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第05話 新しい婚約
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マルブル帝国の第4皇子ウォレスと言えば知らない者はいない。
6歳になる少し前から皇帝の実妹が嫁いだ辺境伯の元に預けられ18年を超えた。
預けられた理由は政争が原因だが、対外的には「ウォレスの性格に難あり」とされた。
個人としては迷惑この上ない話だが4兄弟のうちウォレスは自我が芽生えた頃から扱いが難しく、一番皇帝に似ているとも言われていた。辺境伯に預けることで武力で持って成り上がろうとする者やウォレスを担ごうとする貴族をあぶり出す意味もあった。
王国とは国王が統治をする国だが、帝国は少し違う。
絶対的な権力で多くの民族や国を属国として部分的に権利を認め支配下に置いているのが帝国であるからこそ不要な内乱を防ぐために取られた措置だった。
サジェス王国の立ち位置はここ近年、非常に微妙な位置にある。
時代的に言えば数百年おきにやって来る激動の時代に突入し始めていると言っていい。
サジェス王国は帝国の属国となってはいないものの、周辺の力のない国や王国ほどの規模ではなく公爵が統治をする公国などは続々と帝国の傘下に下った。そうする事で属国となっても統治する役目はそのままに任せてもらえて、帝国に属さない国の脅威からは守って貰える。
領土を広げたいのはどの国も同じで、お手手つないで仲良しこよしの付き合いなど出来ない。隙あらば全てを奪われたとて抗うほどの国力も無ければ属国になったほうが民の生命が守られる苦肉の策だった。
サジェス王国も属国になるかは議会で何度も話し合いがもたれた。
しかし守ってもらうと言う事は対価も支払わねばならない。差し出すものも無しに守ってもらえるはずがない。手っ取り早いのは「金」だがそうなれば民衆に対し増税をせねばならなかった。
最小限に抑えようと考えた挙句に出た答えが、令嬢を1人嫁がせる事。属国と呼ばれても帝国の皇族と姻戚関係があれば属国の中でも立場は上になる。
4人いる皇子のうち相手がいまだに決まらず間もなく25歳になる第4皇子がいる。男性に婚期は存在しないが相手探しをしている事はどの国も知っていた。
ただ、手をあげる者が1人もいなかった。
サジェス王国には王女が2人いたが2人とも別の国の王族に嫁ぐ事が決まっていたため候補となったのがオコット公爵家のアビゲイルだった。
問題はあった。アビゲイルは当初ジャクリーンと同じくアルバートの妃候補であり教育を始めたのだが身につかなかった。習得率はゼロではないがジャクリーンの出来が余りにも良すぎてしまった。
黙っていれば見た目はジャクリーンの比にならない美少女だったが、美しさだけが取り柄とも言える出来栄えにアビゲイルを嫁がせる話は立ち消え状態だった。
そんな話が突然動き出したのが成婚の議を1年後に控えた日。臨時招集された議会で「王太子妃をアビゲイルとする」と国王から発表があった。
その場では詳細が語られることはなかったが、「世継ぎの可能性」との言葉にアルバートがアビゲイルと一線を越えてしまった事は公然の秘密となった。
「大丈夫なのか」
「判らん。第2王子のアラン様擁立もあるんじゃないか?」
「アラン殿下はまだ16歳だ。それに御病気がちだ」
「いったいどうなるんだ」
「オコット公爵は娘の行動にも注意できなかったのか」
「案外けしかけたのかも知れんぞ。アルバート殿下は余り婚約者殿の事は良く思われていなかったからな」
各貴族の反応は様々。
ジャクリーンとアビゲイルは同じ父と母から生まれた姉妹だが、見た目と中身は真逆だった。
大商会に出向いて真っ先に声をかける受付嬢が美人であればそれだけでもポイントが高いと言われている昨今、容姿はそれだけ第一印象に残るので見た目を基準に雇用したり、人事配置を行っていると公言している商会もある。
ジャクリーンが人前に出て恥ずかしいかと言えばそうではないが、国の顔ともなる王妃なので見てくれが良いほうがいいに決まっている。何よりアルバートが好いているのならそれだけで世継ぎの心配もしなくていい。それが議会が承認に至った要因。
貴族達は決まった事に声は出さないが、だからこそ心で思った。
「頼むから黙って笑っているだけにしてくれ」
見た目は満点でも中身が落第点のアビゲイルに対しての評価だった。
決まってしまえばマルブル帝国にも書簡を送らねばならない。
マルブル帝国が第4皇子ウォレスの妃を探しているのは事実で前向きな話にマルブル帝国でも話が進んだ。
届けられた書簡に帝国内には衝撃が走った。
第4皇子とは言えウォレスの相手に手をあげてくれる者は誰人いなかったからである。
中でも一番にこの話を皇帝に推したのは皇帝の右腕でもある宰相だった。
「正直申し上げてアビゲイル嬢では問題が御座いましたが、姉のジャクリーン嬢であれば」
「それほどに出来る令嬢なのか」
「いえ、アビゲイル嬢では帝国に利が御座いません。帝国は不用品の処分場ではありませんので。不用品はどんなに磨いても不用品。買ったばかりの頃に輝きがあるのはどの品も同じ。ただ姉ならばその輝きを保持するための経費まで見る必要も御座いません」
無理矢理にウォレスの妃を指名し、招集することは出来ただろうが賢すぎても、バカ過ぎても務まらないのが「妃」であり、ウォレスの子には皇位継承権も発生するため、属国の名から令嬢を選ぶ事も出来なかった。
妃に選ばれるとなれば属国の中でも優劣が出来てしまい、紛争の種になる。
いずれは属国になるかも知れないが、それでも単独で成り立っている国なら傘下の国から苦情が噴き出る事もない。いや、過去にそうやって皇室に取り入り属国に収まったのだから苦情を出せないと言った方が正しい。
「相判った。ではジャクリーン嬢で話を進めよう」
「承知致しました」
皇帝が認めればその知らせは早馬で辺境にも知らされた。
こうしてマルブル帝国第4皇子ウォレスとサジェス王国オコット公爵令嬢ジャクリーンの婚約が調った。
6歳になる少し前から皇帝の実妹が嫁いだ辺境伯の元に預けられ18年を超えた。
預けられた理由は政争が原因だが、対外的には「ウォレスの性格に難あり」とされた。
個人としては迷惑この上ない話だが4兄弟のうちウォレスは自我が芽生えた頃から扱いが難しく、一番皇帝に似ているとも言われていた。辺境伯に預けることで武力で持って成り上がろうとする者やウォレスを担ごうとする貴族をあぶり出す意味もあった。
王国とは国王が統治をする国だが、帝国は少し違う。
絶対的な権力で多くの民族や国を属国として部分的に権利を認め支配下に置いているのが帝国であるからこそ不要な内乱を防ぐために取られた措置だった。
サジェス王国の立ち位置はここ近年、非常に微妙な位置にある。
時代的に言えば数百年おきにやって来る激動の時代に突入し始めていると言っていい。
サジェス王国は帝国の属国となってはいないものの、周辺の力のない国や王国ほどの規模ではなく公爵が統治をする公国などは続々と帝国の傘下に下った。そうする事で属国となっても統治する役目はそのままに任せてもらえて、帝国に属さない国の脅威からは守って貰える。
領土を広げたいのはどの国も同じで、お手手つないで仲良しこよしの付き合いなど出来ない。隙あらば全てを奪われたとて抗うほどの国力も無ければ属国になったほうが民の生命が守られる苦肉の策だった。
サジェス王国も属国になるかは議会で何度も話し合いがもたれた。
しかし守ってもらうと言う事は対価も支払わねばならない。差し出すものも無しに守ってもらえるはずがない。手っ取り早いのは「金」だがそうなれば民衆に対し増税をせねばならなかった。
最小限に抑えようと考えた挙句に出た答えが、令嬢を1人嫁がせる事。属国と呼ばれても帝国の皇族と姻戚関係があれば属国の中でも立場は上になる。
4人いる皇子のうち相手がいまだに決まらず間もなく25歳になる第4皇子がいる。男性に婚期は存在しないが相手探しをしている事はどの国も知っていた。
ただ、手をあげる者が1人もいなかった。
サジェス王国には王女が2人いたが2人とも別の国の王族に嫁ぐ事が決まっていたため候補となったのがオコット公爵家のアビゲイルだった。
問題はあった。アビゲイルは当初ジャクリーンと同じくアルバートの妃候補であり教育を始めたのだが身につかなかった。習得率はゼロではないがジャクリーンの出来が余りにも良すぎてしまった。
黙っていれば見た目はジャクリーンの比にならない美少女だったが、美しさだけが取り柄とも言える出来栄えにアビゲイルを嫁がせる話は立ち消え状態だった。
そんな話が突然動き出したのが成婚の議を1年後に控えた日。臨時招集された議会で「王太子妃をアビゲイルとする」と国王から発表があった。
その場では詳細が語られることはなかったが、「世継ぎの可能性」との言葉にアルバートがアビゲイルと一線を越えてしまった事は公然の秘密となった。
「大丈夫なのか」
「判らん。第2王子のアラン様擁立もあるんじゃないか?」
「アラン殿下はまだ16歳だ。それに御病気がちだ」
「いったいどうなるんだ」
「オコット公爵は娘の行動にも注意できなかったのか」
「案外けしかけたのかも知れんぞ。アルバート殿下は余り婚約者殿の事は良く思われていなかったからな」
各貴族の反応は様々。
ジャクリーンとアビゲイルは同じ父と母から生まれた姉妹だが、見た目と中身は真逆だった。
大商会に出向いて真っ先に声をかける受付嬢が美人であればそれだけでもポイントが高いと言われている昨今、容姿はそれだけ第一印象に残るので見た目を基準に雇用したり、人事配置を行っていると公言している商会もある。
ジャクリーンが人前に出て恥ずかしいかと言えばそうではないが、国の顔ともなる王妃なので見てくれが良いほうがいいに決まっている。何よりアルバートが好いているのならそれだけで世継ぎの心配もしなくていい。それが議会が承認に至った要因。
貴族達は決まった事に声は出さないが、だからこそ心で思った。
「頼むから黙って笑っているだけにしてくれ」
見た目は満点でも中身が落第点のアビゲイルに対しての評価だった。
決まってしまえばマルブル帝国にも書簡を送らねばならない。
マルブル帝国が第4皇子ウォレスの妃を探しているのは事実で前向きな話にマルブル帝国でも話が進んだ。
届けられた書簡に帝国内には衝撃が走った。
第4皇子とは言えウォレスの相手に手をあげてくれる者は誰人いなかったからである。
中でも一番にこの話を皇帝に推したのは皇帝の右腕でもある宰相だった。
「正直申し上げてアビゲイル嬢では問題が御座いましたが、姉のジャクリーン嬢であれば」
「それほどに出来る令嬢なのか」
「いえ、アビゲイル嬢では帝国に利が御座いません。帝国は不用品の処分場ではありませんので。不用品はどんなに磨いても不用品。買ったばかりの頃に輝きがあるのはどの品も同じ。ただ姉ならばその輝きを保持するための経費まで見る必要も御座いません」
無理矢理にウォレスの妃を指名し、招集することは出来ただろうが賢すぎても、バカ過ぎても務まらないのが「妃」であり、ウォレスの子には皇位継承権も発生するため、属国の名から令嬢を選ぶ事も出来なかった。
妃に選ばれるとなれば属国の中でも優劣が出来てしまい、紛争の種になる。
いずれは属国になるかも知れないが、それでも単独で成り立っている国なら傘下の国から苦情が噴き出る事もない。いや、過去にそうやって皇室に取り入り属国に収まったのだから苦情を出せないと言った方が正しい。
「相判った。ではジャクリーン嬢で話を進めよう」
「承知致しました」
皇帝が認めればその知らせは早馬で辺境にも知らされた。
こうしてマルブル帝国第4皇子ウォレスとサジェス王国オコット公爵令嬢ジャクリーンの婚約が調った。
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