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第09話 ライネルと子供達
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翌週もシェイナは籠に煎じた薬草や軟膏などをいれて教会に向かった。
ライネルがやって来て1週間。顔を見るのも1週間ぶりとなるのだが教会の様子が違って見えた。以前から親のいない子供達や親が礼拝中で暇を持て余した子供の声はしていたのだが、少し様相が違う。
「次はぼくっ!!」
「アタシだってば!」
「順番守れよ!そういう約束だっただろ!」
「でもっ!僕もう一回して欲しいんだもんっ!」
「我儘言うな!みんな待ってるだろ!」
「喧嘩っ…ハァハァ…すんなって…ぜぇぜぇ」
20人ほどの子供達に囲まれたライネルが順番に1人1人胴体を掴んで頭の上に持ち上げて空を飛んでいるようにその辺を駆け回る。
子供達は1度してもらえば20人分待たなくてはいけないがライネルに休みはない。息を切らせてぜぇぜぇ言いながら次の子供を「オリャァーッ!」気合で持ち上げて駆けまわる。
様相が違うのは、以前と同じく「もう一回!」とせがんだり順番に割り込む子供もいるのだが、その子供を注意する子供がいる事である。
子供の世界でも弱肉強食。力が弱ければ仲間に入れてもらえなかったり、食べるのが遅ければ先に終わった子に食べかけのパンすら横取りされる。
「弱い子、小さい子を助けてあげなさい」なんて言うのは子供達から見れば不自由のない暮らしをする大人の言う言葉に過ぎないのだ。子供たちは遠慮をしていたら生き残れない世界にいる。そして孤児院でもまれた子供たちは社会に出てさらに厳しさを知り、犯罪に手を染めていく者も少なくない。
正直、毎週届け物をするシェイナでも数人の子供ならなんとか相手には出来るがせいぜい3、4人。10人以上の子供に囲まれると恐怖を感じる。残念な事に子供たちの中には生きるためにポケットからハンカチや財布を抜き取ったりで食繋いでいるものもいるからである。
「あぁえぇっと‥‥エストラさん?だったったけ?」
「はい‥‥」
「えぇーっライさん。もうお姉ちゃんを彼女にしたの?」
「違うわ!失礼な事をいうな!そんな時はなんて言うんだった?」
驚いた事にライネルに叱られた子供はシェイナの前に来てペコリと頭を下げた。
「ごめん…なさい」
「よし!ちゃんと言えたな。ブンブンしてやるぞ!」
後ろから謝罪した子供をこれでもか!と褒めるように頭をクシャクシャとして胴体を掴んで持ち上げる。ショボンとした顔から満面の笑みになった子にまた別の子が駆けるライネルを追いかける。
「ずるーい!僕も言う!僕も言うからブンブンしてぇ!」
段々とその様子を見ているだけで楽しくなってきたシェイナにも子供たちが寄ってくる。
「ごめんね。お姉ちゃんは…ブンブン出来ないの」
「ううん…しなくていいの。でも…」
寄って来た女の子はシェイナの持ってきた籠の底にあるリボンをじぃぃっと見ていた。薬草を入れていた袋の口を縛るのに頂き物の菓子などについていたリボンを捨てるのも勿体ないと使っていたのだが、シェイナは覗き込む女の子を見てどうして欲しいのか判ってしまった。
「ごめんね。次に来る時は櫛も持って来るわ。今日はこれで我慢してね」
女の子の髪を手櫛ですくい、軽く一束にしてリボンで結んでやるとパァァ!っと表情が柔らかくなる。
「お姫様になった?なった?」
「あたしもー!あたしもやってぇ!!」
「順番!順番よ」
髪にリボンを付けてやった女の子たちは途端におしとやかになる。
次第にリボンを結んでやっている最中も食い入るように静かに見るようになった。
以前に感じた子供たちに囲まれる恐怖など微塵も感じない。
籠のリボンがあと2本。そこで女の子は全員に行き渡った事を知り、ホッとしているところにライネルがやって来た。
「ふへぇ…バテるわぁ…明日腕が上がるかな」
「お疲れ様です。何も残ってないのですが…水筒の水だけは満杯です」
「おっ。飲みたかったんだ!」
「ふふっ」
「ところで今日はどうされたんです?」
「週に1度、煎じた薬草などを持って来てるんです。皆さんが使ってくれていると良いんですけど」
「あ~!あれか!助かりましたよ。一昨日屋根を直してて飛び出した釘でやっちゃいましてね。でも軟膏を塗ったらほら!もう塞がってますよ」
掌には痛々しい傷跡があるが、傷口としては無理をしなければ塞がる…塞がる?
「え?さっき、子供達を持ち上げてましたよね?!」
「あれは無理とは言いませんよ。あはは」
「だめですよ!傷口が開いたら!」
シェイナはポケットに何時も入れている軟膏を取り出すとライネルの手の平に塗り「今日は手の使用は禁止!」と言った後でお節介をしてしまったと火が点いたように真っ赤になって俯いた。
ライネルは「ありがとう」と言い、くしゃっと顔を綻ばせて笑った。
シェイナの胸がキュンと音を立てた。
ライネルがやって来て1週間。顔を見るのも1週間ぶりとなるのだが教会の様子が違って見えた。以前から親のいない子供達や親が礼拝中で暇を持て余した子供の声はしていたのだが、少し様相が違う。
「次はぼくっ!!」
「アタシだってば!」
「順番守れよ!そういう約束だっただろ!」
「でもっ!僕もう一回して欲しいんだもんっ!」
「我儘言うな!みんな待ってるだろ!」
「喧嘩っ…ハァハァ…すんなって…ぜぇぜぇ」
20人ほどの子供達に囲まれたライネルが順番に1人1人胴体を掴んで頭の上に持ち上げて空を飛んでいるようにその辺を駆け回る。
子供達は1度してもらえば20人分待たなくてはいけないがライネルに休みはない。息を切らせてぜぇぜぇ言いながら次の子供を「オリャァーッ!」気合で持ち上げて駆けまわる。
様相が違うのは、以前と同じく「もう一回!」とせがんだり順番に割り込む子供もいるのだが、その子供を注意する子供がいる事である。
子供の世界でも弱肉強食。力が弱ければ仲間に入れてもらえなかったり、食べるのが遅ければ先に終わった子に食べかけのパンすら横取りされる。
「弱い子、小さい子を助けてあげなさい」なんて言うのは子供達から見れば不自由のない暮らしをする大人の言う言葉に過ぎないのだ。子供たちは遠慮をしていたら生き残れない世界にいる。そして孤児院でもまれた子供たちは社会に出てさらに厳しさを知り、犯罪に手を染めていく者も少なくない。
正直、毎週届け物をするシェイナでも数人の子供ならなんとか相手には出来るがせいぜい3、4人。10人以上の子供に囲まれると恐怖を感じる。残念な事に子供たちの中には生きるためにポケットからハンカチや財布を抜き取ったりで食繋いでいるものもいるからである。
「あぁえぇっと‥‥エストラさん?だったったけ?」
「はい‥‥」
「えぇーっライさん。もうお姉ちゃんを彼女にしたの?」
「違うわ!失礼な事をいうな!そんな時はなんて言うんだった?」
驚いた事にライネルに叱られた子供はシェイナの前に来てペコリと頭を下げた。
「ごめん…なさい」
「よし!ちゃんと言えたな。ブンブンしてやるぞ!」
後ろから謝罪した子供をこれでもか!と褒めるように頭をクシャクシャとして胴体を掴んで持ち上げる。ショボンとした顔から満面の笑みになった子にまた別の子が駆けるライネルを追いかける。
「ずるーい!僕も言う!僕も言うからブンブンしてぇ!」
段々とその様子を見ているだけで楽しくなってきたシェイナにも子供たちが寄ってくる。
「ごめんね。お姉ちゃんは…ブンブン出来ないの」
「ううん…しなくていいの。でも…」
寄って来た女の子はシェイナの持ってきた籠の底にあるリボンをじぃぃっと見ていた。薬草を入れていた袋の口を縛るのに頂き物の菓子などについていたリボンを捨てるのも勿体ないと使っていたのだが、シェイナは覗き込む女の子を見てどうして欲しいのか判ってしまった。
「ごめんね。次に来る時は櫛も持って来るわ。今日はこれで我慢してね」
女の子の髪を手櫛ですくい、軽く一束にしてリボンで結んでやるとパァァ!っと表情が柔らかくなる。
「お姫様になった?なった?」
「あたしもー!あたしもやってぇ!!」
「順番!順番よ」
髪にリボンを付けてやった女の子たちは途端におしとやかになる。
次第にリボンを結んでやっている最中も食い入るように静かに見るようになった。
以前に感じた子供たちに囲まれる恐怖など微塵も感じない。
籠のリボンがあと2本。そこで女の子は全員に行き渡った事を知り、ホッとしているところにライネルがやって来た。
「ふへぇ…バテるわぁ…明日腕が上がるかな」
「お疲れ様です。何も残ってないのですが…水筒の水だけは満杯です」
「おっ。飲みたかったんだ!」
「ふふっ」
「ところで今日はどうされたんです?」
「週に1度、煎じた薬草などを持って来てるんです。皆さんが使ってくれていると良いんですけど」
「あ~!あれか!助かりましたよ。一昨日屋根を直してて飛び出した釘でやっちゃいましてね。でも軟膏を塗ったらほら!もう塞がってますよ」
掌には痛々しい傷跡があるが、傷口としては無理をしなければ塞がる…塞がる?
「え?さっき、子供達を持ち上げてましたよね?!」
「あれは無理とは言いませんよ。あはは」
「だめですよ!傷口が開いたら!」
シェイナはポケットに何時も入れている軟膏を取り出すとライネルの手の平に塗り「今日は手の使用は禁止!」と言った後でお節介をしてしまったと火が点いたように真っ赤になって俯いた。
ライネルは「ありがとう」と言い、くしゃっと顔を綻ばせて笑った。
シェイナの胸がキュンと音を立てた。
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