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第27話 貴方に会いたい!無性に!
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「ペッパー王国のケーブ大使に手紙を書くわ」
「書いてどうなさるのです?」
「事の発端はアビゲイルでしょうけど、その罪を民衆が被るのは違うと思うの」
「だったらお手紙を書くのは止めた方がいいです」
爺執事の言葉にジャクリーンはハッとした。
気持ちに揺らぎをもったまま焦りから余りにも自己都合な事をしてしまいそうになった。
そう、こうやって民衆が泥を被る事になるから王族はその責任を背負って一言一句、いや一言半句に気をつけねばならない。
今もう帝国に籍があるジャクリーンが口を出してしまう事は内政干渉に成り兼ねない事に爺執事は気付かせてくれた。
婚約を白紙にをされて1年3か月になる。公爵家でゆっくりと過ごした1年と、辺境への移動で1か月、辺境で2カ月過ごしてジャクリーンの考え方はすっかり変わってしまった。
――自分の事は自分が一番気が付かないって本当だわ――
このままではいけない。
ジャクリーンはウォレスの立場を考えれば懍と過ごしてはいけないと思った。
「執事さん、わたくしにウォレス様の隣に立つに相応しい学びをご教授くださいませ」
「フェッ??」
「唐突で申し訳ないのですが、このままではウォレス様に恥をかかせてしまいます」
「何を仰います。奥様は奥様のままで宜しいのです」
「ですがっ!!」
ぐいぐいと爺執事に食い下がるジャクリーンだったが爺執事の言葉にまた気付かされた。
「帝国では妃だからこうせねばならない、そんな決まりはありません。歴代の皇帝陛下のお子様である皇子殿下、皇女殿下、皆さまそれぞれお好きな事をされております。自分が皇族として何が出来るか。他者に聞いても答えは出ませんし、他者を真似ても仕方ありません。人生と同じ。自分の道は自分で決めるのです。学びとは教本にある事だけを知識で詰め込めば終わりではないのですから」
――そんな事、誰も教えてくれなかったわ――
「厳しい事を言うようですが、殿下の隣に立つに相応しくありたい。そう考えるのに学問は基礎でしかありません。その先は応用。奥様はもう基礎は終わっております。そうでなければあの堅物宰相が話が来た時に認めるはずがないのです。そうですねぇ…老婆心から物申せば、殿下の為にではなく奥様自身の為に何をしたいのか?とお考えになれば宜しいかと」
「ウォレス様の為ではなく自分の為に・・・」
「そうですよ。だって奥様がウォレス様になれる訳ではなく、その逆もまた然り。年を取ると思うのですよ。出来るかどうかは結果論でしかないのです。出来るようになったと思うその過程が大事。その原動力は ”したい” ”やりたい” という前向きな気持ちです。とどのつまり・・・隣にいて相応しいかどうかを決めるのは儚くなった後に後世を生きる子孫が下す評価。生きているうちには享受できませんよ」
爺執事の言葉にまたまた気付かされたジャクリーンは頭の片隅にチクリと刺さった棘がスポン!と抜けるような気持ち、いや心に巣食っていた蟠りが抜け落ちた気分になった。
「ありがとう!ウォリィの帰宅は何時かしら」
無性にウォレスに会いたくて堪らない気持ちになり、帰宅が待ち遠しい。
「殿下なら間もなくお戻りかと。奥様に会いたくて今頃馬を飛ばしているところでしょう」
「玄関で待つわ!ありがとう。執事さんっ」
気が付けば廊下を走ってしまっていた。今までなら自分自身を「はしたない」と諫めていたかも知れないが今ではそんな感情は何処かに吹き飛んでしまった。
玄関について扉を開ける。まだウォレスは帰宅をしていないがアプローチに出て門道の先を何度も見た。
爺執事の言葉通り、すこし経った頃に馬の蹄の音が聞こえてくる。
ウォレスもジャクリーンに気が付いて馬の速度を落としながら片手をあげて大きく振った。
「どうしたんだ?!出迎えなんて・・・願いが通じたかな?」
「会いたかったの!ウォリィに凄く会いたかったの!それで話を聞いて欲しかったの!わたくしねっ」
「待て待て。どうした?落ち着け。一度深呼吸しろ」
「そんな暇ないわ!早くっ!!」
「我が妻の頼みとあらば従うしかあるまい。だが、馬を預けてくる。それまで待てるか?」
「えぇ。待てるわ!だけど、少しだけ」
「我儘を言うジェリーも堪らんな。俺を一体どうしたいんだ。軽く悶絶するぞ」
馬を預けたまでは良かったが、ウォレスは非常に汗臭い事に気が付いた。
湯を浴びればいいのだが、ジャクリーンを待たせることは出来ない。
「ヒヒン?」
「水桶の水を被ってもいいか?」
「ヒヒィーン!!ブルッブルッ!」
ウォレスは4か国語は堪能だが馬語は話せないし訳せない。
愛馬はウォレスには渡さない!っと水桶の中に顔を突っ込み全力で拒否。
仕方なく井戸で頭から水を被り、ウォレスはびしょ濡れのままジャクリーンの元に向かった。
★~★厩舎の一コマ★~★
「ヒヒィン。ブルルルゥ・・・ブルゥブルッ??」
「どぅどぅ・・・よぉしよぉし。殿下はこれから奥様と大事な大事な話があるんだ」
「ブッルゥ♡ブルルっ♡」
「飼い葉だぞ~。旨いか?」
「ブルルン♡」
ウォレスの愛馬は厩舎の馬丁バーヌシが大好きな牡馬だった。
「書いてどうなさるのです?」
「事の発端はアビゲイルでしょうけど、その罪を民衆が被るのは違うと思うの」
「だったらお手紙を書くのは止めた方がいいです」
爺執事の言葉にジャクリーンはハッとした。
気持ちに揺らぎをもったまま焦りから余りにも自己都合な事をしてしまいそうになった。
そう、こうやって民衆が泥を被る事になるから王族はその責任を背負って一言一句、いや一言半句に気をつけねばならない。
今もう帝国に籍があるジャクリーンが口を出してしまう事は内政干渉に成り兼ねない事に爺執事は気付かせてくれた。
婚約を白紙にをされて1年3か月になる。公爵家でゆっくりと過ごした1年と、辺境への移動で1か月、辺境で2カ月過ごしてジャクリーンの考え方はすっかり変わってしまった。
――自分の事は自分が一番気が付かないって本当だわ――
このままではいけない。
ジャクリーンはウォレスの立場を考えれば懍と過ごしてはいけないと思った。
「執事さん、わたくしにウォレス様の隣に立つに相応しい学びをご教授くださいませ」
「フェッ??」
「唐突で申し訳ないのですが、このままではウォレス様に恥をかかせてしまいます」
「何を仰います。奥様は奥様のままで宜しいのです」
「ですがっ!!」
ぐいぐいと爺執事に食い下がるジャクリーンだったが爺執事の言葉にまた気付かされた。
「帝国では妃だからこうせねばならない、そんな決まりはありません。歴代の皇帝陛下のお子様である皇子殿下、皇女殿下、皆さまそれぞれお好きな事をされております。自分が皇族として何が出来るか。他者に聞いても答えは出ませんし、他者を真似ても仕方ありません。人生と同じ。自分の道は自分で決めるのです。学びとは教本にある事だけを知識で詰め込めば終わりではないのですから」
――そんな事、誰も教えてくれなかったわ――
「厳しい事を言うようですが、殿下の隣に立つに相応しくありたい。そう考えるのに学問は基礎でしかありません。その先は応用。奥様はもう基礎は終わっております。そうでなければあの堅物宰相が話が来た時に認めるはずがないのです。そうですねぇ…老婆心から物申せば、殿下の為にではなく奥様自身の為に何をしたいのか?とお考えになれば宜しいかと」
「ウォレス様の為ではなく自分の為に・・・」
「そうですよ。だって奥様がウォレス様になれる訳ではなく、その逆もまた然り。年を取ると思うのですよ。出来るかどうかは結果論でしかないのです。出来るようになったと思うその過程が大事。その原動力は ”したい” ”やりたい” という前向きな気持ちです。とどのつまり・・・隣にいて相応しいかどうかを決めるのは儚くなった後に後世を生きる子孫が下す評価。生きているうちには享受できませんよ」
爺執事の言葉にまたまた気付かされたジャクリーンは頭の片隅にチクリと刺さった棘がスポン!と抜けるような気持ち、いや心に巣食っていた蟠りが抜け落ちた気分になった。
「ありがとう!ウォリィの帰宅は何時かしら」
無性にウォレスに会いたくて堪らない気持ちになり、帰宅が待ち遠しい。
「殿下なら間もなくお戻りかと。奥様に会いたくて今頃馬を飛ばしているところでしょう」
「玄関で待つわ!ありがとう。執事さんっ」
気が付けば廊下を走ってしまっていた。今までなら自分自身を「はしたない」と諫めていたかも知れないが今ではそんな感情は何処かに吹き飛んでしまった。
玄関について扉を開ける。まだウォレスは帰宅をしていないがアプローチに出て門道の先を何度も見た。
爺執事の言葉通り、すこし経った頃に馬の蹄の音が聞こえてくる。
ウォレスもジャクリーンに気が付いて馬の速度を落としながら片手をあげて大きく振った。
「どうしたんだ?!出迎えなんて・・・願いが通じたかな?」
「会いたかったの!ウォリィに凄く会いたかったの!それで話を聞いて欲しかったの!わたくしねっ」
「待て待て。どうした?落ち着け。一度深呼吸しろ」
「そんな暇ないわ!早くっ!!」
「我が妻の頼みとあらば従うしかあるまい。だが、馬を預けてくる。それまで待てるか?」
「えぇ。待てるわ!だけど、少しだけ」
「我儘を言うジェリーも堪らんな。俺を一体どうしたいんだ。軽く悶絶するぞ」
馬を預けたまでは良かったが、ウォレスは非常に汗臭い事に気が付いた。
湯を浴びればいいのだが、ジャクリーンを待たせることは出来ない。
「ヒヒン?」
「水桶の水を被ってもいいか?」
「ヒヒィーン!!ブルッブルッ!」
ウォレスは4か国語は堪能だが馬語は話せないし訳せない。
愛馬はウォレスには渡さない!っと水桶の中に顔を突っ込み全力で拒否。
仕方なく井戸で頭から水を被り、ウォレスはびしょ濡れのままジャクリーンの元に向かった。
★~★厩舎の一コマ★~★
「ヒヒィン。ブルルルゥ・・・ブルゥブルッ??」
「どぅどぅ・・・よぉしよぉし。殿下はこれから奥様と大事な大事な話があるんだ」
「ブッルゥ♡ブルルっ♡」
「飼い葉だぞ~。旨いか?」
「ブルルン♡」
ウォレスの愛馬は厩舎の馬丁バーヌシが大好きな牡馬だった。
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