ある日王女になって嫁いだのですが、妾らしいです

cyaru

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第28話   ウェーブ君は話せない

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メリルの朝は遅いようで早い。

ズシャ‥‥何かが落ちるような音にメリルは目を覚ました。

「何だか・・・今日はいつもより寒っ」

外が明るいのか暗いのか。玄関扉の隙間からは光は薄く入って来るけれど俗にいう「北向き玄関」なので太陽の光が直接当たる事は無い。

もぞもぞと旧作業台の寝台から起き上がったメリルは真っ白に燃え尽きた暖炉の残骸、奥に見える赤い火に枕元に置いた枝を手に取るとグサっと刺し、枝の先端に火が移れば蝋燭のウェーブ君にその火を移す。

この小屋に来て2か月が過ぎ、今朝は特に寒いと思っていたら・・・。

顔を洗おうと扉を開けると一面が真っ白な雪で覆われていた。

「わぁ!雪だ!真っ白!すごぉい!」

カルボス村にも雪は降ったのだが、積もっても3、4cm。
子供の頃はウィンターツバキの葉っぱに着いた雪や柵に積もった雪、外に置いた樽に積もった雪を手で丸めて庭やあぜ道に転がし、かなり土を盛りこんだ雪だるまを作って遊んだ。

「パフパフ出来るかな…」

そっと雪に触れてみるとふわっと巻き上がる。

「わぁぁ!!これってお城の書庫で読んだパウダースノーってやつ?」

手でギュッと握っても丸くなるにはなるのだが直ぐに崩れてさらさらと落ちてしまう。カルボス村に降る雪は直ぐにベチャベチャになるのに全然違う!

「ニャーッ!!面白ぉい!!」

メリルは雪を掴んでは上に放り上げ、掴んでは放り上げ。雪がぶわぁっとそこかしこに舞う中を調子に乗って動物も足跡をつけていない所にダイビングしたり、フワフワなのでザックザックと掻き分けながら走り回った。

勢いのまま雪を口に入れた時、問題がある事に気が付いた。

「沢っ!沢も凍っちゃった?!」

沢のある方に行こうとしたのだが寝起き。
格好はパジャマのままで燥いでしまったのだ。
ブルッと体が震えた。

「先に着替えなきゃ・・・」

一面真っ白の雪を見た嬉しさに我を忘れてしまい、すっかり体も冷えて、手も指先が赤くなってしまった。小屋に戻り暖炉にかざすとジンジンする。

「沢は凍ってたら雪を集めないと・・・顔を洗うのは汲んで置いた水で良いよね。ウェーブ君」

ウェーブ君の返事はない。
蝋人形なので、返事が返る事は無いのだが、シュバイツァーが目撃した日から既に10日は経っていて、その間もウェーブ君は「部屋の灯り」という大役を担っているので文句も言わずに仕事をした結果、現在顎の部分と思われる残骸しか残っていない。仮にお喋りが出来たとしても、現在口はない。

「ウェーブ君の次は・・・フラーけんしかないかぁ…番犬にはなれないんだけどな~仕事出来る?ワンワン!!そっか~頑張れるか~偉いわ。ワンワン!!」

勿論小屋にはメリルしかいないし蝋人形のフラーけんは吠えない。
メリルが1人1匹役をこなしている。


フラーけんは蝋の中に青の染料を混ぜ込んだのか青い犬の蝋人形。
最後の作品だったのか製作中で終わったようで顎の下に支えをしていないと固定出来ないのでフラフラするのでフラーけんと命名された。

犬界ならイケメンの部類のイケオジ風、蝋人形の犬である。

メリルが小屋に来た時、蝋人形は男女合わせて全身のものが7体。膝上10cmほどから上部が1体でそれがウェーブ君。あとはフラーけん

玄関扉と窓で1体を溶かし、その後壁の補強に2体。梯子を細めの幹を組んで作り屋根にコーティングするように3体を溶かしたので、残りは1体とウェーブ君、そしてフラーけん。重要な任務「灯り用の蝋燭役」をメリルから命じられている。

「フラーけんを使い始めたらアルバンさんにランプとオイルもお願いしなきゃいけないわね」

幸いにして薬を売った金貨は貯まる一方で金貨はもう100枚を超えている。
品物を頼んでも売り上げの方が多いので貯まっていくのだ。

「もう本物の妾の館には行かなくていいかなぁ。お金も貯まったし。カルボス村に帰るのなら・・・あと金貨50枚もあれば十分かなぁ。帰りたいなぁ」

この2カ月間。「人間」と会話をしたのはアルバンのみ。
独りぼっちは慣れているけれど、2カ月も1人としか話をしないとなると辛いものがある。

村なら畑仕事でもしていれば誰かが挨拶をしてくれた。家には1人だったとしても、何かあれば訪ねればいいので気持ちの距離として「人の気配」に安心も出来た。

でも、ここは1人。病気になったとしても1人。

ブートレイア王国の王都に戻ってしまうと問題もあるだろうが、カルボス村は辺鄙な田舎の村。今まで通りひっそりと倹しく暮らすのなら書類上の妻で良いんだし、今だってこの森で人と会った事がないという事は、村の先にあるであろう館に伝える用件などない、妾なので連絡を取る必要も特にないのだろうと思える。

なんなら生存しているかどうかも問題視されてないかも知れない。

だったら離れて暮らすのは場所の問題でもないのだからモーセット王国内じゃなくてもいいんじゃないか。そんな事も考えてしまった。


天井を見上げてメリルは感謝を捧げる。

「人形師さん、いい仕事でしたわ。春になったら出て行きますわ」

屋根に溶かした3体は比較的高価な蝋を使っていたようで滑らか。屋根の板はほぼ腐っていたけれど内側から板を打ち付けて、外側には蝋を膜を作るように流したので雪も滑って屋根に重さを掛ける事も無かったのだろう。

暖炉の火を一晩中消えないように薪も多めに入れるが、石を拾ってきて入れているので部屋の中は木が燃え尽きても石の温かさが続く。

暖かい空気は上に溜まるので、屋根を内側から蝋を温めるようになり雪が積もらない。
メリルが起きるきっかけになった音は屋根に積もった雪が滑って落ちる音だった。

「さて、着替えてから沢を見に行かなきゃ。畑は・・・少々雪でも大丈夫だけどこれ以上積もるのなら払っておいてあげないといけないわね」

メリルはトランクを開けていつもよりは布地の厚めなワンピースに着替えるとショールを頭からかぶり、端を顎の下で結んだ。

沢が凍っている場合は雪を溶かして水を確保せねばならないが、さらさらのパウダースノーなので鍋に入れてもこんもり出来る程度。ショールで雪を包んで溶かしながら補充して水の量を確保するしかない。

「ウェーブ君、フラーけんに仕事を教えてあげててね?沢に行ってくるわ」

ほぼ芯しか残っていないウェーブ君の隣にフラーけんを置き、顎に支えるための彫刻刀をグサッ!!バランスを取るとメリルは玄関扉を開けた。

「え?‥‥」
「ウェーブって!フラーケンって誰だよ!話をさせろ!何処だ!くそっ!話を付けてやる!」

そこには久しぶりに会うのに何故か怒っているシュバイツァーがいた。


「ウェーブ君・・・そこだけど。フラーけんはその隣‥‥」

メリルは1人と1匹を指差す。
残念だがウェーブ君もフラーけんもお喋りは無理だった。
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