冷血皇帝陛下は廃妃をお望みです

cyaru

文字の大きさ
5 / 28

王家の問題

しおりを挟む
差し出される菓子。

目線を向ける事もなければ手を出す事もない。
置いて行くのでアナスタシアはそのまま籠ごとトレーに乗せて返却をする。

「先月の菓子は好きじゃなかったみたいだね。今度のはジャムが挟まってるんだ」

何がそんなに嬉しいのだろうか。冷えた目でシリウスを見る。

シリウスは、アナスタシアの機嫌を伺うように色々な話題を次々に提供してくる。
相槌を打つことすら面倒で、何の拷問なのだろう。これに名前を付けるならと頭で考える。

「来月は帝国からの使者を迎えての夜会があるんだが一人で出来るだろうか」
「・・・・」
「通訳がいるから話は大丈夫だろうけどあの国はマナーが五月蠅いからなぁ」
「・・・・」
「今年は葉物野菜の収穫量が昨年の6割に落ち込んでしまった。虫害が原因なんだ」
「・・・・」

シリウスは月に一度、やって来た。
来なくてもいいと何度言ってもこの男には意味が解らないらしい。
3回言っても判らなければと教育中に講師が言っていたが、この男は10回以上言っても判らない。
講師の言う事も嘘ばかりではないなとつくづく感じた。

今月もまた時間が過ぎるのをただ待つだけである。





シリウスがアナスタシアを西の塔に幽閉し1年5か月となった。
シュバイツ国は様々な問題にいよいよ行き詰って来た。

流産から1年以上経過したが怖くてロザリアを抱く事が出来ない。
また流れてしまったらと思うと、原因はアナスタシアではなく自分ではと考える。
腹の中では育たない子種を持っているのではないかと不安なのだ。

ロザリアの父、フェルド公爵は早く閨を共にと気を利かせているのか精力剤などを持ってくるが全て廃棄している。側妃の父親だからと言っても信用をしているわけではない。
王太子でありゆくゆくは国王となる身である以上、なんでもかんでも口にして良いわけではない。

ロザリアは焦っているのか、シリウスの予定を知りたがる。
不安が払しょくできないシリウスはロザリアを避けるようになった。
何のために側妃を召し上げたのかと貴族からの声が聞こえてくるようにもなってくる。

時間が経つに連れシリウスも子を成す事が重要だと判っていても公務に時間を取られ眠る事もままならない生活に陥っていたのだった。

ロザリア以外にも他の令嬢をまた側妃として召し上げてはどうかと公務のついでに娘を連れてくる高位貴族も増えてきた。

「次からは令嬢同伴の場合、執務についての質疑応答が出来ない令嬢は通すな」

苛立つシリウスは執事を怒鳴りつけた。





更に頭を悩ませているのは【王妃問題】だった。即位は遠い未来ではない。
即位した時から王妃はおらず側妃ばかりの王となるのは避けねばならない。

側妃は何人召し上げようと側妃でしかない。伯爵位ほどの新興貴族であれば勘違いをしている者もいて、あわよくばと娘を紹介してくるが側妃が王妃となることはない。

王子を産み、王母となる事はあっても王妃にはなれないのだ。
王妃となるには高度な知識と執務の完全理解、他国との関係を考慮した会話、交渉術に民に認められる程の【絶対性】が必要である。

側妃がするのは子を成す事くらいである。中には執務を手伝う者もいるが補佐程度で王妃ほどの力量は求められない。1つの執務が完璧に出来ても付随する執務となると数年の教育では付け焼刃。どうなるものでもないのである。

公爵家の令嬢であった側妃ロザリアも公女であるが、やはり公女止まり。
15年以上、王妃になるべくして育てられたアナスタシアとは比べ物にならなかった。

求められるものが違う王妃と側妃。その重要性を認知しなかった代償は大きかった。




新たな側妃を召し上げろと言う声が前回と違うのはシリウスを飛ばして次の世代に王位を継がせるためという意味合いが含まれるようになった。
懐妊が判れば高位貴族は子を成すために励む。それは【次の世代の王妃】をその家から出そうとするからである。それほどまでにアナスタシアが抜けた穴が大きかった事に今更ながらに気が付いたのだ。

シリウスの母である王妃も必死になってあたりをつけてはいるが、執務、公務は国王が8割。王妃は12割をこなさなくてはならない。それに見合うだけの令嬢は国内に存在をしなかったのである。
他国の王女か皇女を迎えるしかないかとも考えるが、シリウスにあう年齢の王女、皇女がいない。
一番年齢差の少ない者で9歳。まだ14歳の王女でその他となると10歳以上の年齢差になる。
年下なら懐妊しても問題ない程度まで成長を待たねばならず、年上であれば1日でも早く子を成さねば出産出来ると思われる年齢を超えてしまうのだ。

「アナスタシアが子さえ成せれば問題はなかったものを。口惜しいッ」

王妃の愚痴は日増しに多くなっていく。

アナスタシアの復帰を望む声も出るようになったが、平民ではないため一度離縁し廃妃となった者を再度王妃、王太子妃とする事は教会が首を縦に振らなかった。

「仮にあの毒の件が冤罪だったとしても、王家主導の調査による結果」
「調査が間違いだったとなれば王家の信用、信頼は失墜する」
「ままごと遊びではない。王妃を廃妃に出来ても廃妃は王妃になることはない」

王太子シリウスの替えは居ても王妃の替えとなる者はいなかったのである。





そして外交問題で既に手詰まりにもなりつつあった。
王妃も悔やんだが、シリウスの代になった時にアナスタシアが王妃となるため外交公務の一端をアナスタシアが担い、締結をしていた条約が更新時期に来ていた。

6年間アナスタシアが担当した国は4つありその中に強大な力を持つ帝国が含まれていた。
当初は軽微な関税についての担当だったが、その手腕を帝国が買い、以降の交渉はアナスタシアでなければ行わないと大使も指名をするほどだった。

王妃は慌ててそれまでの引継ぎをすると通達を出したが4つの国の内3つは首を縦に振らない。
更新がなければ条約は満期を迎え消滅をしてしまう。国内産業は大打撃を受けるのだ。

「何故アナスタシアに丸投げをしておったのだ!」

声を荒げる国王だが王妃ともにもう40代半ば。王妃は数年前から火照りや倦怠感に悩む事が多くなった事もあるし、自分たちでさえシリウスやアナスタシアの年齢の頃には大役を担っていたのである。
執務、公務の引継ぎは王太子妃となった時から始まっていたのだ。そこに間違いはなかった。
ただ、アナスタシアが罪人として有罪となり廃妃となった事で歯車が一つ外れたのだ。



1つ目の外交問題である鉱山の採掘権に関する条約。
比較的譲歩してくれている隣国相手だとは言え、話し合いのテーブルにアナスタシアがいない事に外交官はあらかさまに不快感を示した。

ただの採掘に関する事だけではなく国防にも範囲が及ぶ事に王妃は手を挙げた。
2日の予定で終わる会合を5日に伸ばし時間をもらったが【話にならない】と決裂。
条約の更新期限の満了を待つだけとなった。


2つ目の外交問題である国境を超えての労働者の受け入れに関する条約。
シュバイツ国は労働者を受け入れる側の国である。賃金が安く過酷な労働を好んで行う者はない。だがその労働力無くして国が立ち行かない慢性的な人材不足。流れてくる移民の聞き取り調査などから適切な教育を受けさせ配置していくのだが、ここ1年で労働環境が悪くなったと相手国には苦情の陳情が多くなっていた。

厳しく取り締まりを行わせていたアナスタシアが居なくなった事で収賄で中抜きをしたり、教育機関の廃止などを勝手に行う領主が増加。相手国は約束通りの維持費を出すだけとなっていた。
事業を停止すればあっという間に労働者は引き上げていき、人員不足が顕著になる。
かといって今からテコ入れをするにも時間がなさ過ぎた。

シリウスが改善案を出しては見たが、穴だらけで鼻であしらわれ、交渉は決裂。
予断を許さない国内情勢も秒読みとなってしまった。


来週は帝国の使節団がやってくる。
異変を感じた賢い商人や堅実な貴族たちは荷物を纏めだした。
国家の足元はもうシロアリに食い尽くされた柱の方がまだマシなくらいにぐらついていたのだ。
しおりを挟む
感想 178

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...