所詮、愛を教えられない女ですから

cyaru

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第18話   今になって認めても

王宮はお世辞にでも「穏か」とは言えない。

成婚の議まで1週間を切って、何かと忙しくなるのは仕方がない事だが当事者となるアルバートとアビゲイルの様子がおかしい。

どうやら大喧嘩をしたらしいが、喧嘩をしたからと言ってこの話が無くなる訳ではない。

国の長である国王が話題を振るも「さぁ」「そうですか」の一言で会話は終わる。
王妃は給仕に「早めにお願い」といつもより量を少なくした皿を早い回転率で運ばせ、さっさと食事を終えると「お先に」と私室に戻っていく。

以前は第2王子のアランも一緒に食事をしていたが、体調が悪いと部屋で取るようになった。

「成婚の儀まであと少しだ。緊張もしているだろうが判らない事があれば聞きなさい」
「・・・・」
「・・・・」

国王とアルバート、アビゲイルだけの食卓に聞こえるのは国王の声だけ。
流石に不敬では?と従者の間にはアビゲイルの態度を疑問視する声も上がっていた。


★~★

「アビー。また買ったのか」
「見て。素敵でしょう?ビロードって布なのよ。触ってみて?気持ちいいの」
「それは良いんだけど、執務・・・いや廃止した事業の支援金がなぜこの品に化けているんだ」
「化けてる?バード。おかしなことを言うわね。品を買ったらお金が品になるのは当たり前でしょう」
「そういう意味じゃない。買い物をする事だけが王太子妃の仕事じゃない。この書類!どういうことか説明をしてくれ」


バンっとテーブルに叩きつけたのは福祉事業の廃止届。そして陳情書の束だった。

王太子妃のメインの仕事は「造幣」「福祉」なのだが勝手に紙幣を擦らせて市井にばら撒きをした事でアビゲイルの仕事のうち「造幣」は議長権限で取り上げられた。

仕方ないのでアビゲイルは福祉事業に支援金の配布をやめてはいたが、福祉事業そのものを国の管轄から外して民間委託としてしまった。

そうなると予算が余る。かの日アルバートは特別予算の中から支給されなかった金を孤児院などに配分したが、アビゲイルはその後医療院や孤児院、救護院そのものを廃止するとして書類をアルバートの処理する書類の山に埋もれさせた。

間、一髪で従者が見つけたから良かったものの膨大な資料はもう内容を精査さずに印を押すだけでもアルバートの体力を削いでいた。危うく決済する寸前だったのだ。

「予算は余るといけないんでしょう?福祉って言うのなら余った予算を私用に使ったのよ。何が悪いの?よく言うでしょう?頑張ったご褒美って」

「何を頑張ったと言うんだよ!福祉事業を完全廃止するなんて許されない事だ」


アルバートは声を荒げた。アビゲイルは確かに可愛いがそれだけだったと言う事がこの頃「言われなくても解ってるよ!」と叫びたくなるなるくらいに多方面からの突き上げで実感する日々。

「あら?これも福祉よ。余計な部分を削減しただけ。だって考えてみて?他国の使者との会合とか昼食会も無くなったでしょう?面倒だと言ってたじゃない」
「面倒だなど言った事はない」
「いいの。私が面倒だと思ったんだもの。何より王太子夫妻の健康を考えた福祉よ」
「アビーの意見だけで決めていい事じゃない」

アルバートも面倒だなとは思っていたが、交易や国防も関係するため過去の大失態をカバーするために通訳も増やしたし、面と向かって話をする場合は下調べもするようになった。

ただ、アルバートが出来るようになったと言う事はそれだけ数が減ったと言う事でもある。

徐々に国の立場が危うい方向に流れ出し、アルバートも危機感は感じていた。
サジェス王国のように帝国の属国にならない国は幾つかある。その中には好戦的な国もあって武力で他国に攻め入り問題を起こしているのだが、そんな国でも考える。

帝国の属国に手を出せば帝国がしゃしゃり出てくるが、そうでない国なら帝国は動かないと。

これまでは属国にならない国同士で条約も結んだり、武力で制圧しようとする国でも食べなければ生きていけない人間が支配しているのだから、食料などの交易で抑制していた面もある。

今、それは崩壊しつつある。


「アビー。兎に角。買い物をしたいのならする事をしてからだ。周囲が問題ないと言ってくれるようになるまで買い物は控えるように。こうやって他の事業の予算を余ったからと言って私的流用する事は許さない。民衆に対しての福祉事業であって、僕たちの為の事業じゃないんだ」

「バード。物分かりが悪いわね。これも福祉よ?私だって慣れない場所に来て大変なのよ?それにバードだってここ最近は御無沙汰だけど、夜は散々私に癒されていたでしょう?」


アビゲイルは「ふふっ」と笑ってアルバートの腕を掴もうとしたが、跳ねつけられてしまった。

「いい加減にしろ!何もかも滅茶苦茶にして!仕事をしろと言ってるんだ」
「あら失礼ね。してるわよ?何度も言ってるけどこれはご褒美なの。してもない仕事の褒美を先取りしてるわけじゃないわ。この1年面倒なこともしたし、理不尽に叱られたりもしたから自分で癒しているのよ。バードだって好きに買っていいと言ったでしょう?」
「何もしてない癖にさもしたかのような事を言うな!」

「キャハハ」と甲高い声で1つ笑ったアビゲイルはアルバートの前に行くと、下から顔を覗き込むように体を屈めた。

「何もしなかったのはお姉様よ。それとも…私も何もしないって追い出す?」

「僕を騙していたのか」

「騙す?人聞きの悪いことを言わないで。 ”何もしなかった” とお姉様を追い出したのはバードよ?私に王太子妃に必要な教育が履修出来てないってのは知った上で選んでくれたんでしょう?取捨選択をしたのはバードだもの。周りはバードの意見に従っただけよ。貴方の言葉をみんな受け止めているのに騙したのか!なんて。どうかしてるんじゃない?」

「だったら見合うようにちゃんとやってくれよ」

「やだ。本気で言ってる?今になって自分の気持ちや意見が変わったからと言って私にあれこれやれなんて指示しないでほしいわ。そういうのまで受け入れた訳じゃないの。好きにしていいと言ったでしょう?そんなバードの言葉に私は従ってるのよ?それ以上を望まないで」

アルバートを絶望が襲う。
今になって初めて・・・いや気が付いてはいたのだ。

認めたくない気持ちを認めざるを得ない。

愛だなんだと溺れてしまったのはアルバートだけ。しかも正確には愛に溺れたのではなくアビゲイルの体を求める行為に溺れただけでアビゲイルはアルバートに好意さえ持っていない。

アビゲイルが愛しているのはアビゲイル自身で、アビゲイルが楽しい、幸せと感じる事が全て。それが原動力となって周囲を振り回している。

自分の選択が間違っていると思いたくなかった。執務であっぷあっぷの状態から抜け出せば考える余裕も出る。だからその時間を作るためにジャクリーンの元に行ったがけんもほろろに追い返された。

――どうしよう。このままじゃ・・・成婚の儀の後に廃太子になってしまう――

未婚のままで廃籍されればまだどこか郊外でも監視下に置かれて生きてはいける。しかし配偶者を持てば話は変わる。使用人もいない北の塔、良くても夕方日の差し込む西の塔に生涯幽閉となる。

――いやだ、いやだ・・・どうしたらいいんだ――

頼みの綱はジャクリーン。帝国の第4皇子に嫁いだ後「殿下を助けてあげて」と皇子に頼んでくれればまだ望みはある。アルバートがいるからこそジャクリーンを介し帝国が手を差し伸べる。
そんな構図に持って行かなければお先真っ暗だ。

アビゲイルとの結婚はもう避けては通れない。

「判った。好きにしてくれ。ただ今のままならお飾り王妃と呼ばれても僕に文句を言うのはやめてくれ」
「どういう意味っ!」
「言葉のまんまだ。好きな事にだけ邁進する王妃なんか飾りにもならないけどね」

アルバートはアビゲイルに背を向けて部屋を出ていき、以降会話は無くなった。

そして成婚の儀。当日を迎えた。
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