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VOL:23  シンシアは妬きもちやき

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「その辺にしとけ。俺の方がハラハラしちまう」
「うーん。もうちょっと、ここだけだから」

悪阻はさほど辛くなく、運動としても激しくない散歩がメイン。
毛が飛ぶ、羽毛が飛ぶと折角覚えた牛舎や鶏舎のエサやりや掃除の仕事も「一旦中止」とされてしまったシンシア。

今日はチーズを作るために鍋をゆっくり回して、綺麗な布でこし、残ったものをギュッと絞る。それを瓶に入れて蓋をして、街まで売りに行く特別隊の仲間に託す。

最後の瓶に蓋をして、「モーちゃん印」の紙を封印代わりに貼りつけた。
何もする事のないシンシアが、ブールノ・ミヒィから請け負ってきたチーズ作りの内職。


「終わったか?」
「うん。上手にできたのよ?これは内容量にちょっと足らなかったから今夜食べましょう」
「シシィの手作りか。今夜はそれだけでもご馳走だな」


ポンポンと胡坐をかいたローレンスが太ももを叩くと、ちょこんと座るシンシア。一番お気に入りの特等席。
背中にローレンスの体温を感じていると、コーヒーカップを置いたローレンスの腕がお腹を支えるように伸びて来て全身が包まれる。

「どれどれ。今日は動くかな?」
「ふふっ。どうかしら。チーズを混ぜてる時はかなり激しかったら寝ちゃったかな?」
「シシィ」
「なぁに?」

振り向きがちに少し上を見上げるとローレンスが微笑んでいる。
シンシアも微笑んで2人はフレンチ・キス。


★~★

あの日、大きな木まで歩いて行った2人。行きは緩やかな上り坂がずっと続く道でシンシアは途中で何度も立ち止まって呼吸を整えてまた歩いた。

その度に2、3歩先に進んでしまったローレンスは立ち止まってシンシアが歩き始めるのを何も言わずに待っていた。

木陰に入っても大きな木の幹まではまだ距離がある。
ローレンスは先に幹に向かい両手を広げてシンシアを待った。

「はぁはぁ・・・こんなに…大きいなんて…ハァハァ・・」
「デカいだろ?!俺もビックリしたんだ。もうすぐ花の天井が見られるぞ」

シンシアは真上を見上げた。緑の葉が中央の幹を囲うように円状に広がり、地上一面ではなく見上げた一面に咲いた花を想像する。それだけでワクワクした。

――あとちょっと。絶対歩き切ってやるんだから!――

両手を広げていたローレンスは幹から3歩ほど手前にいた。
シンシアが「ついたぁ」と声をあげると「まだまだ。あとちょっとだ」と一歩後ろに下がる。

ローレンスの1歩はシンシアの2、3歩。もう動くのもやっとの足を引くように前に進め、ローレンスの背に幹が当たった。

「ほら!あと少しだ」
「うん…はぁはぁ・・・」

ローレンスに飛び込むようにシンシアは往路を歩き切った。
息が上がって声が出ない。
立ったまま膝に手を突いて俯き、なんとか息を整えた。

顔をあげたシンシアにローレンスは破顔して「愛してるよ」とキスをした。

「っっっ!(目をぱちくり)」
「可愛い奥さんだな。じゃ、もう一回」

今度は角度を変えて、正面からローレンスは膝を折ってシンシアに高さを合わせて長いキスをした。

「もぅ!帰りついたらって言ったでしょ?!」
「帰りは歩かせる気がねぇもん」
「はっ?違うでしょ?往復を歩いたら――」
「だからだよ。体力は残しておいてもらわないと、寝ちゃうだろ?」
「え…えぇーっ!?」

実はシンシアも抑制リミッター解除は冗談半分だった。
まさか本気にしているとは全く思わず、咄嗟に考えたのは‥‥。

――ムダ毛…どうだったかしら?!――

頭の中で「ワキ…OK」「腕・・・OK」と確認点呼を繰り返す。
予定になかった♡な関係は勝負パンツであったかどうかも気になるシンシア。

だが、14歳も年上のローレンスの方が上手だった。

「帰ったら一緒に湯あみでもすっかぁ」
「え…」
「少なくとも尻にクマのアップリケのあるパンツは心配から除外されるだろ」

――ならないわよ!あれは毛糸のパンツだもの!防寒よ!――


帰り道は暴れるシンシアを肩に担ぎ、ズンズンと時に駆け足になりながら家路についた。

余すところなく本気で愛されたシンシア。
事後もしっかり湯船に付けられて拭き取りまでしてくれるローレンスに、ぷぅ!と頬を膨らませた。


「どうした。お気に召さなかったならもう一度するか?」
「しっ!しません!今日はもう充分ですっ」
「気持ち良かったなら何よりだ。恥じらうシシィも可愛かったよ」
「言わないで!!誰かと比べてるんでしょ!」
「は?誰と?」
「知りませんっ!こっこんなに手慣れてるしっ!」
「アハハ。妬いてくれてるのかぁ。参ったなぁ。また我慢できなくなるだろう?」
「我慢してっ!」
「明日まではな。だから、むくれるなって。女はシシィが初めてだよ」


衝撃だった。まさかの36歳で童貞卒業宣言されるとはシンシアも思っていなかった。だが、手慣れている。やはりそれは社交辞令なのか。訝し気にローレンスを見るが…。


「3歳くらいまでだが、仲間の子供たちを湯あみさせるからな。洗いと拭き上げ、お着替えっつぅの?ばっちりだ。新生児の沐浴も出来るぞ。頭を手のひらで包んで指で耳をこうやって塞いでだな…」

そして、日付が変わった事を鳩時計が知らせると有言実行のローレンス。
シンシアはまた朝まで愛されることになったのだった。

それだけ愛されればご懐妊もあっという間。
大きな木まで歩いた日から半年後には軽めの悪阻が始まり、懐妊が判った。



★~★

ローレンスの胡坐に座って2人きりの部屋。
イチャコラとしていた2人だが、来客を知らせる玄関のドアノックの音が耳に入った。

「こんな時間に誰だろうな」
「隊員の方かしら?」
「いや、急ぎの案件なら先ず鐘が打ち鳴らされるし、ガキんちょならドアノックなんか関係なく扉を叩きまくるからな」

リビングの窓から覗いても玄関は見えない。
扉には覗き穴もなく、ローレンスはシンシアを奥に下げさせて扉の前に立ち、来客に声を掛けた。


「どちらさん?」
「・・・・・」

人の気配はするのに声が返ってこない。
ローレンスは玄関扉の上にフックで掛けてあった軍刀を手に取った。
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