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第11話 グレイクは罪悪感を感じる
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グレイクはシュガバータ王国の諜報員である。
ファウスティーナとルフィード伯爵に告げた中には真実もあり、事実もあり、そして嘘もある。諜報員であるという事は2人に限らず絶対に知られてはならない事で口にしなかったのは言うまでもない。
が、マガリン王国の大商会ではアッセントという偽名を10年以上使っていて、本当の名で呼ばれるよりもずっと体に馴染んでいたはずなのに2人には本当の名前を名乗ってしまった。
助けてもらった恩もあるし、ファウスティーナが仕事で留守の間、男性なのに甲斐甲斐しく世話を焼くルフィード伯爵の純粋な善意が心の隙間に入り込んでしまったからかも知れない。
「明日は晴れそうだ。私ら2人とも仕事で留守になるがゆっくりして行ってくれていいよ」
何処までもお人好しなルフィード伯爵。そして「そうすればいいわ。病み上がりに無理は禁物よ」と同意するファウスティーナ。
昨夜グレイクは考えた。
今の状況で国に戻るために動くのは早計で捕まえてくださいと名乗り出るようなものだ。暫くは身を顰めて時期を伺わねばならない。身バレをしてしまった事でミッションは中断となったが潜入していたマガリン王国の大商会は裏での取引を行っているのは解っていたが、どの国の誰とまでは特定出来なかった案件もほぼ片付いていた。
しかしそれも報告済みでビルギッタことヴェスティナが第1王子を篭絡したのもその口利きに王家が絡んでいる事を突き止めたため、より綿密な情報を掴むためだった。
ビルギッタことヴェスティナが捕縛されたのはニコライが原因で諜報活動とは切り離されて捜査も行われた事もグレイクは掴んでいた。
処刑される時点では点ばかりだったものが、線に繋がり、あとは穏便に大商会を円満退職し逃げ切るための後始末中だったのだが、どこから漏れたのか。憲兵に踏み込まれてしまったのだ。
さっさと逃げれば良かったのにと口にする者もいるが、諜報活動はその時で終わりではなく手を変え品を変えで将来的にも継続される。トンズラをするとその後は警戒をされるので諜報員は直ぐに逃げる事をしない。そんな事をしたら「怪しんでください」と言っているようなものだからだ。
グレイクは当面の潜伏先をこの部屋にしようと決めた。頃合いを見てシュガバータ王国に戻ればいい。利用するようで心苦しいが、背に腹はかえられなかった。
だとしても‥‥。
もし、目の前の男が本当の悪人で留守中に目ぼしいものを持ち逃げされたらどうするつもりなんだろうとグレイクの方が心配をしてしまう。
余りにも良い人過ぎるのと、生きて来て初めて「本心で自分の事を心配をしてくれている」と感じたグレイクは、本名と同じく言うつもりはなかったのに、「俺は一体何を言ってるんだ?」と思いつつ。
「出来れば…数日ここに置いてくれませんか?」
「それは構わないが…」
「そうしたら?お父様、聞いて。グレイクさん。やってもない横領の罪をきせられて社員寮も追い出されたのよ?信じられる?追い出すにしても荷物くらい纏めさせろって話だわ」
「それは酷い。グレイクさんもお困りでしょう。社員寮も追い出されて荷物もないんだ。着るものは私と共有になってしまうが着られそうな物を着るといい。留守の間に出掛けたい時もあるだろうから鍵も預けておくよ。私が家を出るのはファウスティーナより早いし、帰るのは遅い。私の鍵を君に貸してあげるよ」
――カギだと?!家の鍵だぞ?大丈夫なのか?――
言ってはみたものの返って来た予想以上の返事に冷や汗すら噴き出してしまう。
が、それも見透かされていたのか。
「泥棒だって何か恵んで行ってくれそうなくらいの家だ。それにこれも何かの縁。気にする事はないよ」
「そうですか…物を盗るような事はしません。ですが衣類は当面貸してください。何か仕事を見つけたらお返しするようにします」
「いいよ。いいよ。着るものだったら毎週日曜日に教会の塀にそって屋台が出るから安くサイズの合うものがあるかも知れない。古着に抵抗がないなら行ってみるといいよ」
「ありがとうございます。大丈夫です。新品こそ着るのに躊躇すると思うので」
「教会へは道順を教えてあげるわ。ごめんなさい。日曜も仕事なの。雑貨店は一番お客さんが入る日だし、青果店は‥毎日の食事に休みの日がある人っていないでしょう?」
「そうと決まれば…下着だけでも明日買ってくるといい。こればかりは例え洗っても他人のものは嫌だろう」
実際にはそう言う2人が食事が休みの日がある。単に買う金がないし、廃棄する野菜がない日もあるしパンが完売すればありつけないだけなのだが、グレイクに気遣いをしなくていいと遠回しに言ってくれているような気がして、またもやグレイクの心の中に「無償の優しさ」がポっと温もりを広げた。
そんな会話の中でもグレイクは嘘を吐いた。
今まで諜報員と言う仕事柄、嘘は息をするように口から出るし生き残る術として嘘を本当にするまで辻褄が合うように振舞ってきたが、グレイクの心の中に「仕事を見つけたら」と吐いた嘘が罪悪感を巻き散らした。
金はあるのだ。潜入していた大商会からは未払いと言ってももう賃金は貰えないだろうが、国からは毎月諜報員としての給金が支払われるため、顧客の情報は例え反社の人間であっても口座を持てば絶対に漏らさない金融商会にそれなりの額がプールされている。
シュガバータ王国の諜報員には失敗がない。
死ななければ毎月が成功とみなされる。失敗した時は命を落とした時でどんな拷問であってもシュガバータ王国の諜報員は口を割らないので成功しかないのだ。
2人を騙している心苦しさを感じながらもグレイクの同居が決まったのだった。
ファウスティーナとルフィード伯爵に告げた中には真実もあり、事実もあり、そして嘘もある。諜報員であるという事は2人に限らず絶対に知られてはならない事で口にしなかったのは言うまでもない。
が、マガリン王国の大商会ではアッセントという偽名を10年以上使っていて、本当の名で呼ばれるよりもずっと体に馴染んでいたはずなのに2人には本当の名前を名乗ってしまった。
助けてもらった恩もあるし、ファウスティーナが仕事で留守の間、男性なのに甲斐甲斐しく世話を焼くルフィード伯爵の純粋な善意が心の隙間に入り込んでしまったからかも知れない。
「明日は晴れそうだ。私ら2人とも仕事で留守になるがゆっくりして行ってくれていいよ」
何処までもお人好しなルフィード伯爵。そして「そうすればいいわ。病み上がりに無理は禁物よ」と同意するファウスティーナ。
昨夜グレイクは考えた。
今の状況で国に戻るために動くのは早計で捕まえてくださいと名乗り出るようなものだ。暫くは身を顰めて時期を伺わねばならない。身バレをしてしまった事でミッションは中断となったが潜入していたマガリン王国の大商会は裏での取引を行っているのは解っていたが、どの国の誰とまでは特定出来なかった案件もほぼ片付いていた。
しかしそれも報告済みでビルギッタことヴェスティナが第1王子を篭絡したのもその口利きに王家が絡んでいる事を突き止めたため、より綿密な情報を掴むためだった。
ビルギッタことヴェスティナが捕縛されたのはニコライが原因で諜報活動とは切り離されて捜査も行われた事もグレイクは掴んでいた。
処刑される時点では点ばかりだったものが、線に繋がり、あとは穏便に大商会を円満退職し逃げ切るための後始末中だったのだが、どこから漏れたのか。憲兵に踏み込まれてしまったのだ。
さっさと逃げれば良かったのにと口にする者もいるが、諜報活動はその時で終わりではなく手を変え品を変えで将来的にも継続される。トンズラをするとその後は警戒をされるので諜報員は直ぐに逃げる事をしない。そんな事をしたら「怪しんでください」と言っているようなものだからだ。
グレイクは当面の潜伏先をこの部屋にしようと決めた。頃合いを見てシュガバータ王国に戻ればいい。利用するようで心苦しいが、背に腹はかえられなかった。
だとしても‥‥。
もし、目の前の男が本当の悪人で留守中に目ぼしいものを持ち逃げされたらどうするつもりなんだろうとグレイクの方が心配をしてしまう。
余りにも良い人過ぎるのと、生きて来て初めて「本心で自分の事を心配をしてくれている」と感じたグレイクは、本名と同じく言うつもりはなかったのに、「俺は一体何を言ってるんだ?」と思いつつ。
「出来れば…数日ここに置いてくれませんか?」
「それは構わないが…」
「そうしたら?お父様、聞いて。グレイクさん。やってもない横領の罪をきせられて社員寮も追い出されたのよ?信じられる?追い出すにしても荷物くらい纏めさせろって話だわ」
「それは酷い。グレイクさんもお困りでしょう。社員寮も追い出されて荷物もないんだ。着るものは私と共有になってしまうが着られそうな物を着るといい。留守の間に出掛けたい時もあるだろうから鍵も預けておくよ。私が家を出るのはファウスティーナより早いし、帰るのは遅い。私の鍵を君に貸してあげるよ」
――カギだと?!家の鍵だぞ?大丈夫なのか?――
言ってはみたものの返って来た予想以上の返事に冷や汗すら噴き出してしまう。
が、それも見透かされていたのか。
「泥棒だって何か恵んで行ってくれそうなくらいの家だ。それにこれも何かの縁。気にする事はないよ」
「そうですか…物を盗るような事はしません。ですが衣類は当面貸してください。何か仕事を見つけたらお返しするようにします」
「いいよ。いいよ。着るものだったら毎週日曜日に教会の塀にそって屋台が出るから安くサイズの合うものがあるかも知れない。古着に抵抗がないなら行ってみるといいよ」
「ありがとうございます。大丈夫です。新品こそ着るのに躊躇すると思うので」
「教会へは道順を教えてあげるわ。ごめんなさい。日曜も仕事なの。雑貨店は一番お客さんが入る日だし、青果店は‥毎日の食事に休みの日がある人っていないでしょう?」
「そうと決まれば…下着だけでも明日買ってくるといい。こればかりは例え洗っても他人のものは嫌だろう」
実際にはそう言う2人が食事が休みの日がある。単に買う金がないし、廃棄する野菜がない日もあるしパンが完売すればありつけないだけなのだが、グレイクに気遣いをしなくていいと遠回しに言ってくれているような気がして、またもやグレイクの心の中に「無償の優しさ」がポっと温もりを広げた。
そんな会話の中でもグレイクは嘘を吐いた。
今まで諜報員と言う仕事柄、嘘は息をするように口から出るし生き残る術として嘘を本当にするまで辻褄が合うように振舞ってきたが、グレイクの心の中に「仕事を見つけたら」と吐いた嘘が罪悪感を巻き散らした。
金はあるのだ。潜入していた大商会からは未払いと言ってももう賃金は貰えないだろうが、国からは毎月諜報員としての給金が支払われるため、顧客の情報は例え反社の人間であっても口座を持てば絶対に漏らさない金融商会にそれなりの額がプールされている。
シュガバータ王国の諜報員には失敗がない。
死ななければ毎月が成功とみなされる。失敗した時は命を落とした時でどんな拷問であってもシュガバータ王国の諜報員は口を割らないので成功しかないのだ。
2人を騙している心苦しさを感じながらもグレイクの同居が決まったのだった。
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