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第24話 援護「瀉」撃はほどほどに
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そして祝賀パーティの会場では更なる失敗が続いていた。
会場内でペッパー国の大使を怒らせてしまい、従者が離れた時に偶々近くにいたのがサジェス国内にある大使館で補佐をしている帝国の職員とカスタード王国のラカントがいた。
ラカントの周りにはなんとか交易に繋げたいと挨拶をする者が多かった。
その資産力を生かした国防力はこの大陸にある帝国も比ではない。
アビゲイルは今日の主役である自分よりも目立っていたラカントに目を付けた。
「ねぇ。バード。どうしてあの方は囲まれているの?」
「あの方?あぁラカント殿下か。カスタード国の王弟だからな。パルス国王に面会を頼んでいるんだろう」
「カスタード国?聞いた事が無いわ」
「海の向こうの国だからな。その資産力は帝国だけじゃなくこの大陸にある全ての国の国家予算を合わせてもかすりもしないと言われているからな」
「へぇ…そうなの」
嫌な予感はしたのだ。
だからアルバートは自分の腕に絡みついているアビゲイルの手が離れないようにとしっかり片方の手を載せてラカントから距離を取ろうとしたのだが、どこにこんな力があるのかアビゲイルはアルバートを引きずるようにラカントに近寄って行った。
「ラカント様!」
「お、おい!やめろって!」
アルバートの制止など効きはしない。アビゲイルはアルバートの手を振り解くと多くの者に囲まれているラカントの腕に手を絡め、二の腕に頬を寄せた。
「来てくださって嬉しいわ。私の為にわざわざ海を越えて来てくださったんでしょう?」
「ははは…すまないがこの方を誰か紹介してくれないか。初見なんだ」
帝国のマルブル語で声を出したラカントにアビゲイルはぷぅっと頬を膨らませて拗ねた振りをした。
「嫌ですわ。ちゃんとサジェス語でお話になって?」
「止めろって。ホントに勘弁してくれって」
「離して。私はラカント様とお話がしたいの」
アルバートの手をパチンと弾いた事で周囲にどよめきも起こる。まるで娼婦のようにラカントに手を絡めるアビゲイルに周囲からは批難の目が浴びせられる。
騒ぎを従者に報告を受け慌てて駆け付けてきた国王と王妃も顔色を真っ青にして従者に「アビゲイルを引き離せ」と命じるが、遅れてやって来たオコット公爵夫人オデリーが火に油を注いでしまった。
「貴方ねぇ。アタシの(ウェッ)娘がぁー。話してっ(ヒィック)くれるんだからぁー。喜びなさぁい!」
何杯もワインを飲み、すっかり出来上がってしまっているオコット公爵夫人はラカントの背中をバンバン叩きながら「アビゲイルと話をしろ」とアビゲイルを援護する。
「誰か!夫人を連れて行け。焦点も定まってないじゃないか!オコット公爵は何をしてるんだ!」
「それが会場にいないんです!」
オデリーをラカントから離したまではよかったが、急に体を引っ張られたオデリーはその場に吐瀉してしまった。
ラカントを中心とした「円」がぐぐっと広がる。
同時に「きゃー!ドレスに掛かったわ!」と騒ぎ出すご夫人も出て来て騒然となってしまった。
従者達も手の空いている者はオコット公爵を探して王宮内を走り回った。「不浄に行ったようだ」と声がかかるが不浄は長蛇の列。その並んでいる者の中にオコット公爵家当主ブライアンはいなかった。
王宮にはいたのだ。ただ場所が庭園の植え込みでしゃがんでいたので見つける事が出来なかっただけだが。
「羽目を外し過ぎよ」「みっともない」「これが公爵だなんて」集まった群衆の中から声がする。帝国の機嫌を損ねる事だが、国王も王妃もラカントに対しての非礼はあり得ない!とラカントからようよう引き離したアビゲイルを私室に引き上げさせた。
「あの方が王太子妃殿下ですか。いやいや。ご母堂と共にさぞかし美味な酒をお召しだったんでしょう」
ラカントは「酒が入っていたんでしょう」と大目に見てくれる言葉を国王、王妃、アルバートに掛けた。主役である王太子妃が前後不覚になる程酔っていたとなればそれも醜聞だが、酒に酔っていなかったとなれば醜聞どころの騒ぎではない。
親に謝罪をさせようにも、ブライアンは酩酊状態にまで酔っぱらってしまったオデリーが会場内で吐いてしまったと聞き、引き留める従者に「謝罪は日を改めて」と言い残し、オデリーを馬車に押し込むと逃げるように王宮から帰ってしまっていた。
王太子妃アビゲイルは初日にやらかした。その噂は瞬く間に広まってしまった。
ジャクリーンは翌日早々に出立したため知らなかったが、サジェス王国の王都広場では文字の読めない者達に語って聞かせる伝聞師が祝賀パーティで起こった前代未聞の不祥事を面白おかしく民衆に広めてしまっていたのだった。
会場内でペッパー国の大使を怒らせてしまい、従者が離れた時に偶々近くにいたのがサジェス国内にある大使館で補佐をしている帝国の職員とカスタード王国のラカントがいた。
ラカントの周りにはなんとか交易に繋げたいと挨拶をする者が多かった。
その資産力を生かした国防力はこの大陸にある帝国も比ではない。
アビゲイルは今日の主役である自分よりも目立っていたラカントに目を付けた。
「ねぇ。バード。どうしてあの方は囲まれているの?」
「あの方?あぁラカント殿下か。カスタード国の王弟だからな。パルス国王に面会を頼んでいるんだろう」
「カスタード国?聞いた事が無いわ」
「海の向こうの国だからな。その資産力は帝国だけじゃなくこの大陸にある全ての国の国家予算を合わせてもかすりもしないと言われているからな」
「へぇ…そうなの」
嫌な予感はしたのだ。
だからアルバートは自分の腕に絡みついているアビゲイルの手が離れないようにとしっかり片方の手を載せてラカントから距離を取ろうとしたのだが、どこにこんな力があるのかアビゲイルはアルバートを引きずるようにラカントに近寄って行った。
「ラカント様!」
「お、おい!やめろって!」
アルバートの制止など効きはしない。アビゲイルはアルバートの手を振り解くと多くの者に囲まれているラカントの腕に手を絡め、二の腕に頬を寄せた。
「来てくださって嬉しいわ。私の為にわざわざ海を越えて来てくださったんでしょう?」
「ははは…すまないがこの方を誰か紹介してくれないか。初見なんだ」
帝国のマルブル語で声を出したラカントにアビゲイルはぷぅっと頬を膨らませて拗ねた振りをした。
「嫌ですわ。ちゃんとサジェス語でお話になって?」
「止めろって。ホントに勘弁してくれって」
「離して。私はラカント様とお話がしたいの」
アルバートの手をパチンと弾いた事で周囲にどよめきも起こる。まるで娼婦のようにラカントに手を絡めるアビゲイルに周囲からは批難の目が浴びせられる。
騒ぎを従者に報告を受け慌てて駆け付けてきた国王と王妃も顔色を真っ青にして従者に「アビゲイルを引き離せ」と命じるが、遅れてやって来たオコット公爵夫人オデリーが火に油を注いでしまった。
「貴方ねぇ。アタシの(ウェッ)娘がぁー。話してっ(ヒィック)くれるんだからぁー。喜びなさぁい!」
何杯もワインを飲み、すっかり出来上がってしまっているオコット公爵夫人はラカントの背中をバンバン叩きながら「アビゲイルと話をしろ」とアビゲイルを援護する。
「誰か!夫人を連れて行け。焦点も定まってないじゃないか!オコット公爵は何をしてるんだ!」
「それが会場にいないんです!」
オデリーをラカントから離したまではよかったが、急に体を引っ張られたオデリーはその場に吐瀉してしまった。
ラカントを中心とした「円」がぐぐっと広がる。
同時に「きゃー!ドレスに掛かったわ!」と騒ぎ出すご夫人も出て来て騒然となってしまった。
従者達も手の空いている者はオコット公爵を探して王宮内を走り回った。「不浄に行ったようだ」と声がかかるが不浄は長蛇の列。その並んでいる者の中にオコット公爵家当主ブライアンはいなかった。
王宮にはいたのだ。ただ場所が庭園の植え込みでしゃがんでいたので見つける事が出来なかっただけだが。
「羽目を外し過ぎよ」「みっともない」「これが公爵だなんて」集まった群衆の中から声がする。帝国の機嫌を損ねる事だが、国王も王妃もラカントに対しての非礼はあり得ない!とラカントからようよう引き離したアビゲイルを私室に引き上げさせた。
「あの方が王太子妃殿下ですか。いやいや。ご母堂と共にさぞかし美味な酒をお召しだったんでしょう」
ラカントは「酒が入っていたんでしょう」と大目に見てくれる言葉を国王、王妃、アルバートに掛けた。主役である王太子妃が前後不覚になる程酔っていたとなればそれも醜聞だが、酒に酔っていなかったとなれば醜聞どころの騒ぎではない。
親に謝罪をさせようにも、ブライアンは酩酊状態にまで酔っぱらってしまったオデリーが会場内で吐いてしまったと聞き、引き留める従者に「謝罪は日を改めて」と言い残し、オデリーを馬車に押し込むと逃げるように王宮から帰ってしまっていた。
王太子妃アビゲイルは初日にやらかした。その噂は瞬く間に広まってしまった。
ジャクリーンは翌日早々に出立したため知らなかったが、サジェス王国の王都広場では文字の読めない者達に語って聞かせる伝聞師が祝賀パーティで起こった前代未聞の不祥事を面白おかしく民衆に広めてしまっていたのだった。
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