戦場の悪魔将校の妻は今日も微笑む

cyaru

文字の大きさ
20 / 25

VOL:19  とりあえず Will you marry me?

しおりを挟む
へたり込んでしまった魔導士の目の前で繰り広げられる奇妙な餌付け。

スープの次は竈にペタっとくっつけて焼いたパンをローレンスは千切ってシンシアの口元に持って行く。どうやらローレンスにはシンシアの微細な動きは見えていないらしい。

小さくフルフルと首を横に振り、腕をあげようとしているのだろうか。右手が僅かに浮くがパタっと力なく落ちる。

――ここは私がボートを出して助けねば!――

魔導士はコホンと咳ばらいを一つすると、ローレンスの隣に向かった。


「やっぱ目を覚ましてた。見てくれよ。スープも美味いってよ」
「ローレンスさん、女性に対して失礼でしょうに!」
「え?だって美味そうに飲んでるけど?」
「判ります。いい香りがしてますからね。でも矢継ぎ早に口元に運んだら何も言えないでしょう?」
「そんなにペースが速かったかな?」

汁だけが器に半分ほどになり、具がゴロゴロと姿を現している。
ローレンスに悪気はないのだ。嬉しさが勝ってしまっただけ。


「シンシア様、ご気分はどうですか?」
「特に変わりありません」


魔導士の問いかけにシンシアが言葉を発した。
片手に器、片手にスプーンを持っていなかったらローレンスは両手で口元を覆っただろう。

「喋った…喋ったぞ…俺にも判る言葉で…」
「当たり前でしょう?私と彼女は共通の言語です。勿論ローレンスさんもね!」
「それがさ!この国に来た時の先生がさ、訛りって言うか古い話し方の先生だったんだよ。でな?その先生が「です」って言葉の後ろにつけるだろ?それをさ「でっしゅ」って何をどぉぉぉやっても聞こえるわけ。だからさぁ、てっき――」
「ローレンスさん、黙ってください」
「え?俺、そんなに声がデカかった?そんなにデカい声を出してたつも――」
「音量もなんですが、取り敢えず長さです」
「長さ?!長さと言ったか?そこもなのか?!」

何かを言うたびに言葉が多いローレンス。魔導士に「声もデカけりゃ話が長いんだよ!」と諭されてしまった。


「ですが、楽しいお話ばかりでしたのよ?」

<< フェッ?! >>


ローレンスと魔導士は同時にシンシアの方を向いた。
クワっと見開いた目の2人の行動が同じ。シンシアはくすくすと笑ったのだが通常は口元を隠して行う笑い。

――あ、隠されてた口元ってこうなってたんだ――

手品のネタを知った時のような、素直な感嘆「へぇ~」と男性としての「可愛いじゃん」が一緒になった魔導士。ローレンスはムッとして尻でボン!魔導士を突いた。


「うわっ!危ないじゃないですか!」

「鼻の下を伸ばしてる暇があるなら殿下に報告しろや。いや、直接伝えに走った方が良いんじゃねぇかぁ?お前の足ならリクガメの方が早いかもだけどなぁ?」

「へー。鼻の下伸ばしてるのどっちですかね。30を超えた寡男の嫉妬。あ~ヤダヤダ。気持ち悪ぅぅい」

「嫉妬?バカ言うな。これは俺が任された任務なんだよ。判る?に・ん・むッ!!だから俺に独占欲がある」

「それを言うなら権利っ!独占欲なんてまさに今!丸出しじゃないですか。あれ?もしかして願望?違いますよねー。欲望が出ちゃっただけですよねー??」

「キィィー!!言い間違っただけだ!ホント、予備軍チェリーな29歳は小せぇな!!俺の重箱を持ち上げてどうすんだよ!」

「重箱の隅はつつくんですよ!ツンツーン!ってね!持ち上げるのは「ヨイショ」、取るのが揚げ足ですよぅ??あれぇ?おやおやぁ?将校なのに知らなかった?まさか?!知らなかったとかぁ??」


ローレンスと魔導士は気が付かない。子供のように言い合いを始めた2人を「くすくす」と可愛く笑っていたシンシアの肩は大きく上下に動いて「くっくっく」「くくっ!」時に「グフっ!」っとお淑やかなど何処へやら。本気で笑っている事に。

だが、如何せん。体力不足。日頃から貴族令嬢はそんなに鍛えているわけではないが、かつてのウィンストンもそうだったように、寝たきり期間の筋力の衰えは当然ある。

笑うのも結構体力を使うので、笑い過ぎてそのまま横にコテンと倒れてしまった。


<< わぁぁ!!(驚) >>

「大丈夫…ゼェゼェ…少し体力がないので…起こして頂けますか」
「もちろ――」
「お前は殿下に報告だろ!世話は俺なの!お~れっ!オゥレッ!!」


ローレンスは魔導士の首根っこを抓んで追いやるとシンシアをグッと抱き起した。
「勝った」と言わんばかりにニヤっと魔導士に向けてWINNERスマイル。「くっ!」魔導士は負けを認め悔し気に顔を背けた。


「面倒だよな。もう結婚でもしとくか?」
「結婚?」

――結婚って面倒だからって言う選択肢もあったんだ――

ローレンスの腕の中。シンシアには新しい発見。

「そ、結婚。今なら先着1名様が俺枠で空いてるんだ。特典はだな、先ず嫌な事はしなくていいだろ。そんで飯は俺が作るしさ、あ、俺、結構料理とか掃除って好きなんだよ。間違うなよ?得意じゃなくて好きって事だからな?完璧を求めちゃいけないんだぜ??で、後は…まぁ射撃は得意だけど、残念っ!これは本当に残念なんだけどさ、銃剣がないんだよな~。見せられなくて残念過ぎるなぁ~アハハ」


自己アピールを始めるローレンス。やっぱり話が長い。
今回に限り話が長いのは「どうでもいい」
それよりも問題がある。

王都をってまだ8日目。急いで帰ってもたった2週間。フェリペ王太子に「目が覚めた」と報告するのは良いが、一足飛びの結婚報告はフェリペが何と言い出すか判らない。


「ダメですよ!そう言うのはちゃんと殿下に!」
「なんでアイツにいちいち俺の家族計画を承認してもらわなきゃなんねぇんだよ」
「ローレンスさんじゃなくてですね!シンシア様ですよ!!」
「結婚します」

<< へっ?! >>


やはり同じ動作になるローレンスと魔導士。
そんな2人にシンシアは「ローレンスと結婚する」とハッキリ口にした。

魔導士は慌てた。こんなオッサンの何処が良い?!という私情はさておいても、唐突過ぎる。何よりデレデレしながら「結婚しとく?」とアピールをしていたローレンスが驚き過ぎて硬直しているではないか。

「あのぅ…気の迷いとか錯乱状態とか、誰かに魂を乗っ取られてるとか?」
「いいえ。わたくし、シンシア・エバブとしての気持ちです」
「待ってください?(声が上ずる)」
「何か?」
「えぇっと彼を以前から知っていたとか、何かお付き合いがあったとか?」
「王都からここまで楽しいお話は沢山して頂きましたが、初見です」

魔導士はチラリとローレンスに視線を移す。「硬直したまま」だった。
さて、とシンシアに向き直る。

「良くお考え下さいね?10歳以上年が離れた36歳の男なんて面倒なだけですよ?」
「その面倒さを知らないので」
「男って30、いや35とか、特に40代になると独特のにおいがするんですよ?」
「加齢臭ですよね。父がそうでした」
「そんな軽い…でもですね?ここは王都から離れ――」
「いいんです。王都には何の思い入れもありませんし…何より…」
「何より?」


魔導士はシンシアの微笑にゾクッと背中に冷たく凍った鉄の棒を押し当てられたような衝撃を受けた。

「わたくしにとって前の家族も知り合いも・・・用はないんです(にこり)」
「用はないって…でも殿下は――」
「その王太子殿下もわたくしには不要です。目が覚めるまでの過去はもう要らないんです」
「だからと言って、ローレンスさんは初見なんでしょう?危険とか思わないんですか?」
「思いますよ?でも、彼は一貫してる。少なくとも誰かを利用とする下心はないと思えるんです」


違う意味の下心ならあるかも?と、この魔導士もいつぞやのフェリペ&従者と同じくローレンスの一点に視線を移した。

覚醒したローレンス。魔導士に一言告げた。

「ノーマル状態だ。寝た子の爆睡がコレッ!!」

――それで?!エェェッ?!――

魔導士は世の中には「規格外」があるのだと悟った。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

悲報!地味系令嬢、学園一のモテ男に「嘘の告白」をされる。

恋せよ恋
恋愛
「君のひたむきさに心打たれた」 学園の王子様、マーロン侯爵令息から突然の告白。 けれどそれは、退屈な優等生である彼が仕掛けた「罰ゲーム」だった。 ターゲットにされたのは、地味で貧乏な子爵令嬢・サブリナ。 彼女は震える声で告白を受け入れるが――眼鏡の奥の瞳は、冷徹に利益を計算していた。 (侯爵家の独占契約……手に入れたも同然だわ!) 実は、サブリナの正体は王都で話題の「エアハート商会」を率いる敏腕マネージャー。 「嘘の告白」をした男と、「嘘の快諾」をした女。 互いに利用し合うつもりが、いつの間にか本気に……? お互いの本性を隠したまま進む、腹黒×腹黒の騙し合いラブコメディ! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

処理中です...