所詮、愛を教えられない女ですから

cyaru

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第34話   偽者か本物か

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皇都の公園の噴水に落とされ、ずぶ濡れのアビゲイルは道行く人に声をかけてなんとか噴水から出た‥‥までは良かった。

マルブル語が全く分からず「バード!助けなさいよ!」とアビゲイルが叫ぶ。
イントネーションが少し違うが「ブレスド」と帝国民には聞こえたようで何故が大喝采を浴びた。

そして一部の帝国民が硬貨をアビゲイルに向けて投げる。
アビゲイルの後ろには噴水がある。石をぶつけられると思ったアビゲイルが避けるのでポチャンポチャンと噴水に投げ込まれていく。

「何?何?なんなの?!」

さっぱりわからないアビゲイルだったが、基本的な単語でありアルバートは理解をしていた。失態をこれ以上犯したくなくて高齢の人には「恵まれた」などの意味になるのだが最近の若い者の間では「最高!」という言葉になる。

つまり帝国民はアビゲイルを大道芸人のような芸人と勘違いをして、噴水に飛び込むというあり得ない行為で笑いを取ろうとしている。そう解釈してしまい投げられる硬貨は「おひねり」だったのだ。

ペッパー王国のケーブ大使に「訛り」があるから田舎者と馬鹿にしたアビゲイルは「バード」と呼んでいるだけだが、帝国民には訛りにしか聞こえず…アルバートは恥ずかしくなりその場から立ち去ろうとしたが、警邏けいら中の憲兵が騒ぎを聞きつけてやってきてしまった。

『噴水で行水をしたり、中に入って涼をとるのは違法行為だ!』
「は?何言ってるの?全然判らないんだけど」
『兎に角来い!聴取をするっ』
「きゃぁ!何するのよ!私はサジェス王国の王太子妃よ!無礼でしょう!」

憲兵の言葉も全く分からないアビゲイルは捕縛されそうになり、暴れ出した。

『ウォレス殿下の結婚式の日だからといって羽目を外し過ぎだ!』
「だぁかぁらぁ!判る言葉で喋りなさいよ!」

アルバートは益々恥ずかしくて堪らない。郷に入っては郷に従えとこちらの国の言葉を喋れと言っていたアビゲイル。そのままを当てはめるならアビゲイルがマルブル語を話すべきだ。


他人の振りをしって逃げ出そうとしたアルバートだったが、左後ろから別の憲兵に腕を掴まれた。従者と共に馬でやって来たところから一部始終を見ていた者が憲兵に「この男も仲間の芸人のようだ」と話したのである。

抗おうかと考えたアルバートだったが、ここは大人しくしたがったほうがいい。ズル賢い知恵が働いた。

結婚式に行こうとしたのに憲兵に邪魔をされて間に合わなかった。どうしてくれると補償まで持ち込めるのではないか。

連れていかれた先で身分を明かせば流石に第4皇子ウォレスの妃となる女性の母国の王太子夫妻となれば扱いもコロっと変わるだろう。そう考えたのだ。


しかし、甘くなかった。
どうやら言葉が通じない他国の人間だという事は理解してくれて通訳がつけられた。

――これでこっちのものだ――

そう考えて、アルバートは身分を明かした。

「私はサジェス王国の王太子でアルバート。あちらは妃のアビゲイルだ。君たちの行為は外交問題にも発展する行為だと気が付かないのか?私達は君たちの国の第4皇子ウォレス殿の妃となるジャクリーンを祝うため、そして結婚式に参列するために来たんだ。なのにこの仕打ち。もう結婚式の開始時間を過ぎているしどうしてくれるんだ?」

通訳が憲兵にアルバートの言葉を訳して聞かせる。
アルバートの隣では連れて来られた時に不貞腐れていたアビゲイルも「そうよ!そうよ!」合いの手を入れて援護射撃をする。

1人の憲兵が聴取している憲兵に耳打ちをされて部屋から出て行った。
アルバートは彼らより上の役職がヘコヘコと頭を下げてやって来るのだろうと確信していた。

「バード、頭いいのね。見直したわ」
「これしきの事。だが、あんな場で声を荒げるのは金輪際やめてくれ。誤解しか生まない行為だ」
「は?噴水に落とされたのよ?よく考えて?あの従者は城の従者でしょう?管理がなってないんじゃない?」
「君がそれを言うか?自分の管理も出来てないのに」
「なぁんですってぇ!!」


聴取室で言い合いを始めてしまった2人だったが、扉が開いて入って来たのは先ほど部屋を出て行った憲兵だけだった。手にしていた書類を聴取している憲兵に手渡すと、アルバートを見て聴取していた憲兵がニヤッと笑った。

通訳に向かって何か話すと、今度は通訳がアルバートに話しかけた。

「サジェス王国からの参加者予定リストには貴方、そして貴方の細君の名前はありません。しかしサジェス語は流暢に話をしているので、サジェス王国の人間であろうと思われるため大使館に問い合わせをし、身柄を引き渡します。その際は不法入国者としてこちらは告発する用意が御座います。大使館から人間が来るまでここで待機をしてください。との事です」

「は?はぁぁ??何を言ってるんだ?王太子なんだぞ?僕は王太子なんだぞ?」

「それを通訳の私に言われても…憲兵に訳して聞かせますか?念のため・・・仮に王太子殿下だとすれば護衛は?側近の従者は?まさかと思いますが単身で乗り込んできたわけではないでしょう?」

「そ、それは‥‥」

「最近多いのですよ。こうやって身分を偽って無銭飲食、宿泊費を払わずに逃げるヤカラがね。なので皇帝陛下は仰々しい式典にしないのです。ハッキリ言いますが貴方とそちらの女性。サジェス王国の王太子夫妻だ、第2王子だと身分を偽って違法行為をしたものは14件目なんですよ」

アルバートは王太子と言えば通じるかと思っていたがそれは護衛や側近に囲まれていればの話。元々はアランが参列の予定なのでアルバートの名前があるはずもない。

上手く行くと思ったのに証明する手立てがないことで偽者だと思われてしまっている。
どうしようかと思っていると隣でアビゲイルだけが何故か通訳の言葉に手を叩いて喜んでいた。

「まぁ!どうしましょう。そんなに私達有名なのね」

アルバートは顎が外れるかと思ったが、通訳は色々と噂は聞いているのだろう。
アビゲイルの言葉を肯定した。

「えぇ。有名ですよ。ここまで短期で国を傾かせる王太子夫妻なんて前代未聞ですから」

マルブル語だったのが幸いしたのか。アビゲイルは頷く通訳の姿しか理解が出来ていない。


ただ、大使館から迎えが来てアルバートとアビゲイルが本人であることは証明をしてもらえた。これで形勢逆転!そう思ったアルバートだったが、アルバートの目の前で大使館員は憲兵から厳しい言葉で厳重注意を受けてしまった。

「何事も無かったから良かったものの、わざわざ単身で乗り込んできて言い掛かりで紛争でも起こすつもりだったんですか?どちらにせよ王太子夫妻と言えど入国許可は出していないので不法入国である事は間違いありません。追って連絡をしますので大使館でしっかりと面倒を見るように」

アルバートは悟った。
またやらかしてしまった事を。
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