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VOL:8 ケインの目
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大通りの騒ぎは直ぐに貴族街に住まう貴族達にも知らされた。
息子が、夫が騎士であり今日の警護に携わっていたという家族が医療院に押しかけ騒然となった。無傷だったもの、別の地区を担当していたものの名前が壁に張り出され、名前を見つけて安心から腰を抜かす者、軽傷で治療を終えた息子や夫に泣き笑いで抱き着く者。
張り出された中に名前が無いと怒り出し、しまいに泣き出す者と三者三様。
そんな中、フォン公爵家のケインは2人の兄と共に治療に必要な医薬品や消耗品がどの程度必要なのか情報収集に訪れた。医療院に卸す分は勿論だが、自宅療養となる者の数や、何が必要かを聞きださねばならない。
一報を受けたのは午後4時半を過ぎた頃。
現地ではなく、医療院に直接向かい到着したのは17時半。そこから聞き取りを行い、帰宅をしていく者を見送りあと20人程度と目星をつけて、兄2人と残りを分担するために一旦集まった。
「あとは入院治療のようだからケインは一先ずこれを父上の元に。先に仕分けをしていてくれると助かる」
「判りました。騎士団の方にも帰りに回った方が――」
「どうしてよ!何故入れてくれないの!!」
ケインの声を遮る悲痛な叫び声が医療院に響き渡った。
ケインはその声にどこか聞き覚えがあった。
「騒がしいな。家族ならすぐに面会させてくれるんだが」
眉を顰めた次兄の声にケインは声の主を探した。
「ですから、面会はご家族に限られているんですっ」
「家族も同然よ!私達は愛し合っているの!」
「ですから!何度も申し上げておりますが、まだご結婚されてませんでしょう?その時は婚約者である証明を持って来て頂ければお通しいたしますから!」
「関係ないわ!真実の愛に証明なんか必要ないでしょう!?」
ケインは目と耳を疑った。明らかに看護師数人にその先には行かせないと止められているのはレティシアだった。錯乱状態なのか?と考えてみる。
だが、錯乱状態だとしてもエバブ伯爵家には男児はいない。つまり騎士はいないのだ。
兄が聴取した中にも平民は数人で、そちらは優先して医療品を回す。
貴族の家に勤めているものならその家の家名が記入されるがエバブ伯爵家の名はなかった。
――ではなぜ?愛し合っているとはどういう事だ?――
そう言えば1人、エバブ伯爵家に関係する人間が収容されていたと思い出した。
名前はウィンストン・ブレキ。レティシアの姉、シンシアの婚約者だ。
ケインは間違いであってほしい。そう心に思いながら一歩一歩足を進めた。
「レティシア…どうしてここに?」
名を呼ぶ声は震えていたかも知れない。
が、名前を呼ばれた事でレティシアは振り向き、ケインに抱き着いて来た。
足を一歩引いてレティシアを受け止める。
そしてケインに残酷な言葉が告げられた。
「お願い!ケイン様からも頼んで!ウィンが…ウィンがこの奥にいるの!」
「だ、だとしても君は入れないよ」
「どうして?!どうして私が入れないのよ!おかしいじゃない!」
「おかしくないよ。だって義姉さんが結婚するまで他人じゃないか」
「他人じゃないわ!ウィンの事を愛しているの!愛し合っているの!」
ケインの頭の中にはレティシアの言葉が残響となって響き渡った。
様子がおかしい事にケインの兄2人も駆け寄ってきた。同時にブレキ伯爵夫妻が医療院に駆け込んできた。
「すみません。領地に向かっていた途中だったので遅くなりました。ブレキ伯爵家・・・えっと私が父でこちらが妻、息子が、息子が運ばれたと聞きまして」
「ブレキ伯爵様?お待ちくださいませ。何か確認出来るものをお持ちですか?」
「急いでそのまま来たので…参ったな」
身分を証明するものが無いブレキ伯爵だったが、ケインの長兄が身分を証明した。
看護師はケインの長兄の事は既に確認済みであり、見知った仲。
「では、ご本人様で?」
「えぇ。フォン公爵家の家名に誓い証明いたします」
伯爵夫妻について行こうとするレティシアをまた看護師が止めた。
そのことに激昂したレティシアだったが、先を急ぎたいブレキ伯爵に一喝される。
「なんで君が一緒に行けると思っているんだ!シンシアならまだしも!」
「なんで?どうじでぇぇ!!ウィンは私と愛し合ってるのにぃぃ!」
ブレキ伯爵の袖を掴んでいたレティシアの手は振り解かれ、ブレキ伯爵夫妻は奥に駆けて行った。その場に泣き崩れるレティシアをケインは冷たい目で見下ろした。
息子が、夫が騎士であり今日の警護に携わっていたという家族が医療院に押しかけ騒然となった。無傷だったもの、別の地区を担当していたものの名前が壁に張り出され、名前を見つけて安心から腰を抜かす者、軽傷で治療を終えた息子や夫に泣き笑いで抱き着く者。
張り出された中に名前が無いと怒り出し、しまいに泣き出す者と三者三様。
そんな中、フォン公爵家のケインは2人の兄と共に治療に必要な医薬品や消耗品がどの程度必要なのか情報収集に訪れた。医療院に卸す分は勿論だが、自宅療養となる者の数や、何が必要かを聞きださねばならない。
一報を受けたのは午後4時半を過ぎた頃。
現地ではなく、医療院に直接向かい到着したのは17時半。そこから聞き取りを行い、帰宅をしていく者を見送りあと20人程度と目星をつけて、兄2人と残りを分担するために一旦集まった。
「あとは入院治療のようだからケインは一先ずこれを父上の元に。先に仕分けをしていてくれると助かる」
「判りました。騎士団の方にも帰りに回った方が――」
「どうしてよ!何故入れてくれないの!!」
ケインの声を遮る悲痛な叫び声が医療院に響き渡った。
ケインはその声にどこか聞き覚えがあった。
「騒がしいな。家族ならすぐに面会させてくれるんだが」
眉を顰めた次兄の声にケインは声の主を探した。
「ですから、面会はご家族に限られているんですっ」
「家族も同然よ!私達は愛し合っているの!」
「ですから!何度も申し上げておりますが、まだご結婚されてませんでしょう?その時は婚約者である証明を持って来て頂ければお通しいたしますから!」
「関係ないわ!真実の愛に証明なんか必要ないでしょう!?」
ケインは目と耳を疑った。明らかに看護師数人にその先には行かせないと止められているのはレティシアだった。錯乱状態なのか?と考えてみる。
だが、錯乱状態だとしてもエバブ伯爵家には男児はいない。つまり騎士はいないのだ。
兄が聴取した中にも平民は数人で、そちらは優先して医療品を回す。
貴族の家に勤めているものならその家の家名が記入されるがエバブ伯爵家の名はなかった。
――ではなぜ?愛し合っているとはどういう事だ?――
そう言えば1人、エバブ伯爵家に関係する人間が収容されていたと思い出した。
名前はウィンストン・ブレキ。レティシアの姉、シンシアの婚約者だ。
ケインは間違いであってほしい。そう心に思いながら一歩一歩足を進めた。
「レティシア…どうしてここに?」
名を呼ぶ声は震えていたかも知れない。
が、名前を呼ばれた事でレティシアは振り向き、ケインに抱き着いて来た。
足を一歩引いてレティシアを受け止める。
そしてケインに残酷な言葉が告げられた。
「お願い!ケイン様からも頼んで!ウィンが…ウィンがこの奥にいるの!」
「だ、だとしても君は入れないよ」
「どうして?!どうして私が入れないのよ!おかしいじゃない!」
「おかしくないよ。だって義姉さんが結婚するまで他人じゃないか」
「他人じゃないわ!ウィンの事を愛しているの!愛し合っているの!」
ケインの頭の中にはレティシアの言葉が残響となって響き渡った。
様子がおかしい事にケインの兄2人も駆け寄ってきた。同時にブレキ伯爵夫妻が医療院に駆け込んできた。
「すみません。領地に向かっていた途中だったので遅くなりました。ブレキ伯爵家・・・えっと私が父でこちらが妻、息子が、息子が運ばれたと聞きまして」
「ブレキ伯爵様?お待ちくださいませ。何か確認出来るものをお持ちですか?」
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「なんで君が一緒に行けると思っているんだ!シンシアならまだしも!」
「なんで?どうじでぇぇ!!ウィンは私と愛し合ってるのにぃぃ!」
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