鬼神閣下の奥様は魔法使いだそうです

cyaru

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第28話   王妃殿下の早とちり

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アナベルがマジルカ王国に行くことが正式に決定し、国王サディスも至急書類を纏めた。

短期間の旅行や留学であれば複雑な手続きも必要ないが、帰国が何時になるのか、そもそもで帰国できるのかすら未知数のアナベル。永住、そして2つの国の国籍を有する者となるための手続きには少し時間がかかった。

その間にイルシェプは何度かマジルカ王国にアナベルの受け入れ先を探した。


王太子クレメンスは何人かの名前を記載した書類を前に指をトントン。

「殿下、どうされました?」
「うーん。叔父上の条件が厳しくてなぁ」
「イルシェプ様の?」
「そうなんだ。男性ならまぁ受け入れる先はそれなりにあるけど、女性でしかも20歳。親御さんも心配だろうしな」


隣国にあるカトゥル侯爵家からはアナベルが滞在する間に食費は勿論メイドなどを雇う場合の費用や間借りをさせて貰える家には毎月家賃として金銭も支払われる。

金銭的な事はマジルカオオカミの飼育記録や、実際の様子の聴き取りも出来る事からマジルカ王国が負担してもいいくらいだが、カトゥル侯爵はそこは譲らなかった。

「金は問題ないんだよな・・・受け入れ先と永住だよ」

問題はイルシェプの住まう離宮から距離が遠くないこと。距離が離れる場合はイルシェプと同程度の遮音魔法が使える者が常にアナベルの側にいられる事、若しくは離れても効果のある対策を講じる事が出来る事だった。

「そもそもで叔父上の離宮。敷地のど真ん中に建物があるだろう?」
「そうですね。どの方角でも外環の城壁までは3~4キロはあるでしょうか」
「離宮の側は緑地になってるから1番距離がない貴族の屋敷でも10キロはあるぞ」
「ミニマラソーンの倍はありますね」
「遮音魔法が使える者は皆、王宮に出仕しているし・・・常時となると・・・」
「離れても対策が出来る・・・1人いるんじゃないですか?」
「判ってる。ルフトモンド伯だろう?でも、未婚男性の当主の家だからな。ご息女の親御さんが心配するだろう?多分手は出さないと思うがルフトモンド伯も人間だしな。間違いが絶対にないかとなると誰も保証はできん」

何人かの名前のうち【ルフトモンド】の文字を王太子クレメンスはペンでグルグル。専属の執事はなんだろうと覗き込んだ。

「永住・・・国籍もなぁ結婚だったらすぐに手続き出来るんだがなぁ」

王太子クレメンスは【結婚】の文字をペンでグルグル。

マジルカ王国では
①出生した場所がマジルカ王国内である場合
②マジルカ王国民と結婚しマジルカ王国に住まう場合
③マジルカ王国内に於いて功績があり永住を希望する場合

はマジルカ王国の国籍が取得できる。
アナベルは出生はマジルカ王国ではないので①は却下。
結婚をする訳ではないので②も却下。
功績もリカルドをサディスが保護したのもアナベルが預かり、飼育をしたのもマジルカ王国ではないので③も却下。

③はこの先、魔法の制御ができるようになったとしても、イルシェプからは「暗部には使わない」と釘を刺されているので難しそうである。

「就労ビザなら良いんじゃないですか?」
「彼女の場合、仕事をする訳ではないから3カ月だな」
「3カ月おきに帰国となると大変ですよねぇ」
「その度に魔法使いを1人つけねばならないし…叔父上のように転移出来る者なら良いが、そうでない場合は馬車旅になるからな。道中の安全を考えればあまり行き来の回数を多くするのは得策ではないな」


悩んでいるうちに午後の会議の時間となり、簡単に書類を重ねただけで会議室に出向いた王太子クレメンス。


「キュルルンルンルン♪キュルルンルンルン♪」

鼻歌を歌いながら王宮の中庭に咲くナナイロコスモスを抱えてやって来たのは王妃殿下。

「あら?クレちゃんはお留守?」
「はい、殿下は午後の会議に向かわれました」
「あら、やだぁ。一足違い?折角綺麗に咲いたのに~」
「お預かりいたしましょう」

部屋に残るメイドに摘んできたナナイロコスモスを手渡すと王妃殿下は蝶のようにヒラヒラと執務机に向かってやってきた。

「整理整頓!基本だと・・・あら?」

キラ!!王妃殿下の目が電光石火の軌跡を呼んだ。

重なった書類の一番上に【ルフトモンド】そして【結婚】に何重もペンでグルグルされている。そしてその下には幸か不幸かアナベルの記入済み【国籍取得】の書類。

「ついに!ついに頷いてくれたご令嬢がいたのね!!こうしてはいられないわ!」

クレメンスの執務机に有った書類を【国家最高機密】並みに胸に抱くと王妃殿下は唯一使える魔法「脱兎」で猛ダッシュ。夫であり国王の元に走って、アナベルとルフトモンド伯爵の結婚許可証を発行した。

勿論アナベルはこの事を知らない。
ついでにルフトモンド伯爵も当然・・・知るわけがない。

受け入れ先を頼まれたクレメンスもまさか午後の会議中に国王が届けを王命で済ませたとは思わなかった。

しかし、この一見大迷惑な王妃殿下の早とちり。
1組の【バカップル誕生】になるとは誰も予想をしなかった。


★~★

本日、ほぼ30分間隔です。文字数・・・とっくに10万字超えてますやん状態。
ご注意ください<(_ _)>
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