所詮、愛を教えられない女ですから

cyaru

文字の大きさ
24 / 36

第24話   援護「瀉」撃はほどほどに

しおりを挟む
そして祝賀パーティの会場では更なる失敗が続いていた。

会場内でペッパー国の大使を怒らせてしまい、従者が離れた時に偶々近くにいたのがサジェス国内にある大使館で補佐をしている帝国の職員とカスタード王国のラカントがいた。

ラカントの周りにはなんとか交易に繋げたいと挨拶をする者が多かった。
その資産力を生かした国防力はこの大陸にある帝国も比ではない。

アビゲイルは今日の主役である自分よりも目立っていたラカントに目を付けた。

「ねぇ。バード。どうしてあの方は囲まれているの?」
「あの方?あぁラカント殿下か。カスタード国の王弟だからな。パルス国王に面会を頼んでいるんだろう」
「カスタード国?聞いた事が無いわ」
「海の向こうの国だからな。その資産力は帝国だけじゃなくこの大陸にある全ての国の国家予算を合わせてもかすりもしないと言われているからな」
「へぇ…そうなの」

嫌な予感はしたのだ。
だからアルバートは自分の腕に絡みついているアビゲイルの手が離れないようにとしっかり片方の手を載せてラカントから距離を取ろうとしたのだが、どこにこんな力があるのかアビゲイルはアルバートを引きずるようにラカントに近寄って行った。

「ラカント様!」
「お、おい!やめろって!」

アルバートの制止など効きはしない。アビゲイルはアルバートの手を振り解くと多くの者に囲まれているラカントの腕に手を絡め、二の腕に頬を寄せた。

「来てくださって嬉しいわ。私の為にわざわざ海を越えて来てくださったんでしょう?」
「ははは…すまないがこの方を誰か紹介してくれないか。初見なんだ」

帝国のマルブル語で声を出したラカントにアビゲイルはぷぅっと頬を膨らませて拗ねた振りをした。

「嫌ですわ。ちゃんとサジェス語でお話になって?」
「止めろって。ホントに勘弁してくれって」
「離して。私はラカント様とお話がしたいの」

アルバートの手をパチンと弾いた事で周囲にどよめきも起こる。まるで娼婦のようにラカントに手を絡めるアビゲイルに周囲からは批難の目が浴びせられる。

騒ぎを従者に報告を受け慌てて駆け付けてきた国王と王妃も顔色を真っ青にして従者に「アビゲイルを引き離せ」と命じるが、遅れてやって来たオコット公爵夫人オデリーが火に油を注いでしまった。

「貴方ねぇ。アタシの(ウェッ)娘がぁー。話してっ(ヒィック)くれるんだからぁー。喜びなさぁい!」

何杯もワインを飲み、すっかり出来上がってしまっているオコット公爵夫人はラカントの背中をバンバン叩きながら「アビゲイルと話をしろ」とアビゲイルを援護する。

「誰か!夫人を連れて行け。焦点も定まってないじゃないか!オコット公爵は何をしてるんだ!」
「それが会場にいないんです!」

オデリーをラカントから離したまではよかったが、急に体を引っ張られたオデリーはその場に吐瀉してしまった。

ラカントを中心とした「円」がぐぐっと広がる。
同時に「きゃー!ドレスに掛かったわ!」と騒ぎ出すご夫人も出て来て騒然となってしまった。

従者達も手の空いている者はオコット公爵を探して王宮内を走り回った。「不浄に行ったようだ」と声がかかるが不浄は長蛇の列。その並んでいる者の中にオコット公爵家当主ブライアンはいなかった。

王宮にはいたのだ。ただ場所が庭園の植え込みでしゃがんでいたので見つける事が出来なかっただけだが。

「羽目を外し過ぎよ」「みっともない」「これが公爵だなんて」集まった群衆の中から声がする。帝国の機嫌を損ねる事だが、国王も王妃もラカントに対しての非礼はあり得ない!とラカントからようよう引き離したアビゲイルを私室に引き上げさせた。

「あの方が王太子妃殿下ですか。いやいや。ご母堂と共にさぞかし美味な酒をお召しだったんでしょう」

ラカントは「酒が入っていたんでしょう」と大目に見てくれる言葉を国王、王妃、アルバートに掛けた。主役である王太子妃が前後不覚になる程酔っていたとなればそれも醜聞だが、酒に酔っていなかったとなれば醜聞どころの騒ぎではない。

親に謝罪をさせようにも、ブライアンは酩酊状態にまで酔っぱらってしまったオデリーが会場内で吐いてしまったと聞き、引き留める従者に「謝罪は日を改めて」と言い残し、オデリーを馬車に押し込むと逃げるように王宮から帰ってしまっていた。

王太子妃アビゲイルは初日にやらかした。その噂は瞬く間に広まってしまった。

ジャクリーンは翌日早々に出立したため知らなかったが、サジェス王国の王都広場では文字の読めない者達に語って聞かせる伝聞師が祝賀パーティで起こった前代未聞の不祥事を面白おかしく民衆に広めてしまっていたのだった。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

[完結]婚約破棄ですか? 困りましたね。え、別の方と婚約? どなたですか?

h.h
恋愛
未来の妃となるべく必死で努力してきたアリーシャ。 そんなアリーシャに婚約破棄が言い渡される。アリーシャが思ったのは、手にした知識をこれからどう活かしていけばいいのかということだった。困ったアリーシャに、国王はある提案をする。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

処理中です...