた。
「いいかい?0時の鐘が鳴り終わるまでに戻るんだよ?」
「はい」
「0時って判ってるね?」
「判ってる。時計の針が真上に2つ重なった時よね」
サンドリヨンは両手の人差し指、1本を後ろに隠すようにして示した。
残念なことにサンドリヨンは時計を見て時間を読めなかった。
なので、時計の針の位置やその時間を示す形を魔法使いは教えるしかなかった。
城に到着したサンドリヨンが猫マッシグラに目指したのは昨日と同じ、誰も手を付けない豪華な食事が盛られたテーブルだった。
「今日はバスケットも持ってきたわ。ムフフ」
膨らんだドレスの中に暗器ではなくお食事持ち帰り用のバスケットを忍ばせていたサンドリヨン。
お腹がパンパンになるまでしゃがみ込んでは食べ物を食べ、バスケットの蓋がギリギリ閉じるか閉じないかまで食材を詰め込んだ。
第一便を馬車に積み込み、1人ピストン輸送で第二便、第三便のバスケットにも食料を詰め込んでのお持ち帰り作業。
第3便を馬車に積み込んだ時、見上げた時計塔の針は23時50分を示していた。
「あ、果実水飲んで来ようかな。まだ重なってないから行って戻れるわよね」
その10分が後のサンドリヨンの運命を変えた。
果実水を飲み、喉も潤ったので帰ろうとしたらチャミングから声を掛けられたのだ。
「君、きゃわうぃーネ」
今のシャルロットがその台詞を聞いたら「完全なヒューマン」を歌っただろう。
何とも軽いノリ。
しかしサンドリヨンは相手が誰であろうと先を急いでいた。
――こんなナンパに構ってられないわ――
ガーンゴーン!ガーンゴーン!時計台が間もなく0時をお知らせしますとばかりに鐘を打ち始める。
――大変!魔法が解けちゃう!――
魔法が解ければ襤褸を纏った灰だらけの姿になってしまう。
それも心配だったがサンドリヨンの心配は他にあった。
――馬車が消えたらバスケットが落とし物になっちゃう!――
「すみません!帰らなきゃいけないので」
「ちょっとくらいいいだろう?君とはまだ話をしていない」
「いえ、お話するような事も何もないので!」
もう時間がない。ヒールを履いたままの全力ダッシュは出来ないとサンドリヨンはヒールをポイポイと脱いだが、場所が悪かった。そこは階段の踊り場だったのだ。
カコーン!コンッコンッ。片方のヒールが落ちてしまった。拾っている時間はもうない。チャミングが脱げたヒールを拾いに行った隙にサンドリヨンはドレスをたくしあげて階段を3段飛び!
登りの3段飛びは太ももの筋肉と脹脛を如何にバネのように跳ね上げるかが問われるが、下りの3段飛びはハッキリ言って「運」である。転べば無傷では済まない。
しかし!サンドリヨンは見事に初めてのチャレンジながら下りの3段飛びをやってのけた。
「早く早く!!鐘が鳴り終わっちゃうよ!」
魔法により従者に変身した近所の野良犬ブルノがサンドリヨンを呼ぶ。
「あぁ!もう!どうして馬が御者でネズミが馬なの!」
「馬は1頭しかいなかったからだよ」
「・・・そうね。そうだったわ」
そう、馬は1頭しかいなかったので、2頭立ての馬車はネズミが引くしかなかったのだ。
なんとか鐘が鳴り終えるまでに城の跳ね橋を渡ったところでタイムリミット。
サンドリヨンは元の姿に戻った馬だったネズミが足元を走り抜け逃げた後、お尻で潰してしまったカボチャの残骸を土に埋めると馬に戻った御者と野良犬に戻ったブルノと徒歩で家路についた。
その後にチャミングがあのガラスのヒールを持って王都中の令嬢のいる家を渡り歩き、やって来た。
「私よ!私なの!」
先を争ってガラスのヒールを履いた義姉だがどちらも足の甲の幅が広い「Eサイズ」なので入らなかった。サンドリヨンが履くとピッタリサイズ。
「君だったんだね。探したよ!」
満面の笑みで両手を広げて抱きしめてくるチャミング。
その時、サンドリヨンは思ったのだ。
――顔覚えてないの?靴が入れば誰でもオケ?――
不信感が芽生えるのは致し方ないだろう。
母親の死後、父親は連れ子のいる後妻を迎えた。名ばかりの伯爵家だったが父親と父子家庭だった頃はそれなりに暮らしていけて貯蓄もあったが、あっという間に無くなり使用人もいなくなった。
いなくなった使用人の代わりにサンドリヨンがこき使われた。
食事は養母と義姉の食べ残し。部屋もなく夏は風が通る勝手口前、冬は調理の余熱が残る竈の横。
買い出しに行く途中で見かける商店街のショーウィンドウ。可愛いワンピースや帽子を眺めているだけで「しっし!あっち行け」店主に追い払われた。
教育らしい教育も何も受けさせてもらえなかったが、あの日、夜会に行けないと泣いていたら魔法使いが現れた。魔法使いは杖を振るだけでサンドリヨンに煌びやかなドレスを着せて、カボチャを馬車に変え、ネズミが馬になった。
――魔法があるなんて!!――
1日目は食事が山ほど盛られたテーブルでしゃがみ込んで食べられるだけ食べた。
チャミング王子は令嬢達に囲まれていたが、サンドリヨンは見たこともない、食べた事もない料理に囲まれていたのだ。
2日目。その日も魔法使いが現れて、昨日と同じように魔法をかけた。
「いいかい?0時の鐘が鳴り終わるまでに戻るんだよ?」
「はい」
「0時って判ってるね?」
「判ってる。時計の針が真上に2つ重なった時よね」
サンドリヨンは両手の人差し指、1本を後ろに隠すようにして示した。
残念なことにサンドリヨンは時計を見て時間を読めなかった。
なので、時計の針の位置やその時間を示す形を魔法使いは教えるしかなかった。
城に到着したサンドリヨンが猫マッシグラに目指したのは昨日と同じ、誰も手を付けない豪華な食事が盛られたテーブルだった。
「今日はバスケットも持ってきたわ。ムフフ」
膨らんだドレスの中に暗器ではなくお食事持ち帰り用のバスケットを忍ばせていたサンドリヨン。
お腹がパンパンになるまでしゃがみ込んでは食べ物を食べ、バスケットの蓋がギリギリ閉じるか閉じないかまで食材を詰め込んだ。
第一便を馬車に積み込み、1人ピストン輸送で第二便、第三便のバスケットにも食料を詰め込んでのお持ち帰り作業。
第3便を馬車に積み込んだ時、見上げた時計塔の針は23時50分を示していた。
「あ、果実水飲んで来ようかな。まだ重なってないから行って戻れるわよね」
その10分が後のサンドリヨンの運命を変えた。
果実水を飲み、喉も潤ったので帰ろうとしたらチャミングから声を掛けられたのだ。
「君、きゃわうぃーネ」
今のシャルロットがその台詞を聞いたら「完全なヒューマン」を歌っただろう。
何とも軽いノリ。
しかしサンドリヨンは相手が誰であろうと先を急いでいた。
――こんなナンパに構ってられないわ――
ガーンゴーン!ガーンゴーン!時計台が間もなく0時をお知らせしますとばかりに鐘を打ち始める。
――大変!魔法が解けちゃう!――
魔法が解ければ襤褸を纏った灰だらけの姿になってしまう。
それも心配だったがサンドリヨンの心配は他にあった。
――馬車が消えたらバスケットが落とし物になっちゃう!――
「すみません!帰らなきゃいけないので」
「ちょっとくらいいいだろう?君とはまだ話をしていない」
「いえ、お話するような事も何もないので!」
もう時間がない。ヒールを履いたままの全力ダッシュは出来ないとサンドリヨンはヒールをポイポイと脱いだが、場所が悪かった。そこは階段の踊り場だったのだ。
カコーン!コンッコンッ。片方のヒールが落ちてしまった。拾っている時間はもうない。チャミングが脱げたヒールを拾いに行った隙にサンドリヨンはドレスをたくしあげて階段を3段飛び!
登りの3段飛びは太ももの筋肉と脹脛を如何にバネのように跳ね上げるかが問われるが、下りの3段飛びはハッキリ言って「運」である。転べば無傷では済まない。
しかし!サンドリヨンは見事に初めてのチャレンジながら下りの3段飛びをやってのけた。
「早く早く!!鐘が鳴り終わっちゃうよ!」
魔法により従者に変身した近所の野良犬ブルノがサンドリヨンを呼ぶ。
「あぁ!もう!どうして馬が御者でネズミが馬なの!」
「馬は1頭しかいなかったからだよ」
「・・・そうね。そうだったわ」
そう、馬は1頭しかいなかったので、2頭立ての馬車はネズミが引くしかなかったのだ。
なんとか鐘が鳴り終えるまでに城の跳ね橋を渡ったところでタイムリミット。
サンドリヨンは元の姿に戻った馬だったネズミが足元を走り抜け逃げた後、お尻で潰してしまったカボチャの残骸を土に埋めると馬に戻った御者と野良犬に戻ったブルノと徒歩で家路についた。
その後にチャミングがあのガラスのヒールを持って王都中の令嬢のいる家を渡り歩き、やって来た。
「私よ!私なの!」
先を争ってガラスのヒールを履いた義姉だがどちらも足の甲の幅が広い「Eサイズ」なので入らなかった。サンドリヨンが履くとピッタリサイズ。
「君だったんだね。探したよ!」
満面の笑みで両手を広げて抱きしめてくるチャミング。
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