24 / 32
第24話 最後のお届け物
しおりを挟む
教会を訪れたシェイナは持ってきた籠の中身を神父に渡すと、子供たちの輪の中にいるライネルを探し、見つけるなり駆け寄った。
「こんにちは!」
教えてもらった手話ももう言葉と一緒に出てしまう。
ピコピコと人差し指を向かい合わせて声をかける。
「あ、お姉さん!!こんにちはっ!!」
子供達も真似をして人差し指で ”こんにちは” と声と一緒に手振りを示す。
「今日は薬草を持ってくる日でしたね。神父様もいつも感謝されてますよ」
「どんどん使って頂ければ。もう家にあっても仕方ないので」
「仕方ないって…どうして?常備薬としては量は多いと思うけど」
「やめるんです」
「やめる?教会に寄付するのを?」
シェイナの言葉と表情に驚いたライネルだったが、周囲を囲っていた子供たちが「遊ぶの止めるの?」「もっと遊んでよ」と割り込んでくる。
「お前らなぁ。遊ぶってこれはな?さっきも言っただろう?壁に穴が開いたままなんだ。動物が入って来てしまうだろう?塞いでるんだよ」
「トントントーンって遊んでるようにしか見えないよ!」
「あ~もう!後で遊んでやるから!ちょっと待ってろって」
「そんな事言いながらライさんはお姉さんと愛を語るんだよ」
「そうだそうだ!ついでにチューもしちゃうんだ」
「するか!コンの!!マセたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「わー逃げろ!!ライさんが怒ったぞー!」
楽しい悲鳴を上げながら子供たちが散っていくと「すみません」ライネルは頭を下げ「すぐ済みますので待っててください」と壁の穴を塞ぐために板をあてて釘を打ち付けた
顔を見せて、声をかけそれで帰ろうと思っていたシェイナは言われた通りに少し離れた植え込みの縁に腰を掛けてライネルが壁を直す様を黙って見つめた。
「これで一安心だ。いやぁ。動物ってのは国が変わっても同じなんだなぁ」
額の汗を首に回したタオルで拭きながらシェイナの隣にライネルは腰を下ろした。水筒に入れた水を美味しそうに飲むとまたタオルで口まわりを拭う。
数週間ぶりの教会へのお届け物で、過日エスラト男爵家に来た時の事に触れる事のないライネルにシェイナはライネルの優しさを感じた。
「ふぅー」と息を一つ吐くとライネルはシェイナに話しかけた。
「やめるって何をやめるんだい?」
「薬草作り。正確には…続けるんだけどこの国で作るのをやめるの。国を出るから」
「そう言えばそんな事を‥‥で?国を出る?どこへ?」
「ポメル王国に行くの。両親ももう裁判にも疲れちゃってて。私のせいで…」
「君のせいなんかじゃないよ」
しばし無言となった2人の背中に風が吹き抜ける。
「本当は…行きたくないなって思っちゃって」
「前の婚約者の事?」
「ううん。違う」
「今日明日って事じゃなかったら…急いで答えを出さなくていいんじゃないかな。何時でも話は聞くよ」
「ライさんって…優しいんだか意地悪なんだか判らないわ」
シェイナの中ではもう答えがでた。
言われた通りに全てをバラバラにして、ゆっくりと考え、そして答えを出した。
なのにライネルがはぐらかすので、シェイナなりの意地悪をしたらやり返された気分だ。
「え?俺がどれだけ意地悪かってこと悩んでんのか?」
「ち~がぅ~!ホントに判らないのっ!?」
ライネルは言葉には出来なかったが、国を出るとの言葉にもう会えなくなるのかと思うとチクリと胸が痛んだ。しかし10歳以上年齢も離れたシェイナに対し、この思いがかつて心から愛し、無理矢理王命で妻にしたのに嫌な思いばかりをさせてしまった妻、ビオレッタに対し持った感情と同じかとなれば…違っているようで似ていると思った。
ライネルは「判っているだろ」心で自分に言い聞かせた。
年齢差があるから、国が違うから、と自分を誤魔化している。
それは自分の過去があるからこの感情を持ってはいけないのだと最後は心を押し潰す。
ライネルは自分を誤魔化すようにシェイナの頭をクシャクシャと撫でると「元気出せ」声を掛けた。
「元気なんだってば!これから家まで歩くのよ?元気じゃなきゃ歩けないわ」
「歩いて?かなり遠いだろう」
「遠いと言えば遠いけど…ポメル王国よりは近いわ」
「ぷはっ!比べる距離が単位から違うだろ。送って行ってやるよ」
「いいわよ。迷子にならないし」
少し強がるシェイナにライネルはポロリと本音が零れた。
「俺が心配なんだよ」
そして、取り繕うように咄嗟に言葉を繋いだ。
「不貞腐れてもお嬢様だからな!みんなのお嬢様!」
心配なのは本当。
ライネルは帰宅するシェイナに付き添う事を告げた。
「こんにちは!」
教えてもらった手話ももう言葉と一緒に出てしまう。
ピコピコと人差し指を向かい合わせて声をかける。
「あ、お姉さん!!こんにちはっ!!」
子供達も真似をして人差し指で ”こんにちは” と声と一緒に手振りを示す。
「今日は薬草を持ってくる日でしたね。神父様もいつも感謝されてますよ」
「どんどん使って頂ければ。もう家にあっても仕方ないので」
「仕方ないって…どうして?常備薬としては量は多いと思うけど」
「やめるんです」
「やめる?教会に寄付するのを?」
シェイナの言葉と表情に驚いたライネルだったが、周囲を囲っていた子供たちが「遊ぶの止めるの?」「もっと遊んでよ」と割り込んでくる。
「お前らなぁ。遊ぶってこれはな?さっきも言っただろう?壁に穴が開いたままなんだ。動物が入って来てしまうだろう?塞いでるんだよ」
「トントントーンって遊んでるようにしか見えないよ!」
「あ~もう!後で遊んでやるから!ちょっと待ってろって」
「そんな事言いながらライさんはお姉さんと愛を語るんだよ」
「そうだそうだ!ついでにチューもしちゃうんだ」
「するか!コンの!!マセたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「わー逃げろ!!ライさんが怒ったぞー!」
楽しい悲鳴を上げながら子供たちが散っていくと「すみません」ライネルは頭を下げ「すぐ済みますので待っててください」と壁の穴を塞ぐために板をあてて釘を打ち付けた
顔を見せて、声をかけそれで帰ろうと思っていたシェイナは言われた通りに少し離れた植え込みの縁に腰を掛けてライネルが壁を直す様を黙って見つめた。
「これで一安心だ。いやぁ。動物ってのは国が変わっても同じなんだなぁ」
額の汗を首に回したタオルで拭きながらシェイナの隣にライネルは腰を下ろした。水筒に入れた水を美味しそうに飲むとまたタオルで口まわりを拭う。
数週間ぶりの教会へのお届け物で、過日エスラト男爵家に来た時の事に触れる事のないライネルにシェイナはライネルの優しさを感じた。
「ふぅー」と息を一つ吐くとライネルはシェイナに話しかけた。
「やめるって何をやめるんだい?」
「薬草作り。正確には…続けるんだけどこの国で作るのをやめるの。国を出るから」
「そう言えばそんな事を‥‥で?国を出る?どこへ?」
「ポメル王国に行くの。両親ももう裁判にも疲れちゃってて。私のせいで…」
「君のせいなんかじゃないよ」
しばし無言となった2人の背中に風が吹き抜ける。
「本当は…行きたくないなって思っちゃって」
「前の婚約者の事?」
「ううん。違う」
「今日明日って事じゃなかったら…急いで答えを出さなくていいんじゃないかな。何時でも話は聞くよ」
「ライさんって…優しいんだか意地悪なんだか判らないわ」
シェイナの中ではもう答えがでた。
言われた通りに全てをバラバラにして、ゆっくりと考え、そして答えを出した。
なのにライネルがはぐらかすので、シェイナなりの意地悪をしたらやり返された気分だ。
「え?俺がどれだけ意地悪かってこと悩んでんのか?」
「ち~がぅ~!ホントに判らないのっ!?」
ライネルは言葉には出来なかったが、国を出るとの言葉にもう会えなくなるのかと思うとチクリと胸が痛んだ。しかし10歳以上年齢も離れたシェイナに対し、この思いがかつて心から愛し、無理矢理王命で妻にしたのに嫌な思いばかりをさせてしまった妻、ビオレッタに対し持った感情と同じかとなれば…違っているようで似ていると思った。
ライネルは「判っているだろ」心で自分に言い聞かせた。
年齢差があるから、国が違うから、と自分を誤魔化している。
それは自分の過去があるからこの感情を持ってはいけないのだと最後は心を押し潰す。
ライネルは自分を誤魔化すようにシェイナの頭をクシャクシャと撫でると「元気出せ」声を掛けた。
「元気なんだってば!これから家まで歩くのよ?元気じゃなきゃ歩けないわ」
「歩いて?かなり遠いだろう」
「遠いと言えば遠いけど…ポメル王国よりは近いわ」
「ぷはっ!比べる距離が単位から違うだろ。送って行ってやるよ」
「いいわよ。迷子にならないし」
少し強がるシェイナにライネルはポロリと本音が零れた。
「俺が心配なんだよ」
そして、取り繕うように咄嗟に言葉を繋いだ。
「不貞腐れてもお嬢様だからな!みんなのお嬢様!」
心配なのは本当。
ライネルは帰宅するシェイナに付き添う事を告げた。
215
あなたにおすすめの小説
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
愛に死に、愛に生きる
玉響なつめ
恋愛
とある王国で、国王の側室が一人、下賜された。
その側室は嫁ぐ前から国王に恋い焦がれ、苛烈なまでの一途な愛を捧げていた。
下賜された男は、そんな彼女を国王の傍らで見てきた。
そんな夫婦の物語。
※夫視点・妻視点となりますが温度差が激しいです。
※小説家になろうとカクヨムにも掲載しています。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
私は彼を愛しておりますので
月山 歩
恋愛
婚約者と行った夜会で、かつての幼馴染と再会する。彼は私を好きだと言うけれど、私は、婚約者と好き合っているつもりだ。でも、そんな二人の間に隙間が生まれてきて…。私達は愛を貫けるだろうか?
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる