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本編
第15話 王子は秘密を抱える
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ティナベルを見舞いに行こうとしたのだが何を持って行って良いか判らない。
従者に聞いても「花で良いと思います」と答えるだけで「どんな花がいいのだ?」と聞いても「相手が好きな花」と答えるだけで埒が明かない。
その他に女性が好きなものは何だと問えば「菓子か宝石でしょうか。ですが菓子はアレルギーなどもありますので小麦やナッツ類などがOKかどうか・・・」と返事が返ってきた。
従者も昼間にエドゥアールがティナベルを転ばせてしまったことは申し送りをされていた。
「悪いことをしたなと思ったら謝罪は早めの方が良いと思いますが・・・」
「そうか。なら明日行ってみようと思う」
「明日ですか?あの・・・先触れは?」
「先触れ?」
7歳のエドゥアールはまだ本格的に教育も始まってはおらず「先触れ」を知らなかった。従者は面会を求める際に何時が良いかと相手に伺いを立てると言う。
「なら早めの謝罪など出来ないじゃないか。適当な事を言うな!」
カッとなったエドゥアールは従者にカップごとホットミルクを投げつけた。
従者の額に当たったカップは床にゴトリと落ちた。
「申し訳ございません」
抑揚のない声で従者はカップを拾い上げると清掃メイドを呼び汚れた床やテーブルを掃除させるとメイドと共に部屋から出て行ってしまった。
相談相手がいなくなったエドゥアールは寝台に転がって指を折った。
「菓子はダメ、花もダメ。なら宝石って事か」
そのまま寝落ちをしてしまったのだが、夢を見た。
『わぁ。リック!見て。可愛い~欲しいなぁ。いいでしょう?』
『いいよ。どれが欲しいんだ?』
『ねぇ、ショーケースにない宝飾品はダメぇ?』
『いいよ。〇〇〇の欲しいものなら何でも買ってやるよ』
『ホントにぃ?ね?今夜ナニをして欲しいの?なんでもしちゃうよぉ?』
手慣れた女の手が股間を撫でていく。
夢はそこで覚めたのだが、起きた瞬間から下半身に怒張を感じ生暖かさも感じる。
同時にヌルッとした粗相を悟り、エドゥアールはそれが夢精だとも知らず洗面や着替えにメイドが来る前に不浄に駆け込んだ。
急いで下半身から衣類を取り去り、下腹部に感じる違和感を恐る恐る見下ろした。
「どうしよう‥‥腫れてる」
怒張は短時間で鎮まり、二度目に見下ろした時はいつもの状態だったが閨教育を受ける前のエドゥアールはその正体が判らず「誰にも言えない」とこの事を秘密にしなくてはならないと脱ぎ去った衣類を捨て新しい寝間着を探しているところをメイドに見つかった。
メイドは「おねしょ」をしたのだろうと思ったが寝具が濡れていない。
精通にしては早いと思ったが市井で育ったメイド。早いものはそれなりに早いとゴミ箱に捨てられた寝間着を見て気に留めることも無かった。
淫夢を見てしまったエドゥアールは従者の制止も振り切りベルセル家を訪れた。門番は「旦那様も留守なので」と渋ったが王家の紋が入った馬車。門番も渋々ながらエドゥアールが名乗れば通すしかなかった。
公爵夫妻が留守と聞き、従者に「帰りましょう」と促されている所にやって来たのはティナベルだった。
全身が熱くなるエドゥアールだったが、来る途中に買い付けた「ピアス」を渡す事を忘れてはならないと従者から小箱を受け取ったのだが、ティナベルは年下、しかも5歳とは思えない口調で受け取れないと言った。
【申し訳ございません。先程も申しましたように父も母も不在ですので品物を受け取る事は出来兼ねます。昨日の事でしたらお気になさらず。お心遣いも結構で御座います】
エドゥアールも国王や王妃からは無暗に贈り物を受け取るなと言われているので「やはり先触れもなく贈り物をされれば警戒もするだろう」と自身に置き換えてそこは納得できた。
【申し訳ございませんが此の後も予定が御座いまして】
そう言われれば帰るしかない。
予定の事などお構いなしに押しかけた事は解っており、怪我をさせたこともだがこれ以上ティナベルの機嫌を悪くすることはしない方が良いと心の中に自分が語りかけてきた。
自分が王族だと言う驕りもあった。
婚約者となるべく顔合わせもしたのだから、これからは先触れさえ出せば何時でも好きな時に会える。
そう考えていたが、以降は何度先触れを出そうと会えるのは公爵夫妻のみで肝心のティナベルは挨拶にすら来ない。
堪らずに母の王妃に問う。
「僕はベルセル嬢の婚約者なんでしょう?」
「エディ・・・そのことなんだけど・・・」
歯切れの悪い王妃は申し訳なさそうにエドゥアールの肩に手を置き、そのままギュッと抱きしめた。
「今はまだ時期が早いの。でも貴方の為にあの子は自分を磨いているの」
「どう言う意味です?婚約者ではないと?」
「大丈夫。貴方に年齢のあう高位貴族の令嬢はあの子くらいよ。お母様がきっと婚約をさせてあげる」
「させてあげるって…婚約者じゃないって事ですか!」
「今はね。でも大丈夫よ。大丈夫」
手に入っていないとなれば欲しくなる。
その日からエドゥアールは少しづつ心が歪み始めた。
花に向かい「ティア」と呟き、花びらを1枚1枚千切る事に快感を覚え最後にぐしゃりと握り潰す。
妹の王女に不要になったオレンジのドレスを宝飾品と交換してもらうとトルソーにドレスを着せ、夜な夜な1人でトルソーに向かって話しかける。
先触れの返事が断りとなって届くとクッションやソファは切り刻まれるようになってしまったのだった。
従者に聞いても「花で良いと思います」と答えるだけで「どんな花がいいのだ?」と聞いても「相手が好きな花」と答えるだけで埒が明かない。
その他に女性が好きなものは何だと問えば「菓子か宝石でしょうか。ですが菓子はアレルギーなどもありますので小麦やナッツ類などがOKかどうか・・・」と返事が返ってきた。
従者も昼間にエドゥアールがティナベルを転ばせてしまったことは申し送りをされていた。
「悪いことをしたなと思ったら謝罪は早めの方が良いと思いますが・・・」
「そうか。なら明日行ってみようと思う」
「明日ですか?あの・・・先触れは?」
「先触れ?」
7歳のエドゥアールはまだ本格的に教育も始まってはおらず「先触れ」を知らなかった。従者は面会を求める際に何時が良いかと相手に伺いを立てると言う。
「なら早めの謝罪など出来ないじゃないか。適当な事を言うな!」
カッとなったエドゥアールは従者にカップごとホットミルクを投げつけた。
従者の額に当たったカップは床にゴトリと落ちた。
「申し訳ございません」
抑揚のない声で従者はカップを拾い上げると清掃メイドを呼び汚れた床やテーブルを掃除させるとメイドと共に部屋から出て行ってしまった。
相談相手がいなくなったエドゥアールは寝台に転がって指を折った。
「菓子はダメ、花もダメ。なら宝石って事か」
そのまま寝落ちをしてしまったのだが、夢を見た。
『わぁ。リック!見て。可愛い~欲しいなぁ。いいでしょう?』
『いいよ。どれが欲しいんだ?』
『ねぇ、ショーケースにない宝飾品はダメぇ?』
『いいよ。〇〇〇の欲しいものなら何でも買ってやるよ』
『ホントにぃ?ね?今夜ナニをして欲しいの?なんでもしちゃうよぉ?』
手慣れた女の手が股間を撫でていく。
夢はそこで覚めたのだが、起きた瞬間から下半身に怒張を感じ生暖かさも感じる。
同時にヌルッとした粗相を悟り、エドゥアールはそれが夢精だとも知らず洗面や着替えにメイドが来る前に不浄に駆け込んだ。
急いで下半身から衣類を取り去り、下腹部に感じる違和感を恐る恐る見下ろした。
「どうしよう‥‥腫れてる」
怒張は短時間で鎮まり、二度目に見下ろした時はいつもの状態だったが閨教育を受ける前のエドゥアールはその正体が判らず「誰にも言えない」とこの事を秘密にしなくてはならないと脱ぎ去った衣類を捨て新しい寝間着を探しているところをメイドに見つかった。
メイドは「おねしょ」をしたのだろうと思ったが寝具が濡れていない。
精通にしては早いと思ったが市井で育ったメイド。早いものはそれなりに早いとゴミ箱に捨てられた寝間着を見て気に留めることも無かった。
淫夢を見てしまったエドゥアールは従者の制止も振り切りベルセル家を訪れた。門番は「旦那様も留守なので」と渋ったが王家の紋が入った馬車。門番も渋々ながらエドゥアールが名乗れば通すしかなかった。
公爵夫妻が留守と聞き、従者に「帰りましょう」と促されている所にやって来たのはティナベルだった。
全身が熱くなるエドゥアールだったが、来る途中に買い付けた「ピアス」を渡す事を忘れてはならないと従者から小箱を受け取ったのだが、ティナベルは年下、しかも5歳とは思えない口調で受け取れないと言った。
【申し訳ございません。先程も申しましたように父も母も不在ですので品物を受け取る事は出来兼ねます。昨日の事でしたらお気になさらず。お心遣いも結構で御座います】
エドゥアールも国王や王妃からは無暗に贈り物を受け取るなと言われているので「やはり先触れもなく贈り物をされれば警戒もするだろう」と自身に置き換えてそこは納得できた。
【申し訳ございませんが此の後も予定が御座いまして】
そう言われれば帰るしかない。
予定の事などお構いなしに押しかけた事は解っており、怪我をさせたこともだがこれ以上ティナベルの機嫌を悪くすることはしない方が良いと心の中に自分が語りかけてきた。
自分が王族だと言う驕りもあった。
婚約者となるべく顔合わせもしたのだから、これからは先触れさえ出せば何時でも好きな時に会える。
そう考えていたが、以降は何度先触れを出そうと会えるのは公爵夫妻のみで肝心のティナベルは挨拶にすら来ない。
堪らずに母の王妃に問う。
「僕はベルセル嬢の婚約者なんでしょう?」
「エディ・・・そのことなんだけど・・・」
歯切れの悪い王妃は申し訳なさそうにエドゥアールの肩に手を置き、そのままギュッと抱きしめた。
「今はまだ時期が早いの。でも貴方の為にあの子は自分を磨いているの」
「どう言う意味です?婚約者ではないと?」
「大丈夫。貴方に年齢のあう高位貴族の令嬢はあの子くらいよ。お母様がきっと婚約をさせてあげる」
「させてあげるって…婚約者じゃないって事ですか!」
「今はね。でも大丈夫よ。大丈夫」
手に入っていないとなれば欲しくなる。
その日からエドゥアールは少しづつ心が歪み始めた。
花に向かい「ティア」と呟き、花びらを1枚1枚千切る事に快感を覚え最後にぐしゃりと握り潰す。
妹の王女に不要になったオレンジのドレスを宝飾品と交換してもらうとトルソーにドレスを着せ、夜な夜な1人でトルソーに向かって話しかける。
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