第3騎士団長は愛想なし令嬢を愛でたい

cyaru

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第16話♡目に見えない所にこそ気遣いが必要

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ファルコンとの勝負に負けたガウルテリオ。
千回の素振りを終えて、団長室に戻る前に井戸でいつものように汗を流す。

バシャー!ザバーッ!「プハー」

井戸の水はかなり冷たいのだが、素振りで火照った体をクールダウンするには丁度の温度。被っては汲み上げ、被っては汲み上げしていると背後に人の気配を感じた。

振り返ってみると、昨年退役したエスピオ・ナージだった。


エスピオ・ナージ。その名の通り井戸端会議の噂話から国家機密まで情報のある所にエスピオあり。っと言われ53歳で退役をするまでの現役時代は諜報部隊の精鋭だった男。

エスピオのもたらす情報は破壊力のある【メガトン級爆弾】とその筋では恐れられたが、今はエスピオ自身が膝軟骨がすり減る事により【膝に爆弾】を抱えている。

騎士団の定年は55歳。少し早く退役したエスピオは来月からガウルテリオの屋敷で正式採用されるが今は【お試し期間】でもある。


「どうしたんだ?緊急の要件か?」
「はい。こちらを」


エスピオは2通の封筒に入った手紙をガウルテリオに手渡そうとした。
が!ガウルテリオの手に触れる瞬間「オレェイッ!」っとばかりにかわす。

「おい!手紙を寄越せ」
「団長、びしょびしょではありませんか。インクが滲んで読めなくなってしまいます」
「あ、それもそうだな。すまん」

そう言って隊服のズボンで手を拭くのだが、エスピオのジト目に気が付くガウルテリオ。頭から何杯も水を被り、ズボンも大差なく濡れている。

そして気が付いた。

【タオルがない?!】

キョロキョロとするものの、今日は何故か「イラっ」とする事が多く、いつもなら朝礼の前に団長室にあるロッカーからタオルを持参して朝礼後に鍛錬をするのだが、忘れてしまっていた事に気が付いた。

団長室に戻ればタオルはあるのだが、それでは床が水浸しになってしまう。

うーん。…考えたガウルテリオは「背に腹は代えられぬ」とそのまま服を着た。
団長室に戻り、着替えればいい。
そう思ったのだ。



静かな団長室。
イグナシオ広報担当は、1次審査を通過した志願者の書類を纏めている。
ラウール副団長は間もなく行われる遠征の最終確認。
ファルコン副団長はその前に行われていた遠征の報告書作り。
マリーは他の騎士団や文書課、総務課からの通達に基づく執務を行っていた。

そーっと‥‥そーっと。邪魔をしないように。びしょびしょになった服のままだと気づかれないように。エスピオを盾にしてロッカーのある部屋の隅に辿り着いた。

シャッとカーテンを閉じ、ロッカーを開けた。
までは良かった。

ガウルテリオは気が付いていないがカーテンの長さが足らず、全体の半分しか目隠しにならないのだ。

上着を脱ぎ、ズボンも脱いで所謂「パンイチ」になったガウルテリオ。
顔はロッカーに向けられているが、丸見えだと気が付いていない。


居た堪れない空気。
ラウールがガウルテリオに声を掛けた。


「団長様、見えてますよ」
「は?」


何を言ってるんだ?とばかりにガウルテリオは体を反転させた。
辛うじて「おパンツ」は着用しているが、大きな問題があった。

年配の使用人達にはあまり好意的には受け入れられていないがガウルテリオにはちょっとした「気遣い」と位置付けられた譲れない矜持がある。

【見えない所にこそ、気を配るのが気遣い、心配りだ】

亡き父がよく言っていた。
語弊が無いように‥‥。ガウルテリオの父は家の中はいつも整理整頓していて、家の前だけでなく付近の道路も掃除をしたり、ともすれば詰まってしまう排水管も誰に言われる事なく清掃をしていた。

『この一角は臭くないし、蠅や蚊もいないのね』

そう。排水管など目に見えない所にこそ気を配り常日頃から清潔を保つことで街の美化が進む。そんな考えだったので、家の中も綺麗だし、家族の身だしなみと挨拶は徹底していたのだ。



脳筋でもあるガウルテリオ。
勿論身嗜みにも気を配っている。

男性は特に思春期を超えたあたりから独特な香りを発する。

『汗の臭い♡(すぅはぁ)』なんてシチュエーションはとどのつまり香水を嗅いでいるのだ。悪臭を香りで誤魔化すと時に最悪の化学変化をする事があり、何もしない方が余程まし。そうなる事も多い。


基本は日頃から清潔にすることと、乾燥。
それを信条としているガウルテリオ。

鍛錬の時にトランクス型だとゴワゴワを感じるし、ブリーフ型だと汗で張り付く。そのため布の部分が必要最小限のメンズ用Tバック、しかも風通しをよくするために前はメッシュタイプなのだ。

何故そんな「おパンツ」を!?なのだが理由がある。

【蒸れると臭いから】

ガウルテリオなりの見えない場所から香るかも知れない匂いへの気遣いなのだ。


全員の視線がガウルテリオに向けられる。
表情を変えないマリーとは対照的にエスピオを始めイグナシオ、ラウール、ファルコンの顔色が見る間に蒼白になっていく。

メンズ用Tバック。
前は隠されているとはいえ「形くっきり」な上にスケルトンとも言えるメッシュ。
ラウールの声に体を反転させたガウルテリオはカーテンの端を抓んでヒラヒラ揺らす。


「ムゥ…カーテンの寸が足らないのか」

――気にするのそこっ?アレじゃなくてそこっ?――

今更ながらに見えていた事に気が付いたが、気にするのはカーテンの長さ。
だが、マリーは愛想無し令嬢。隊舎の中を水浸しにされるのは困るが、鍛錬の後に汗をそのままはもっと困る。汗を流すのは許可されている行為でその後にシャツを着てくれれば問題ない。
男性の股間に突出した部分があるのは当然の事だ。


「団長様、着替えが終わりましたら決裁をお願いいたします」
「わかった」


何事も無かった。なにも見なかったかのようにマリーが書類に視線を向ける。

陛下の命令とは言え、一緒に住み始めると恥部は見られても平気になるんだ…っと部下たちは思ったが実は違う。ガウルテリオは安堵していたのだ。

何に?

勿論不快な香りをさせなかった事に。
その日の午後、副団長2人から「ロッカールームは別室を希望」すると提案書が出されたのは言うまでもない。

ラウールたちの細やかな心遣い。

【見えないように気遣いをする】気持ちからの提案だった。
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