婚約破棄になったのは貴方が最愛を選んだからです。

cyaru

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VOL.18  激昂するルーベス侯爵

サシャリィとレオンの婚約破棄が認められて3か月が経った。

現王太子の即位の日が各貴族に通達されたその日も空は快晴だった。


「再来月の1日か。随分と殿下も急がれたな」
「噂じゃ宰相補佐のルーベス侯爵の件があったかららしいぞ」


そんな噂が王都を飛び交う。
先代国王はある日突然倒れた。まだまだこれからと言う40代も半ばだった。
立太子は済ませ王太子にはなっていたが即位の日はまだ先と国王の執務を割り振ろうかとしていた時だった物だから突然の崩御に一時期混乱した。

即位式も戴冠式も自国だけの問題ではなく、諸国にも参列してもらわねばならず日程の調整もある。1年以上先になるだろうと思われていたが、半年以上も前倒しとなればその原因は何だと人々は想像をする。

過去には王女も降家したルーベス侯爵家の失態がその原因だと誰も彼もが口にした。一旦消えかけた「醜聞の炎」が再燃し始めたと言ってもいいだろう。


「放逐したと言っているが…あれで放逐というのだからな」
「全くだ。何処に放逐した倅が毎晩酒を飲んで女を抱くと言うんだ」
「アガントス伯爵も災難だな。寝取られ令嬢を抱える事になっただけじゃないか」
「主だった商会は新体制に移行する前にルーベス侯爵家からは手を引いたらしい」
「そりゃそうだろう。決め事は守れませんと言っているようなものだ。さらに縛りが緩やかになる体制では今以上に信用がモノを言うという事をまるで判っていない」


噂の中身は大半が事実で、レオンは最初に追いやられた部屋はとうに引き払い、今では郊外だが一軒家を買い付け、通いだが数人の使用人を抱えて、時折第5騎士団に顔を出すと言う【役職出勤】をしていた。

レオンが居ても居なくても問題がない第5騎士団。
いや、突然「今日は仕事をする」と出勤をされても困るだけでお荷物となっていた。それでも第5騎士団がレオンを切れないのはレオンが第5騎士団に入団する際に「慰労金」として多額の金銭が寄付となり、その寄付は額は減ったが今も続く。


第4騎士団までは貴族籍のある者が所属している事から国から給付金がある。平民のみの第5騎士団は名前は立派だがその原資は「警護」をする依頼を受けてのもの。
民間の商会と何ら変わりなく、第5騎士団からその売り上げの一部が騎士団の本部に上納されているから「騎士団」と名乗れるだけの話。


レオンが所属している限り「出所は探らない」と言う条件付きで金が入る。だからこそレオンは第5騎士団に名前を置いておけるのだが、その「出所」が何処なのか。公然の秘密となっていた。



☆~☆

「どういう事なんだ?何故エトス商会も取引を停止したんだ?!」


2日登城し1日休み。そんなローテーションで公私共に執務をするルーベス侯爵は数日前に続き、また別の商会がルーベス侯爵家とは取引を停止するという通告書を受け取っていた。

商会が取引を停止してしまうとルーベス侯爵家の所有する領地では農作物や加工品などを販路を失うという事に等しい。

物を作っても売る先がない。勿論「抜け」の商会を使えば販売できない事も無いが抜かれるマージンは今の3倍以上になり、場合によっては半分を持って行かれる。

そうなれば次年度の種苗すら買えなくなり、売るだけ赤字になってしまう。


「アガントス伯爵家との縁が切れてからは踏んだり蹴ったりだ」
「旦那様…少しよろしいでしょうか」
「なんだ」


ルーベス侯爵に声を掛けたのは家令のカール。
カールの手には何通もの退職願が握られていた。

それもまた今月に入ってからもう何度目だろうか。

長く勤めあげる使用人も確かにいるが使用人達は数年おきに貴族の屋敷を渡り歩くのが常で、殊更に新体制に移行した後は貴族の在り方も変わって来る。より良い職場を求めるのは当然とも言えるし、何より王都に広がる噂にルーベス侯爵家にいては、次への紹介状を出すだけで門前払いされると使用人達が逃げ出し始めていたのだった。


「認めない。そう言え」
「旦那様、ですが――」
「だったら何だと言うんだ。先月もそれまでの給金に2割を上乗せしただろう」
「給金の問題ではないんです。中には先月上乗せされた分は返すと言う者もいます」
「金の問題じゃない?だったら何が不満なんだッ!!」


ルーベス侯爵は先代国王が崩御する前、新しい事業を始めるための担当官にルーベス侯爵を任命していたため屋敷を留守にする事が多かった。

だからこそ、アガントス伯爵家からレオンの女遊びに付いて抗議が来た時に手が回らなかったという事情もあった。何度かはレオンを強めに叱りつけたが、16歳、17歳で女を覚えれば一時期嵌るのも性というものじゃないかと面倒臭くも感じていた。

「人が忙しいというのに!!女遊びくらい大目に見なくてどうするというんだ」

そんな考えが根底にあった事は否めない。
何より、寝る間もなく移動したり指示をしたりで忙しい時に息子の下半身の責任まで取れないと時に抗議を爵位を盾に突っぱねる事もあった。


そして‥‥ルーベス侯爵はレオンを放逐した事で全てが終わったつもりになっていた。

時期は先代国王が突然の崩御で王宮内が混乱していた事もあるし、戴冠式の実行委員長を任された事もあって手が回らなかった。

噂が流れている事は知ってはいたが、時期的に新体制への期待値を示すような話の方が多くそのうち消えていくだろうと放置をしていた事もある。

何より、ルーベス侯爵は妻が何をしているのか。一切関知していなかった。



「旦那様。巷で囁かれている話をご存じで御座いますか」
「巷で?あぁもう三月みつきになろうというのにまたアガントス伯爵家との話が再燃している事は知っている」


家令のカールはそれを知っていて何故。そう胸に思いながら二の句を続けた。


「実は、レオン坊ちゃまで御座いますが」
「どこぞで野垂れ死んだか。遺体は引き取らん。勝手に処分しろ」
「いえ、そうではなく…奥様が支援をされておられる事が噂の原因かと」
「なんだと?!」


やはり知らなかったのか。
いや、知ろうとしなかったのだとカールは溜息を飲み込んだ。
主であるルーベス侯爵には妻の侯爵夫人が自身に割り振られた金の使い道まで詮索する必要はないと婚姻時に言われていた事から詳細の報告はしていないが、ここ3か月。夫人への割り当てがそれまでの数倍となっている事は報告していた。

だが、ルーベス侯爵は「女は物欲があってこそ」とその中身を聞こうとはしなかった。


家令カールは夫人の用意した家屋、そして騎士団への寄付などをルーベス侯爵に告げた。


「詳細はいい。判った。纏めれば…傍から見てレオンを放逐したとはなっていない。そう言う事だな」
「左様で御座います。むしろお屋敷に居た頃よりも――」
アレは何処にいる」
「奥様は夕方まで王都劇場でご夫人会の集まりで観劇をされておられます」
「観劇だと?!呼び戻せ!」


執務机の上にあった書類や筆記用具を全て床に叩き落としルーベス侯爵は激昂し、夫人を連れ戻せとカールに命じた。
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