冷血皇帝陛下は廃妃をお望みです

cyaru

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暗闇の誰か

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窓を開けていると小さく聞こえているのは夜会の音楽だった。

カラスだけが観客。アナスタシアは一人ワルツを踊る。
パートナーはいないけれどそれまでの教育で体が覚えている。
軽やかに1人、見えないパートナーと手を握り体を支えてもらっているかのように踊る。

音楽が鳴りやめば、カラスをパートナーに見立ててお辞儀をする。
テーブルの上をカラスもちょんちょんと歩いてまるで拍手をしているかのよう。

3曲ほど踊ると疲れてしまい、寝台に横たわる。まだ息が荒くおさまるのを待つ。
ちょっちょと歩いてきたカラスの羽根を撫でながら眠りに落ちる。

だが翌朝はちゃんと寝台の定位置に眠っている。
無意識でもこうしてしまうのかしら?と首を傾げるもここには一人しかいない。
誰も寝相を直してくれる者などいはしないのだ。

不思議な事もあるものだと思いながらも空を見て、空想をする。

「空の向こうには何があるのかしら…」

ポツリと呟いたその時――

『行ってみたいか?』

声が聞こえた気がして、周りを見渡す。部屋の中には誰もいない。
いたとしても先程の声の距離なら気配を感じるはずだとその距離を推し量るがそこにはカラスしかいなかった。

「びっくりしてしまったわ。1人が長いと空耳もハッキリ聞こえるのね」
「くわぁ」

「うふふ。あのね、行ってみたいかって聞こえたのよ。そうねぇ…行ってみたいわ。わたくしこの国から出た事がないの。本や地図ではこの国の周りには5つの国があって、その向こうにも国があるのよ。そして海という大きな池があるんですって。あなた知ってる?」

「クワックワッ!」

「そうよねぇ。あなたは空が飛べるものね。海はね、透明なのに碧いんですって。そこには沢山の魚がいて水が岸に向かってやって来たり、逃げたりを繰り返すのだそうよ。見てみたいわ」

『見てみたいか?』

「えっ?誰っ?」

また周りも見回すも先程と同じ、そこには誰もいない、
いるのはアナスタシア、そしてカラスだけである。

「疲れているのかしら‥‥」

誰もない塔の中。幽閉されて1年が過ぎようとしている。
人は閉じ込められると狂うと本で読んだ事があったアナスタシアは少し笑った。

「狂ってしまえば…楽なのかしら。苦しいのかしら。狂ったことがないから判らないわね‥あぁでも狂っているのかも知れない。だから生きているのかも知れないわ」

遠くで雷の音が聞こえる。黒い雲が遠くの空に広がっている。

「ここの空は青いのに、あの黒い雲の下は雨なんですって。神様は凄いわねぇ」

段々と塔の方に向かって広がってくる雨雲を眺めるのもまた楽しい。
そして空が暗くなると、ぽつぽつと雨が空から落ちて来て次第に激しくなる。

カっと光って雷の音が聞こえてくる。

「激しくなってきたわ。扉を閉めるけどおまえは家に帰るの?」

振り向くと枕の横に既に陣取っているカラスが見える。

「そうね。雨にその綺麗な羽根が濡れちゃったら大変だもの。今夜もお泊りね」
「かぁぁ」

木の扉を閉めれば灯りは無くなる。ランプを点ければそれが唯一の灯り。
だがもうランプの油はかなり前に切れている。
頼めば補充をしてくれるのだろうがアナスタシアはそれをしない。
暗闇もまた一興。それを楽しむのも塔の生活の醍醐味でもあるのだ。

扉を閉めて真っ暗な部屋、ゆっくりと歩き寝台を探す。
手を前に出し、左右に揺らして障害物がないかを探っていく。
暫く歩くと、つま先が何かに触れた。同時にあり得ない感触に気が付く。

つま先に触れたのは寝台ではなく何か尖ったような…靴?
そう思うと、急に怖くなってしまった。

いるはずがない【誰か】がこの部屋にいる。そう思と震えが止まらない。
殺される?いや違う。何かが判らないから怖いのだ。
だが思い直す。もしかすれば自分はもう処刑をされていた身。
今更刺されようが首を刎ねられようが何を怖がる必要があるのだろうか。

「誰かそこにいますの?」

少しだけ声が震えるがアナスタシアはいないはずの誰かに話しかけた。

『いるぞ』

「ヒュッ」思わず息を飲んだ。

『目の前は寝台だ。飛び込んでみろ』
「飛び込む?」
『あぁ、しっかりと我が受け止めよう』
「いえ、どなたかいらっしゃるのならそれは出来ません」
『遠慮するな。と言ってもこの暗さだ。手を握るぞ』

「手を?わたくしの手で御座いますか?」
『そなた以外に誰がおると言うのだ』

そういうと誰がかアナスタシアの手を握った。思わずビクリと体が反応する。
背中に汗が流れるのを感じるが、握られた手も汗が滴り落ちるのではないかと思うほどだ。

『反応がまるで生娘だな。それもいいが…面白いやつだ』
「し、失礼なっ」

握られた手を引き、後ろに下がろうとした時、ドレスの裾を踏んでしまい真後ろに倒れそうになった。が!手を引かれ前に引っ張られた。倒れ込んだのは寝台ではなく誰かの腕の中だった。

「は、放してっ」
『そういうな。こうやって何度も髪を撫でてやっただろうが』
「あ、あれはっ…夢ではないの?!」
『夢なものか。こうやって撫でると幸せそうにわれの腕の中で眠ったではないか』

いよいよ本当に狂ったのか。いや正常に戻ったのだろうか。
アナスタシアは訳が判らなくなり、混乱の中意識を飛ばしてしまった
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